景鶴山は300名山に数えられる山であるが登山道はない。場所は尾瀬ヶ原の北方で、谷を挟んで燧ヶ岳と対峙しているが笹藪に覆われているマイナーな山である。でも300名山クラスともなれば登る人はそれなりにいるのが通例で、特に今年は2004年で景鶴山の標高が2004mだから例年よりも多いだろう。藪が埋もれる残雪期に登られるのが通例で、たぶん大型連休中に何人かの人が登ってトレールがあるだろうと予想した。まあ、あの程度の山ならトレールの有無は関係なく登れるだろうが。

 ネットで調べると景鶴山の登山記録は山のように出てきた。山頂直下の岩場がちょっといやらしいようだが、今年は残雪が少なく雪はなくなっているだろうからどうにかなるだろう。しかし、某局の記事を見るともっと雪が少ない時期に行ったのに岩で手間取っていた。いったいどんな場所なのかあまり具体的な記事がないのでわからないが、とにかく残雪期はオジチャンオバチャンがたくさん登っているらしいのでさほど問題はないのだろう。

 登山口の鳩待峠は大型連休前に除雪が終わって開通し、マイカー規制が始まる5月下旬までは唯一マイカーが入れる期間である。駐車場がいつの間にか有料になって\2500取られるのはしゃくだが、戸倉からバスで往復するより料金は安いし時間の自由度は大きいので文句は言えない。それにこの時期が残雪期の最後だろう。尾瀬の藪山に入るにはこのタイミングがベストな選択であろう。それに駐車場から離れた場所で駐車余地を探せばタダできるだろう。歩き数分ならば\2500の価値は十分にある。

 本来ならば幕営装備で与作岳、から至仏山までぐるっと縦走したいところだが、まずは手始めに景鶴山をピストンして様子を見てみることにした。景鶴山山頂から西側の下りが相当な急傾斜だとの話もあり、いきなり行っても撤退の可能性があるからだ。とりあえずは道のない2000m峰を1山稼げるのだからいいだろう。それに天気予報では日曜日は雨と伝えている。景鶴山なら適度な日帰り運動になるし、日曜日は天気によって車で行ける山でもいいし、面倒なら帰ってしまってもいいだろう。

 最近のパターンでノートパソコンを車に積み込んで出発する。これで下山後すぐにデジカメ写真を整理できるし、余った時間で記録を書くこともできる。残雪期の山の場合、行動時間が丸1日だと疲労が激しくて翌日の行動に支障が出かねないのでおよそ半日で山行が終わる程度のコースにするのがよく、下山後は時間が余るのでパソコンがあると時間つぶしにちょうどいいのだ。酒を飲みながらDVD鑑賞もできる。雨の日の遊び道具としては最高だ。あとはネットにつながれば言うことはないが、それは贅沢というものだろう。

 佐渡に引き続いての関越道で、夕方で混雑した三鷹、武蔵野、練馬を超えて高速に乗り、沼田ICで降りて日光方面に走る。久しぶりの道だ。約1年前に上州武尊に登って以来か。鳩待峠方面は下手をすると10年ぶりくらいの久しぶりの道だ。沼田で降りて120号線をまっすぐ日光に向かい、鎌田を過ぎてなおも走って標識に従って左折、今度は尾瀬の案内を目印に走行、ようやく鳩待峠への県道に入りウネウネと高度を上げる。あちこちに駐車場料金の看板が出ているのがしつこいくらいだ。終点と手前にはその有料駐車場があるが、それより下に駐車余地があって先客が駐車していたがまだ置けるのでそこに車を置いて寝た。誰も考えることは同じだ。

 翌朝はさほど冷え込むこともなく、飯を食って出発。10分で駐車場に到着したのでまあまあの距離だろう。鳩待峠から尾瀬に下りるのは初めての経験で入口がわからなかったがなんと雪の壁の向こうだった。駐車場を除雪した雪だろう。一応ステップが切ってあって超えられるようになっていた。その先は大半が雪原で、所々で木道が出ている程度だった。この時期にしてはやや残雪が多いのかな? 巻き巻きの君の記事等を見るともっと少なかったように思う。目印があったりはっきりしたトレールがあるので木道がどこに埋もれているのかわからなくても適当に歩けた。沢の水量は多く、盛んに雪解け水が流れ込んでいるのがわかる。

 しばらくは谷だったが幅が広がって平地のようになってくる。盆地の底に入っていつの間にか霧の中に入っていた。幻想的な霧の樹林を歩き、川上川を橋で渡ると山の鼻だった。いくつかの建物があり、結構大きな「集落」だった。尾瀬ヶ原入口の基地である。ここも一面の雪原だ。温度計が下がっていたので見ると-2.5℃と意外と冷え込んでいた。周囲が雪原に覆われた山肌で、その冷気が盆地の底に溜まっているからであろうか、標高が高い鳩待峠よりもずっと寒かった。

 ここから道は東へと進路を変えるはずだが案内標識がない。まあ、はっきりしたトレールが東にもあるのですぐにわかったが。実は標識があるのだが私が来たときには柱だけあって肝心の文字が入った板が取り外されていたのだ。帰りには板が取り付けられご立派な標識に化けていた。連休明けから標識も出勤か。

 この先は尾瀬ヶ原だが、一面雪で真っ白&霧で遠くも見えず、何とも面白みにかける。木道の位置もわからず、ただ足跡を追いかけるだけだ。幸い、冷え込んでいるので雪が堅く締まって比較的歩きやすい。しかし、その後は湿原の雪が溶けて木道も出ていたが霜が降りて滑りやすくて最悪だった。周囲が池だと下手に滑って落ちるとびしょぬれだ。気を付けながら歩く。おまけに雪が残る場所でも木道の下は雪が入り込まず空洞だから、雪解けが進むと木道の両脇から雪が薄くなってきて踏み抜く危険がある。某氏はこれを踏み抜いて水没したそうだが、今の風景を見ると笑えない話であった。

 牛首で東電小屋方面に左折、しかし木道水没区間があってつま先立ちで駆け抜けた。帰りは竜宮からの木道にするか。ヨッピ吊り橋の板はちゃんと取り付けられていて安心して通過できた。ここまで来れば東電小屋はもうすぐで、再び雪原を歩いて小屋に到着した。ここからが本当の登山である。

 すぐに尾根にとりついて歩き出した。最初は雪はほとんどなく笹藪の中だが非常に薄くて無雪期でも難なく歩ける程度だ。目印が点々と続いていてここを訪れる人が多いことを物語っている。先日の嘉平治岳とは対極の山かもしれない。もしかしたら登っている人にお目にかかれるかもしれない。雪田にはかなり古そうな足跡と思われるくぼみが残っていた。

 雪は東斜面に多いはずなので尾根直上を外して東に回り込むと案の定雪が出てきて薄い藪よりも歩きやすくなった。雪棚の上を歩いて高度を稼ぐ。傾斜が緩むと笹山山頂で、雪が消えた山頂には三角点が露出していた。写真を撮って先に進む。相変わらず尾根直上は藪が露出したままなので北斜面を回り込んで鞍部に降りた。鞍部は真っ白で、右の方から真新しい足跡が合流しているではないか。これは明らかに今朝付けられたばかりだろう、燧ケ岳方面から登ってきた人がいるのだろうか。歩き始めると目の前の斜面から人の声が聞こえるではないか。よく見ると藪の中に人がうごめいている。どうやら足跡の主らしい。出だしから同行者がいるとは心強い。

 登りがまた雪がなく軽い藪となり、できるだけ東に回り込みながら雪田を拾いながら高度を上げていく。先行するのは3人パーティーのようだが藪を厭わずまっすぐ尾根を登っているようだった。まあ、さほどうるさい藪ではないが、やはり雪の上の方が歩くのは簡単なのでこちらはそのまま東寄りにルートを取る。やがて尾根が細くなり左にいたパーティーもこちらに収束し、尾根頂稜を右に巻きながら高度を上げる。ここまで来ると雪が急に出てきてどこでも歩けるようだ。

 尾根が広がると一面の雪原で、これより先は尾根を外さないように注意しながらも適当に歩けば良く、目印を参考にして自由気ままに歩いた。それでも先行するパーティーがいるようで明瞭なトレールが付いているので、大半はそれに従う。まさかここまではっきりとしたトレールがあるとは思わなかったので、残雪期の景鶴山に登る人は想像以上に多いようだ。雪原に入ると視界が開け、ようや景鶴山のお出ましだ。山頂付近だけ岩で雪は落ちて黒く、衝立のような形だ。与作岳に近づくにしたがって衝立を横から見るようになりどんどん三角形に変わっていく。写真で見る姿だ。

 与作岳手前で3人パーティーは休憩に入ったので、こちらは山頂で無線をやるのでそのまま歩いた。白い残雪に真っ青な空が映える、五月晴れの快晴だ。与作岳山頂はだだっ広くどこが山頂なのか全く分からないが、GPSの助けを借りてそれらしき周囲を探るが山頂標識は見られず、群馬のGさん標識もなかった。まあ、どこでも同じ標高なので気にする必要もないので適当な場所で無線をやった。その間に3人組に追い越された。

 アンテナを畳んでいよいよ景鶴山に出発、ここから見る形は険峻な三角形で、本当に登れるのだろうかと心配になるくらいだった。最低鞍部を通過し樹林を適当に登るといよいよ目の前には山頂へ達する東尾根が視界に飛び込む。ちょうど尾根に取り付いているパーティーがいてゆっくりと動いているのが分かる。なかなかの傾斜で念のためアイゼンを付けた方がいいだろうと登りが始まる直下の木陰でアイゼンを履きピッケルを持つ。既に何人も歩いているのできれいにステップが切られてアイゼンは不要な状態だった。12本爪アイゼンにピッケルは過剰装備だったかなぁ。でもこんなに人が入るとは想像できなかったから。結局、この日見かけた登山者数は30人前後だったと思う。大型連休中でもない普通の週末でこれだけ入るのだから、連休にはもっと賑わったのだろうな。300名山ともなると道のない藪山とは言えこんな状況なのだろうか。

 急に見えた尾根も歩いてみるとそれほどでもなく、今年あちこち登った残雪の藪山と比べたらどうってことはない。季節が進んで積雪が少なくなった影響もあるかも知れない。雪尾根が切れて岩が出てくるが、高さはさほど無いし左側に溝があってハイマツが邪魔だがそれを手がかりにすれば簡単に上がれる場所だった。トラロープがかかっていたがそんな物使う必要もなかった。ここが他のホームページで出てきた岩場なのだろうか、でもあまりにも簡単すぎて違うような気もする。でもこれより上も岩はなく、たぶん積雪量によって難易度が大きく変わるのであろう。今回は運良く適度な積雪だったのかも知れない。

 岩の上に出ると少しだけハイマツを漕ぎ笹を漕いで山頂だった。山頂直下では20人前後の大パーティーとすれ違ったが、典型的な中高年パーティーよりも年齢層が上で、半分くらいは定年を過ぎているのではなかっただろうか。こんな連中でもこんな山に登るのだからビックリだ。残雪の藪山はエキスパートの世界のように思えたが、尾瀬くらいになるとそうでもないらしい。

 山頂一帯は雪が消え地面が露出している。北側は木があって視界に恵まれないが、南側は切れ落ちた岩場なので尾瀬ヶ原が眼下に見える。最初のピークに古い山頂標識がかかっているだけで、以前はあったはずのGさん標識は見あたらなかった。3人パーティーの他に私と同年だと思われる男性2人組の計6人となり、あの大パーティーが降りた後に到着してよかったと思った。こんな所に20人も詰め込んだら大混雑だ。それでも無線を自由にやるには気が引けるので、一つ西側の小ピークに陣取り運用した。3つの小ピークがひしめき、どれも同じような高さなので、混雑時に避難場所に使える。そのまま西へ尾根上を歩く夏道が付いているが、このままずっとルートがあるわけではないだろう。この山頂付近だけ早く雪が落ちてしまい、残雪の中を縦走してくるとここだけ藪漕ぎになって踏跡が付くのだろう。尾瀬ヶ原周囲一周でいつか歩くことがあるだろうか。

 無線は奥積さんが呼んでくるのを期待して運用したが声がかからず、お互いの時間が合わなかったようだ。それでも1エリアは充分強く入っていたので難なく他の局とQSOできた。430は一声出したりワッチしていたが関係者の声は聞こえなかった。

 下山は山頂が無人になってからだった。やはりこんな山には静寂が似合う。今年は2004年だから標高2004mの景鶴山が賑わっているのかもしれないが、やはり道がない藪山は人もいなくて孤独の方が秘境の雰囲気が出ていいなぁ。これでは登山道がある山と何ら変わりがなく、ありがたみが失われてしまう。

 急な尾根はアイゼンを履いて下ればアイゼン、ピッケルの出番はなくタダのトレーニング用重りだ。天気が良く快晴の空の下、雪原を順調に下っていく。与作岳を過ぎた辺りで5,6名のパーティーとすれ違ったが、本日の最後のお客であろう。時間的には東電小屋で宿泊だろうか。ここで進路をやや左に振るのだが調子に乗って直進したら踏み跡、目印とも消えてルート誤りに気づき、左にトラバースして正規ルートに戻った。さほど難しい地形ではないが、部分的になだらかなところでルートが分かれ、東電小屋より西側で直接尾瀬ヶ原に下ると思われるルートに乗ってしまい、尾根目指して登り直すこともあった。やはり単純に目印や足跡を信用してはいけない。笹山を超えて東に巻き気味に下って東電小屋着。

 ここまで来れば山登りと言える区間は終わるが、鳩待峠まではまだまだ距離がある。帰りの半分も歩いていないのだ。疲れた足に残雪の平地歩きはなかなかきつく、雪が消えた竜宮十字路までが遠かったこと! 水没した木道を歩く勇気もないため、牛首に直接行くルートは諦めていた。なんせ朝の気温が低い時間で水没だから、この気温が高い日中で雪解けが進んで水深が深くなっていることは充分考えられる。十字路から先は木道が露出し雪から解放されるが、登山靴での木道歩きも土より衝撃が大きいのであまりよろしくはない。シーズンにはまだ早くすれ違う人もほとんどおらず、景鶴山より人が少なかったのではないだろうか。長〜い木道歩きが終わってやっと尾瀬ヶ原の終点で、今度は鳩待峠まで登りの雪道が待っている。さすがに休憩が必要で山の鼻でひっくり返って休憩、その後ゆっくり歩いて峠に到着した。夕方に山の鼻に入る人が多いようで下ってくる人は多かった。

 峠の駐車場は8割方の入り具合で無茶苦茶な混雑ではなかったのは予想外だった。それでも路駐している車も見えたが、これは駐車料金節約のためだろう。しかしまあ、駐車場のすぐ下に路駐するとは肝が据わっているなぁ。こっちはなおも10分歩いて駐車余地があるところに止めているけど。

 着替えを済ませて戸倉温泉の尾瀬温泉センター(\500)で汗を流し、近くのスーパーで買い物をして翌日登ることにした荷倉山、白尾山登山口の富士見下に向かった。

 

 

景鶴山 写真集

 

ホームページ先頭に戻る