中ア南部 風穴山、摺古木山、シラビソ山、安平路山、小茂吉沢ノ頭、浦川山、袴腰山 2003年11月2日

 

 

 中央アルプスの中でも、南越百山から安平路山の間は笹藪で覆われており、一般登山道ではないことはよく知られている。南ア深南部のような存在だろうか。それでもエアリアマップには赤点線が描かれているし、インターネットで調べると縦走記録は山のように出てくるのでさほど難易度は高くないと思われた。山ランメンバーでは武内さんのみ残雪期に登っている。

 インターネットで最新情報を調べたところ、2003年8月の記録で浦川山まで刈り払いが進んでいるとの記述を見つけた。これなら藪漕ぎは浦川山〜袴腰山だけで済むので大助かりだ。中アの笹は群馬の笹と比較すればひ弱でかき分けやすいが、笹が無いに越したことはない。

 日曜日は快晴に恵まれるとの天気予報で、藪が出現する浦川山に到着する頃には笹の葉に付いた朝露も乾いているだろう。もし土曜日に登っていたらびしょ濡れだったか? 唯一の心配は摺古木自然園の林道で、エアリアマップでは悪路で4WDのみ通行可能と書かれている。以前、JI1TLL,JG1MITと安平路山に登ったときに途中までデリカで走り、工事中のため途中から歩いたが、林道が曲がりくねる所の法面は花崗岩が風化した砂にでっかい花崗岩が埋まっていて今にも落ちてきそうな危険な状態だった。雨の日に歩いたが、行きにはなかった落石が帰りに数カ所で見られたほどで、武内さんが登ったときも落石があったという。道のデコボコ状態よりも落石で閉じこめられるのが心配だった。危険地帯は黒川の橋を渡った先なので、入るとしたらそこまでだな。標高差200mの歩きが加わるが、林道の長い直線部分をカットするだけでも相当の労力節約だ。

 三鷹周辺の書店ではどこも置いていなかった中アのエアリアマップを木曽福島で購入し、同じく木曽福島のスーパー(SATY)で食料調達して国道19号線を南下、南木曽町で国道256号線に乗り換えて飯田を目指し、大平峠を越える県道に入り、大平宿から林道に入った。3連休で秋の行楽シーズンだからか、無人のはずの大平宿は大賑わいだった。すぐにダートになり、ガタガタ路面になった。幸い、普通車でも入れる程度で、震動が激しいので1速に落としてチンタラ走った。車高が普通より低い車では腹を擦るかもしれないが、そうでなければゆっくり走れば通行可能だ。黒川を渡る手前の駐車余地に車を置き、酒を飲んで寝た。今夜は満天の星空だった。

 早く寝たのでAM3時に起床、飯を食ってAM4時に真っ暗な中歩き出した。安平路山まではまともな道があるので真っ暗でも支障もなく歩けるので2時間ライトのお世話になっても大丈夫だろう。昨夜同様満天の星空。林道はこの先の方が路面状態はいいほどで、終点まで入った方が良かったかなとも思ったが、落石の心配でオチオチ寝られないよりは、何の心配もなく熟睡できる方がいいだろうと割り切った。終点の小屋には車が2台。小屋の中に明かりが見えたので出発準備中らしい。これから下るのか登るのかは分からないが。

 登山道に入ると両側は笹だが広く刈り払いされて体に触れる笹は皆無だ。巻道が多く、標高差の割に時間がかかる道で、摺古木山直下で明るくなってしまった。ちょうどその時にライトの電池切れ。図ったようなタイミングだった。巻道なので沢を横断することも多く、水場には困らない。その代わり、真っ暗闇で沢を横切るところでまっすぐ上流を目指して道を外すことがあった。昼間ならこんなことはないのだが。摺古木山で休憩し日の出を待ったがなかなか上がってこないので出発、その後荒川岳の向こう側から眩しい太陽が顔を出した。南アもいい天気だな。3連休なのでそれなりの人数が入っているだろう。南ア3000m峰はどれも白くないので、最後の秋山が楽しめるだろうな。摺古木山からは木曽御嶽山、乗鞍岳、槍穂と笠ヶ岳も見えていたが、1週間前は白かった槍穂はすっかり雪が融けて黒くなっていた。中アの南越百山から先もよく見えていて、宝剣岳は小さな突起にしか見えない。ここからだと南駒ヶ岳がでかい。

 以前は摺古木山から先は笹がうるさかったように記憶しているが、いつのまにか刈り払われてきれいになっていた。ダラダラした山頂のシラビソ山を通過し、鞍部手前の安平路避難小屋を通過、数人が出発準備をしていた。私が袴腰山往復している間にこの連中と会わなかったので、摺古木山の方に下山したらしい。水場は小屋から10分ほどで、登山道のすぐ下だ。少し水を飲んだ。刈り払いはここまでで、これより先は踏跡はしっかりしているが両側から笹がかぶって濡れていたらイヤな場所だ。でも10年前はもっと藪だったような気もするなぁ。傾斜が緩んでもう山頂というところで下ってくる2人とすれ違った。この時間だから避難小屋から往復だろう。

 登りついた山頂はそこそこの範囲で笹が刈り払われ地面が露出して休憩できる場所になっていた。まばらなシラビソ樹林で視界はイマイチだ。約10年前はここで無線をやったのだなぁ。せっかく4エレを持っていったのにエレメントの一部を忘れてしまい、予備のヘンテナで運用したのだった。今はただの通過点に過ぎない。

 さて、この先の道はどうだろうか? 山頂付近は刈り払いされているが、ちゃんと浦川山まで延びているだろうか? 心配とは裏腹に、刈り払いのグレードは落ちて体に触れる笹があったり、トラバースする箇所では寝ている笹の上を歩くこともあるが、刈り払いが続いていた。周囲の密生した笹藪を漕ぐのとは天国と地獄ほどの差がある。赤布が藪の中にぶら下がっているのが見えるから、やっぱりこの刈り払いはここ数年で実施されたのだろう。

 傾斜が緩むと笹が途切れてオアシスのようなシラビソ樹林の尾根になる。なぜかここだけ笹がない。再び笹原になるがしっかりした刈り払いが続いていた。今日は天気がよいし、朝から気温も高く、南斜面の登りでは汗をかかされる。しかし、大きな登り返しもなくいくつかのピークを越えると平坦な笹原の浦川山に到着した。本当にずっと刈り払いが続いていたので助かった。笹藪の倍以上のスピードで歩けただろう。

 山頂標識が1つあり、こちらは安平路山と違って道以外の刈り払いはなく休むに休めない場所だ。しかたなく道ばたの笹を押し倒しその上に座った。144,430で声を出し、まばらなダケカンバの灌木にDPを張って6mをワッチするとJR1IQL/2高山市とJP2NJS/2四日市市がQSO中、CQを出していたのが浅野さんの方だったので、吉原さんにちょっと上にQSYするよう言ったが、浅野さんの信号に潰されて聞こえなかったようだ。上の方で吉原さんを呼び出していると応答があり無事QSO。今日は山の上ではないらしい。これから某所でバーベキュー大会へ出かけるとのこと。天気もいいし、うらやましい限りだ。最後にJF3XWM/3豊能郡とQSOしておしまい。

 最終目的地の袴腰山へはアタック装備で行くことにし、この天気に気温なら防寒具も雨具も要らないだろうとディーパックには6m装備と長袖シャツだけ入れる。かなりの軽量化をして笹藪漕ぎに備える。山頂を下るとすぐに刈り払いが切れると思ったらしばらく続き、松川乗越まで半分くらい下ったところで踏跡程度になるが、しばらくは雨の時に沢になる様な溝で笹は薄い。徐々に両側からせり出す笹が多くなり、やがて踏跡は完全に覆われて上から見ると笹が僅かに窪んでいるだけになる。松川乗越から袴腰山の登りにかかると左にある小さな沢地形にルートが移り、再び尾根に乗るところからが藪漕ぎのクライマックスである。踏跡は無くなり、それらしき藪の薄いところを笹に乗って登るのだ。尾根がはっきりしてくるに従ってルートが集中するらしく踏跡が出てくれば笹藪地獄から解放される。あとは踏跡をたどって登ればいい。一部だけ笹のない樹林を歩ける。

 袴腰山は東西に長くて広い山頂で、どこが山頂なのかはっきりしない。山頂標識も見あたらなかったが、一応西の端を山頂と決めてDPを張った。昨日同様にJR1IQL/2高山市がいたので助かった。法事前に裏山で運用中とのことだった。実家から車で10分だから本当に裏山らしい。430でも声を出したが応答はなく、運用を終了した。

 6mでQSO中に奥念丈岳方向から笹をかき分ける音がし、まさか熊のはずはないよなぁと見ていたら笹の中からザックの頭がまず顔を出し、やがて人間が浮き上がった。越百小屋からの単独縦走者だ。逆方向に縦走していったパーティーとすれ違ったそうだ。それは安平路避難小屋発の連中だろう。林道から出発した私が追いつけるはずもない。この連休中に何パーティーがこの稜線を縦走するだろうか。

 さあ、同じ道を戻るか。でも今度は激藪は下りだからかなり楽だな。DPを収納して出発、単独縦走者が笹地帯を歩いているところを、私は笹のない西側の樹林帯を下って追い越し、こちらは軽量荷物だから差は広がり、この後姿を見ることはなかった。最低鞍部直前では重力利用で適当に歩いたので道を外したが、下りだから道があろうと無かろうと豪快に下った。登り返して切り開きに出たときはホッとした。

 浦川山を出発し、保険のために小茂吉沢ノ頭で6mでQSO、安平路山、シラビソ山を越えて摺古木山まで戻り、疲れたので休憩する。そのついでに430で叫んだら石川さんが出てきた。かなり信号が弱いようで、こちらが2.5W出して途切れ途切れに聞こえる程度だという。それでも大意は分かってもらえたようだった。風穴山は加納さんご一行が登ろうとしたが踏跡はなく笹藪で諦めたそうだ。こっちはここまできたからには登るぞ。松川乗越の登りと比べれば距離も標高差もマシだろう。

 GPSを頼りに風穴山最短ポイントを割り出し、山頂まで直線距離230mの小沢をアタックザックで登り始めた。その位置はN35.36.04,E137.44.23(旧測地系)だった。山頂が真東に見える位置である。沢も東を向いているのでそのまま遡る。水は少ないので問題なく、滝もないのでほぼ沢の中を歩ける。周囲は笹藪だが沢の中は生えていないのでずいぶん歩きやすいのは間違いない。やがて水はなくなるがまだ笹は薄く、源頭に出てからが笹藪漕ぎだ。残り距離約50mだから直線突破だ。群馬の笹よりずっと漕ぎやすく、両手で押し分けて体を持ち上げられる。思ったより簡単に笹を突破し、山頂西側直下の樹林帯に飛び出した。休憩はここがいいだろう。山頂は腰ほどの笹原で、目印や山頂標識は皆無だった。こんな小さな山では訪れる人はほとんどいないらしく、ここもKUMOがお似合いだろう。6m開設前に430で石川さんを呼ぼうとしたら、JA3WPN植野さんを呼んでいるJH3JFF/2筒井さんをメインで発見、声をかけてサブに移ってQSOできた。あちらは能郷白山近くの前山だそうだ。40分の笹藪漕ぎだそうだからこっちより苦労が上だ。両者とも笹藪漕ぎの山とは珍しい。

 これで本日の予定は終了、下山のみ。快調に、しかし方向を間違えないよう慎重に下り、無事に谷を発見して登山道に出られた。林道終点には朝とは違う3台の車が駐車していた。林道を歩いて車に到着し、ガタガタ道をチンタラ走って県道に出て飯田市街に。高森町の温泉に入る予定だったが、案内看板を発見できず左折ポイントを見落としてしまい、以前入ったことがある松川町の清流苑(\350)で汗を流した。今日は笹の切り傷があるので待望の風呂だった。


4:05車−4:41林道終点−5:12沢を渡る−5:28分岐−5:35ライトが電池切れ−5:45南アの見晴らしポイント−5:55摺古木山着−6:07摺古木山発−6:18最低鞍部&日の出−6:48シラビソ山−7:09安平路避難小屋−7:21水場−7:44安平路山着−7:57安平路山発−8:05シラビソ樹林−8:21小茂吉沢ノ頭−8:28浦川山着−8:59浦川山発−9:12松川乗越−9:38袴腰山着−9:59袴腰山発−10:16松川乗越−10:34刈り払い−10:40浦川山着−10:42浦川山発−10:49小茂吉沢ノ頭着−11:04小茂吉沢ノ頭発−11:35安平路山−11:48水場着−11:51水場発−12:00安平路避難小屋−12:26シラビソ山−13:06摺古木山着−13:19摺古木山発−13:33分岐−13:46風穴山取付(山頂まで230m)−13:56沢の源頭(山頂まで60m)−13:58山頂直下の樹林−13:59風穴山着−14:20風穴山発−14:21沢の源頭−14:26登山道着−14:29登山道発−14:51林道終点−15:16車

 帰ってからエアリアマップでコースタイム合計を出したら、林道歩きと風穴山往復を除いた時間で16時間ちょっと。実際には安平路山〜浦河山間が刈り払いされていたのでもっと早く歩けるはずである。コースタイムが書いてあるコースなんて久しぶりのような。最近は「武内級」の山ばかりで、伊谷山、上千枚岳から使い出した新しい登山靴で、この靴でまともな登山道が山頂を通っている山に登ったのは摺古木山が初めてだった。可哀想な登山靴だよなぁ。


摺古木山〜袴腰山 写真集

 


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