今年は先週から残雪の藪山に久しぶりの復帰を果たしたが、今回ターゲットに定めた白沢天狗山もマイナーな山であろう。もちろん登山道はない。場所はというと北アルプスは後立山、爺ヶ岳の南西に延びる白沢天狗尾根にある。爺ヶ岳スキー場から上を目指して登ると山頂に到着できる位置である。とは言っても縦走路でもないそんな場所に道があるわけではない。インターネットで調べたら具体的な登山記録は出てこず、冬の時期に通過したことを触れているだけの簡単な記録があった。この尾根は冬の時期に爺ヶ岳に登る少数のパーティーが通過するだけで(東尾根が多いようだ)、ほとんど顧みられることのない尾根である。

 なぜこんな山に登ったかと言えば貴重な2000m峰であるし、有明山西側の清水岳と組み合わせれば週末の土日でちょうどいいと考えたからだ。北アルプスで残っている他の2000m峰はかなり難易度が高くなってしまうが、この2山はアプローチが短く1日日帰りが可能であろうし、危険度は全くの不明だが、地形図を見る限りは岩場ではなさそうなのでどうにかなるだろう。

 登山口だが、「山頂渉猟」の記録を参考にして上手集落の神社脇とした。地形図では破線が谷に沿って山に入っているので、もしかしたら途中まで道があり、その続きに踏み跡があるかもしれないと期待した。無くても残雪を利用して適当に尾根を登ればいいだろう。問題は残雪の量で、先週の平湯でさえあの程度なのだから大町ではさらに少ないだろう。もしかすると結構標高が上がるまで雪がないかもしれない。そのときは藪漕ぎだな。

 金曜日は午後からCATV引き込み工事が予定されていたので午後半休し、銀行で水道料金の口座振替手続きを済ませてから戻るとすでに電柱にはしごを立てかけて工事屋さんが工事を始めていた。約2時間ほどで工事が完了し、CATVは無事写ったがインターネットの方が後藤さんの言うとおりやったのにつながらなかった。あまり深入りすると睡眠時間が削られるので諦め、銭湯に立ち寄って出発した。

 先週に引き続いて中央道を走り、豊科ICで降りて大町を目指し、爺ヶ岳スキー場を目印にして大町温泉郷を北上、地形図に出ている上手集落付近の神社を探しながら走る。神社は県道脇ですぐに見つかったが、場所があっているか確認するためスキー場まで進んでから戻った。近道ができないかと近くの車道を入ってみたが破線とは違う方向に行ってしまったので神社から歩くことにし、車をつっこんで酒を飲んで寝た。この付近でも残雪が見られ、これならどうにかなるかなと一安心だ。

 翌朝起きると全く寒くなく、雪質が思いやられる気温だ。これじゃまったく締まらない雪だろうなと思いながらもワカン、アイゼン、ピッケルの完全装備を背負って出発する。もちろん稜線に上がれば雪の世界だろう。まだらに雪が残った神社の裏の杉林を西に進むとGPSを車の屋根に置き忘れたことを思い出して取りに戻る。杉林を歩いていると林道出現、地形図通りに左に曲がると西に入る林道が分岐する。地形図の破線に違いないだろうからそのまま進む。杉林の中では残雪が見られたが唐松林になると日当たりがいいのか雪は消えた。そのまま林道を終点まで歩き、右手の斜面にとりつく。藪のない落葉樹林で好き勝手に歩けた。南斜面で全く雪が無く、登っていると汗が出てくる。

 尾根に登ると踏み跡があるかなと期待したが、藪はないが踏み跡も無かった。落葉樹の自然林に薄い笹があるだけで無雪期でも歩くのに全く問題ないくらいで拍子抜けだ。こんな感じのいい尾根が雪の消えた区間ではずっと続いていた。雪がないけどまだ真っ白な野ウサギが逃げていった。そういえばウサギを見るのも久しぶりだ。体重が軽いので残雪期じゃ足跡は残らないし。そういえば林道の残雪にはカモシカの足跡がついていた。こんな里まで下ってくるらしい。

 標高が上がるとブナが目立つようになるが、相変わらず笹は薄いままだった。ここは枝尾根らしく、尾根が極端に細くなった後で太い尾根に乗る。下山時は直進しないように要注意だ。この尾根も同じような植生が続き、大きなブナの木の間を登る。この頃から足の重さが身にしみるようになり、スピードががくっと落ちた。どうも先週のアカンダナ山の疲労が残っているらしい。ようやく雪が現れ始め、ワカンをつけるところで大休止とした。こりゃ先が思いやられるなぁ。GPSによると標高はまだ1400mである。普通ならこんなところで休むことなんてないのに。

 ようやくコンスタントに雪が続くようになると急傾斜の尾根となり、目の前には顕著な尾根が見えている。最後に半分雪庇になった雪を超えるとその尾根に出た。帰りは太い尾根に吸い込まれないよう注意が必要だ。目印を付けておく。ここからは雪のついた尾根と思いきや、すぐは石楠花が出た尾根筋だった。しかし石楠花の藪は薄く、獣道だろうか、夏道のように見える筋さえあった。残雪の量は少なくせいぜい 50cm〜1m程度だと思うが、石楠花が顔を出している部分もあって、無雪期でも問題なく歩けそうである。シラビソ樹林であり、下草があまり茂らないのであろう。

 微小ピークを越えると目印の赤布が出現、尾根に出てからは初めての目印でちょっと心強くなるが、いったいどこから登ってきた目印だろうか。この後は尾根がはっきりしているせいか、目印は1,2個しかなかった。やがて雪庇が発達して右手の視界が開け、眼下には雪が消えたスキー場が見えていた。東斜面は雪で真っ白である。

 ようやく山頂が見えてくるが、これまた直下は急そうだな、本当に登れるのか心配になってくるほどだ。幸い、本当の直下までは樹林が生えた尾根が続いているので雪庇を避けて西側を歩きながら高度を上げる。場所によってはピッケルで安全を確保しながらだ。しかし山頂直下は完全に雪に覆われて急斜面をよじ登らなければならない。まあ、雪庇を東側から登るようなものだからしょうがない。腐った雪にワカンをけり込み、ピッケルを突き刺して慎重に登る。最後は雪の壁で登りはまだいいが下りは怖いなぁ。直下に木が生えていて雪が溶けてぽっかり穴があいて地面が見えていたので荷物を置いて、ピッケルを持って空身で山頂に向かう。ピッケルで足場を掘って山頂にたった。

 山頂は高さ数mの雪庇の上だろう、でも西斜面は背の高い樹林で隙間からしか視界はない。真っ白いのはおそらく爺ヶ岳だろう。半分雲に覆われていた。今日は風が強いので高いところは雲の中に入ってしまい、北アの名だたる山は見えなかった。北側のピークも雪庇に覆われていた。なお山頂標識や目印はなかった。

 ピッケルで体を支えながら慎重に雪庇を下り、次は無線開始だ。ダケカンバの間にDPを張り、とりあえず6mをワッチするとJH1HYR/1(移動場所不明)が弱く聞こえているだけで静かだった。50.190でCQを出しているとバリバリかぶる局が出てきたので周波数をあわせるとJA0IOF/0千曲市で、何度かQSOしたことがある局だった。あ〜助かった!! ここまで聞こえないとは思っていなかったのでマジで助かった。今日は奥積さんは千葉にお出かけでQSOできないから安心して撤収だ。そもそもこの距離でこのロケーションでは横浜まで飛ばないと思うが。

 下りの方が急斜面は怖い。もう気温が上がって雪もガンガン溶けているのでアイゼンは効かない。ワカンをはいたままでピッケルを持って後ろ向きに急斜面を下り始めた。しかし少し下ったところで腐った雪が体重を支えきれなくなって両足とも滑り、危うく滑落するところをピッケルだけで体重を支えた。このときはマジで焦った。これだから下りは怖い。おそるおそる下って急斜面が終わるとやっとほっとできた。しばらくはなだらかな尾根なので恐怖の場所はないが、雪が緩んでワカンを履いても潜るし、踏み抜いて脱出に苦労することもしばしばだ。下りでもなかなか体力を消耗させられる。

 帰りの尾根分岐は気をつけなければと思っていたのに目印をすっかり見落として尾根を直進してしまい、自分の足跡が雪面に残っていないので誤りに気づいて登り返したのは体力的に疲れたと同時に精神的にも疲れた。枝尾根の下りはじめも急で後ろ向きで下った。その後は部分的に急な箇所があったが乗り切る。しかし、1カ所でこれまた雪が腐って両足が滑って短距離ながら滑落し、溶けた雪で濡れてしまったし地面で膝を打って擦りむいてしまった。おまけに風呂に入るときに左胸に擦り傷があった。月曜日になっても筋肉痛なのか傷の痛みなのか分からない痛みが残っていたまったくこの雪ではどこで転けるかわからない。ある程度傾斜が緩んでからはワカンをグリセードのように滑らせて下れた。下れるところまでワカンで下り、雪が切れてからワカンを外した。その後はそのまま尾根をたどったが、登りでは細い枝尾根を登ってきたはずなのが、下りではどういうわけかそんな尾根に入った覚えがないのに最後はちゃんと登ってきた尾根に乗っていたのは謎である。そのまま尾根末端まで下ると林道に出て、あとは淡々と歩くだけだった。

 車で着替えて荷物をまとめ地図を見て考えたが、この体力では明日の清水岳は無理だろう。もったいないが明日は家でネットの環境設定をすることにして、金節約で一般道で帰るか。これなら約\4000を節約できるので大きい。今日帰ってもしょうがないので走れるところまで走って寝て、明日早朝に動き出せばいいだろう。

 温泉はガイドブックで「市民温泉」を見つけて\300で入った。市民でなくてもちゃんとOK、市民だと\200で入れる。四季演劇資料館の隣にあるのでロードマップで場所を確認できるだろう。ここからは白沢天狗山に爺ヶ岳が見えていた。

 あとはいつものルートを走るだけで、茅野で買い物をして甲州街道をひたすら走り、上野原で相模川河川敷に降りて晩酌、就寝。翌朝4時に起きて朝飯を食って動き出し、6時には調布まで戻ってこられた。日曜日は後藤さんにきてもらいネット環境整備、なぜかルータ経由では接続が切れてしまうがPC単体ではうまくつながることが確認でき、とりあえずはバッチリ使えることになった。これでさらに文化的生活だ!


5:26神社-5:27GPS忘れに気づく-5:29林道-5:32目印-5:34唐松林-5:37カモシカの足跡-5:40橋-5:48林道終点-5:56尾根に乗る-6:01本当の尾根に乗る-6:08白ウサギを見る-6:34小規模な雪崩を見る-6:37太い尾根に合流-6:50 1400mで休憩-7:01出発-7:06境界標石-7:32残雪が続く(1500m)-7:37ワカンをつける-7:58尾根に合流-8:07シャクナゲ登場-8:11赤布目印-8:33右手が開ける-8:40目印-9:13白沢天狗山着-9:44白沢天狗山発-9:48山頂直下急斜面通過-10:22尾根を外す-10:25正規の尾根を見つける-10:48ワカンを外す-11:10林道-11:25神社

 

白沢天狗山 写真集