木曽御嶽 小三笠山

 


 小三笠山は木曽御嶽田の原登山口近くの小ピークで、三笠山の南西にある。登山道はなく笹藪で、今年6月に御嶽の帰りがけに立ち寄ろうとしたが深い笹藪と谷、虫に阻まれ撤退した苦い経験がある。山頂渉猟の記述通り最初のカーブ近くで切り開きを探したが見あたらず、既に笹に埋もれて廃道化したのだろうと考え、今回は別ルートをとった。撤退の最大原因であった深い谷にぶち当たらないようできるだけ標高が高い場所で小三笠山から北に延びる尾根に乗ることにして、カーブではなくもっと標高が高い御嶽登山道から適当に藪を漕いでいこうと考えた。御嶽登山道から見る限り、土石流跡までたどり着けば藪はなくなりそうだ。なお、インターネットで調べても登山記録はヒットしなかった。

 気温が下がりそうだったので御嶽高原で寝て、朝食を取ってから田の原駐車場に向かった。こんな時期なのに登山口近くの駐車場はほぼ満杯で、まさか全員御嶽登山か?と不思議に思ったら登山口付近の散策客がほとんどだった。

 GPSを見ながら登山道を歩き、左に分岐する木道があったので左に入って進んでいくと木道は左に逃げて尾根から遠ざかってしまうのでそこから笹藪に突入する。最初は笹が薄くて簡単に進めたが徐々に深くなり、胸ほどの高さの密生した笹藪を漕ぎながら緩やかな斜面をトラバースしていく。背の高いシラビソ樹林に入ると笹が薄くなり快適に歩けるが、場所によってはシラビソの幼木+ハイマツ+笹の最悪トリオが出現して思うように速度が上がらない。これを帰りも通るとなると気が重い。こりゃ、無雪期に登るのが間違いで積雪期や残雪期にスキーで登るのが一番いいようだ。

 目印を付けながら歩いても全く地形に特徴がないし、樹林が深くて視界が得られず目印が見えず、相当な頻度で目印を付けない限りは同じルートを戻るのは不可能だろう。まさかここまで酷いとは思わなかったので準備した目印の数は多くなく、付けてはいるがあまり役立ちそうはない。しかし私にはGPSという最強の武器がある。目的の尾根上、数カ所の緯度経度を入力してきたので、そこを目標にして歩いていけば必ずその尾根に到着できる。このノッペリ地形+藪では読図も有視界飛行も不可能なので、GPSだけが正確な情報を教えてくれるナビゲータだ。

 

尾根上の踏跡

 水が涸れた沢を何カ所か横断するがきつい傾斜で落ち込んでいるので場所を選ばないと沢に下れないし登れない。南に下りすぎると深い谷が待ち受けているのは前回経験済みなので、できるだけ西へ西へと水平移動を心がける。そして目標にだいぶ近づいて、もう沢はないだろうと尾根っぽくなったところで南下も交え斜めに下っていくと驚きの光景が! なんと目的の尾根西側は笹が無く、踏跡があるではないか! 副林班界標識があり、今までの笹藪との格闘とは異次元の世界に迷い込んだようだ。この道はどこから続いているのか不明だが、標高が高いところに登らされても帰りはこっちの方が楽だろう。

 しかし、驚きはこれだけでは済まなかった。尾根を下っていくと右側からもっと太い道が合流し、とても立派な刈り払いが登場したのだ。さらに下ると左側から同程度の刈り払いが合流、もしかしたらこれが田の原付近のどこかから下ってくるのかもしれないので、帰りはそっちを辿ってみることにした。

 

藪皆無の土石流跡と小三笠山

 そのまま下るとすぐに樹林が切れて土石流跡が目の前に広がっていた。これは西側の御嶽崩れが崩壊したときの土砂が勢い余って谷を乗り越え目の前の尾根を乗り越え流れ下った痕跡なのだ。一瞬で広大な樹林と笹藪をなぎ払い土砂と火山礫で埋め尽くしたはずで、自然の力の大きさに畏怖の念を覚えずにいられない光景だ。おかげで藪が一掃されて河原のようになり、どこでも好きに歩けるようになったのだから土石流様々だが。

 10年くらい前に土石流が発生したはずだが、笹が生える気配はなく所々に唐松があるだけで、まだ10年とか20年は藪に覆われる心配はなさそうだった。草でさえほとんど生えていない不毛の地だ。淡々と歩いて目の前の小三笠山に取り付こうとしたが、土石流で押し流された流木が積み重なってジャングルジム状態、場所によっては突破不能なので倒木が少ない場所を選んで乗り切ると本格的な笹藪に突っ込んだ。でもここまで来れば残りの距離は僅かなので無理矢理笹を漕いで登っていくとシラビソ樹林の中に笹が切れたエリアが見えたので乗り移り、再び笹と格闘していよいよ急斜面の登りというところで笹が無くなって一気に突き上げると小三笠山山頂だった。

 

小三笠山北側の倒木帯 倒木帯通過後の笹藪 小三笠山山頂

 

 山頂は笹が切れているのは助かるが、シラビソ樹林で視界は全くない。標識類も全く無く、目印類も何もないので登る人は皆無に近いようだ。無線を準備して様子を探るとJP2NJS/2三重郡がいて、奥積さんと交信中、しかも私のことを話題にしてしゃべっているではないか! 何といいタイミングだろう(なぜかこんなタイミングがけっこうあったりする)。ただ、横浜の奥積さんは信号が弱くてかろうじて聞き取れるくらいなので、こちらの電波は弱すぎて奥積さんには聞こえないだろうな。案の定、割り込んで交信を試みたがあちらでは聞こえずじまいだった。吉原さんとはバッチリOK。

 無線の結果に満足し下山開始だが、田の原の方が標高が高いから下山=登りである。土石流跡までの本当の下りは笹があろうがグイグイ突破、倒木帯の抜け道だけ慎重に選んで無事通過する。鞍部から緩やかに登って尾根にとりついて樹林に入り、例の分岐で右に入る立派な刈り払いを辿ってみることにした。2人並んで歩けるくらいの完璧な刈り払いの道がずっと続き、GPSの表示を見ていると田の原方面に向かっているのは確実で一安心。心配だった沢の横断もみんな小さな沢ばかりで問題なく、場所によっては橋までかかっていた。そして目の前が明るくなり車道の下に来たことが分かったがいったいどの辺りに出てきたのだろうか? 上がろうとそのまま進むと突如として刈り払いが終了し、笹に埋もれた踏跡だけになっており、車道から見ても道の存在が分からないようになっていた。たぶん素人が御嶽登山道と間違って入り込まないような処置なのだろうが、これじゃ私が探しても踏跡が見つからないわけだ。

 

分岐 左は尾根を登る/右は田の原駐車場 こんなに素晴らしく刈り払われた道です! 刈り払い入口(枯れ木の横)

 

 その登山口の場所であるが、田の原に車で上がっていくと駐車場手前の最後の右カーブを過ぎて急に道幅が広がって左側が駐車場になるところで、御嶽山登山口から遠いので今のような登山者が少ない時期は車はいない場所である。駐車場といっても平坦ではなく坂道の途中だし人気がないのはしかたない。ここにコンクリート製で高さ50cmの小さい御嶽崩れの説明図があり、そのすぐ北側の太い枯れ木脇から踏跡が笹の中に下っている。ここさえ分かってしまえば私が体験した藪漕ぎは小三笠山直下のみで山頂まで楽々往復できる。累積標高差300m弱なので、健脚ならば累積標高差800mの木曽御嶽山剣ヶ峰往復後でも充分歩けるだろう。

 この刈り払いは何のための道なのかわからないが、おそらく御嶽崩れ崩壊現場の現地調査のために切り開かれたのではないだろうか。カバーが掛かっていたが観測機器らしき物もあったし、大規模な崩壊で今でも落石の音が聞こえるくらいで、土石流が流れ下った谷はえぐられ、大雨が降ると土石流発生の危険もあるだろう。防災上の理由で調査が行われても不思議ではない。そうだとすると相当長期間、この刈り払いは存在する可能性が高く、小三笠山登山道としての役割も長期間期待できそうだ。

7:12田の原-7:20藪に入る-8:05踏跡-8:10西から太い刈り払いが合流-8:11東から太い刈り払いが合流-8:48小三笠山山頂着-9:22小三笠山山頂発-9:30土石流跡-9:57樹林-10:01東の刈り払いに入る-10:17車道に出る-10:24駐車場

 

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