妙高山周辺には道がない2000m峰がいくつもある。何も知らない頃は簡単に登れるだろうから妙高火打と併せて登ってやろうと考えていたが、武内さんに聞いたら道がないピークは全て全て強烈な笹藪だという。昨年秋にせめて黒沢岳にでも登れたらと妙高火打日帰りの帰りに様子をうかがったが、言われたとおりにすごい笹藪で無雪期はまず無理だと感じた。残雪期に登るのが適当だろう。2003年秋に2000m峰全制覇の長期目標を持ってからは毎年大型連休は残雪期の2000m峰と決めており、今年は手始めに妙高周辺に挑戦することにした。地図を見る限りではなだらかな地形で、残雪の山に復帰してすぐにはいい訓練になると思ったからだ。

 最初の計画段階では笹ヶ峰登山口から夏道をつめて黒沢岳に登り、外輪山に乗って大倉山、三田原山、赤倉山と歩いて夏道まで戻って同じルートで下る構想だった。しかし地形図を見ると三田原山〜赤倉山は傾斜がきつい部分があり、しかも東斜面だから雪庇が発達して三田原山から向かうと下れない絶壁が現れる可能性が高い。赤倉山だけ別ルートで下から攻めるのが安全だろう。そうなると赤倉山往復部分が削除されるので体力も楽になる。なんせ3日前まで風邪で寝込んで左足股関節痛で苦しんでいたのだからまだ無理しない方がいい。心配は積雪量で、稜線が藪だったらたまらない。

 風邪の療養で連休初日は自宅で休み、午後2時過ぎに出発、面倒なので高速を使って信州中野ICまで走り、国道18号を北上して笹ヶ峰に向かう。昨年走った道で見覚えがあり、対向車に注意しつつ順調に高度を上げる。心配していた積雪量だが、スキー場に入ってから両脇に見られるようになり、笹ヶ峰駐車場は雪に埋もれて最小限しか除雪されておらず10台くらいしか置けないことからもバッチリあることがわかるだろう。例年だとどれくらい積雪があるのか知らないが、今の量なら少なくとも山スキーをやる連中には不足のない量だろう。駐車場にはすでに5,6台止まっている。この連中は今頃小屋泊まりだろう。

 薄暗い中、寝る準備をしていたら60間近と思われる単独男性スキーヤーが下ってきたので声をかける。稜線を挟んで反対側から登ってきたらしく、どういうコネがあるのか猟友会とご一緒に自衛隊の雪上車に同乗してきたそうだ。地元民なので縁があるのだろう。三田原山も登ったことがあるそうで、ここから一直線に登れるとのこと。ただし、途中で岩が出てくるので注意して登れと言われた。地形図を見る限りでは険しい地形はないように見えるのだが。

 この人はこの周辺で登っていない山はないようで、かなりのベテランらしい。私とは正反対だ。ただ、これも逆で南アはほとんど登っていないと言う。しかし、唯一登った北岳、間ノ岳は日帰り!だそうで、脚力の凄さのほどがわかるだろう。私と変わらないではないか。武内さんともいい勝負だったりして。ほどなくタクシーがやってきて下っていった。

 さあ、明日のルートはどうしようか。当初案は夏道をつめて黒沢岳に登り、大倉山、三田原山と歩いて夏道まで戻って同じルートで下る構想だったが、ひそかに三田原山から登山口まで直接下ってしまおうとも考えていた。さらには最初に三田原山に登ればあとは大体下りなるので一番楽に歩けるので狙っていた。しかしこの場合、男性の話通りに岩場通過が困難で最初から撤退となると1山も登れないので、逆コースで黒沢源流部を時計回りに周遊することにした。三田原山の岩場が下りになってしまうが、最悪左右に大きく巻けばなんとかなるだろう。

 期待と不安が交錯する中、酒を飲んで寝た。夜中は車はやってこなかったようだ。でも早朝、朝食中に1台やってきてさっさと出発していった。軽装だったがどこに行ったのか、トレールを歩いていても追いつけなかった。

 ゲートのような登山口建物を抜けるとスキーとツボ足のトレールがはっきり続いている。これらは高谷池ヒュッテか黒沢池ヒュッテからのものだろうから、最初の目的地である黒沢岳に登るには使える。十二曲付近の急斜面は冬ルートがどうなっているのか不明だが、そこだけが心配な急斜面なので、そこさえクリアすれば問題ないだろう。これだけはっきりしたトレールがついているのだから一般人でも通過できるのだろう。まずは一安心。
 トレールはばらけることもあるがとにかく小さな尾根を上がっていけばいい。赤目印もある。やや潜るのでワカンをつける。使うほどではないが持ってきたのに担いでいるだけではもったいないので。ブナの林で一面の積雪でどこでも歩きたい放題だ。これだから残雪期はいい。やがて左手に黒沢が近づいてきて橋が見えてきた。尾根を降りて橋を渡り、再びトレールを追いかける。

 さて、問題の冬ルートであるが、なんと夏道と全く同じであった。尾根は最後は岩なので迂回する必要があり、残雪の関係もあって西側を巻き、若干傾斜が緩くなる谷を直登だ。夏道の標識も見られた。斜面の巻き道なのでアイゼンをつけピッケルで確保しながら歩く。まあ、見た感じはそれほど恐怖を感じないけど。最後は十二曲ではなく一直線に登っていくと尾根に飛び出し、たくさんのツボ足跡が見られた。トラバースの踏み跡はスキーで削り取られたらしい。

 尾根に乗ればあとはそのまま歩いていけばいつか黒沢岳に到着する。振り向くと真っ白な乙妻山が近い。右手の三田原山は手前の尾根に遮られてまだ見えない。左手は真っ白な天狗原山から火打山の尾根だ。焼山〜天狗原山はまだ歩いていないのでいつかやっつけないと。尾根の傾斜はそれほどでもなく淡々と歩けばいい。標高が上がるとどんどん積雪が増えていくのがわかり、スキー向きの尾根になった。シラビソも疎らになり幅が広がって気持ちいい。左手には2062mピークの雪庇が見事だ。ということはこの直下が富士見平で黒沢池ヒュッテへの夏道分岐があるが、トレールがあったかどうかわからなかった。ま、適当に行けば歩けるだろうけど。

 黒沢岳への本格的登りが始まる場所で左にトレールが分かれた。これが高谷池ヒュッテのコースだろう。まっすぐのトレールは薄いが尾根をまっすぐ歩けばいいだけなのでトレールがあろうが無かろうが無関係だ。雪は良く締まってほとんど潜らない。階段状の雪庇をよじ登っていくと黒沢池が見えるようになり、これまた一面真っ白で雪原だ。夏は草付きだったかなぁ。

 無線は西側に生えた木の間にDPを張って運用すべく設営し、ピコ6を同軸につなごうとしたらハンディー機からDJFのCQが聞こえたので6mは放りだして430で応答すると答えが返ってきた。場所はすぐ近く、たぶん見えているであろう堂津岳で、なんともマイナーな所に登っていた。こっちもやや風が強いがDJFのマイクには風切り音がビュービュー入っていた。1年ぶりくらいのQSOだろうか? 長野の霊仙山では赤地さんの標識裏側に落書きしたのを発見されていた。この後2時間半遅れで7K1CVP鈴木さんが登ってくるとのこと。珍しいコンビだと思ったが、同じ群馬中部在住だからローカルだよな。詳細は鈴木さんのHPで見られるだろう。

 念のため6mのセッティングをしてワッチしたが全く聞こえないのでQSOは諦め撤収した。相手がDJFなら満足だ。出発しようとすると茶臼山東尾根を数人が下っていくのが見えるが、スピードからして私と同じツボ足組だろう。あそこまで追いつけるかな?

 黒沢岳の下りは雪庇を避けるよう西側を歩き、2180mピークは西側を巻いて茶臼山鞍部へ出て茶臼山も巻いて東の尾根に乗った。ここから再びトレールが濃くなるのは高谷池ヒュッテとの間で人の行き来があるからだろう。ここもスキー向きの斜面でほとんど立木はなく適度な傾斜でスキーなら1分もあれば小屋まで下れるのではないだろうか。

 小屋では2,30人の大パーティーが出発準備中で、順次ガラソノ沢の方に下っていった。あちらにコースがあるのだろうか。北側だからかなり標高が低いところまでスキーが使えるだろう。

 小屋からの登りは先行するパーティーのケツについて、柔らかい雪のラッセルをお任せした。北斜面なので締まりが悪いようだが、5人も先行するとかなり歩きやすく疲労が少ない。リーダーと思われる最後尾の中年男性は年季が入ったピッケルを使っており、残雪期の山の経験が長そうだ。どこに行くのか聞くと妙高山だそうだが、この時期にこのルートで上れるのだろうか? なんせ夏道は大蔵乗越からすごい斜面を直下降だし、その後はトラバースだから冬は危険が伴う。それに妙高本体の登りも谷を一直線だ。私は外輪山を歩くので問題ないが、妙高はきついなぁ。

 乗越でパーティーと分かれて、藪が露出した東の尾根に入った。なぜか稜線上は雪が少なく雪が消えているところもあって石楠花の藪のお出ましだ。アイゼンをつけていると鬱陶しくてたまらないので、残雪が残る北斜面に逃げる。しかし直下は雪が柔らかくてズボズボ潜りワカンに換えたいくらいだ。雪の状態は柔らかい状態と締まった状態が交互に出てきた。ヒュッテから北斜面を巻きながら山頂を目指した方がよかったようだ。

 山頂が近づくとまた雪が少なくなり藪が濃くなってきて、ちょっとだけ残った雪を拾いながら北側から山頂に飛び出した。山頂南から東は雪庇があり、藪が埋もれて見晴らしがいい。正面は岩だらけの妙高山で左手は神奈山へ至る尾根だがかなり雪が消えていた。三田原山は雪いっぱいで雪庇が大きく張り出しているのが見える。さて、あそこまでたどり着けるだろうか。

 無線は不調で、なぜか144,430でも応答がなかった。最終的には6mで粘ってクラブ局とQSOできた。ロケーションは新潟方面は開けているはずで電波が飛ばないはずはない。連休の谷間の平日だからなのか。

 来たときと同じルートで乗越に戻り、今度は外輪山を西に進む。こちらも藪が露出しているので北側に下ったところから尾根に乗る。適度な傾斜で高度を上げ、ヒュッテ付近から上がってくる尾根に乗ったが山スキーのトレールはなかった。ま、あろうがなかろうが雪の上を歩くのに何の変化もないけどね。ただ、トレールがないと寂しいだけだ。

 雪庇の崩壊を警戒してできるだけ西側を歩くが、こちらは雪が柔らかくてズボズボ潜るのでワカンに履き替える。トレールがない雪面にワカンの跡だけがどんどん伸びていく。振り返れば大倉山が眼下に見えていた。あっちから見えた雪庇の上を歩いているんだな。やがて赤布が現れたと思ったらスキーの跡も一緒に現れた。スキーコースは尾根上ではないようだ。あとはスキーと一緒のコースで山頂まで淡々と歩くだけで、危険な急傾斜や岩場は無く静かな雪山を存分に楽しめるコースだった。

 ようやく傾斜が緩むと山頂の一角で、地図で見るように南北に長い平坦な山頂だった。意外にも古ぼけた手製の山頂標識があって、その西側はハイマツが露出していた。こりゃやっぱ夏は地獄だろう。今は雪庇の方が高い。無線は6mを聞いたらJH3LDB/2飛騨市が聞こえているが、SSBでもCWでも応答が無く、144でCQを出したら新井市モービル局から応答があった。スキーーRをやっていて三田原山も知っており、近年は三田原山は山スキーのメッカになっておりガイドブックにも紹介されていると教えてくれた。それは知らなかったぞ。登山口に車で向かう途中、何台も車が止まっていたのはそのスキーヤーの車か。ということは、それだけスキーヤーが入るくらいだからこれから車道に下る斜面に岩場があるとは思えない。地形図で見ると三田原山から笹ヶ峰登山口に下っていくと1700m以下で傾斜がきつくなるが、そこで岩が出てくるのか。だとしたらスキーに適した緩やかな斜面をたどっていけば問題ないのではないかと考え、、登山口よりやや東に下ることにする。いいことを教えてもらった。この局は明日から連休で一の倉沢に入るとのことだった。こりゃ私の手の届かない技術領域だな。

 さあ、下山だ。地図を見ると三田原山南側ピークから南南西に延びる斜面がもっとも傾斜が緩く安全度が高いと予想されたので、まずはピークを目指す。スキー跡も同じように南ピークを目指しており、ピークを西側から巻いていた。こちらも面倒なのでそのようにルートをとり、もっと省力化して斜めにトラバースしつつ南斜面を目指した。もちろんGPSで車の位置を確認しつつだ。適当な斜面で下りに切り替えるといつの間にかスキー跡と合流しており私の考えたルートがスキーコースだったらしい。斜度は適度で私でも恐怖感を感じないくらいで、木の間隔が広くてスキーなら自由自在に滑ることができる。藪も顔を出していない。なるほど、これなら山スキーの人気スポットになるはずだ。

 ワカンを滑らせながら歩いていたが、もっと滑りがいいようにとワカンを脱いでグリセードで下ったが傾斜が緩んでくると靴では滑らなくなってくる。たぶんスキーなら快適に滑れるのだろうな。前方に赤い物体が2つ並んでいるのが見えて、まさかお地蔵様かと思ったら休憩中の老夫婦スキーヤーだった(^_^;) その先はだんだん樹木が増えてきて左手の谷の方がスキーには良さそうだが、あまり左に行くと登山口から離れてしまうので樹林の多い右手右手を選んで歩いていく。もうここまで来れば道路は間近で危険地帯はないだろう。雪で埋もれた谷筋を下ったり小さな尾根を歩いたりして平坦地にたどり着けばもう車道は近い。最後は半分雪が消え、車道に飛び出した場所は京大笹ヶ峰ヒュッテだった。その後は淡々と車道歩きで車に戻った。

 帰りがけに杉野沢温泉「苗名の湯」(@\450)で汗を洗い流し、明日の休養日は志賀高原に行くことにして中野で食料調達をして渋峠に向かった。


 案ずるより産むが易しで、意外にあっさりと目標の3山を片づけることができてさい先のいい連休スタートだった。十二曲だけが急斜面だがあとは穏やかで少し残雪期の山の経験を少し積んだ人なら問題なく歩けるだろう。ピッケルがあると安心なのは十二曲だけだった。残ってしまった赤倉山はいつか片づけなくては。



5:00笹ヶ峰登山口-5:30ワカンをつける-5:55黒沢を渡る-6:06アイゼンをつける-6:12出発-6:31尾根に乗る-6:55 1940m地点-7:29高谷池ヒュッテ分岐-7:45黒沢岳着-8:05黒沢岳発-8:15茶臼山との鞍部-8:29黒沢池ヒュッテ-8:53大蔵乗越-9:13大倉山着-10:01大倉山発-10:19大蔵乗越-10:40ワカンをつける-11:01スキー跡出現-11:14三田原山着-12:00三田原山発-12:20山スキーヤーと会う-12:45車道(京大笹ヶ峰ヒュッテ)-12:55笹ヶ峰登山口

 

黒沢岳、大倉山、三田原山 写真集