南ア深南部 不動岳 2000年7月1日

 

 

 不動岳は南ア深南部の核心部にあっても入山者は少なく、ヲタク向きの憧れの山と言えるだろうか。郡界尾根から外れているし、深南部では最も良く登られるであろう1等三角点の黒法師岳から離れた場所にあり、ついでに登られるような山でもない。戸中林道ゲートを出発すると鹿ノ平で幕営、翌日往復が一般的らしいが、黒法師岳+丸盆岳でも正月に行って明るい内に余裕で帰ってこられたし、標高差から考えても日帰りは十分可能と判断した。

 登山口の水窪ダム奥の戸中林道のゲートまでいつ走っても遠い。東京から約350km、南アの各登山口の中でもとりわけ遠い所だ。この距離を全部高速道路で走るなら大したことはないが、水窪は浜松から国道152号線を遙かに北上する必要があり、一般道+林道だけでも2時間近くかかるのが難点だ。多摩から行く場合、中央道の飯田から南下する手段もあるが同じくらいかかるだろう。言葉は悪いが”陸の孤島”だ。佐久間町でさえ遠いなぁと思うのにもっと奥で、静岡県民ならどれくらい時間的に遠いかはよ〜くわかるだろう。遠山郷が秘境と呼ばれて当然だ。

 それでも真夜中のウネウネ曲がった152号線で、前を走行するジモティーの車を追い越す走りで(^_^;)東京から約5時間で到着。林道は梅雨で所々落石があったり崩壊を補修した箇所も見られたがゲートまでは問題なしで入れて一安心。ここで酒を飲んで仮眠。予報では明日は東京で曇り、名古屋で曇り時々雨だが、上空は満天の星空で明日の天気も期待できそうだ。もう7月で下界は熱帯夜で暑かったが、標高650mの登山口ではそこそこ涼しくて助かった。当時住んでいたアパートにはクーラーが無く、クソ暑い東京の夏を扇風機だけで過ごしていたから天然クーラーは何よりの贅沢だった。

 朝はAM4:00に起床。曇っていてまだ薄暗かったが、上空には雲の切れ間が見えており、どうやら雨の心配はなさそうで、朝飯を食って出発。今日の行程は累積標高差が1700mもあるために荷物はできる限り減らすことにし、防寒着は持っていかないことにした。とは言っても2週間前の大無間山日帰りよりも標高差は300mは少ないが。

 

不動岳登山口(2000年7月)

 最初は7kmの林道歩きで、正月に歩いたときも普通車で問題ないくらいいい道だったが、今回もやっぱりいい道だったので、頻繁に車が出入りして整備しているらしい。標高が高く下界より気温はマシでも歩き出しは標高が低くて暑く、林道歩きだけで汗びっしょりになる。鹿を見かけたりしながら正月に登った黒法師岳への分岐点を通過、さらに林道を歩いて出発から2時間で案内標識が現れ、登山道に入る。

 最初の部分はトゲを持った植物が張り出し、暑くてしかたないからショートパンツで登っていましたが、足が棘でひっかき傷だらけに。そこに汗がしみること! これにはまいった! 「危険地帯」を抜けると樹林帯の登り。時折笹も出現するものの道がはっきりしているので迷う心配は皆無。それよりも時期が時期なので蜘蛛の巣が鬱陶しい。登る人が少ないから蜘蛛の巣が多く、枝で払いながら進んだ。

 私の場合、ほとんどの日帰り山行では途中で休みは入れずに目的地までノンストップだがど、この日はどうにも疲労の色が濃く足が重いので、標高差1000mを登った所で15分ほど休憩した。樹林の日陰で適度に風も抜けて快適、汗もすっかり引いて気持ちよかった。普通、休憩すると体が冷えて出発時とても足が重く感じるが、今回は休憩前と比べて楽になったのにはビックリ。休憩で体力がこんなにも回復した経験は初めてだった。いつもなら多少休んでも大差ないのだが(だから休みなしで歩いている)。それだけ体調が良くない証拠なのか。

 

鎌薙ノ頭直下

 やっと上空が開けてきて稜線に達した気配で、少し登ると稜線らしき左右の分岐に出たのだが、途中から雲の中に入って周囲の景色が見えないので、本当に稜線上なのか確信が持てない。高度計を見ると稜線に出たはずだが、だとしたら道はここで左に折れることになるが、不動岳や鎌薙を示す標識は無い。念のために右にしばらく行って道は南に向かっていることを確認し、左の道に戻って進行方向は北北東であることを確認したので間違いなさそうだ。はっきりした尾根をグっと下ると目印も現れた。

 ここから先は少々道が薄くなり、人間の道なのか鹿の道なのか判別が付かないが、尾根を外さなければ問題ないのでそれらの道をつなぎながら歩いた。鹿ノ平というだだっ広いピーク直前では笹で道が不明なので適当に歩くしかない。やがて笹を抜けて草付きの広場。ここが鹿ノ平の幕営適地らいい。名前通りに鹿が多く、低い笹原の中を6頭が逃げていった。林道では3頭を見かけたし、南ア深南部の鹿の多さが分かる(奥日光より少ないか?)。でも、今回は鹿の角は見つからなかった。

 

鹿ノ平 鹿が何頭もいた

 鹿ノ平はだだっ広い地形なので、踏跡皆無になると進路に困る場所だ。鹿道はあっちこっちにあるし、標識はないし、正しいルートがどこにあるのかがさっぱり分からない。最初は草地のどん詰まりまで行って左の尾根に登ろうとしたが笹が濃くてダメ。少しずつ戻りながら尾根への取り付き点を探したがどこも笹が深く、結局は草付きの一番はじめのところから左のガレの縁に沿って鹿道を歩き、最高地点から尾根に乗っかるのが正解らしい。笹をかき分けて進んでいると目印が出てきてほっとした。ここからしばらくは道がはっきりせず、尾根の上を外さないように笹の海を泳ぐように歩いていると、徐々に踏跡がはっきりしてくる。

 

樹林、笹藪が切れた不動岳山頂

 最後に緩やかに登り、笹のない小さな高まりが不動岳山頂だった。ゲートから5時間弱。真ん中に三角点、北側には千頭山の会の立派な山頂標識があった。周囲には木もなく見晴らしが良いはずだがガスがかかって見えないのが残念だ。時々ガスが晴れるが周囲の山も同じように雲に隠れて見えない。さすが2200m近い高さでは涼しい天然クーラーで、お昼寝したくなる気持ちよさだった。どうせ誰も来ないだろうと山頂標識を動員してアンテナを張って無線を楽み、山頂では2時間も遊んでしまった。

 帰りは行きと同じ道なのでお気楽だ。登りでは3時間かかった山道は2時間、同じく登りでは2時間かかった林道は1時間で下った。途中、誰か登ってくる人がいるかなぁとちょっとだけ期待したがハズレ、誰も来なかった。

 

 

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