聖岳東尾根に夏道が存在した!

 

奥聖岳から見た東尾根

 2004年10月2日に奥聖岳から東尾根を下り、夏道の存在を確認しました。登山口から標高2700m地点までほぼ完璧な刈り払いです。ただし、標識の整備はされていないので初心者だけの入山はお勧めできません。藪山の経験がある人なら楽勝です。ちなみに藪山で手慣れた人なら白蓬ノ頭までヘッドライトの光だけで行けるでしょう。あの目印の多さなら見落とす心配はありません。

 

 ただし、これはあくまでもバリエーションルートであり、整備された登山道ではないことは忘れないで下さい。また、距離が長く標高差が厳しく、途中に山小屋も水場も無いので、体力的にも相応の人でないと歩けません。安易な気持ちで計画しないようお願いします。

 

 なお、2005年10月に奥聖岳からの下山時におそらくこの尾根に入り込んで迷ったとみられる遭難が発生しています。遭難した人は黒戸尾根経由の甲斐駒や早月尾根経由劔岳を日帰りで登れるほどの猛者で、毎週のようにアルプス級の山を歩いていたベテランでした(ただし一般登山道以外の経験は無し)。アルプス級の山の経験はたぶん私より上で、体力的にも私と同等以上の超健脚者で、一般登山道で遭難するとは考えにくい人でしたが、東尾根を下って白蓬ノ頭を過ぎて樹林に入った以降、地形が広がり樹林で踏跡が薄くなったところで道を失ったと考えられます。いくら一般登山道の経験が長くても、自分で的確なルートを探さなくてはならないバリエーションルートでは安全とは言えません。どこでも歩けるような尾根が広がって下草のない樹林帯で、踏跡が薄くなってもルートファインディングができる技術、経験を身につけてから歩いて下さい。小さな山だったら少しくらいルートを外しても下れるかも知れませんが、アルプスクラスの山では標高が高いので谷も険しく、麓までの距離も長くて一つ尾根を間違えるととんでもない所に降りてしまったり、着いた先が深い沢で対岸に渡れないということもあります。

 

 藪山の経験を持つ人で東尾根に挑戦するか迷っている人の場合は、体力的にきつくなりますが聖への登りで利用することをお薦めします。経験者なら分かると思いますが、踏跡が薄いコースの場合、登りより下りの方が圧倒的にルートミスしやすくなります。登りはとにかく上を目指せば尾根はどんどん収束して必ず山頂にたどり着きますが、下りの場合は尾根は分岐を繰り返し、どちらの尾根を歩くのか判断に迷ったり、尾根が屈曲するところを見落として間違った尾根に直進してしまったりする危険が高くなります。私個人の感想としては、聖東尾根は藪山としてはグレードは低いと思いますが、万が一ルートを間違ったときの危険度は中低山とは比較になりません。少しでもリスクを減らしたい人は登りを選択すべきです。ただし、東尾根には小屋も水場もないので水は必携ですし、足の速さ、体力によっては幕営が必要になり荷物が重くなりますので、それなりの体力を要求されます。

なんで夏道があるの??
 2004年9月に中ノ宿吊橋から笊ケ岳に登り、小笊にも足を延ばして(というより小笊が主目的)無線交信を行った際、交信相手が東海フォレストに知り合いがいて林道の通行証をもらえる立場の人でした。秋になって涼しくなってきたのでそのうち聖岳東尾根をやると言ったところ、なんと4年前?に遭難騒ぎがあり、東尾根の刈り払いを行ったので夏でも行けますよとの衝撃的情報が得られました。ただ、登山口は出会所小屋跡ではなく、送電線巡視路なのだけど何番の鉄塔なのかまでは覚えていないとのことで、入口がわからないので登りに使えないため下りに使うことにしました。この人の情報が無くても藪漕ぎ覚悟で東尾根は下りに使おうと考えていましたが(下りなら藪漕ぎが楽になるので)、この情報のおかげでがぜんやる気が出て即実行となりました。

登山口入口の場所
 二軒小屋畑一線28番鉄塔入口です。聖沢登山口よりも椹島寄りにあるので、足としては東海フォレストの送迎バスが使えます。聖沢登山口より約1km先で、GPSによる実測ではN35度25分27秒、E138度12分01秒(世界測地系)でした。送電線巡視路の小さな標識があるだけで、登山口を示す標識はありません。私が歩いた当時は写真のように28番のシールが貼られた送電巡視路標識がありましたが、2005年7月中旬にこのルートを歩いた人から寄せられた情報によると、この標識の28の数字の部分が折られて消失しているとのことでした。ただ、聖沢登山口から林道を北上すると巡視路の番号は徐々に若くなるそうですので、29番の次の標識がそうです。というか、番号がない標識は28番だけと思われますが。

 登山口から登ると赤ペイントが始まりますのでそれを追いかけます。この道は鉄塔間をつなぐ巡視路なので正直にまっすぐ歩き続けると目的の鉄塔を通り過ぎてしまいますが、赤目印を追いかけて鉄塔のちょっと下で左に曲がって登ると送電鉄塔根元に出られます。鉄塔から先も踏跡はしっかりしており目印も豊富です。ただ、はじめのうちは尾根歩きでなく斜面をジグザグに登っていくルートです。尾根に乗ってからは単純尾根を追えばいいのでルートを間違える確率は低いでしょう。

東尾根登山道入口となる巡視路入口 巡視路入口に立つ小さな標識


ルート
 GPSのトラックログを見ないと正確にはわかりませんが、歩いている途中のGPS表示から見ると、標高2300mの尾根分岐で出会所小屋跡から上がってくる冬道と分かれて東の尾根に入り(これは間違いない)、標高1990mの尾根分岐で東に延びる主尾根と分かれて南東に下る尾根に乗るようです。標高2300m以上は以前からある冬道そのもので、そこを刈り払って目印をたくさんつけたようです。標高2300m以下の部分は以前からあった造林作業道のようで、さび付いたワイアーロープを何カ所かで見ました。


歩いた感想
 登山口から標高2700mまではほぼ完璧な刈り払いで(というか樹林で藪が少ない)、体に触れる藪はほとんどありません。倒木も処理されており(ただしその後発生した倒木はそのまま)エアリアマップの赤実線に相当すると思います。目印の赤ペイントの多さはうるさいくらいで、見える範囲に2,3カ所はあるので、藪山に慣れた人なら目印を見落として迷う心配はほとんどありません。白蓬ノ頭西側にある二重山稜だけは目印の数が減って薄い踏跡を辿ることになりますのでわかりにくいかも。なんせそこは藪がないのでどこでも歩けるから。鞍部から西側は北側の尾根の南側面に道が付いています。それを過ぎると尾根が細くなってルートを間違える要素はなくなりますが、同時に刈り払いが終わってハイマツがうるさくなります。それでも全く刈り払いが無くなるわけではなくて、踏み跡の太さ程度は不十分な刈り払いがあります。よってこれ以降も藪漕ぎの必要はありません。赤ペイントの目印はずっと続いています。

登山道の様子#1 登山道の様子#2 登山道の様子#3
倒木処理 4年前とは思えない新しさだが・・・ 白蓬ノ頭山頂 伐採され絶景が広がる 白蓬ノ頭西側のテント場(写真は斜めだけど実際は平地です)
白蓬ノ頭南側の登山道 白蓬ノ頭西側鞍部 刈り払い終点


 このルートで危険箇所は1カ所だけです。奥聖岳から東に下る尾根は傾斜がきつく(ザイルがいるかと思った)ハイマツの海で道は迂回しています。2880mピークを越えて奥聖岳の登りにかかる地点で、ルートは主稜線を外れて左にトラバースするのですが、このトラバースがちょっといやらしい。ガレの最上部とハイマツ帯の境目を歩くのですが、足場はあまりよくなく、足を滑らせるとガレ場を滑落してはい上がるのにとっても苦労しそうです。ハイマツを掴んで安全を確保しながら横断しましょう。自信がない人はすぐ上のハイマツ帯を潜るのもいいでしょう。トラバースの距離は100m程度だと思います。トラバースが終わると小さな谷を急登し、奥聖岳から南に延びる小尾根に出ればもう安全です。ちなみにこのトラバースコースは積雪期は危険で横断できそうにない傾斜なので夏道専用かもしれません。森林限界での目印は地面に置いた石の赤ペンキなので冬は雪に埋まって見えないはずです。やっぱこれは夏道専用か?

2880mピークから見た奥聖岳 奥聖岳南尾根小鞍部から見たトラバースルート

 

 なお、奥聖岳には東尾根登山道入口を示す赤矢印がありますし、「サワラジマ」と行き先まで書いてありますし、踏跡はしっかりしているのですぐにわかります。今までは土日で聖岳に登る場合、聖沢や便ヶ島から登る場合は聖平で1泊して翌日山頂に登って同じ道を下山するのが普通でしたが、東尾根の夏道が存在することがわかった今では、聖沢から登って東尾根を下る周遊ルートが楽しさ倍増! 聖沢登山口までの足をどうするかが問題ですが、充実した山行が楽しめます。

 

  ただし、今の時点ではまだバリエーションルートなので、藪山の経験がある人と行きましょう。最初に述べたようにアルプスクラスの経験豊富なベテランでもこの尾根の下りで遭難しています。特に東尾根を下りで利用する場合、森林限界が終わって樹林が始まる白蓬ノ頭付近から先で広い地形でどこでも歩けるようになり、それまでの狭い尾根歩きと違ってルートファインディングの難易度が一気に上がります。赤ペイントを見失わないよう、常時周囲に気を配りながら歩いて下さい。ガスで視界が狭まるとなお危険です。藪山の経験はあるけどちょっと不安だなぁという人は、東尾根を登りで使って下さい。ルートミスを犯す確率をぐっと減らせます。

 

 ちなみに、2005年7月中旬にこのルートを歩いた人から寄せられた情報によると(オイストラフさん、情報ありがとうございました)、入口の送電巡視路標識の番号が切り取られた以外は、ルートの状況はこの記事と同じままだったそうです。どうやらまだまだしばらく道の状態はいいままのようです。

 

 

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