尾瀬ヶ原北方にそびえる燧ヶ岳はたぶん100名山だったような気がするが、最高峰である柴安ーの他に俎ー、赤ナグレ岳、ミノブチ岳のピークがある。このうち赤ナグレ岳には登山道が無く、無雪期はハイマツ漕ぎが待っているらしい。私は御池から往復して柴安ーと俎ーには登っているが、赤ナグレ岳、ミノブチ岳は未踏のままであり、残雪がまだ期待できるこの時期にその2つを登るのもいいだろうと考えた。大型連休前に檜枝岐から御池までの除雪は終わっていてマイカーで入れるようになっているのは確認済みだ。

 ルートは御池から登ってまずは俎ーで無線を行い、南に下って赤ナグレ岳、ミノブチ岳を登り、俎ーに登り返して帰る。この時期では樹林中や標高の高い北斜面では残雪があって、特に森林限界を超えた急斜面がイヤらしいが、有名な山なのでおそらくこの時期でも登る人が多くてトレールもあり、さほど危険はないだろうと考えた。地図で見る限りは俎ー直下の北斜面が最も傾斜がきつく、夏道は東斜面をトラバース気味に登っていくが、残雪期にはやや西側の尾根を直登する方が良さそうだ。

 ちなみにネットで赤ナグレ岳を検索したら山行記録はヒットせず、やっぱりほとんど登られない山らしい。でも比較的登山道が近いので藪を漕ごうと思えば我慢できる範囲なので(たぶん)、目印くらいはあるかもしれない。

 天気予報だと土曜日1日しか天気が期待できないが、残雪期は短く貴重なので1日たりとも無駄にはできない。運良く日曜日の天気がどうにかなりそうなら、会津駒ヶ岳東方にある大戸沢岳も登ろうと遙かに遠い燧ヶ岳を目指した。群馬側から峠でも越えられれば近いのだが、御池に行くには檜枝岐経由か銀山平経由か、東西どちらかの大回りな道を選ばなくてはならない。この時期は新潟側の除雪はされていないはずで、福島側からしかアプローチできない。

 久しぶりの東北道に乗るため大泉ICへと向かい、これまた久しぶりの外環道から東北道に乗って西那須野塩原ICで降りて国道400号線で塩原温泉を抜け、尾頭トンネルを抜けて国道121号線に入り、山王トンネルを抜けて福島県に入って国道352号線を延々と西に向かい、檜枝岐中心部を通過してウネウネと坂を上ると御池である。一般道の距離があきれるほど長く、100km弱あるのではないだろうか。最高速度70km/hで走っても1時間半かかった。沼山峠と銀山平への分岐点で直進の国道は除雪されていないため通行止めで、沼山峠方面に入るとすぐ右手に御池の駐車場があった。その昔は駐車場は無料だったが今では\1000となっている。まあ、鳩待峠駐車場の\2500よりずっとマシであるが。こちらは自動徴収方式で出るときに\1000を支払うようだ。つまり何日駐車しても\1000で、「1回\1000」とはそういうことなのだ。なかなか良心的な設定である。

 先週の鳩待峠の駐車場は8割方の入りであったが、御池はずっと少なく台数としては同じくらいかもしれないが、なにせ駐車場が広いのでガラガラだった。せいぜい20台くらいではなかろうか。収容台数は100台は優にある大駐車場なので鳩待峠とは大違いだ。これでもシーズンは大混雑して七入に車を止めなければならないこともあるらしいが、残雪期は主に山スキーヤーしか来ないのでまだまだ少ない。少し奥に車を置いて酒を飲んで寝た。空は満天の星空で快晴だった。

 翌朝は4時に起床し、急いで飯を食って4時半に出発した。既に充分明るくなってしまったが、なんせ睡眠時間が4時間なのでこれ以上早起きして寝不足にはなりたくないので仕方ない。夏道がどう付いているのか完全に忘れてしまったが、幸い、駐車場からいきなり雪原が続いているのでどこでも勝手に歩ける。登りは高いところを目指して適当に歩けばいいのだが下りは適当に歩くとどこに到着するか分かったものではないので、車の位置をGPSに登録しておくのは忘れない。

 最初は沼山峠方面に車道を歩き、適当な所から尾根に取り付いた。積雪で藪の状態は不明だが、ブナ林で気持ちよく歩ける。高い方を目指してやや西寄りに登っていくと1人の踏み跡を発見、どうやら正規ルートに乗ったらしい。なおも高度を上げるともっと西の方から頻繁な目印列が現れ、数人の足跡が出現した。今度こそ本当のルートだろう。残雪期はどこを歩いても最終目的地に到着できればいいのでルートがばらけるようだ。

 広沢田代への登りにかかると傾斜が増すのでアイゼンを付ける。よく締まった雪でほとんど沈まず踏み抜くこともなく快適な雪上歩行だ。なぜか今年の残雪期は踏み抜きがほとんど無く、ワカンを使う必要性を感じることは無かった。春先の気温が高くて適度に雪が溶けてよく固まったのだろうか。傾斜が一気にきつくなるがまだ恐怖感を感じるほどではなく、目印は参考程度にして傾斜ができるだけ緩く歩きやすいルートを登っていく。

 傾斜が緩むと広沢田代の一角で、今は一面の雪原である。湿原中のルートははっきりせず目印もないのでせっかくだからと湿原の真ん中を横断した。尾根は右手(西)にあるが、今の時期はどこを歩いても同じだろう。振り向けば会津駒が目の前だ。ここからは熊沢田代への斜面で隠れているので山頂はまだ見えないが、既に標高は1750mを越えているので600mほど登るだけでいいはずだ。天気は気持ちのいい五月晴れで一面の青空、今日も大いに日焼けしそうだなぁ。

 再び傾斜が増すと今度はアイゼンとピッケルが欲しくなるような急斜面になった。直登はイヤらしいので少し左(東)に逃げてトラバース気味に高度を上げ、1986mピークから東に延びる尾根に乗ってグングン高度を上げる。こっちは傾斜も緩くて快適、スキーのシュプールもあった。ピークに出ると南斜面の下りになるので雪が消え木道が延々と続いているのが見えるが、アイゼンを脱ぐのが面倒なのでそのまま歩いた。どうせ湿原が終わればまた雪だし。振り返ると新潟の山々が延々と続き、荒沢岳から平ヶ岳もバッチリ見えている。あそこも行かないとなぁ。その右手は未丈ヶ岳のはずで、その右が毛猛山に違いない。あそこに登るのはいつになってだろうか。やはり2000m峰登りがある程度終わらないと行けないかな。

 熊沢田代からはいい感じの傾斜を目印を頼りに登っていく。残雪期のルートはバラけてあちこちに目印が散在し選択に頭を悩ます。大雪田上部に行くと左手(東)の雪田が山頂付近まで続いているが、他はハイマツの海に消えているようなので左にトラバース気味に登って雪田を切り替えると踏み跡、スキー跡が出てきた。どうやら正解らしい。特に足跡の方は下りのものだからこれを追えば山頂まで行けるはずだ。高度を上げると傾斜がきつくなってくるが、下りの足跡なので一直線に下っているが、この傾斜を直登するのはきついのでこっちはジグザグに斜行しながら高度を稼ぐ。こうなるとアイゼン、ピッケルが心強い。

 直線的に進んでいくと半分埋もれた標識が出てきて、どうやら夏道通りに歩いてきたことがわかる。そこから夏道通りにトラバースが始まるが、これがまた滑ったらイヤな急斜面なのだ。事前の予測道理の展開だが、足跡は何事もないようにトラバースしている。ステップもそこそこ切れているので、慎重に足跡を追ってトラバースする。もう1つ標識が出てきて藪の間を通過すると、次の登りが始まる。これがまたさっきよりも急斜面で左にトラバース気味に登っていくのだが、あまりに急なため斜行しながら登るのが怖いくらいで、足跡を追って正直に一直線に登るしかない。こんな時こそ出っ歯のアイゼンは心強く、ピッケルを突き刺しながらゆっくりと登っていく。怖いので後ろは振り向かず前を見るだけだ。やっと傾斜が緩むともう山頂直下で標高2320m付近だろう、平坦な雪原が終わって夏道が出ていた。ここから山頂までは北斜面なのにひとかけらの雪も残っておらず夏道を淡々と歩くだけで俎ーに到着した。

 たぶん10年ぶりくらいの山頂で前回の記憶は全く残っていなかった。祠があって三角点も飛び出している。当たり前だが360度の大展望である。目の前にはまだべったりと雪をつけた柴安ーで、こちらから登るにはかなりの急斜面の雪原を登らなくてはならない。あ〜あ、前回柴安ーで無線をやってしまってよかった。今回はあちらに用事はない。北を見ると毛猛山の向こうに浅草岳、守門岳だ。右手は奥只見の山々だが名前が分からない。遠くには意外にはっきりと飯豊が白い姿を見せていた。左手に少し離れた高まりが二王子岳だろう。南に目を転ずると日光が目の前で、帝釈山、台倉高山、黒岩山、鬼怒沼山、物見山、根名草山、太郎山、帝釈/女峰山、男体山、日光白根、錫ヶ岳、笠ヶ岳、三ヶ峰、四郎岳、燕巣山等が見えている。どれも懐かしい山々だ。上州武尊もまだまだ白く、これなら笹も埋もれているだろう。尾瀬周辺では先週の荷鞍山、白尾山は眼下で、残念ながら景鶴山は柴安ーが邪魔で見えない。至仏山は先週と残雪量は変わらないように見えるが、この時期の1週間だからかなり減っていることだろう。その先には尖った笠ヶ岳。さらに遠くには苗場山の平らな山頂、志賀高原付近も見えていた。南の果てには奥秩父の山並みで、その奥には富士山が見えていた。南アもどうにか白いのが見えたが微かに見えるだけだった。八ヶ岳は白い物が見あたらなかった。

 充分展望を堪能して無線開始だ。南風が強いので岩の北側に隠れ、アンテナは山頂が無人なのを幸いに山頂標識と三角点間にDPを張った。かなりバリコンがイカれてしまったピコ6ではリグを持つ場所や傾きを変えるだけで周波数がドリフトするほど敏感になって使いにくいったらありゃしないが、6mが出られるのはこのリグだけなのでだましだまし使うしかない。ワッチすると東蒲原郡移動が強力で声をかけ、その後奥積さんを引っかけるべくCQを出すと他の局が釣れるわ釣れるわで、早く次のピークに行きたいのだが呼ばれ続けて終わらないのには困った。もちろんその中で奥積さんとつながった。最後はお久しぶりの7L4VYKで、最近声を聞かないと思っていたら大阪へ転勤していたとのこと。そしてあちらで山登りをしているというので驚いた。北摂ならば関西山ランメンバーとつながらないはずがないので、山に登るときにはかならず430FMで声を出すように言っておいた。後日メールも出して強くプッシュしたので430で出てくれるだろうか。

 VYKとラグったので静かになり、やっと次のポイントへ動ける。残りは赤ナグレ岳とミノブチ岳だが、まずは道がない赤ナグレ岳を先に登ってしまおう。大した距離ではないのでアタックザックにリグとアイゼンを突っ込み防寒着を着たまま出発だ。南斜面も雪はなく、岩の間をグングン下って御池岳基部に到着、ここでミノブチ岳への夏道を外れて御池岳南を巻き始める。ここが沼尻と長英新道の分岐らしいが、沼尻へのルートは雪に埋もれて分からなかった。赤ナグレ岳へは残雪の急斜面なのでアイゼン、ピッケルの出番でトラバースする。本当に小さな盆地なので安全のため底まで下ってもいいが、トラバース中に落ちても少しだけ滑って盆地で止まるので怪我の心配もないので労力削減だ。無事渡りきって残雪の樹林帯を西に横断、この辺りは雪がないと笹藪らしい。今はシラビソが生える雪原だが笹藪が出かかった部分もあった。たぶん1週間後は藪漕ぎだな。

 平野部が終わるといよいよ赤ナグレ岳溶岩ドームへ取り付く。東斜面はまだベッタリと雪が着いているのでそこを登ることにし、北の縁付近をよじ登る。これまた急斜面だが距離が短いのでストレートだ。すぐに傾斜が緩んで残雪を伝わって山頂を南に巻き、南から山頂のハイマツ帯に突入した。この標高では立ってるハイマツなのでアイゼンを履いたままではもがくような藪だが距離にして20mくらいで我慢して漕ぐ。GPSの表示を頼りに最高点らしき岩に立った。てっぺんはハイマツで、西側にはダケカンバが枝を広げている。目印等は全くなく、ゴミも皆無で人の気配は感じられない。よほどの物好きしか立ち寄らないピークだろう。

 アンテナはダケカンバの枝が使えたのでハイマツの上よりは良かったらしい。奥積さんの信号は俎ーと同等だった。周波数チェックをしていたら発見されてしまったので、余計な人から声をかけられずに済んで助かった。JK2MRB/9大野郡ともQSOできたので無線はおしまい。

 往路を戻って夏道近くで僅かに灌木の藪を漕いで道に出れば数分でミノブチ岳山頂だった。地形図で見てもタダの肩だが実際もタダの肩で、ケルンがなければ気づきもしないだろう。もっともケルンがあっても標識はないからみんな通過するかな。ここは立木がないのでケルンにDPを乗せて運用、那珂郡移動がCQを出していたので声をかけて終わりにした。

 俎ーに登り返すと数人の山スキーヤーが休憩中だった。みんなプラブーツのところにこっちは布靴にピッケルの出で立ちで完全に浮いている。風はますます強くなり、上空には薄雲が広がって南の山々は徐々に低い雲に覆われはじめ、少しずつ天候は下り坂らしい。いつのまにか上州武尊もガスに覆われ白尾山も雲に入ってしまった。眺めが楽しめなくなったので長居する理由はないので、飯を食って下山開始だ。

 雪田が始まるところでアイゼンを履き、急斜面は何人もツボ足で登ってきたようできれいにステップが切れているので適当な斜面ではなくトレールを下った。ステップは登りの歩幅で下りには狭すぎるがしょうがない。しかしまあ、この傾斜でみんな怖くないのかなあと感じずにはいられない。スキーの上級者コースと比較すれば同じくらいの傾斜だからスキー経験者なら当たり前なのだろうか。本当に急なのは最初だけで、ちょっと下れば適度な傾斜になり、トレールを無視して自由に下れる。まだまだ登ってくる人が点々と続き、みんなスキーを履いたりスキーを担いだりしている。登りはどっちでも同じ苦労だろうが下りはスキーは速いし楽だろうなぁ。マジで来年は山スキーを始めようかなぁ。

 熊沢田代上部の大雪原は、私がどこを歩こうかちょっと悩んだように、みんなあちこちバラけて登っていた。樹林帯に入ってもまだまだ登ってくる団体様が多く、この1日で4,50人は登ってきたのではないだろうか。熊沢田代は木道歩きを避けて東の雪田を歩く姿も見られた。こちらは夏道を忠実に辿り、とんでもない急斜面を下ったりして足跡を追い、最後は駐車場西端に飛び出した。最後は足跡がばらけていたので、冬の間は駐車場から、みんな適当に歩き出しているようだった。ただ、駐車場の南側は除雪した雪で壁になってよじ登れないので西か東端の壁が切れた場所からだろう。

 駐車場は50台前後に車が増えていて、観光客の姿も見られた。濡れた物を干しながらPCに向かってデジカメ写真整理をしたり記録文を書いたりして、眠くなったら昼寝して午後を過ごし、ラジオの天気予報で確実に崩れそうだと確認して東京に戻った。温泉は燧の湯という村営施設で@\600。昔はこんなの無かったよなぁ。真新しい気の建物で混み合うこともなくのんびり湯につかれた。


4:30御池-4:37足跡発見-4:39目印-4:42アイゼンを履く-4:46出発-5:05太いトレール-5:11広沢田代-5:47 1986mピーク直下-5:25熊沢田代-6:12足跡と合流-6:20樹林帯を出る-6:38トラバースが始まる-6:51雪原を抜ける-6:54爼ー着-8:03爼ー発-8:12登山道を外れる-8:28赤ナグレ岳着-8:58赤ナグレ岳発-9:10縦走路-9:13ミノブチ岳着-9:41ミノブチ岳発-9:56御池岳-10:00縦走路に戻る-10:10爼ー着-10:24爼ー発-10:31アイゼンを付ける-10:37最初のトラバース終了-10:51熊沢田代-11:01 1900m斜面-11:10広沢田代-11:30御池

 

 

赤ナグレ岳、ミノブチ岳 写真集

 

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