登山での自転車利用


 ゲートがあって車が入れない林道の場合、長〜い歩きが必要になる場合がありますが、自転車があればなぁと考えたことがある人も多いでしょう。私はそんな林道を何度か自転車で走行して登山口まで入った経験がありますが、そこで感じた自転車利用のちょっとしたノウハウをご紹介します。



1. 自転車の使い道


 一つは水平な林道歩きの省略。もう一つは自転車利用の縦走です。下山口に自転車を置いて車で登山口に向かい登山を開始し、下山して自転車を回収、自転車に乗って車に戻る方法です。これはやったことはありませんが、コースによっては楽しめそうな方法です。この場合、車まで戻るのに上り坂がないようなコースを選ぶことが肝心です。下山してからさらに疲れることはできませんから。



2.  上り坂は歩きよりも疲れる!


 みなさんは自転車は万能だと思われるかも知れませんが、エネルギーは本人が負担しますので万能ではありません。自転車くらい軽いオートバイがあるといいんですがねぇ・・・。それはさておき、自転車で坂を上るのは歩くよりもとっても疲れます。上り坂は絶対に歩いた方が楽です。自転車を押して上がっても、自転車無しで坂を上がるのよりも遙かに疲れます。ですからずっと上り坂が続く林道を自転車で上がったとすると登山口に到着する頃には既に1山歩き終わったくらい疲れます。

 また、急な上り坂は帰りに下り坂になって自転車を漕がなくても座っていればいいと考えるかも知れませんがそうでもありません。かなりスピードが出るのでブレーキをかけなくてはいけませんが、下りが続くと延々とブレーキを握っている必要があり、足は疲れませんが腕が疲れます! 特に握力なんて日常生活では必要なものではないので長時間ブレーキを握り続けるのは大変です。また、林道は未舗装の場合が多く、下りでスピードを出すと小石や穴で転倒する可能性が高く、舗装道と比較して相当減速する必要があります。下りが続くとブレーキに負担がかかり、後輪のブレーキが過熱して煙が出ます(本当です!)。本格的な自転車だったらこうところまで考えてブレーキが設計されているのかも知れませんが、普通の折り畳み自転車ではそうもいきません。

 ですから、自転車が有効に使える道は登りがあまりない道、つまり水平な道に限定されます。私の経験だと標高差100mを自転車で上がるだけでもかなり疲れます。坂が非常に緩やかなら問題ないかも知れませんが、急な坂だったら自転車での下りも含めて歩いた方が得策です。途中までは水平でその先が急坂の場合、坂が始まる前で歩きに切り替えます。坂を上りきった先の水平道が長い場合は悩むところですが。



3. 自転車で使う筋肉は登山で使う筋肉と同じ?


 経験的には表題の通りで、登山口へのアプローチに自転車を使ってから歩き始めると異常に足が重いです。どうも自転車を漕ぐのに使う(特に上り坂で)筋肉は登山の登りで使う筋肉と同じ部分のようです。登山で使われる筋肉は大腿四頭筋という太股前面の筋肉(山に行って筋肉痛になるところ)ですが、インターネットで調べた結果、自転車で使われるのも同じ大腿四頭筋であることがわかりました。ですから自転車で頑張りすぎると大腿四頭筋が疲労して肝心の歩きの前にバテてしまいますので、自転車区間でいかに体力をセーブするかが肝心です。上り坂という上り坂は全て自転車を降りて押すくらいの覚悟が必要です。下山時だったら体力を使い果たしても構わないので上り坂でも勢いを付けて自転車のまま登ってしまいますが、これから登るというときにこれをやると後悔しますよ。

 なお、自転車で使う筋肉と登山で使う筋肉が同じなので、登山のトレーニングとしてサイクリングが使えることになります。下界で大腿四頭筋を鍛える運動って階段の上り下り以外はあんまりないように思いますが、自転車なら日常生活に取り入れられます。一番いいのが自転車通勤すること! 通勤することが登山のトレーニングになるのだったら言うことありません。私は毎日自転車通勤です。ちなみにウォーキングでは大腿四頭筋は鍛えられません。半年間、往復約10kmを徒歩通勤した時期がありますが(片道1時間弱)、半年ぶりに山に行ったらメロメロでした。心肺能力は鍛えられても登山に必要な筋肉は使わないようです。



4. サドル高さの調整が肝心!


 自転車は買ったままでは自分の体格に合っていない場合が多く、サドルの高さ調整が必要です。調整が合っていないととっても疲れますのでぜひやってみて下さい。

 平地で見ているとサドルが低すぎる人が多いです。平地をチンタラ走っている限りではそれでも問題ありませんが、逆風の中を走ったり坂を上がったりと負荷がかかるときは差が出ます。適正な高さはペダルが一番低い位置ににたときに膝が伸びきる寸前くらいで、この時膝が曲がったままの高さだと大腿四頭筋のパワーが有効に使えません。ちなみにこの高さまでサドルを上げると自転車を止めたときにつま先しか地面に付かないはず(下手すりゃ全然付かない??)なので、停止時に不安定なので安全のため普通の人はサドルが低いのです。ただ、降り方に慣れれば問題ないので、山で自転車を使う場合は疲労防止優先で高さを調整しましょう。ちなみに私が今使っている折り畳み自転車は20インチで、サドルをいっぱいに上げても膝が曲がったままで以前使っていた27インチの自転車と比較すると疲れますが、車に積み込むことを考えるとなぁ。高さを上げるアダプタでも作ろうかなぁ。



5. 自転車の簡単な整備


 要点は2つだけ。まず空気圧は必ず確認し、タイアが固いかチェックしましょう。理由はよく分かりませんが、タイアの空気圧が低いととっても疲れます(車のタイアも空気圧が低いと燃費が落ちる)。乗り心地が固くなりますが体力には替えられませんので我慢して下さい。あとはチェーンの給脂(油差し)。チェーンの給脂が不十分だと摩擦が増えてペダルが重くなりますので、時々油を差してやって下さい。この2点を整備するだけでもずいぶんペダルが軽くなるのが実感できると思います。もちろん山だけでなく平地でも有効ですよ。本当は車軸のベアリングとか給脂できればいいのでしょうが、私は山屋であって自転車の専門家ではないので・・・・。



6. 重装備ではケツが痛い


 自転車に乗ると全荷重がお尻にかかるため、大ザックに重い荷物が満載だと長時間自転車に乗るとお尻が痛くなります。私は自転車に乗った場合は12kg程度しか背負ったことがないのですが、この程度なら2時間くらいでも問題ありませんでしたが(上り坂が時々あって断続的に自転車を押しましたが)、下界で重い荷物を背負って自転車に乗った時はけっこうきました。サドルはママチャリのような大きめでスプリングが入っているものがいいようで。日帰り装備なら問題ないと思います。



7. 自転車の選択


 私は車へ積みこめるという理由だけで20インチの折り畳み自転車にしましたが、理想的には以下の項目が満足できるといいです。

・できるだけ軽いこと(最重要項目!)。坂道で自転車を押す時に差が出ます。
・タイア径が大きいこと。砂利道では20インチは運転しにくい。
・適度な強度があること。ロードレーサーのような細いタイアだと砂利道の穴に落ちるとリムが変形する恐れがあります。ただ、重さとの兼ね合いもがあるので丈夫すぎるのも困りますが。
・サドルが体格にあった高さに調整できること。
・分解、組立が簡単なこと。分解できれば車に積み込みやすいので。

 どんな種類の自転車があるのかインターネットで調べてみないと分かりませんが、たぶん山ほど種類があるんでしょうねぇ。林道走りだとMTBあたりがピッタリしそうですが、軽いものがあるのかどうか不明。最後はお財布との相談になるでしょうけど、使用頻度を考慮して適度なところで妥協して下さい。おそらく、自転車を使うと便利な山登りは年に数回しかないと思いますが、そんな登場回数なのに大金をかけるのももったいないですし。


8. 自転車利用が有効な林道

 

 自転車利用の山行は年数回程度なので経験した回数が少ないのですが、その中でも自転車が有効に使えた林道を紹介します。

畑薙ダムから椹島方面
 ここは自転車利用がお薦めできる場所です。赤石ダムまでの区間は細かなアップダウンはありますが、全体の2/3くらいは自転車に乗っていられます。沼平ゲートから畑薙大吊橋まで20分弱、中ノ宿吊橋まで約1時間、赤石ダム手前まで約1時間半で、そこから聖沢登山口まで歩いて約30分(合計2時間)です。東海フォレストの送迎バスを利用する場合、始発の時刻が遅くて早朝から登山を開始できませんが、自転車利用なら好きな時間に出発でき、帰りの足もバスに頼ることなく何時に下山しても帰れます。畑薙ダムから入って聖岳を目指す場合、聖平小屋は東海フォレストの経営ではないため帰りのバスに乗れませんが、自転車なら問題ありません。便ヶ島から登れば林道がなくてもっと楽ですが、聖岳東尾根を歩くことができません。大井川側から入らないと聖沢〜聖岳〜東尾根の周遊ルートは歩けません。

 また、笊ヶ岳登山もこちらからがお薦め。一番楽なコースは椹島から登ることですが、お金を節約するには中ノ宿吊橋から所ノ沢越経由で笊ヶ岳がいいです。山梨側の老平から登るのが一般的ですが、あちらの登山口標高は約500mしかなく、山頂まで2000m以上標高を稼ぐ必要があります。また、水場は尾根取り付き手前の広河原しかなく、そこから布引山まで担ぎ上げる必要があって大変です(だから笊ヶ岳に登る人は少ない)。一方、畑薙ダムは標高約900mにあり、中ノ宿吊橋から登ると初日は標高2000mの所ノ沢越直下のテント場(水場有)で幕営でき、翌日山頂を往復して下山することになります。標高差は老平より400mも少ないし、テントは標高2000mまでしか担がなくていいし、そのテント場には豊富な水があるので水を持ち上げなくていいしといいことずくめです。ただ、ちょっと道が薄い部分があるのが難点ですが・・・・。

釜無川林道(正式名称か不明)
 南ア鋸岳登山ルートの中でも最も安全なルートなのでよく歩かれるようですが、林道歩きが約8kmあるので自転車を使って省力化が可能です。しかし、後半は傾斜がきつい登りが続くので、大平への林道が分岐する辺りで自転車を乗り捨てて歩きに切り換えた方がいいです。私はずっと自転車を押して上がり、最後はバテバテになりました。

 逆に、歩いたことがある林道の中で使えなさそうなのが

 

戸中林道

 水窪から黒法師岳に登るのに歩く林道。距離が長いので自転車が使えるといいのだが、いかんせん延々と登りが続くので自転車で入ったら歩く前に疲れます。絶対に歩いた方が楽です。

 

上高地

 上高地は釜トンネル入口より奥はマイカー規制で入れないので自転車を使いたいところですが、これがまた登りの傾斜がきつい! 歩く前に疲れて死ぬのは確実なので、自転車に乗って入るのではなく、自転車を畳んでバスに持ち込みましょう。実際にやった人がいるので大丈夫なようです。帰りは下りなので自転車を漕がなくていいですが、ブレーキ過熱に注意。

 



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