輝山(テラシヤマ)は名前は聞いたことがあるが、登る直前までどこにあるのか知らなかった。乗鞍スカイライン起点である平湯峠の北側に位置する道の無い山である。標高はわずかに2000mを超えており、ぜひとも登らなければならない山である。インターネットで検索すると何件が登山記事があり、いずれも残雪期に登っている。順当なコースは平湯峠から往復だろう。実際は道の有無は知らないが、ネットで見た限りは残雪期しか登られていないようなので藪山なのであろう。

 平湯峠は5月中旬まで冬季通行止めだから、麓から峠まで歩かなくてはならない。地図を見ると丹生川村側の県道分岐点の方が標高が高いので、遠くなるが平湯トンネルを抜けて向こう側から上がることにする。車道のカーブが少なく車道歩きも平湯側よりも少し短いようだ。

 アカンダナ山と白谷山から無事下山後、数時間車にこもって登山記録をつけ、まだ午後4時前の明るい時間に平湯温泉に入り、まずは平湯側の県道分岐を覗いてみるとまったく除雪されていなくて入れない。丹生川村側の県道分岐に来ると除雪されているのだが入口近くだけほんのわずかであるが残雪があって車が進入できない。明日はここから歩きか。しょうがないのでもっと下に下って営業終了したスキー場の駐車場に車をおいて引き続きPCで記録をつけた。暗くなってから酒を飲みながらPCでDVD鑑賞。もう10年近く前だろうか、NHKで放送された当時未踏峰では世界最高峰だったナムチャバルワの登山記録だ。アカンダナ山も白谷山も難しい山だが、ナムチャバルワほどではない(当たり前)。あちらは森林限界で木はないし全面積雪の急斜面で落ちたらおしまい。ただ、大パーティーで登り全コースフィックスロープを張っているのである意味では私の山行より安全かもしれない。でも雪崩の確率は全く違う。雪山を堪能した後に見るのはなかなかおつだった。

 駐車場で朝飯を食って車で移動、昨日残っていた残雪を踏みつけて車が進入した跡があったのでこちらもそこを通過し、約300mほど走ったところに現れた頑丈なゲート前に駐車した。少しだけ労力が儲かった。

 最初は除雪された車道歩きなのでアイゼン、ワカン、ピッケルはザックにくくりつける。昨日の疲労が残っているので足が重いが腐った雪の上を歩くのを考えれば天国だ。道の両側には雪が残っているが日当たりがいいところではかなり融けており、南斜面の山肌は半分以上雪がない場所もある。あわよくば適当な尾根から山頂に登ってしまおうかとも考えていたが、これでは藪漕ぎになってしまうので峠まで素直に歩いた。道路上は雪解け水が流れているところもあったが、昨日の安房峠と違って水は全く凍っていない。標高は同じ程度のはずだから今日の方が気温が高いようだ。あ〜あ、雪が腐ってるかなぁ。

 峠の向こう側、平湯へ下る県道は全く除雪されていないが、なんとスカイライン方面の道はきれいに除雪されているではないか。もしかしたら旧有料道路のゲートまで除雪してあるのかもしれない。こんなのだったらせめて峠まで車を入れてくれればいいのに。

 北側の尾根は南斜面で雪が残っているか心配だったが、笹が顔を出している部分もあるが大部分は残雪で助かった。この尾根をずっとたどれば輝山に至るので登りは適当に歩いていればいい。雪は堅く締まってアイゼンの効きがいい。昨日と違って目印もたくさんあって人のにおいが強い。これなら安心して歩けるだろう。

 登っていくと送電鉄塔が現れ、尾根が広がって東の方は明るい樹林で西側はシラビソの樹林、西側の方が本当の尾根っぽいが日当たりが悪いので雪が柔らかくボカボカ潜るのでワカンに切り替える。山スキーの跡も見受けられるがその方が正解かもしれない。昨日に引き続いて熊さんの足跡もあった。良くいるなぁ。

 1975mピークの登りにかかると急傾斜になるが、昨日と比較すればなんてことはない。右に寄りすぎると危険だが左の樹林近くを歩けば大丈夫だ。たぶん雪庇ができていて東側の樹木は雪の中なのか、雪庇の影響で大きな木が生えられないのかもしれない。ピークてっぺんも雪庇で、眼下の遙か下には平湯の市街地が広がっている。その向こう側には昨日登ったアカンダナ山、白谷山に安房峠を挟んだ反対側に安房山。山頂の建物と鉄塔は肉眼では確認できなかった。昨日より空気の透明度が悪く、穂高がかすんで見えていた。

 ここから先は急にトレールがはっきり出てきた。新雪が若干積もっているので昨日の足跡ではないだろう、先週末のか。さすがトレールを歩くと場所によってはほとんど足が沈まず楽に歩ける。トレールがない雪面はワカンをつけていても踝くらいまで潜ってしまう。どうも平湯峠の方が雪がしまっていたなぁ。水平移動になっても潜り方は変わらずで体力を消耗させられる。

 1980mピークを下って鞍部から最後の登り。シラビソ樹林で周囲の視界がない中をゆっくりと登り、待望の山頂に到着した。山頂標識があるかと思っていたが存在せず、赤布がぶら下がっているだけであった。スキーの跡が西の尾根から上がってきていたし、山頂付近は多くの足跡が降って湧いたように残っていた。穂高方面のみ樹林が切れて視界が得られる。積雪量は1mくらいではないだろうか、それほど多くはない。

 さて無線だ。樹林があるのでDPを木の間に張ってワッチ、昨日も聞こえていたJG3XTZ/3養父市が強く1発で応答があった。昨日はアカンダナ山でQSOしており、無事下山できるかどうかわからないと伝えたが、どうにか生き延びられたことを報告する。天気が良くて今日も快適だそうだ。吉原さんは9時頃出てくると言っていたのでまだ時間帯が早すぎて出ていなかった。他にはJA5RCT/5四国中央市が出ていたが1Wでは届かなかった。まあ1局できたらかいいか。

 下りは雪の上に残った自分の足跡を追うだけなので気楽である。登り返しは足が重いがゆっくりと歩いて乗り越える。1975mピークで平湯市街地の写真を撮ってなおも下山したが、別の目印に惑わされて目的の尾根の一つ西側に入り込んでしまった。このまま下れば県道にぶつかるが、尾根末端は雪が無くなって養父だったらイヤなので左にトラバースして正しい尾根に乗り移った。そこで大阪から来たという夫婦らしき2人の中年男女と会った。もちろん輝山に向かう途中で、宿泊した旅館の車で平湯峠まで送ってもらったようだった。地元民はゲートの鍵を開けられるらしい。私のようにマイナーな山登りが好きで残雪期も登っているとのことだった。輝山は昨年無雪期に偵察に来たら笹が凄くて残雪期じゃないと登れないと分かって今回来たということらしい。さすがにアカンダナ山は登ったことはなかったが名前を知ってるだけでもただ者ではない。

 そこから峠まではすぐで、柔らかくなった雪をワカンで踏みつけ、最後はワカンを脱いで舗装道路に降りた。こう見てみると峠近くの斜面の雪が消えるまでにそれほど時間がかからないかもしれない。大型連休で雪田が残っているくらいかも? ワカンをぶら下げて舗装道路を歩いていると単独行の男性が登ってきた。輝山に登るようだが、逆方向の乗鞍スカイラインの除雪状況をきいてきた。もしかしたら乗鞍まで行くのか?? 残雪期の乗鞍ならどこでも好き勝手に歩けるからなぁ。だとしたら相当できる人間だぞ。普通はスカイラインが開通した直後に入るものだと思う。

 再び舗装道路を歩いてゲート到着、駐車スペースには数台の車が止まっていたが、ほとんどは山菜取りの車だった。もうしんな時期なんだなぁ。春本番だ。

 時刻はまだAM10:30。高速料金がもったいないので一般道で中央道上野原ICまで走った。交通安全週間だからか、国道20号線の塩尻−岡谷市境への登りで登坂車線がある区間があるのだが、そこでねずみ取りをやっていた。登坂車線を走っていたがそれなりにスピードを出していたので20kmオーバーでひっかかったか!と覚悟したが呼び止められることはなかった。ラッキーとしか言いようがない。その後はねずみ取りに注意しながら走ったが甲州街道にはいなかった。

 

5:10ゲート-5:45平湯峠-6:16 2つめの鉄塔-6:20ワカン装着-6:52 1975mピーク-6:56鞍部-7:25輝山着-7:57輝山発-8:24 1975mピーク-8:40登ってくる人に会う-8:57平湯峠-9:26ゲート

 

輝山写真集

 

 おまけ

 

 国道20号線は山岳展望にも優れている。八ヶ岳、奥秩父、南アルプス、富士山等が次々と姿を現す。八ヶ岳を見る限りはやはり今年の残雪は少ないようである。真っ白ではなくかなり黒い岩肌が露出しており、少し標高が下がると白くなくなっていた。甲斐駒は雪をまとって迫力ある姿だった。気づかない人が多いかもしれないが、甲斐駒の裏側になる烏帽子岳、三ツ頭、鋸岳、網笠山等がよく見える場所がある。私の場合は甲斐駒よりもそれらの山の方が思い出深い。白根3山は韮崎付近では鳳凰三山に隠れて見ることはできず、甲府盆地奥深くまで降りてやっと見えるようになる。