山登りのポイント(初心者/中級者向け)2009年10月改定

 

 ここでは私の経験の中から山行を行うに当たって知っておいて欲しいことを並べてみました。実戦で感じてきたこと、経験してきたことばかりなので多少はお役に立つのではないかと思います。なお、私は東京に住んでいるので他の地域の山はちょっと様子が違うと思いますがご勘弁を。北海道なんて夏でも涼しいそうだし、雪国だと雪の降り出しは早くて融けるのは遅いでしょうし。

 

 

1. 季節の山

 山登りは季節によって適する山、適さない山があります。季節によって登る山を選ぶことは快適な登山を楽しむのに必要なことです。季節毎にどんな山に登るのがいいか勝手に挙げてみました。

 

春(4〜5月)

 新緑の季節で低山では雪が溶けて地面が顔を出し、一般的には登山シーズンの開幕。高い山はまだ雪があるので雪山に登りたい人以外は登ることはなく、雪が消えた中低山(1500m以下、ただし地域による)が登られる。標高がそこそこ高いところはまだ樹木は落葉したままで、夏は葉が茂って視界がない山でも展望が楽しめることもあるし日差しがあって温かい。アルプスクラスの山はまだ雪があり、これらの山が遠望できるところでは白銀の山を見ることができる。富士山も同様で、やっぱ雪が消えて黒い山よりも見た目、写真写りがいい。気温も適度で大汗をかくこともなく、比較的快適に登れるシーズン。風下側や日陰の北斜面にちょっとだけ雪が残っている山などはビールを冷やして楽しむことができる。

 

梅雨(6月上旬〜7月中旬)

 ある意味では1年で最も登りにくいシーズン。天気が悪いこともあるが虫が一番多いのがこのシーズン。へたな山に行くと刺されてボコボコにされます。虫がいないのは2000m以上の高山で、森林限界を超えていればまず虫に悩まされることはありません。奥多摩なんかは虫除けがないと地獄を見ます。だから私はこの時期からは高い山しか登らなくなります。6月半ばを過ぎれば八ヶ岳以南のアルプスクラスの山の雪も稜線上はだいたい融けて無くなり、標高の高い東斜面や沢筋くらいしか残っていないのでほとんど夏山気分で歩けます。ただ、稜線直下の東斜面や沢筋をトラバースするようなコースではまだ残雪が予想されますので、ピッケル、アイゼンが必要か、夏道ではなく冬ルートとして使われる稜線を歩きます。この時期は西向きや南向きの尾根から往復できるルートが一番安心できます。梅雨の晴れ間ならそれこそ夏山、人も少ないし寒くもないし、アルプスクラスの山では穴場の時期です。

 

盛夏(7月後半〜8月中旬)

 梅雨明けしたら夏山シーズン開幕。標高の低い山はクソ暑くて熱中症になってしまいそうなので、2500m以上の山を狙っています。2000m以下の山では大汗をかかされるのでこの時期は早朝を除いて避けた方がいいでしょう。アルプスクラスの山が一番混雑する時期で、週末の山小屋に泊まると地獄をみます。平日に登るかテント泊が無難です。ここまで登ると日中でも涼しく暑さで寝られないなんてことはありません(小屋泊まりはそうでもないらしいが)。

 

夏の終わり(8月下旬から9月中旬)

 盛夏よりも若干気温が下がりますが、まだまだ暑くて夏山シーズン継続です。でもお盆を過ぎるとアルプスクラスの人出はガクっと減って静かになるそうなので、小屋泊まりを考えている人はこの時期が狙い目です。ただし、場所によっては9月に入ると営業を止める小屋もあるので要注意。日の出の時刻は徐々に遅くなり、日没の時刻は早くなりますが、一般の人の行動時間に影響するほどではありません。日中の気温は夏場と変わりませんが朝夕冷え込むようになります。9月中旬にもなると標高2500m以上では紅葉が始まります。

 

秋(9月下旬〜11月)

 この時期こそほとんどの山で快適に登れるハイキングシーズンです。虫はほとんどいなくなり刺される心配は無し、空気の透明度が高い秋晴れで展望が楽しめます。中低山は一般ハイカーで賑わい、紅葉も楽しめます。


 アルプスクラスの山では9月下旬には初雪が降るところが多く、10月中旬以降は急速に冬山の様相になり、紅葉以降は限られた人しか登らなくなりますが、私は真夏よりこの季節の方がアルプスの山登りにはいいと思っています(好天の場合のみ)。登山口でも充分涼しく、夏と違って大汗をかくことがなく疲労度は大幅に軽減されるのが最高! また、午後の雷雨の心配が無く、暗くなるまで行動が可能ですし、雷雲が発生しないので日中にガスが上がってくることもなく1日中展望を楽しめるのも大きい。ただし、昼間の時間が短く行動時間が制限されること、朝晩はかなり冷えるので防寒装備が必要なこと、10月の体育の日の連休以後はほとんどの山小屋が営業を終了してしまうので寝具、食料持参の必要があるなどの欠点もあります。

 なお、9月い下旬から10月上旬はまだ下界では残暑もぶり返して夏から秋への移行時期ですが、北アルプスではいつ本格的な降雪が来てもおかしくない時期です。天気図を見て弱い冬型になりそうな場合は稜線では吹雪になることも珍しくなく、短時間でかなりの積雪になることがあります。2006年10月7日に、祖母谷温泉から白馬岳に向かった福岡・熊本の男女7人のパーティのうち、4人が死亡する遭難事故が起きました。私の記憶ではこの日はそのシーズン初めての冬型の気圧配置で、2つ玉低気圧が本州を抜けて発達したはずです。当初、テントを背負って後立山に行く予定でしたが、予想天気図を見て吹雪を予想して計画を中止しました。1989年10月8日には北アルプス立山三山を縦走中の中高年パーティ10人が悪天候で遭難し、吹雪の中で8人が凍死する遭難が発生しています。

 以上のように9月以降で冬型の気圧配置が予想されるときはアルプス級の山は吹雪と考えるべきで、冬山の経験、装備、覚悟がある人以外は入山すべきではありません。天候が良ければ日中はTシャツでも問題ない気温でも、天候が荒れると完全に冬山です。

冬(12月〜3月)

 高山地帯や日本海側は雪が積もり、寒くなるのでハイカーの姿は少なくなりますが、雪がほとんど降らない太平洋側の低山に最適なシーズンです。暑さで汗だくになることはないし、虫は皆無だし、落葉して日差しがあり視界も得られます。冬が最も空気が澄んで遠くの山が見えます。この時期こそ低山巡りを楽しんで下さい。山の規模が小さく時間がかからないので1日で何カ所も登れます。こうすることで冬場にトレーニングを積んで来年の夏山に備えることができます。また、小さな山だったら登山道が無くても割と楽に登れるし、ルートを間違えて変なところに下っても人家はあるし車からあまり遠い場所ではないので被害は少なく、道がない山を地図と磁石、GPSを頼りに独力で歩くいい訓練の場になります。こういう場所で読図技術を磨けば夏山なんか目をつぶっても歩けると感じるようになるでしょう。長い冬の期間は家でぬくぬくするのではなく日だまりの低山ハイクでトレーニングを積みましょう。

 

残雪期(3月下旬〜5月上旬)

 普通の人は雪がある山は歩きませんが、登山道が無く藪が酷い山は藪が雪で埋もれた時期を狙って登られることが多く、それが残雪期です。残雪期は春の始まりくらいからで、真冬と違って日中は積もった雪が溶け夜間固まるという繰り返しが生じ、真冬だったら足を踏み出せばズボっと潜ってしまう雪が堅く締まり、早朝の気温が低い時間帯ならまるでアスファルトの上を歩くように快適に歩けます。雪の上を歩くので夏だと高山植物を踏み荒らすことになって登れない山でも登れます。また、水場が無くても雪を溶かして水を得ることができますので、ロングコースなのに途中に水場がない場合は残雪期を考えるのも一つの手段です。登山道が無く藪が酷い山で雪が積もる山だったら残雪期に登られることが多いのです。残雪の山でも雪山には変わりありませんのでアイゼン、ピッケル、ワカン(かんじき)は必需品です。ただ、なだらかな山だったら比較的安全に登ることができ、場所を選べば初心者でも雪山気分を満喫できます。夏場だと周囲を木にや笹に囲まれて視界がない山でも積雪数mの残雪期なら絶景が楽しめます。 

 

 

2. 事前調査と計画立案

 必ず出発前に地図やガイドブックでコースを確認しましょう。登山ルートがいくつかある場合、山頂までの標高差や交通機関、途中の地形、道の整備の程度などを総合的に判断してルートを選択します。このためには地図は是非とも必要です。有名な山の場合は昭文社で発行のエアリアマップに載っていますので便利です。エアリアマップには登山ルート、コースタイム、水場等の情報が記載されていますので山登りには便利な存在です。今までの経験では、エアリアマップに赤点線で示されている道は立派な登山道であることがほとんどです。ごく希に笹に埋もれてほとんど藪だったりしますが例外です。

 今時の調査としてはインターネットが非常に有効です。紙の地図では出版された時点の情報が記載されているだけで、シーズン中に台風等で道が崩壊しても情報は書き込めませんが、インターネットでは最新の情報が得られます。有名な山域の山なら地元自治体等で登山情報を扱うホームページを開設しており、交通情報、小屋の営業状態、登山道の整備状況等の最新情報が得られます。検索サイトで山の名前等を入れて探すと様々なホームページが見つかり、林道ゲートの位置や林道の状態、登山口の位置、登山道の様子など役立つ情報が得られます。ホームページだと写真があるのでわかりやすく、地図よりも使えますので、ブロードバンド環境を整えていつでも調査できるようにしたいところです。地図に登山道が書かれていない山でも地元で登られていて道があったすることも多く、インターネットは必要不可欠です。なお、検索サイトはいろいろありますが、サイトによって検索方法が異なるため表示件数に差があります。今までの経験では検索サイト最大手のyahooは最も発見確率が低くて、有名な山なら問題ありませんが登山道がない山を調査するには使えません。こんな場合は googoogleがお薦め(2009年現在、yahooでもgoogleと遜色ない検索結果が得られます。ただし、yahooとgoogleでは結果が微妙に異なり、お互いに相手の検索では引っかからなかったサイトが出てきますので、片方だけをみるのではなくyahoo,googleの両方で検索することをお勧めします)。必要な情報が発見できなかった場合は、諦めずに別の検索サイトで探してみるのがいいです。逆に、ホームページを作る側は検索サイトでリスト上位に表示されるよう、検索サイトについて勉強する必要もありそうです。

 水場の有無も調べておきましょう。水って意外に重く、軽量化のためにできれば必要最小限にとどめたいところ。途中で水場があればそこで補給でき、担ぎ上げる水を相当節約できます。事前に水場の有無をチェックして少しでも荷物を軽くしましょう。ただ、季節によって涸れる場合もあるので要注意。やっぱインターネットの情報が有益です。エアリアマップには書いてない水場があったりします。

 

 最後に、地図やガイドブックのコピーは必ず持っていきましょう。使わなくて済む場合が多いと思いますが、山頂まであとどれくらい登らなければならないかとか正確に分かります(読図ができれば)。

 

 

3. 行動は早出早帰り

 これは鉄則です。早朝ヘッドライトをつけて歩くことはあっても夕方にヘッドライトをつけて歩くようなことはしてはいけません。道が分からないとか何かアクシデントが発生した場合、早朝なら1時間程度待てば周囲が明るくなって対処できますが、夕方では明るくなって周囲の様子が見えるようになるのは明日の朝で、それまで行動できない事態に陥りかねません。日の出30分前には周囲が明るくなりますので、この時間から行動を開始できるように計画を立てましょう。なお、それでもトラブルで下山が遅れて日没後になることもありますので、必ずヘッドランプを持参しましょう。

 早朝ほど空気の透明度が良くていい展望が得られること、夏の時期では早朝は涼しくて暑い日中に登るときより汗をかかずに済むことも大きなメリットです。それに時間に余裕ができてのんびり歩くことができます

 

4. 服装

 結構重要な項目で、服装の善し悪しは疲労に直結します。大事なことは動きやすいことと熱と汗の発散がいいこと! 特に重要なのは汗をかかない程度の涼しい格好であることです。発汗は疲労の大きな要因で、同じ山に登るのでも夏と冬では冬の方が防寒着等で荷物が重くなるのに楽に登れるのは寒さで汗をかかないからです。登りの時には体温が上昇して冬でも汗をかきますが、ここでいかに涼しい服装にするかで疲労が左右されます。

 大多数の登山者は夏でも長袖にズボンという格好ですが、もし私がこの格好で歩いたらたちまち汗だくになってしまうでしょう。たぶん当人も汗をかいているはずです。この格好だともしコケた場合に擦り傷等をしにくいというメリットはありますが、体力消耗のデメリットの方が大きいと思います。私は夏場は半ズボンにTシャツで、冬場はジャージのズボンにTシャツです。ジャージは化繊でできていて軽くて動きやすく、濡れても乾きやすくて濡れた感触もあまりありませんし、通気性も良くムレません。Tシャツは木綿ではなく化繊のものがお勧めです。ユニクロなどで販売されているTシャツでも化繊100%の製品がありますので活用を。ただし、登山用Tシャツと違って生地が薄く、風がある場合や汗をあまりかかないような涼しさの場合は保温性が悪くて寒いのが難点です。

 

 最初から涼しい格好では体が温まっていない歩き始めは寒いので、出発時は寒くない格好で歩き出し、暑さを感じたら汗をかく前にこまめに脱いでいくのが肝心です。冬場でも同じで、こまめに着ている物を調整して汗をかかないようにすれば疲労が軽減できます。夏場では風が吹くとTシャツだと腕が寒いけどシャツを着ると暑くて汗をかく場合もおおいですが、こんな場合は腕だけを覆うものがあると発汗を抑えながら体感温度を上げられます。事務屋さんが使う腕カバーがこれにピッタリで、これをつけるとTシャツが長袖に変身! 数年前から使っていますが大変便利です。どうせなら足もこのようなモノがあるといいのですがねぇ。スパッツだと太股まで覆わないので藪で傷だらけになってしまうし。

 人によって歩くスピードが異なり発熱量も違うと思いますが、理想的には歩いているときでも少し涼しく感じるくらいの服装が疲労が少ないです。特に登りでは体温上昇が多いので涼しい格好を心がけましょう。わざわざ周囲の人と同じような格好をして汗だくになっても自分が疲れるだけです。

 登りで適温の服装をすると、山頂で休憩しているときには寒くてしかたがないくらいの薄着になりますので、防寒用の服は必ず持っていって下さい。

 

5. 歩き方のコツ

 長年の経験で分かったことは1つだけ。それも誰でもできることですが非常に効果的です。それは「ゆっくり歩く」ことです。それに関連して3つの事項を挙げておきます。
・出だしは平地の半分くらいのスピードで意識してゆっくりと歩く。息があがるのはスピードの出し過ぎ。歩きながら他人と話が続けられる程度の呼吸の早さになるよう、歩く速さを調節すること!
・登りも下りも歩幅は意識して狭くする。平地と同じ歩幅で歩くととても疲れます。
・ゆっくりと長時間歩いて休憩回数を減らす。

 山は平地とは傾斜が違います。傾斜地で使う筋肉は大腿四頭筋といって膝上部、太股表側の筋肉で、下界での生活では大きなパワーを発揮する機会はほとんどない部分です。階段の上り下りと自転車に乗ることくらいしか使わないので山に入って急に負荷をかけるとすぐ疲労してしまいます。とにかく最初から最後までゆっくり歩くのが疲れないコツです。こんなペースで山頂に着けるのか?と心配になるくらいのペースでいいんです。慣れない人は出だしは元気で私が追いつけないような速さで歩く人が多いですが、すぐに失速して私が追い越す羽目になります。素人が多い富士山登山ではこういう人を嫌と言うほど見ました。はじめは意識してゆっくりと歩いて下さい。登っているときも、平地でジョギングするときのような激しい呼吸では完全にオーバーペースです。ハーハーと息があがる手前で済むよう歩くペースを調整して下さい。

 ネットで色々調べていたら登山における疲労について参考になる記事がありました。これによるとある心拍数以下の運動であれば(有酸素運動の領域)乳酸が溜まらず長時間運動が継続できるとのことで、逆に一度心拍数が上がって無酸素運動となり乳酸が溜まると回復せずに休憩を取っても疲労感がとれないそうです(これは別の記事だったかも)。よって一度でも心拍数を上げすぎると疲労に襲われてしまうので、限度を超えないような運動量に制限するのがいいようです。心拍数∝必要な酸素量∝呼吸量なので、呼吸が過度では心拍数も過度です。やっぱのんびり歩くのは正解なんです。

 実際に歩きながら心拍数を把握するのは面倒なのですが、有酸素運動の範囲かどうかを判定するもっと簡単な方法があります。それは呼吸の早さで、歩きながら他人と話が続けられる程度の呼吸の早さが有酸素運動の範囲の上限です。これはかなり楽な呼吸の早さで、こんなので大丈夫なのか?と思えるような歩くペースかもしれませんが、それ以上の運動量では無酸素運動の領域に入り、筋肉に乳酸が溜まって疲労し、筋肉が動かなくなってしまいます。私が山に入って登っていると、明らかにこの範囲の呼吸を越えて歩いている人が結構います。特に中高年ではかなりの割合で、単独行や2人程度の少人数パーティーが多いです。この点、歩きながらも賑やかなオバサンパーティーはしゃべりながら登っている=しゃべれる程度の呼吸量になるペースで登っているわけで、意外に理想的なペースのようです。

 有酸素運動範囲の歩くペースは実際にやってみると予想外に遅いかもしれませんが、そんなペースでも長期間続けていると徐々に限界のペースが上がってきます。まあ、実際はペースが上がると言うより疲労度が低下すると言う形で体感できると思いますが。今までと同じ疲労度で歩くとペースが上がっているわけです。歩くペースを速める目的で無酸素運動領域で速く歩くよりも、有酸素運動領域ギリギリのところで長期間トレーニングする方が結果的にはスピードが得られます。プロのマラソンランナーのトレーニングでも、全体の8〜9割はペースを落としての有酸素運動領域ギリギリでの練習で、限界速度での練習は1,2割だそうです。

 それと大股で歩いてはいけません。今までの経験では大股で歩数を減らすような「スライド歩法」よりも歩数は増えますが歩幅を減らすような「ピッチ歩法」の方が疲労を大幅に軽減できます。登り下りでは歩幅を平地の半分程度にしてみて下さい。平地で歩くのと同じ歩幅で歩くより楽なのが実感できるでしょう。足にかかる衝撃も歩幅が狭い方が少なくできます。

 ゆっくり歩いて疲労が軽減されれば休む回数や間隔を減らすことができます。山屋さんでは1時間歩いて10分の休憩が標準といわれていますが、私はもっと休憩間隔を延ばしてもいいと思います。というのも、人間の体は脈拍数の大きな変動でも疲労を感じるからです。例えば標高差の合計が1000mの山があったとします。片方は登り一辺倒の独立峰、片方はいくつもピークがあって次々とそれらを超えていくルートとします。このような場合はアップダウンがあって登山口から山頂までの標高差が足で登る標高差ではないので、往復で登らなければならない高さの合計を1000mとします。物理的にはどちらを登るにも同じエネルギーで済むはずですが、実際に歩いてみるとアップダウンがあるコースの方がずっと疲れます。これは上り坂では心拍数が上がり、下り坂では心拍数が下がってと心拍数の変化が激しいのが一つの要因です。登り一辺倒の山では心拍数が上がりっぱなしですがそこそこの心拍数だったら(だから心拍数が上がりすぎないようゆっくり歩く)長時間続いても大丈夫です。途中で休憩すると心拍数が下がり、歩き出すと心拍数が上がるので、何度も休憩を繰り返す歩き方は非常に疲れます。総合所要時間は歩いている時間と休憩時間の合計なので、ゆっくり歩いて歩きに時間がかかっても疲れなくて休憩時間を減らせれば所要時間は変わりません。すぐに疲れるような歩き方をするのではなく、1時間くらいは連続して歩けるペースに落として下さい。そして体が慣れてきたら徐々に歩く時間を長くして休みを少なくしていきましょう。ゆっくり歩いていれば1時間なんて言わずに2時間くらいはずっと歩いていられます。私の場合は荷物にもよりますが日帰りで行ける山(コースタイムで登りが4時間以内の山)ならばほとんどのところでは休みが要りません。ず〜っと歩きっぱなしです。これならゆっくり歩いていても休みも含めた総合の時間はかなり短縮できます。

 

 今さら言っても実行困難な人が多いと思いますが、楽に山登りするには体重を落とすのが一番です。背負う荷物が減るのと同じ効果がありますので、どれだけ楽に登れるようになるか分かるでしょう。5kg程度落とせば日帰り装備くらいに相当しますので空身で登るのと同じ、こりゃすげ〜や。下りでの膝への負担も軽くできます。生活習慣を見直して体脂肪を落として下さい。私はダイエットの知識はないのでどんな風にすれば理想的に痩せられるのか知りませんが、肥満の根本原因は消費するカロリーに比べて摂取するカロリーが多いことです。取るのを減らすか消費を増やすかのどちらかが必要です。山登りはかなりのカロリーを消費しますので、毎週登山をしていれば少しは減るのではないでしょうか。

 

 

6. ガイドブックの「コースタイム」に注意

 ほとんどの人は登山地図やガイドブックのコースタイムを見て所要時間を推定していると思いますが、大半の人が気づかない大きな落とし穴があります。コースタイムは単なる所要時間であり、体力の消耗度合いとは差があるのです。コースタイムが同じ8時間のコースだったらどこを歩いても同じ疲れ方ではありません。地形によって疲労度(というか必要なエネルギー)は変わってきます。盲目的にコースタイムの合計で歩くコースを決めるようではバテて山頂まで行けなかった!なんてことが起こる可能性があります。

 例えば同じ1時間でもなだらかな尾根を歩くのと急な登りを歩くのでは消耗する体力は明らかな差があります。一番体力を使うのが登りで、コース中にどれくらい登りがあるのか(累積標高差)が疲労度を推測するのに最も重要です。コースタイムの合計なんて疲労度のあてにはなりません。コースタイムを気にする以前に、累積標高差の計算をすべきです。累積標高差とは行き/帰りのどちらかで登らなければならない標高差の合計で、登り一辺倒の単純なコースだったら登山口と山頂の標高の差ですが、山脈を縦走するときのようにいくつも山を越えて歩く場合は、一つ一つの山の標高差を加算します。今はコンピュータでそのような計算が簡単にできる時代になりましたので、そのようなソフトウェアを買うのが手っ取り早いです。一番使われているのはカシミールというフリーソフトです。

 累積標高差の大小が労力の大小に直結しますので、コースタイムが短いといっても標高差があるコース(傾斜が急な山)は疲れますし、コースタイムが長くてもアップダウンが少ないコースは楽々歩けます。個人の体力差により1日にどのくらいの累積標高差に耐えられるかに差はありますが、標準的な日帰り山行を行う人ならば800mから1000mくらいでしょう。1000mを越えるとかなり苦しくなってくると思います。ただ、前述したように同じ標高差でもアップダウンがある場合はより体力を消耗しますのでご注意を。

 何度か山に行かないと自分の体力限界は把握できないと思いますので、出かける前に累積標高差を計算し、帰ってきたらどれくらいきつかったか記録しておきましょう。回数が増えれば限度が把握できるでしょう。一度把握してしまえば、累積標高差がそれ以下のコースであればバテバテにならず日帰りできることが分かるので安心できます。林道歩きがよほど長いコース以外は、コースタイムの合計が何時間になろうと大丈夫です。それに標高差からどれくらい疲れそうか予測できます。

 ちなみに1日で1500mまで登れたら大したものです。標高差1500mと言えばアルプスクラスの山の登山口から最初の山小屋までの標高差(主稜線までの標高差と言っていい)に相当し、一般の人が1泊2日で登る山です。それを日帰りできる人ですから健脚の中でも上の部類といえそうです。でも上には上がいて2000mでも歩ける人も存在します。このクラスになると黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳、椹島から赤石岳や荒川岳、早月尾根から剣岳を日帰りできる脚力です。ここまでできるのは私の周囲でも2人くらいかなぁ。でもそのうちの1人はもっと驚異的で3000mの累積標高差を歩いてしまった人です。さすがにこれくらいの標高差になると所要時間は12時間を超えてしまうので日帰りといえるかどうか微妙になりますが、1日半寝ないで歩く「怪人」です。私も1度だけ累積標高差3000mの体験をしました。南ア南部、新倉の田代発電所から転付峠経由で二軒小屋に入り徳右衛門岳を往復、そのまま田代発電所まで戻りました。出発は日の出前の真っ暗な時間で、帰ってきたらやはり真っ暗になっていました。合計15時間くらいかかったと思います。こんな無謀なことができるのもタダ単に体力があるというだけではなく、この先どれほどの標高差を登らなければならないか=どれくらい体力が必要かを理解しているからで、累積標高差がどれくらいだったらまだ歩けるなと判断できるくらい、毎回の山行で標高差を気にして歩いているからです。

 というわけですので、出かける前に必ず累積標高差を把握しましょう。これでその時行く山のきつさが把握できます。何度も繰り返しますが、コースタイムでは山のきつさは分かりません! 昭文社さん、エアリアマップにコースタイムの隣にその区間の累積の登り/下りの標高差も書き込んでくれるといいのになぁ。絶対にそっちの方がコースタイムより使える情報だと思うのですが。

 

 

7. 疲れたらアタックに変更

 歩き続けたのだけれど疲れて山頂まで行けそうにないときがありますが、こんな時はザックの中に小さなサブザックを忍ばせておき、必要最小限のものだけ入れて空身に近い格好に身軽になって山頂を往復するとどうにか山頂まで到達できる場合もあります。このようにメインザックをデポして山頂を往復することを「アタック」と呼んでいます。メインザックには非常用装備等があるのでアタック中に何かあるとヤバイので、あまり長距離のアタックはやらないのが普通で、例えば途中の小屋に荷物を置いてアタックというのが多いパターンです。自分の体重と比較すれば背負った荷物の重さなど大したことはないのですが、空身になるととっても楽に感じます。山頂でのんびりできなくなるデメリットはありますが、山頂まできついなぁと感じたときには有効な方法です。

 

 

8. 所要時間の見積もり方

 何度も山に行って経験を積むと、地図を見て道のりや標高差から大体の所要時間が掴めるようになります。林道歩きのような水平距離が長い場合を除いてほとんどの場合の決め手は累積標高差で、一般的には1時間で標高差300mくらいのペースです。ですから標高差1000mを登るには3時間強かかるわけです。登山道の傾斜が極端に緩くない限りは傾斜に無関係で、1000mならどう登っても3時間強かかります。ただし、これは道がまともな場合で、藪だとか雪道、岩場ではもっとかかります。初心者だともう少しかかるかも? 下りは膝を支える筋力によりスピードが大幅に変わるので登りより個人差が大きいと思われますが、だいたい登りの時間の2/3〜3/4程度ではないでしょうか。登りの半分の時間で下れたとしたらそりゃもうカモシカ並みです。

 所要時間も体力限界同様に何度も経験を積んで、毎回標高差を気にしながら歩いていないとわかりません。自分のスピードを把握すればガイドブックのコースタイムなんか無視して所要時間を推定できます。ずっとその方が正確ですよ。

 

 

9. 足が慣れるまでは下りに注意

 今までの話では登りの標高差にだけ注目してきましたが、これはある程度山の経験を積んで脚力が付いた人に当てはまる話で、まだ山の足ができていない初心者では下りにこそ注意が必要です。健脚の人間でも半年も山登りをしなければ山登りで使う部分の筋肉は普通の人と同じレベルまで落ちてしまい、久しぶりに山に入ると地獄を見ます。特に悲惨なのが登りではなく下りです。下りは大腿四頭筋だけを集中的に使うのですが、山に行かないとここの筋肉が真っ先に弱ってくるので登りはそこそこ行けても下りがダメになります。3週間のブランクでも下りの筋力低下は自覚できるほどです。下りで筋力を使い果たすといわゆる「膝が笑う」状態になって体重を支えきれなくなり歩けなくなり、休憩を取ってもあまり回復しません。おそらく初心者は登りより下りの膝が笑うことで苦しめられるでしょう。これを抑止するにはステッキの使用が有効で、足だけでなく腕でも体重を支えてやることで膝の負担を軽減します。下りで片足が上がった状態をもう片方の足だけで支えるのを緩和するのと、下りで着地した瞬間の体重移動で下ろした足に全体重が乗るのを分散する働きがあります。そのかわり腕の方が疲れて筋肉痛になりますが、膝が笑って動けなくなるよりはずっと程度が軽いので我慢して下さい。

 

 膝の筋力は日常生活では階段の上り下りを除いてほとんど鍛えられません。ある冬の半年間、山には全く行きませんでしたが往復約9kmの通勤を毎日歩いていて、自信を持って半年のブランクで山に入りましたが見事に膝が笑って下山困難になりました。半年間ほぼ毎日でもこれですからウォーキングでは膝の筋肉は鍛えられないのは確実です。経験的には自転車がいいようです。というのも林道等で自転車を利用して登山口までアプローチして歩き始めるともの凄く足が疲れるので、山歩きで使う筋肉と自転車漕ぎで使う筋肉は同じらしいのです。それ以来、徒歩通勤は止めて自転車通勤が続いています。

 

 

10. 雨の備え


 雨の日は山登りはしたくないのが人情ですが、山に入ってしまった後に降られることもあって雨の中を歩かなければならないこともあるでしょう。山の場合、一般的には雨の時はゴアテックスの雨具が使われています。これがなかなか性能が良く、ゴム引きの雨合羽とは比較にならないほど蒸れにくいのは事実ですが、全く蒸れないわけではありません。ゴアを着て登ると自分の汗で衣服が濡れます。小雨の場合、雨で濡れるのとあんまり変わらないような(^_^;) それに汗をかくと言うことは疲労するということで、寒いとき以外はあまり着たいとは思いません。

 

 そこで登場するのが傘です。山で傘をさしている人は皆無と言っていいですが、傘こそ雨具の大本命です。なんといっても傘なら蒸れることはないので快適、ザックの背中や肩紐も濡れません。それに休憩するときでも傘なら体に雨はかかりませんから飯を食うのも快適です。ゴアだと体は雨から守られますが飯は雨が降りかかりますので、木の下など雨が落ちてこない場所を探さなければなりません。私はほとんどの場合、傘をさして雨をしのぎます。ただし、傘は万能ではありません。風が吹いていればアウト、藪があればアウト、強い雨だと身動きができません。ですから状況によって傘とゴアを使い分けています。傘の場合、傘から離れた足下は雨に濡れやすいのでロングスパッツで靴下が濡れないようにしています。 

 

 いくら傘を使って蒸れないようにしたとしても、濡れた枝が張りだしていたり横風で衣服が濡れるのを100%防ぐことはできず、雨の日は大なり小なり濡れてしまいます。ゴアを着ていても自分の発汗で濡れてしまいます。ですから雨の日は着替えの所持が必須です、といっても日帰りで山頂に小屋がない場合は着替えることもできませんが。ですから濡れても寒さをあまり感じなくて済む化繊の衣類を最初から着ていくことをお薦めします。木綿の衣類の場合、乾燥しているときは快適ですが濡れると冷たく感じて体温を奪われますので雨の日は避けるべきです。小屋泊まりやテント泊まりの場合は濡れた衣服のままでは快適に寝ることはできないので着替えるが必要です。また、濡れた体を拭いたり濡れたザック等を拭くのにタオルがあると便利です。汚れることもあるので濃い色に染められたタオルの方がいいでしょう。

 

 

11. 暑さ対策


 一番いいのは、暑いときは高い山しか登らないこと! 高い山は登山口の標高も高く、出だしからそこそこ涼しいです。もちろんてっぺんはずっと涼しい。でも、夏の盛りは3000mの稜線でも暑かったりしますが。そこで登場するのが雨の日に活躍する傘。森林限界で日陰がない登山道でも傘をさして日差しを遮ると涼しく、日焼け防止の効果もあって大変使える道具です。

 

 うちわもなかなかいいです。これは風がない樹林帯とかで効果てきめん。ただ、紙でできているうちわは濃いガスで濡れるとボロボロになってしまうので素材に注意。

 

 最後に濡れタオル。暑さ対策には乾いたタオルではなく水で湿らせたタオルが効果的。あの冷たさがいいんです。汗をかいた顔や首、腕を濡れタオルでぬぐうと爽快です。これを覚えてからは夏山には欠かせないものになりました。水場では水を飲むよりタオルを濡らす方が主目的になってたりします。

 

 

12. 山歩きに役立つ道具


 無くてもいいのですがあると便利な物をいくつか紹介します。

 

(1) 腕時計兼用の高度計(気圧計)

 こいつは地図等で標高が分かっている場所で標高表示を校正すると気圧から高度を教えてくれる機械です。山頂までの標高差が分かるので労力と所要時間が推測できます。また標高が分かるので読図の手助けになります。ただし、±50mくらいの誤差は付き物なのであまり正確な高度は期待しないで下さい。でもあるのと無いのでは雲泥の差です。

 

(2) ハンディーGPS

 10年前には一般的でなかった製品ですが、数年前からマニア?の間では広がっています。いったいどんなことができるのか詳細はこのHP内にも書いてありますので参照して下さい。一番使える機能は山頂までの方向と直線距離が分かることで、樹林でGPS衛星の電波が遮られない限りはガスっていようが藪で山頂が見えなくてもGPSを見れば山頂までの距離が分かるのは便利です。藪山でこそ本当の力を発揮しますが、登山道がある山でも具体的にあと何mと距離がわかりますし、歩けばその距離が減っていくので精神的に負担が軽くなります。あとどれくらい歩けばいいのか分からないと精神的に疲れますから。価格は腕時計兼用の高度計よりもお安くなっています。時代の進歩は凄いもんだ。

 なお、2009年現在、ハンディーGPSの進歩は急激で、感度は大幅に向上していますし、2.5万図と同じくらいの解像度で登山道まで書かれた地図表示が可能となりました。ちょっと値段か高くなりますが、今後は地図表示可能な機種を購入した方がいいでしょう。画面が小さいので一度に表示される地図の範囲が狭いのが難点ですが、カーナビのように地図上に現在位置が表示されるので一般登山者でも使い勝手がいいです、たぶん(自分で使ったことがないので・・・)

 

(3) デジカメ

 今や山でシャッターを押すのを頼まれるときにデジカメを渡される方が多く(というかここ1,2年はフィルムカメラを見たことがない)、広く使われています。メモリが許す限りたくさんの枚数を撮影できるので無駄写真が撮影できるのが最大の強みです。案内看板があったらとりあえず撮影し、書いてあることは後で確認することもできるし、分岐等ポイントになる場所で撮影しておけば、家に帰って写真のタイムスタンプを見ればいつどこに到着したのかメモ代わりになります(これが便利)。今やデジカメはたくさんの機種があってどれにしようか悩むところですが、山で使えるデジカメの条件は以下のようなものでしょう。

・できるだけ軽くて小さいこと(基本中の基本)
・電池の持ち時間が長いこと

・単3ニッケル水素電池が使えること(ヘッドライト等他の電気製品と予備電池が共有できる)←今時のデジカメでは内蔵電池で数100枚撮影可能で電池交換の必要なし
・光学3倍以上のズームがあること(遠くの山や動物を撮影するには光学ズームは必須)。倍率は高いほどよい。6倍だと肉眼では小さすぎて見えない山もはっきりと撮影可能。

・マクロ撮影ができること(高山植物の撮影に必要)

 ま、ほとんどのデジカメはこの条件を満たすと思いますので参考にならないか(^_^;) 画素数は多いほどいいですが、個人的には光学ズームさえあれば100万画素で充分です。大きな紙に印刷すると差が出るでしょうけど、パソコンの画面で見るだけなら問題ありません。私が使っているのは400万画素で、圧縮率を通常にして128MBのメモリで約80枚撮影が可能です。80枚というのはけっこうな量で、日帰りで使い切ることはまずありません。日常的にパソコンを使っている人なら一度デジカメを使い出したら2度とフィルムカメラには戻れないでしょう。写真整理がとっても楽です。収納場所も必要ありませんし、ホームページに使うのに毎回スキャナでとらなくてもいいし。

 なお、今使っているデジカメは3年くらい前のモデルで700万画素、光学6倍ズーム、手ぶれ補正機能付きで、圧縮率最低で2GBのメモリカードで約600枚が撮影可能です。この枚数になると天候に恵まれて風景を撮影しまくっても3泊4日でメモリを使いきったことはありません。

 

(4) ICレコーダ(録音機)

 皆さんは行動中にメモを取っているでしょうか。私の場合、後日記録をまとめる上で所要時間等が必要なためいつもメモを取っていましたが、雨が降っているときや歩きながらメモ書きするのは困難で、デジカメのようにパソコンに転送して管理もできないので不便でした。そこで導入したのがICレコーダです。昔ならテープレコーダですが、今や半導体メモリにデジタルデータで録音するICレコーダが主流です。デジカメより小さく、単4電池2個で動く製品が多いようで小型軽量、邪魔になりません。話し声を録音するので歩きながらでも可能で、メモを取るときに立ち止まっていた時間が無駄になりません。また、雨が降っていても滴がかかるくらいなら壊れないので(でも防水ではないのであまり濡らさない方がいいけど)紙メモより気を遣わなくて済みます。機種にもよりますがパソコンに録音したデータを転送できる機能もあり、デジカメ並みにデータ管理が簡単にできます。これも一度使うと手放せません。

 

 この分野の進歩も早く、2004年9月時点ではICレコーダを購入するよりもMP3プレーヤを購入する方がお得になってきました。MP3プレーヤとはCD等の音楽をパソコンでファイルに加工し、パソコンでプレーヤのメモリに転送してウォークマンのように携帯して音楽を聴く製品です。あくまで音楽を聴くのが主目的ですが、マイクを内蔵して録音ができる機種もあり、録音したデータをパソコンに転送できます。今となってはMP3プレーヤもICレコーダも価格はほぼ同等で、大きさはMP3プレーヤの方がモノによっては小さいですし、機能はMP3プレーヤの方が上なのでこれから購入するならMP3プレーヤがお薦めです。メモ代わりの録音なら音質はどうでもいいですし、録音時間も短いのでメモリは128MBでも有り余るくらいなので、MP3プレーヤの中でも一番メモリが少ない機種で充分間に合います。ハードディスク内蔵の製品では過剰スペックです。

 

 ただ、機種選定の上で見落としがちな注意点を。必ずストレージクラス対応の機種を選びましょう。ストレージクラス対応とはエクスプローラで見るとリムーバブルディスクとして認識される機器のことで、ファイル転送はエクスプローラのコピーや移動で行えます。ようは普通のファイルと同く扱うことができ、ファイルのタイムスタンプが保たれるので録音された時間がわかります。しかしストレージクラスに対応していない機種の場合、専用アプリケーションでしかファイル転送ができず、しかもパソコン上にできたファイルのタイムスタンプは転送を行った日付と時刻になってしまい、いつ録音したかは分からなくなってしまいます。

 

 と考えてRio SU10 128MBを買ってみたのですが、MP3プレーヤとしては申し分なかったのですがICレコーダとしては非常に使いにくかったです。ICレコーダはボタン一つで録音を開始できますが、SU10ではメニューに潜らないと録音できません。これは山で頻繁に録音を行う私にとっては致命的な使い勝手の悪さで、山では使えないと言い切ってもいいくらいの操作性の悪さです。MP3プレーヤはあくまでもプレーヤがメインの機能で録音はただできればいいという考え方のようです(しょうがないけど)。また、内部に時計をもっておらず、録音した時刻のタイムスタンプがつきません! これにもがっかりでした。単4ニッケル水素電池で12時間くらいはプレーヤとして動きましたし、小型軽量で山に持っていっても邪魔にならずに便利になると思っていたのですが。他の機種ではどうなのか分かりませんが、おそらく録音開始がワンボタンでできる機種があるかどうかが使えるかどうかの分かれ目だと思います。今のところ、音声メモに使うにはICレコーダの方が無難なようです。価格は高いですがストレージクラス対応、MP3対応の機種を購入した方が後日のことを考えると利口でしょう。

 

 

 以上、まとまりの無い文章になってしまいましたが、少しは役に立つ情報を提供できたと思います。とにもかくにも山歩きで重要なのはゆっくり歩くことです。それだけは忘れないで下さい。周囲の人に追い抜かれても気にせず、バテない山歩きを楽しんで下さい。

 

 

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