奥秩父 鶏冠山  2003年8月31日

 

 鶏冠山(トサカヤマ)は甲武信岳南部にあり、木賊山から南に走る鶏冠尾根の途中にある。地図には道の記載はないが、以前甲武信岳に登ったときに鶏冠尾根通行禁止の看板があったくらいなので踏跡くらいはあるようだ。また、武内さんの記録によれば鶏冠尾根には踏跡があるとの記述がある。ただし、インターネットの調査ではザイルが必要な岩場があると書かれたものがあるし、山梨100名山HPでも最高難度の山とされ、岩登りの技術が必要と書かれていた。武内さんの記事ではザイルなしで登っているが、怪人と凡人を同等に見てはいけない。結局、私の実力で登れるかどうか判断できなかった。そこで安全策をとって労力はかかるが木賊山から往復することにした。

 週末の天気予報は良くなく、土曜日は秋葉で買い物をしていたが思ったよりも天気が持っているので日曜日に日帰りできるところを探し、鶏冠山が適当と判断した。だた、日曜日の方が天気が崩れるとの予報が気になったが、大半は立派な道を歩けばいいから傘で対抗できるだろう。勝沼ICで降りて雁坂トンネルを目指し、西沢渓谷の看板で左折、すぐに左に降りる舗装道があり「無料大駐車場」との看板があるがとりあえず先に進むと、すぐに進入禁止の看板が現れたので駐車場に車を入れた。1台も止まっていない寂しい状態で、甲武信岳への縦走に入っている人はいないようだった。

 翌日、まだ暗いうちに起きて朝飯を食い薄暗い時間に出発だ。今回は標高が低いので寒くはないから防寒具は省略、アンテナもワイアーDPのみとしコンパクトにまとめてアタックザックに詰め込んだ。これなら藪漕ぎも楽だろうし、なんと言っても荷物が軽いから楽だ。雨が降っているので最初から傘のお世話になった。

 進入禁止看板のすぐ先で施錠されたゲート出現、無料駐車場から歩いて正解だ。あとは甲武信岳登山口まで林道を歩く。何年も前にテントを担いで歩いているはずだが今となっては記憶がない。登山口には立派な標識が立っているので見落とすことはなく、傘をさしたまま登山道に入った。初めの方は緩やかな傾斜が続きなかなか標高が上がらない。花崗岩の白い砂が多い。場所によっては濡れた笹がはみ出して、傘で笹を避けながら歩いた。思い出したように森林鉄道のレールが顔を出す。昔はこんな山の中をミニSLが走っていたのだろうか。かなりな斜面のところもあって、よほど機関車は小さかったのだろう。レールも細かった。路床が崩落してレールが空中に浮いている箇所もあった。沢では顔を洗う。

 砂防ダムがある沢を渡ると、ようやく尾根に乗り本格的な登りが始まった。時々石楠花が姿を現すようになる。高度が上がるとシラビソ樹林に変わり、傘でも問題なく歩けるようになる。甲武信小屋を出発した人だろうか、2組4人が上下ゴアの完全装備で下っていった。私の傘を見てどう思っただろうか。でも傘は涼しくていい。いつの間にか雨は上がったようだが濃いガスが流れ、風が強くなってきた。

 奥秩父縦走路に出て甲武信岳方面へと左に折れる。雨は降っていないがガスが木の葉で結露し、強風にあおられて落ちてくるので雨のようだ。再び傘をさす。樹林で遮られるので風で傘が使えないなんてことは無いのは幸いだ。なだらかに登っていくと鶏冠尾根分岐標識が出てきたが、やっぱり立ち入り禁止のロープがあるし、その先は藪だ。木賊山から南に下ればいいのでこんな藪を突っ切るより普通のシラビソ樹林を歩く方が濡れなくていいだろうと木賊山に向かった。案の定、木賊山から赤テープが南に続いており、こっちの方が歩きやすそうだった。

 木賊山で少々休憩し、雨に濡れた藪に備えてゴア上下を着て出発だ。踏跡はそこそこしっかりしていて藪もなく快適に歩けた。しかし道は尾根上ではなく尾根右の谷に向かって下り始めた。もしかしたら東谷に下るコースかもしれないので踏跡を外れて尾根に登ったが、こちらには踏跡の気配が無い。ポツリと赤テープが現れるがどうも正式なルートとは思えない。それにやがて石楠花の猛烈な藪になってしまった。尾根の東に道があるのではと思い探してみると今度はありました、まともな踏跡が。しかしこの道は踏跡はしっかりしているが石楠花のトンネルを潜ったり倒木を跨いだりと、本当に「踏跡」でゴアはたちまちびしょ濡れになった。しかし赤テープは依然として続いている。

 急な下りになると穏やかなシラビソ林になり、こんな状態がずっと続いてくれたらなぁと思うような歩きやすい道だ。しかし尾根が狭くなると再び石楠花が襲いかかり、容赦なく「水攻め」をくらう。尾根は岩っぽくなって右側を巻いている部分もあるが、知らずに正直に尾根を登ると右下に踏み跡があるなんてことが何回かあった。見晴らしがいい岩頭で行く先を見ると、ガスの中に鶏冠山山頂らしい姿が見えた。振り返るとガスに隠れた木賊山が高く、この高度差と藪を戻るのは気が重かった。GPSで距離を見るとまだ1kmもあってがっかりする。更に下ってアップダウンと藪の尾根を歩き、最後にぐっと登ると山頂群の一角に出た。正確には道は稜線を少し巻いていて稜線に上がる踏み跡があったので上がってみたが標識はない。念のためGPSで確認するとまだ300m先だ、残念。それでも何となく道がまともになってきたような気がする。出発から5時間かかってようやく鶏冠山山頂に到着した。

 GPSがほぼ0mを指したピークは小広くなった場所で、ビールの空き缶にテプラで鶏冠山と書かれていた。そしてその空き缶には群馬の山ランメンバーのコールが書いてあった。しかも2003年6月21日の署名が。私が後藤さんと仙丈ヶ岳で無線やっていたときに訪れたのだ。岩のスペシャリストIAS中山さんも一緒と言うことは鶏冠尾根から攻めたのかもしれない。後から知ったが、山梨100名山の標識がここには無く、第3岩峰の方に立っているようだった。雨が降っていないのは幸いだがガスって展望はなく、木賊山さえも見えない。しかし何となく薄日があるようで寒さは感じない。ゴアを着ていても藪で全身びしょ濡れだからこれで寒かったら目も当てられない。シャツを持ってきたがゴア上下着ていれば大丈夫だった。

 430で一声出したが応答はなく、6mのDPを張ってワッチ、しかし日曜午前の「ゴールデンタイム」なのに何も聞こえなかった。試しに同軸を抜き差ししてみたらノイズレベルに変化がない。これはどこかアンテナが接触不良の症状だ。同軸コネクタを見ると、なんと心線側のピンが無い! 先週南アで使ったヘンテナのバランを見ると、メスコネクタにピンが刺さったままになっていた。このバランのコネクタは何故かきつくてピン引っこ抜け事件を以前起こしたことがある。仮にでもいいから内部導体と接触してくれよと願いながらピンを刺してワッチしてみるとうまく接触しているようで何局も聞こえていた。その中でもJA7TKH/1秩父郡霧藻ヶ峰がいたのは助かった。もちろんラグチュウ中に奥積さんも捕獲した。近場に行くと言っていたが三峰山だったか。来週は天気良ければ乗鞍とのことだった。他にJQ1QWA/0更級郡(9/1から千曲市)、JI3KHN/2駿東郡とQSOした。

 再び雨が落ちてきたので撤収し、再び上下のゴアを着て1時間ほど滞在した山頂を後にした。悩んだ末、鶏冠尾根を下ることにしたので緊張する。なにせ鶏冠山は鶏冠尾根の中間地点よりも広瀬に近いくらいだから、このまま下れば標高差300mの登りはないし、岩場だからたぶん藪もないし、歩行距離は1/4くらいに大幅短縮となるのだから魅力は大きい。楽をしたい気持ちとリスクを天秤にかけた結果、楽を優先することにした。どうしても下れない岩場が出てきたら戻って藪をかき分けて岩の基部を巻けばいいだろう。

 山頂から南の踏跡に入ると、それまでの踏跡よりも急に良くなって1ランク上の踏跡だった。どうみてもこちらの方が人の気配が濃い。もしかしたら鶏冠尾根往復が一般的なルートなのかもしれない。山頂から見て「あんな岩峰、越えられるのかなぁ」と思われた第3岩峰は案内看板と巻道があり、それも「広瀬−鶏冠山」と書かれた行政で設置したとしか思えない標識で、こんな標識や巻道があるのならザイルが必要な岩場は全て巻いているのではないかと強く期待できるようになった。

 巻道は部分的にわかりにくいところがあるが赤テープをよく探せばルートを外すことはない。再び稜線に出ると、岩登りでないと上がれないような大岩壁の第3岩峰の圧巻。この先はほぼ尾根に沿って歩くが細かい巻きがあるのでテープや地形を見ながら歩く。第2岩峰と第1岩峰の鞍部への下りが急で、ザイルが設置されていたが(ただしぶら下がっているのではなく上部でとぐろを巻いていた)、岩の割れ目になっていてホールド、スタンスとも十分で、高さも4,5mしか無かったので高度感もさほどでなく、そのまま下れた。下りでそれだから登りはもっと簡単だろう。唯一岩らしい岩はここだけで、他は全て巻いていた。な〜んだ、鶏冠山は普通の山だったのだ。

 第1岩峰下りで尾根を直接下るところだったが、左に巻道があるのに気づいて修正、その後は樹林に入って見晴らしは無くなり、時々岩の尾根が出てくるが稜線上を歩くこともなく淡々と下るだけだった。樹林に入るとまともな登山道の様相で、木賊山から「下った」のは失敗だった。藪もなくなったし暑くなってゴアを脱ぎ、再び歩き出したところで、今は北海道在住のJJ1TXJ藤森さんの落書きを発見してしまった。「二ノ沢の帰り 1997.8.25 TXJ」と書かれていた。こんなところで沢遊びしていたのか、藤森さんらしい。他にも落書きを見つけて写真を撮った。とその時は思ったのだが、藤森さんに問い合わせたらそのコールは「JJ1YXJ」とのことだった。

 「鶏冠谷出会」の看板で左に折れて急な下りが続く。雨に濡れて滑りやすく、何回かコケそうになりながら下った。道はぬかるんでいないが木の根が隠れているので濡れると滑るのだ。道を辿ってガンガン下ると沢音が大きくなり、東沢と鶏冠谷の出会近くで鶏冠谷右岸に出て、適当に歩いて東沢に出た。ここには鳥獣保護区の赤い看板があるし、鶏冠山登山道入口の看板もある。なによりも川の中にでっかい木が生えていて、その幹には鶏冠沢出会の看板があるのでイヤでも目にはいるだろう。

 そこから砂防ダムまでは河原の中を適当に歩く。川は左右に曲がっているので適当に渡渉する必要があるが、私が行ったときは石づたいに簡単に渡れた。ダム近くで右岸側に遊歩道が現れるので右岸に渡り、目印を見つけて道に上がった。この道が今も生きている遊歩道と合流する箇所はロープが張られ進入禁止になっているが、そこまでやらなくてもいいような。その先は一般道だから淡々と歩き、駐車場へ戻った。こちらの遊歩道にも森林鉄道のレールが残っていた。その途中、急に強いにわか雨が降ってきたのでザックの底から傘を発掘し、帰りも傘をさしながら歩いた。行きも帰りも傘とはねぇ。

 帰りがけに牧丘町役場近くの温泉に入り(\500)、勝沼に入っても涼しかったので東京も涼しかろうとそのまま小金井に帰ったらやっぱ涼しかった。


5:20西沢渓谷駐車場−5:25ゲート−5:39甲武信岳登山口−6:12沢を横切る−6:18砂防ダムのある沢を渡る−8:42縦走路−8:45鶏冠尾根分岐看板−8:48木賊山着−8:53木賊山発−8:57踏み跡を外れて尾根に向かう−8:59踏み跡に出る−9:12歩きやすい原生林−10:31鶏冠山着−11:34鶏冠山発−11:47第3岩峰迂回路−12:07ザイルがある岩壁−12:12迂回路−12:20ゴアを脱ぐ−12:22JJ1TXJの落書き発見−12:41鶏冠谷出会いの看板−15:15東沢−13:27休憩(水浴び)−13:33出発−13:36河原から上がる−13:38遊歩道−13:39吊り橋−13:44西沢山荘−13:50甲武信岳登山道分岐−13:37雨が降ってくる−14:06ゲート−14:11駐車場

 

鶏冠山 写真集

 

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