中央アルプス 風越山、天狗山、蕎麦粒岳(独標)、中三ノ沢岳

 

 

 地形図及びコンサイス山名事典に名前が記載されていた中央アルプスの2000m峰は、昨年秋で全て登り終わり中央アルプスに登ることはもう無いだろうと思っていたが、日本山名事典の登場で事情が変わった。ここが載ったらどうやって登ろうかとビクビクしていた中三ノ沢岳が掲載されてしまったのだ。他にも中央アルプスで新規掲載の2000m峰はいくつかあったが、独標尾根は山麓や登山道から段違いに遠く、他の山と比較すれば難易度のランクが違う。逆に言えばここさえ登ってしまえば他の山は楽にこなせるだろうと考えた。中央アルプス2000m峰完登における最大の関門と言っていいだろう。

 

 独標尾根は中央アルプス主稜線から西に飛び出した三沢岳からさらに西に派生する尾根で、中三ノ沢岳山頂に立つには麓から上がるか、逆に三沢岳から下って往復するかであろう。独標尾根で登山道があるのは主稜線から三沢岳まででその先に道はないので藪漕ぎ覚悟であるから、涼しくなって雪が来る前の今の時期を狙った。先週末は台風一過を期待したのに雨に祟られたが、今週は秋晴れが期待できそうで藪山を登るには視界が得られそうでちょうどいい。

 三沢岳からの往復が距離が短く実現性が高いようにも思えたが、三沢岳周辺は花崗岩の巨岩が点在し、もし尾根上に私の技術では突破困難な岩稜帯が出てくれば一巻の終わりである。その点、森林限界以下なら岩稜帯があっても巻くこともできるだろう。また、中三ノ沢岳西方には蕎麦粒岳、天狗山の2つの2000m峰が山名事典に掲載されたことだし、そこまで歩くなら下から上がっても同じくらいだろう。おまけに風越山も稼げるので、労力はかかっても上松から上がることにした。

 インターネットで情報検索をかけると風越山までは登山道があり、登山口の場所も確認できたが、その先については1件だけ、一ノ沢を登って天狗山、蕎麦粒岳(萩原沢岳と書いてあった)を歩き、二の沢を下った記録が発見できたが、あまりはっきりした記述が無く手探り状態だった。ただ、その記事では稜線に出ると風越山から上がってきた踏跡に合流したと書かれており、どのくらいの踏跡かわからないが全くの藪ではないことだけはわかった。まあ、沢登りをメインにやっているらしい人の記事なので踏跡の定義は私と違うであろうが。中三ノ沢岳についての記事は発見できず、二ノ沢のコルから先は全く不明だ。ここも堂々の「武内級」の山と言えよう。

 会社から帰って急いで支度をして出発、塩尻ICで19号線に降りて70〜80km/hの流れに乗って1時間足らずで上松まで到着、しかしここからがわかりにくい。バイパスを降りて市街地中心部の旧道に入るがどこかで左折しなければならないが、その場所がわからない。HPで見た風越山の案内では標識が整備されていると書かれていたが夜間で暗いからか見えなかった。市街地を突っ切って国道に出てしまったので戻り、右手に上がっていく太そうな道に入ると国道を跨いで反対側に出た。そのまま直進すると下りはじめてJR線路脇まで来てしまい、地図で確認すると行きすぎなのでこれまた戻って、右に入る細い路地のような道を指して「木曽古道」の案内があったので入る。そのまま直進し続けるとグングン高度を上げて木曽駒登山道の案内が出てきてしまった! 風越山登山口は風越山西側にあるので行きすぎであり、再び逆戻りして左に太い橋を渡るところに「木曽古道」の案内があった。左折して再び出てきた「木曽古道」の標識で左折、しかし、この先は民家の細い路地を通って砂利道になってしまった。最後は畑で行き止まりで困り果てた。

 

風越山登山口 風越山登山口近くの駐車スペース

 こういう場合は山と同じで読図で現在位置が分かる場所まで戻るのが鉄則だ。橋まで戻って場所が分かり、さっき通った道はどの付近かあたりをつけ、今度は別ルートで行ってみることにした。木曽古道は基本的に遊歩道で車道ではないので案内に従い続けると車で入れない場所に誘導されて当然だろうから、読図で車道が続く道を走るわけだ。橋をスタートして最初に左折した場所を直進、すると林道の看板が出てきてどうやら風越山登山口がある林道入口に来たようだ。今度はずっと舗装が続き地図の通りに道が付いていて間違いなく、無事に登山口標識を発見、すぐ手前に駐車スペースがあるので車を突っ込んで寝た。1時間くらい車でルートファインディングしていただろうか、貴重な睡眠時間が減ってしまった。

 寝る前に酒を飲みながら山頂渉猟を読んで予習しておくが、筆者は二の沢から蕎麦粒岳を往復して11時間かかったと書いてあって不安を覚えた。年齢は私の方が20歳以上若いが体力はほぼ互角(60歳で30代の健脚と同等なのだから怪人だ)なので所要時間は同じくらいと見ていいだろう。今回はこれに中三ノ沢岳往復が加わるから2時間弱加算され、暗くなる前に帰れるのか心配になってきた。最悪、風越山から先は登山道があるので真っ暗でもヘッドライトで歩けるだろうが、その手前で日没は避けたいところだ。

 翌朝は5時半過ぎに起きると周囲は明るく青空が広がっていた。急いで飯を食って出発、最初から傾斜がきつい登山道が始まり、ゆっくり歩いて体を温める。良く踏まれた道で標識も設置され、地元では良く登られるらしい。樹林を登り切るとカヤトの原っぱに出て視界が広がる。正面には木曽御嶽、その右は乗鞍岳だが一部白くなっていた。その右にはやはり白くなった笠ヶ岳から抜戸岳の尾根に雪はない穂高の岩稜だ。進行方向にはピークが見えているが、天狗山だと分かったのは下山時だった。再び樹林に入って緩く下り敬神からの登山道を2カ所で合流すると、タダの尾根といった感じの風越山山頂に到着した。三角点と山頂標識があるから山頂とわかるが、何もなければタダの尾根だ。この先に展望がいい場所があるようなのでさらに進むと東側が開けた場所に到着、1880mピークに向けて登り始める場所である。ここで無線をやっておいた。

 

展望台からの登り。藪はない 1880mピーク西の樹林帯

 さあ、ここからが本日の核心部、藪が予想されるので長ズボンのジャージを履いて出発だ。登山道はここで終わっているが、シラビソ樹林で下草はなくどこでも自由に歩ける植生なので全く問題ない。少ないながら目印もあり、他に歩く人がいるのを知って少し安心する。しかし、なだらかな地形でどこでも歩ける樹林ときては帰りに迷うことは必定なので目印を頻繁につけていくが、それでも帰りに1カ所迷ったくらいだから要注意箇所だ。

 1880mピーク頂上はだだっ広く草付きで日当たりがいい気持ちよい場所だったが、目印もなくガスったらルートを失いやすい場所で要注意だ。もしかしたら昔シラビソ樹林を伐採したのかもしれない。東に下っていくと傾斜が増してとうとう笹藪が出現、かなり強烈で下りだから力任せに突破できるが帰りのことを考えると気が重い。どうも稜線直上より北側の方が笹が薄いようなのでやや北寄りを歩いた。帰りは尾根を北に大きく迂回して歩いた方が良さそうだ。

 

1784m鞍部から西を見る。笹藪酷し 1784m鞍部から東を見る。笹が薄い 1784m鞍部から登り笹が切れた尾根 標高1960m付近のガレ

 

 1820m小ピークまで来ると再び樹林帯になり、1784m鞍部から再び笹が出てくるが今度は踏跡(獣道?)の筋も見られ、笹の密度も段違いに低くなってもがくようなことはない。やがておとなしいシラビソ樹林に戻り笹から解放されホッとする。何となく踏跡があるようなないような状態が続き、目印がポツリポツリと現れるが、藪はさほどきつくないのでできるだけ尾根上を辿っていく。踏跡があってもシラビソの枝が両側からはみ出して道とは思えないような区間もあり、頭からシラビソの枯葉を浴びながら突っ切った。背中に枯葉が入ってくるのは藪山に来た醍醐味か。たまに倒木帯が出現すると状況を見ながら右左へと迂回したり突っ切ったりと状況に応じて進路を変える。

 

 地形図にも出ている標高約1960m付近の尾根南側がガレたところで視界が開け、天狗山への急斜面を見上げることになる。コンタが混んでいるように急な樹林帯できつそうだ。振り返ると1880mピークの向こうに遠ざかった風越山が遠い。踏跡はガレの縁を通っており、転落しないよう藪に近いところを藪に掴まりながら歩いた。ガレを通過すると草付き+樹林の急登りで小日影山や黒檜山を思い起こさせる光景だった。中アにしては珍しく笹の出現はなく、シラビソ樹林の何となくある踏跡を正確に辿っていくだけである。この距離で笹地獄だったら死ぬな。

 

2050m付近の岩の重なり。迂回せず登りやすい所から登る 天狗山山頂

 1カ所、花崗岩の巨岩が積み重なった場所に出て左を迂回しようとしたが登れそうなルートはなく、リスクはあるが登れそうなルートで岩の上に登ってみると南側は樹林帯になっていて安全に歩けた。気を付ける場所はここくらいだったか。なおも踏跡を辿ってシラビソ樹林を登り続け、傾斜が緩んで平坦になったところが天狗山山頂だった。

 地形図記載の山ではないので標識も三角点もなく、GPSにより間違いなく天狗山だとわかるだけだった。樹林で見通しはなくつまらない山頂だが、ほとんど登る人がいない貴重な山頂ではある。ここでも無線をちょっとだけ運用し、荘川村で移動運用をしていた知り合いの局と交信できた。なんと大日岳は真っ白とのことで、日本海側では今年初めて本格的な雪が来たようだ。

 

2110m付近の切り開き 蕎麦粒岳西尾根の切り開きと天狗山 西側直下から見た蕎麦粒岳

 

 さあ、ここまで来たからには蕎麦粒岳は楽勝で、中三ノ沢岳も希望が持てる。GPSの表示では蕎麦粒岳まで約1kmなので、30分もあればたどり着くだろうと考えた。どうも天狗山から先の方が踏跡がしっかりしているように思えたが気のせいか。でも部分的にはここ1年以内に切られたと思われる刈り払いがあったりして、風越山〜天狗山間より人間の臭いが濃いと感じた。ずっと昔に切り開かれた跡も残っており、一部は立派な登山道の様相を呈していた。そして森林限界を超えるとはっきりした刈り払いの道が出てきてビックリ! 新しくはないが、森林限界で木の成長が遅く、一度刈り払うと長年藪に覆われないで済むらしい。これを見て、この尾根は以前大規模に登山道の整備がされたと確信できた。おそらく、三の沢岳から道の跡がずっと続いているに違いない。

 

蕎麦粒岳山頂 蕎麦粒岳山頂から見た三沢岳と中三ノ沢岳 蕎麦粒岳山頂から見た御嶽山

 

 やがて目の前に岩峰が現れると右手が切れ落ち、少し藪側に寄って注意して通過、三角点が鎮座する蕎麦粒岳山頂に到着した。森林限界を超えているので見晴らしは360度遮る物はなく、三沢岳は目の前に大きく、手前のささやかなピークが最終目的地の中三ノ沢岳だ。南にはエアリアマップの蕎麦粒岳のゴツゴツしたピーク群、左手は上松から木曽駒に至る登山道がある尾根だ。この角度から見る風景は珍しいだろう。

 山頂の岩の下には緑色の瓶に入ったメモがあったが、湿って取り出せなかったのは残念だ。私もメモ紙でも入れようと思ったがすっかり忘れてしまった。ここでも無線を運用する。

 気温は思ったよりも上昇し、日差しもあって暑く水の消費が思ったよりも多くなってしまい残り僅かだ。時間は既に11時、日帰りの山だったらもう下山を開始する時刻だが未だ中三ノ沢岳まで到着していない。時間と水の節約のため、ここからアタック装備で往復することにして、雨具、防寒具も置いて食料、水、無線機だけ持って出発した。

 

蕎麦粒岳から二ノ沢のコルに下る踏跡 二ノ沢のコル コルから二ノ沢に下る谷(目印有)

 

 森林限界はすぐに終わって樹林になるが、部分的に踏跡が薄くなってルートを外して藪に突っ込んでは再びルートに乗るという繰り返しだった。でも帰りにここを登ったときはルートを外さなかったのでよく周囲を見れば何となく踏跡の雰囲気を感じられるはずだ。一直線に下るのではなく短い横への道もあるので要注意だ。

 

二ノ沢のコルから中三ノ沢岳方向へ登る踏跡 中三ノ沢岳西側の大倒木帯
中三ノ沢岳西側直下の踏跡 中三ノ沢岳山頂

 

 最低鞍部からは左の二の谷に向かって青紐目印が続いており、こっちから登る人もいるようだ、というか、もしかしたら二の谷がメインルートなのかも知れない。この先は道も目印も無くなるかと思ったら青紐は続いているし、相変わらずシラビソ樹林に踏跡も続いていたので一安心。最初の微小ピークを越え次のピークに登り、いよいよ最終ラウンドの登り。山頂直下では大倒木帯が出現し、ど真ん中の歩きやすい所を突っ切り、とうとうなだらかな場所に出た。GPSもここが間違いなく中三ノ沢岳だと告げていた。やっと到着だ!

 残念ながらここも樹林で視界はなく、標識も何もない寂しい山頂だった。少し東に行くと木の間から三の沢岳を見ることができたが手が届きそうな距離だった。踏跡は山頂から東にずっと続いており、どうやら本当に三の沢岳から下れるようだ。今度誰か挑戦して確認して欲しい。もうのんびりしている時間はないので急いで無線を運用、2度と来ることはない山頂を後にした。

 目印を付けながら登ってきたが、下山は踏跡を正直に辿れば良かったので全く目印に頼ることはなく蕎麦粒岳に到着。2回目の昼飯を喰って残り少ない水を飲んで出発、相変わらず踏跡を辿るだけで目印の出番がない。登りよりも下りの方が踏跡を外すことが少なかった。1784m鞍部から先の笹藪地帯は尾根右側直下の笹と樹林の境目を歩いて全く藪漕ぎなしで1880mピークに到着、下りもそうすればよかったなぁ。1880mピークからの下りが最大の難関で、だだっ広い尾根があちこちに分岐し、踏跡がない樹林なので登りで目印を付けてこなければ無事帰れなかっただろう。それどころが目印を付けたにもかかわらず1カ所で別の尾根に迷いそうになった。ここを歩くときには目印はたくさん用意した方がいい。

 やっと風越山に到着したのは午後4時過ぎだが、どうにか暗くなる前に登山口に到着できそうで安心し、最後の水を飲んで半ズボンに着替えて出発、もう傾いた太陽だが温かい西日を浴びながらガンガン下り、車に到着したのは5時前だった。

6:17風越山登山口-7:05カヤトの原-7:21風越の頭-7:17敬神からのルート合流-7:31また敬神からのルート合流-7:32風越山-7:39展望台着-7:57展望台発-8:21倒木帯-8:24 1880mピーク-8:37深い笹藪-8:47 1784m鞍部-9:07笹地帯を抜ける-9:26花崗岩の積み重なり-9:32刈り払い跡-9:48天狗山着-10:14天狗山発-10:21刈り払い跡-10:39森林限界-11:01蕎麦粒岳着-11:31蕎麦粒岳発-11:47二の沢のコル-11:58 2290mピーク-12:13 2368mピーク-12:31倒木帯-12:39中三ノ沢岳着-13:07中三ノ沢岳発-13:20 2368mピーク-13:35 2290mピーク-13:45二の沢のコル-14:05蕎麦粒岳着-14:13蕎麦粒岳発-14:26樹林帯に入る-14:29森林限界を超える-14:30樹林帯に入る-14:43鞍部-14:47天狗山-14:55花崗岩の積み重なり-15:02ガレ-15:08笹地帯-15:21 1784m鞍部-15:30 深い笹藪を巻く-15:42 1880mピーク-16:00迷う-16:07展望台着-16:13展望台発-16:18風越山-16:26風越の頭-16:56風越山登山口

 

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