南ア深南部 加加森山、百俣沢ノ頭、信濃俣(+光岳、易老岳) 2003年9月27〜28日

 

易老渡〜光小屋 ルート断面図

 

光小屋〜加加森山 ルート断面図 光小屋〜信濃俣 ルート断面図

 

 夏は天候不順のまま終わり、とうとうお彼岸も過ぎて秋になってしまった。秋と言えば秋晴れのイメージ、今週末は珍しく土日とも天気がいいとの予報で、今度こそテントを担いで1泊山行をやろうと考えた。ただ、最近は過密スケジュールで、2週間前は3連休で日帰り3連発、先週は土曜に南ア前衛峰、火曜日に中アと続き足の疲れが取り切れていなかったし、風邪を引いたようで体調不良が続いていた。体と頭が重く、微熱があるようだった。しかし、この天気を見逃すのはあまりにも惜しい。金曜日になって体調が持ち直したこともあり、金曜日午後は体調不良と称して会社を休み、南ア南部に出かけた。

 南ア南部というより南ア深南部になるが、光岳周辺の加加森山、百俣沢ノ頭が今回のターゲットだ。両者とも2400mを越え、登り残しの2000m峰でも高い部類に入り、かろうじてお山の大将に入っているはずだ。もちろん武内さんしか登っていない「武内級」の山である。加加森山は1級の道とは言えないが光岳〜池口岳間の縦走路があるので池口岳登山道から強行日帰り可能であるが、光岳に登れば同時に百俣沢ノ頭も稼げる。百俣沢ノ頭は寸又峡温泉から登れるが、そのためにはゲートで止められた林道を30km近く歩かなくてはならず、光岳経由が一番楽な方法だ。だったら加加森山も一緒にやってしまえばいい。初日は小屋に入って百俣沢ノ頭を往復し、翌朝早く加加森山を往復して下山する計画とした。本当は初日に加加森山を往復したいところだか、標高差1800mをテントを担いで登った後に標高差400mを登るのは相当しんどいから無理だろう。東京への帰りの時間が遅くなってしまうが、そうでもしないとこんな山は土日で打ち落とせないのでしょうがない。

 

易老渡の駐車場

 南ア南部は東京から遙かに遠い。特に光岳周辺の登山口は高速道路からも遠く、片道300kmを越えるし一般道が長いので時間がかかる。普通に会社を終わってから出発すると明け方近くにやっと登山口だ。これが午後半休を取ってお昼から走り出せば夜の早い時間に到着できる。金節約のため国道152号線を延々と走り、高遠で温泉に入ってから先が長かった。分杭峠、地蔵峠を越え、国道から分岐するポイントは案内標識を見て右に入り、細い舗装道路を道なりに直進する。シラビソ高原方面に入らないよう注意。急斜面に張り付いた下栗集落を越えると遠山川に下り、橋を渡って左岸沿いの林道に移る。一部ダートもあるが普通車で問題ない道だった。易老渡の橋を通過して水場の沢を横断した先が広い駐車場で、10年近く前にはなかったものだ。止まっている車は1台のみ。それはそうだろう、金曜日会社が終わってから出てきたらこの時間にこんなところにいるのは無理な話だから。

 天気は快晴で満天の星空、予報では明日も快晴だというので珍しく安心できる天気だ。無人の車脇に駐車し、明朝はすぐ出発できるようザックのパッキングを済ませてから軽く酒を飲んで仮眠する。先週の奥念丈岳は歩き始めは酒が残ってフワフワした感じだったので今回は少なめ。6時間後には歩き始めるのだから。早朝3時過ぎで真っ暗だが百名山の登山道だから問題ないだろう。昔一度歩いているし。

 熟睡したらしく、隣に浜松ナンバーのレンタカーが止まったのは全く気づかず、朝飯を食うとき横に車がいるのに気づいた。レンタカーを使うくらいだからかなり遠くから来た人だろう。着替えて飯を食えばあとは出発するだけ。最初からTシャツに半ズボンで体を動かさないと寒いが登り始めれば汗をかくだろうからいい気温だ。無線機材は軽量化のため6mは置いていくことにしたが、そのせいかザックが軽い。1kgちょいあるのでいつもより1割くらい軽いはずだ。たった2山しかやらないのならVX-5でいいだろう。

 

易老渡の橋(登山口)

 橋を渡るところに光岳小屋からのお知らせというのがあって、飯を出せるのは50歳以上&3人以下のパーティー&PM3時までに到着との条件付きだった。これは聞いたことがある話だ。どうやって年齢を証明するのかなんてあったな。まあ、私には関係ないが。橋を渡り終わるところで露で濡れた木板に足を取られてコケそうになったが、体が反応して足でリカバリーしたが手に持っていたICレコーダが飛んでしまった。幸い故障はしなかったが電池切れサインが出てしまったため、一度電池を抜いて差したら復活した。

 あとは樹林の登山道をひたすら登るだけ。ヘッドランプの限られた光では遠くは見えない。これでルートファインディングをする武内さんは偉大だ。ここはまともな登山道だからただ道を辿ればいいが、道がないところで夜中行動するのはかなりの技術が必要だな。傾斜が緩んで平らになったところが面平で、ここのみ広くなって踏跡が不明瞭になりわかりにくかった。あとは再び急傾斜になってはっきりした道になる。気温は低いようで急な登りなのにほとんど汗をかかず快適に歩けた。これが夏なら汗まみれだろうな。

 4:00に頭の赤い標石が現れ、三角点かと思って見たが違った。歩き始めて1時間半が経過し、まだ歩き続けてもいいが幕営の重さを考えると体力は温存した方がいい。あわよくば今日の内に加加森山往復を狙っているのだ、はやる気持ちを抑える。高度計表示では1560mだが、こいつは±200mの誤差は当たり前なので信用できない。GPSが正確なのだが、樹林で衛星は2つしか受信できず、正確な高度は分からなかった。木の隙間からオリオン座が見えている。10 分ちょっとの休憩で出発した。

 その後も真っ暗な登山道を延々と歩いていると倒木が出現。かなりデカいので乗り越えるのは容易ではなく迂回することにした。それらしい踏跡を辿ったが、いつまでたっても先ほどまでの太い登山道に出ないし、どうも尾根から外れて歩いているようだ。右手に進路をとって尾根に上がるとちゃんと登山道があった。

 AM5時を過ぎてようやく空が白みだし、5時半前にヘッドランプを収納した。シラビソ樹林であるが密林状態ではなく、そこそこ明るかった。6時前に三角点到着。もちろん無人である。木の隙間を通して聖、上河内岳、兎岳、奥茶臼山が見えた。まだこれから行く光岳等は見えない。相変わらず気温は低く、休んでいると寒いくらいで汗はほとんどかかなかった。もうここまで来れば一息で易老岳のはずだ。

 ところで、三角点から易老岳まで標高差100mだが、何故かエアリアマップの所要時間が1時間になっている。せいぜい20分くらいではないだろうか。いくら急登で疲れていても標高差100mで1時間もかかっていては光岳小屋までたどり着けないだろうに。そんなふうに考えながら休憩を終えて出発した。

 

易老岳山頂 易老岳直下から見たイザルガ岳、光岳 三吉ガレ

 

 この先は一直線の登りではなく、細く木の根が絡んだ尾根の小さなアップダウンがあったが、予定通り20分で易老岳山頂。以前来たときはここで昼飯を食ったし、いいテント場を確保するため、私がテントを担いでスパートしたんだなぁ。あのときは5人パーティーだったが今は単独で自由気ままなタイムテーブルである。

 易老岳から下ると尾根の所々でシラビソ樹林が切れた場所があり、初めて光岳と加加森山が姿を現した。光岳はイザルガ岳との間が台地状に盛り上がりなだらかな姿で、加加森山は地図で見るようにいくつかのピークの西端の丸い頭だ。やっぱ鞍部まで300mの下りはあるなぁ。目を移すと中アや恵那山、木曽御岳もくっきりよく見えた。奥念丈岳の位置も分かるが、念丈岳や烏帽子ヶ岳の尾根は主稜線と重なってしまい肉眼では分離できなかった。でもあの中に含まれているんだな。伊那盆地は雲海の下だ。

 最低鞍部まで、尾根上を歩いたり巻いたりを繰り返す。途中、池と言うには小いが水たまりにしては大きい部類に入るものがある。地図には出ていないので今年のような雨が多い時期のみ出現するのだろうか。以前歩いたときに池があった記憶はない。鞍部近くまで来ると北側がガレて展望がいい場所がある。ここが三吉ガレだ。易老岳〜イザルガ岳で唯一展望がいい場所で、前回は帰り道に休憩した記憶がある。まだ休憩時間には早いのでそのまま通過する。

 小さなアップダウンを繰り返して、いつのまにか涸れ沢の登りになり最低鞍部を通過していた。今は水は流れていないが、たぶん大雨の時は沢になるのだろう、河原のようなゴロタ石の登りである。急な部分が終わると庭園風の広い涸れ沢になり、道はゴロタ石の沢の横を通るようになって歩きやすくなる。周囲の草にはもう霜が降りて白くなっている。今シーズン初めて見る霜だった。もう少しでイザルガ岳だろうが、2時間近く歩き続けているので時間的に休憩した方がよかろうとお休みした。もう樹林を抜けたのでGPSが使え、標高は2411mだった。

 

イザルガ岳直下の水場(期間限定) イザルガ岳直下かた見た聖岳、上河内岳、笊ヶ岳 センジヶ原の木道

 

 休憩を終えて数分歩くと水場に到着、ここは以前来た時は枯れていたが、今は勢いよく水が流れていた。今年の天気を考えると当たり前かもしれない。昨日も降ったはずだしなぁ。ここが使えるのと使えないのでは大きな差が生じる。ここで水が得られないときは小屋南部斜面にある水場を使うのだが、ここが結構標高が下がったところにあって往復に苦労するのだ。水は豊富なのだが・・・。これで大幅に水汲み労力が減って助かった。森林限界で振り向けば聖岳、兎岳が大きい。遠く槍穂と思われる姿も見えた。

 

新築された光小屋 テント場(小屋のすぐ西側) 光小屋展望台から見た大無間山

 

 この先は二重山稜の谷を歩く。両側はハイマツだ。センジガ原というらしい。木道を歩くと光岳小屋が見えてきた。以前幕営したセンジガ原の場所は、今は植生保護のため幕営禁止になっていた。そこからすぐで光岳小屋だった。いつの間にか新築されピカピカになり、小屋も大きくなっていた。昔の小屋は取り壊されたらしい。幕営の手続きをするべく小屋に入るとなんと営業は終了していた!! くっそ〜、テント背負ってきたのが馬鹿らしい。素泊まり\3000のところがタダだったのに。情報収集ミスであった。ビールが無いのも寂しいなぁ。内部はピカピカの板張りで収容人数50人となっているがもっと入りそうだった。デポされたフレームザックが1つ残されていた。

 

光岳展望台から見た加加森山 光岳展望台から見た池口岳 光岳展望台から見た百俣沢ノ頭への稜線

 

 小屋の南側は自然の展望台で、光岳で遮られる西側を除いて視界がある。上河内岳右に見えるのは双耳峰の笊ヶ岳。聖岳から兎三山の尾根は8月に歩いたばかりだ。聖の左には赤石岳か荒川前岳かが見えている。南に目を向けると大無間〜小無間、大根沢山、信濃俣と続く稜線が近い。黒法師岳等は百俣沢ノ頭の尾根で邪魔されて見えない。富士山は雲海の上に頭を出している。東側の平地は雲海の下だ。

 このまま小屋に泊まってもいいが、せっかく持ってきたテントを使わないのももったいないし、テントなら人目を気にせず自由に過ごせるのもありがたいことなので設営することにした。光岳方面に僅かに上がったところがテント場で、あまり広くはなかった。ただ、小屋の手前に旧テント場があるし(ただし雨が降ると池になりそう)、旧小屋跡地もテントサイトに良さそうだったのでいざとなれば張る場所は他にある。もちろん今日は1張もない。夏の喧噪が嘘のようだ。大学パーティーは今の時期はどこの山にいるのだろうか不思議である。

 テントを設営し終わり、思ったよりも体力消耗がなかったのでアタックザックを持って加加森山へ向けて出発することに決めた。累積標高差400mちょっとあるが、この疲れなら大丈夫だろう。今日往復すれば明日は百俣沢ノ頭のみだから格段に楽になって早く東京に帰れる。この天気なら雨具は不要なのでゴアも置いていき、長ズボンのジャージ、長袖シャツ、食料とハンディー機のみ持った。6m装備がないと軽いこと!! これが一般山ランメンバーの荷物かと思うと6mが恨めしく思えた。

 

光岳山頂 光岳西の光石/加加森山分岐点 光石

 

 光岳手前で寸又峡温泉方面への分岐を通過、百俣沢ノ頭はこっちだがまずは先を急ぐ。ここには加加森山2:50と書いた標識があった。光岳山頂は樹林中でいつ行っても冴えない場所だ。大菩薩嶺並みにみんな写真を撮って帰るだけだろうなぁ。その僅か西側に展望のいい場所があって加加森山〜中ノ尾根山の稜線が一望の下だ。池口岳の二コブが懐かしい。さらに西に下ると光石と加加森山の分岐標識が出てきた。もちろん加加森山方面へと右に入る。それから先は道はどうなるのか一抹の不安を感じていたが、実際はそれなりの踏跡があって、藪と言える部分は僅かであった。シラビソの枝がうるさいのは光岳直下付近のみで、ほぼ全体がシラビソの歩きやすい樹林だったのだ。

 

加加森山山頂への分岐 加加森山山頂

 下っていくと二重山稜になり、目印が途切れて倒木等で道が不明確になるが、正しいルートは谷底である。私は左の稜線を歩いたが踏跡は無く倒木帯だった。最低鞍部も二重山稜の谷底で鹿のヌタ場がある。その先から草付きになって目印が復活し、それを逃さないように歩けばいい。樹林帯では踏跡もはっきりし、目印が無くても歩けるくらいだ。まあ、樹林で下草がないのでどこでも歩けるが。はっきりしたピークを3つ越えるが三角点も山頂標識もなく、まだ山頂は先のようだった。鞍部では樹林が切れてシダの藪も出てきた。そして最後の鞍部では幕営に良さそうな芝生のような草付きの平地を通過して樹林の登りにかかった。ここでGPSの電池切れで交換するが樹林で衛星捕捉できなかった。まあいいや、三角点があれば山頂だから。樹林を緩く登ると平坦な山頂部に出て、そこに加加森山の標識があった。結局、ここまで藪らしき藪はなく、半ズボンのままで歩いてしまった。体に触れる藪がないわけではないので、藪が濡れているときはゴアのズボンが必要だ。

 しかしここには三角点が見あたらないし、第一、最高点ではない。こういう時にこそGPSの出番だが樹林中で捕捉できずのままだ。エアリアマップを見ると三角点は道よりも西側にあるように見えるので、縦走路とは別に赤テープが張ってあるルートに入ってみた。こっちも踏跡があってテープが続いている。まさか北側に下る道があるわけでもないだろうから三角点への可能性が高く、その通り最後に三角点がある高まりに出た。ここのみ上空が開け、GPSを出すと捕捉OKで正確に山頂だった。周囲は樹林で覆われているから見晴らしはなく、手製の山頂標識が一つだけかかっていた。こんな山こそKUMOや達筆標識が似合う。アタック装備の荷物が軽いせいか、思ったより疲れることなく到着できた。

 さあ、無線だ。144と430メインで一声出して応答がないのとサブチャンにもそれらし信号が聞こえないのを確認して430でCQを出し、西尾市の局とQSOした。下界は暑いとのことだった。西尾まで59で届くから石川さんが呼んでこないかなぁと期待したが不在なのか応答はなかった。

 QSOだけでは休憩時間が短いので、食事をしながら地図を眺めていた。そうしたらふと頭に浮かんだことがある。明日は信濃俣まで行けるのではないか? そう、信濃俣は百俣沢ノ頭の次のピークで尾根続き、エアリアマップでは黒点線が書かれているので全くの藪ではないらしい。最低鞍部は標高2100m、光岳からの累積標高差は700mだ、明日の行動として無理ではない。ただ、時間的な苦しさが考えられた。標高差と距離からして最低でも往復4時間、下手をすれば往復6時間かかりそうな雰囲気だ、明るくなり始めるAM5:00に出ても戻ってくるのはAM9〜11時で、その後易老渡まで6時間、そこから東京までが遠いこと! 夜中になってしまう。しかし、この機会を逃すと信濃俣を登るのは困難だ。深南部のほぼ真ん中にあるのでアプローチが悪く、延々と林道を歩くしかない。それなら帰りが遅くなっても登るべきだろう。これで決まりだ。あ〜あ、ここで気づくのではなくテント場で気づいていれば今日信濃俣に行ったのに。信濃俣の方が労力かかって時間もかかるだろうから土曜日にやりたかった。

 せっかくの加加森山だが1局で充分なので撤収。来た道をそのまま戻った。そのついでに光石に立ち寄り、もし新コンサイスに掲載されたら大損なので保険QSOすることにし、430で1局QSOした。少しガスが出てきたが雨が降るような雰囲気ではない。

 

百俣沢ノ頭への縦走路 百俣沢ノ頭山頂と信濃俣入口(奥の赤テープ) 信濃俣周辺のコース図

 

 まだ時間と体力に余裕があるので百俣沢ノ頭に行ってしまうことにした。信濃俣への道の偵察も兼ねる。明日の帰りの時間を早めるために、明朝はできるだけ出発時間を早くしたいが、もし百俣沢ノ頭から先にまともな道がない場合、真っ暗闇の中をヘッドランプのみでルートファインディングしなければならないことになる。私は武内さんとは違うから1級登山道以外でライトのみで歩ける自信はない。そこで偵察をして百俣沢ノ頭から先の踏跡の様子や目印の付けられ方を見て、暗い内に歩けるか否かを見極めようと考えた。そうすれば暗い内から出発して帰りの時間を早めることが可能になるかもしれない。やばそうな道なら明るくなるまで寝ていればいい。

 

百俣沢ノ頭にあった標識。大無間まで行ける!

 分岐から南下するとなだらかな尾根になり、やがて本当に地を這ったハイマツの原っぱになる。これは2800m台の光景であって、南ア南部の2500mで見られないはずの風景だ。地形か地質が関係するのだろうか。センジガ原でさえ立ったハイマツなのに。唯一アルペン気分を味わえる区間だった。やがて再び樹林に入って高度を下げる。今度はハイマツ地帯でGPSを捕捉したので樹林でも位置が分かる。半分溝と化した道をなだらかに下っていき水平になってから僅かに上がったところが百俣沢ノ頭だった。GPSでは標識があるところより50mほど北側が山頂と出たが大差ないだろう。

 樹林に覆われた山頂で、絵が描かれた案内標識が2つあった。一つは行政で立てたステンレス板のもので、それによるとここから信濃俣は道があることになっている。それに手製の標識の方も信濃俣までバッチリ道があることになっていた。おまけにその方面には明らかな踏跡が見られ、頻繁に目印が付けられている。藪がない樹林なのでどこでも歩ける状態だから暗闇で踏跡を追えるか大いに不安はあるが、これだけ目印があればどうにかなりそうだ。それに少し下れば尾根がはっきりするのでそうなれば迷う心配はなくなる。よし、明日は早出に決定だ。

 無線は430でCQを出すとJO2SOX加納さんと何年かぶりにつながった。加納さんの信号は弱く、自宅でもハンディー機でやっているようで、電池切れになりかけてるとのことで早々に打ち切った。移動局ではなく固定局側が電池切れなんて初めてだった。明日のAM6時くらいに信濃俣から出る予定も伝えた。

 これで残すところ信濃俣のみだ。時刻は2時を過ぎているので今から信濃俣に行ったら帰りに真っ暗になってしまうので素直に戻った。今日は本当に足が軽く、時間さえあればこのまま信濃俣まで行けそうな雰囲気だった。6m装備の重さの分だろうか。ハイマツの稜線では毛並みがフサフサした暖かそうな狐が、ハイマツの海に逃げ込むのが見えた。北海道でキタキツネはよく見るが、本土の狐を見るのは久しぶりだ。しかもアルプス級では初めてではないだろうか。いったい何を喰っているのだろうか? まさか雷鳥??

 テントに戻ると小屋には何人か人が入っていた。登ってくる人もいたし、光岳から下ってくる人、光岳に登って行く人様々だ。でも全部で20人程度ではなかっただろうか。この天気で混み合うかと思ったらガラガラだった。自分で食料を担ぎ上げる元気があるのは少数派らしい。それでもガイド付きツアー団体もいたなぁ。夕方は賑やかだったが暗くなると静まった。こちらは昼寝をしてから水割り飲み、適度に酔って寝た。

 寝始めは暑いくらいだったが夜も更けると冷え込んで、持ってきた物を全部着ても少し寒かった。私のシュラフは薄手のダウンだが断熱性が良く、夏山では中に潜ると暑いくらいなのだが。次回からは重いけど厳冬期用シュラフだな。震えるほどの寒さではないので断続的にウトウトした。ただ目を閉じて横になっているだけでも寝ているのと同じような効果がある。

 朝は3時過ぎに起きて外を見るとイヤなことにガスだ。ヘッドランプでルートファインディングにガスでは光の届く範囲がぐっと落ちてしまう。でも山頂付近のみガスって標高が下がると雲から抜ける可能性もあるので予定通り支度をして朝食を取り、アタックザックを背負って出発だ。ゴアの上は着ているし長ズボンは最初から履いているのでザックの中身は極端に少ない。

 南下する尾根に乗ると道はあるがライトの光ではルートを間違えそうになり速度が落ちる。常に左右を照らしながら慎重に進んだ。標高が下がるとガスの層から抜け出し、ハイマツ帯で星空が時々見えるようになった。よかったぁ。百俣沢ノ頭からいよいよ未知の領域で、踏跡と目印を慎重に探りながら歩く。しかし最初はタダのだだっ広い斜面なのでルートファインディングが難航し、何回も行ったりきたりの繰り返し。入口付近は頻繁に目印があるが、少し下るとちょっとだけ頻度が落ちるのだ。目印を信用するよりも踏跡を信用した方がよかった。周囲は藪のない樹林である。

 やっと尾根らしくなると踏跡を外す心配が無くなってくる。それでも尾根が左に屈曲する場所ではツガの幼木に突っ込まなければならず道を失いそうになった。しかし帰りではそんな尾根の屈曲はなく、ただ単にツガの藪だった。暗闇故の錯覚か。その後は尾根をまっすぐ辿っていくだけでいいのでだいぶ精神的に楽になった、といってももしや道を外していないだろうかと赤テープが出てこないと心配になるのだった。尾根がはっきりしてからはテープも少なくなる。そりゃそうだ、間違えようがないのだから。いくつかの小ピークを越えながら高度を下げていく。最低鞍部前で明るくなってヘッドランプが不要になり、目視で赤テープと踏跡が追えるようになりペースが上がる。やはり明るくなると広い範囲が見えるようになり、安心感が違う。こういうときこそGPSの出番なのだが、いかんせん信濃俣は登る予定がなかったので緯度経度が分からずで使えなかった。

 最低鞍部の次のピークの南を巻いて越えると山頂手前の2220mピークの登りが始まる。ここも樹林帯だが、登り始めると急に踏跡が薄くなり、適当によじ登っていくと再び踏跡が現れる。ここは尾根と言うより斜面なのでみんなバラけて歩くのだろう。登りはいいが下りは気を付けないと尾根を外す可能性がある。なぜかここには目印もない。

 

信濃俣山頂

 踏跡が出現してから先ははっきりした踏跡が続き、2220mピークの西側を僅かに巻いて最後の鞍部に下り、信濃俣山頂に向けての最後の登りが始まる。傾斜はあるが藪はなく、依然としていい道が続き、とうとう信濃俣山頂に到着した。

 信濃俣は予想通り樹林に覆われ視界はなく、三角点が設置され、看板は三角点近くに置かれていた。木に付けられた標識がないのはペンチマンにでも掃除されただろうか。まあ、三角点で山頂だとわかるので標識が無くても支障はないが。三角点上にマットを敷いて座り、早速430と144をワッチ、サブチャンでそれらしきQSOが聞こえないので両バンドで一声出し、応答がないので430でCQを出すと何度かQSOしてもらった局から声がかかった。自分では意識していなかったがまだ息があがったままで、疲れた様子が伝わったらしい。まあ、テント場から休みなしで2時間半歩いたからなぁ。QSOが終わって430メインで石川さんや加納さん、植野さんを呼んでみたが応答はなく、少し休んでから下山を開始した。下山とは言っても光岳まで最低鞍部から500mも登らなければならないが。

 最低鞍部まで順調に下り、登り返しは体力を使い果たさないように意識してゆっくり歩いた。テントから易老渡までの行程は長い、光岳の登り返しは余裕を持って登り切る必要がある。2180m鞍部付近で10分間休憩し、ここでも430で一声出した。ついでにTV音声のニュースを聞くと2chで近畿地方のニュースを流していた。3エリアの電波だ。植野さんまで144か430で届いても不思議ではないともう一度電波を出したが応答はなかった。この2chは奈良か滋賀あたりのNHKだろうか?

 休憩を終えて再び登りだし、思ったより短時間で百俣沢ノ頭に戻った。そしてテント場に到着して時間を見ると行きとほとんど変わらない。標高差は300mも違うのに時間差がないということは、暗闇のルートファインディングで時間を取られたからだろう。天候は基本的に晴れているが、静岡側からガスが上がってきて太陽が覆われて涼しい。長野側は晴れてはいるが徐々に雲が増えてきた。すっきり見えていた池口岳にもガスが絡み始めた。でも天気が崩れるような暗い雲ではない。

 既に小屋は空っぽで全員出発した後だった。まずはテントをひっくり返して虫干しし、半ズボンに履き替えて荷物を整理しているとテントが乾き、ザックのパッキングを済ませて出発した。近くの山は全て片づけたので、もうここへは2度と来ることはないだろう。


 水場手前で本日初めて登ってくる単独男性とすれ違った。たぶん茶臼小屋から縦走だろう。易老渡からにしては時刻が早すぎる。水場で顔を洗い、タオルを洗って汗拭きの準備を整えるがガスで日差しが遮られて涼しいのでザックにしまって歩いた。いつのまにか最低鞍部を通過し、三吉平で2人の休んでいる人を見かけたが、これも光岳への登りだった。易老岳は無人で静まりかえった中を最後の休憩、ここで11時くらいだったのでPM1時には駐車場に到着できる目処が立った。東京まで遙か遠いので早ければ早いほどいい。下りは走りはしなかったが飛ばしに飛ばし、林道まで1時間半のハイペースで下った。おかげで翌日は軽い筋肉痛になったほどだ。標高が下がるに従って気温の上昇が感じられたが、それでも登山口に達しても日影は充分涼しかった。こういうときに北斜面の下りはいい。南斜面だったら汗をかかされただろう。

 駐車場には私の車を含め4台のみ、ガランとしていた。これが夏山シーズンだと車で溢れるのだろうな。秋真っ盛りで天気がいいのにもったいないと言えよう。下界は日の光がさんさんと降り注いでいた。直射日光の車内は暑いので道の反対の日影に移動し、近くの沢で水浴びし、着替えたり荷物を片づけていると面平で追い越した夫婦が到着、多摩ナンバーのセダンに乗り込んだ。おお、これから東京まで帰るのは俺と同じか。ただ、あっちは松川ICから中央道経由だろうな。私みたいに国道152号線を延々と走る物好きはいないだろう。

 地蔵峠を越えて大鹿村に入り、鹿塩温泉に入ろうとしたら入浴のみは時間切れ。しょうがないのでいつもの高遠温泉に目標を切り替えなおも北上、昼間は対向車が多いし、対向車の接近が見えなくてヒヤヒヤだ。狭い道でも無謀運転する連中が多く、対向車が来るかもしれない見通しのないカーブで真ん中を走ってくるので避けられるものも避けられず、危うくぶつかるところだった経験も。ちゃんと端を走れよな。分杭峠を越えれば難所はクリア、さくらの湯で2日間の汗を流し(といってもあまり汗をかかなかったが)茅野に下った。中央道はいつも通りの渋滞なのでそのまま甲州街道を南下、上野原で力尽きて相模川河原で寝て、翌朝東京に帰った。

 これで懸案だった加加森山、百俣沢ノ頭が片づいただけでなく、予定外の信濃俣まで稼げた。金曜日午後半休した成果は大きかったなぁ。全て武内級の山で、1泊しなければ登れない山ばかり。たった3山であるが並みの3山ではなかった。そのうち山ランメンバーでも登る人が現れるだろうが、次に登る人が出るまで数年を要するのではなかろうか。たぶん次はDJFだな。


9/27 2:24易老渡駐車場−2:26橋−3:53面平−4:00休憩−4:13出発−4:25倒木を迂回する−4:29登山道に出る−5:18ヘッドランプを消す−5:55三角点(休憩)−6:06出発−6:14日の出−6:24易老岳−6:34歩きながら飯を食う−6:50三吉ガレ−6:53池−7:04下山者と会う−7:13最低鞍部−7:49休憩(2411m)−7:57出発−8:04水場着−8:08水場発−8:16イザルガ岳分岐−8:23光岳小屋着−8:59光岳小屋発−9:01百俣沢ノ頭分岐−9:12光岳−9:14展望台−9:16展望台発−9:19加加森山分岐−9:39二重山稜で道を失う−9:47ルートに出る−9:49 2286m最低鞍部−10:19 2430mピーク−10:24 2410mピーク−10:35 2400m草付きの鞍部−10:39加加森山分岐−10:43加加森山着−11:09加加森山発−11:10縦走路−11:14 2400m草付きの鞍部−11:19 2400m鞍部(シダの原)−11:25 2430mピーク−11:27 2400m鞍部(シダの原)−11:31 2410mピーク−11:43 2381mピーク−11:57鞍部−12:00草付き−12:022286m最低鞍部−12:39加加森山分岐−12:43光石着−13:00光石発−13:05加加森山分岐−13:09光岳−13:17百俣沢ノ頭分岐−13:48百俣沢ノ頭着−14:09百俣沢ノ頭発−14:36狐を見る−14:48百俣沢ノ頭分岐−14:50光岳小屋

9/28 4:03光岳小屋発−4:07百俣沢ノ頭分岐−4:21ヘッドランプが電池切れ−4:42百俣沢ノ頭−4:54尾根が左に屈折(ツガの藪)−5:13鞍部−5:25ヘッドランプをしまう−5:30最低鞍部−5:36鞍部−5:39小ピーク−5:40鞍部−5:43踏跡が不明瞭−5:49踏跡に出る−5:53日の出−5:57ピークを巻く−6:02鞍部−6:19信濃俣着−6:38信濃俣発−6:47鞍部−6:53ピークを巻く−7:02鞍部−7:06小鞍部−7:13 2080m最低鞍部−7:23小鞍部−7:38鞍部(休憩)−7:48出発−8:00 2180m鞍部−8:20百俣沢ノ頭−9:01百俣沢ノ頭分岐−9:03光岳小屋着−9:46光岳小屋発−9:55イザルガ岳分岐−9:56人と会う−9:59水場着−10:01水場発−10:39池−10:42三吉ガレ−11:07易老岳着−11:15易老岳発−11:25三角点−12:05人を見る−12:10面平−12:47林道−12:49駐車場


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