木曽川源流 小鉢盛山 2005年4月9日


 鉢盛山は木曽川源流に位置し、乗鞍岳と中アをつなぐ位置にある標高2400mを越える山であり、300名山か何かになっていたと思うので有名な山と言えるが、隣接する小鉢盛山には登山道が無いようで、ネットで調べたら積雪期に野麦峠スキー場から(位置が全然野麦峠ではない!)山スキーで鉢盛山に登る時のオマケの山の扱いであった。五六峰は日本山名事典に出ているが地形図記載でもなく、ネットで調べたらヒットしなかったが、鉢盛山で調べたらこの尾根を山スキーで登った記録はあった。この山域は登ったことがないので植生は分からないが、雪は多いだろうからたぶん標高の高いところは笹藪なのだろう。残雪期に登るのがベストな選択であろう。

 2005年は大雪の年で例年より残雪が豊富であり、四月に入ってもまだまだたくさん雪が残っていそうである。長野南部、中ア最南端の薊岳と前安平路山にでも登ろうと思ったが、小鉢盛山の方が積雪はずっと多く本格的な残雪の訓練になるだろうとそちらに出かけることにした。薊岳もあまり時期が遅いと雪が消えて藪が出てしまうのでのんびりできないが、あちらは登山道からの距離が短いので多少藪が出ていても我慢できるだろう。

 コースであるが、野麦峠スキー場は既に営業を終えているし、小鉢盛山から南に離れているのでスキー場から登るのは無駄が多く、金原集落から延びる尾根から登る最短コースが良かろう。どうせ残雪で藪が埋もれているなら好き勝手にコース取りが可能だ。標高差は1000m強なので日帰り可能なはずだ。

 一方の五六峰は、奈川ダム付近から大白川沿いの林道を少し入って適当に尾根に取り付いて登れば良さそうだった。標高差は約1100mだから小鉢盛山と同等だ。このくらいなら初日に小鉢盛山、翌日に五六峰と歩けるだろう。しかし、考えてみれば尾根続きなのだから両方いっぺんに登った方が効率的であり、どちらか片方の出発地点からピストンも考えてみたが、距離、アップダウンがあって雪の上を歩くのでは日帰りはかなりきつそうだ。そこで下山場所は異なってしまうが縦走形式とし、バスか自転車で車に戻るプランを考えた。地形図を見る限りはなだらかな地形が続き、先週の大笹沢山に引き続いてアイゼン、ピッケルの出番がないかも知れないが、鉢盛山北側の尾根などは人跡未踏とも言えるだろうし、ロングコースだから達成感はひとしおだろう。

 自転車を使うことを考えると奈川ダム側から登って南下、標高が僅かに高い金原辺りに下るのがいいだろう。残雪期にしてはなかなか歩きがいがあるコースとなりそうだ。問題は帰りの車道にアップダウンがあって自転車でも苦労しそうなことと、起点の大白川林道がどこまで除雪してあるのか(車を置ける場所があるか)であった。無ければ国道沿いで寝ることになるが、車がうるさいだろうなぁ。そう考えると逆回りの方がいいかもしれないが、それは現場で考えよう。

 自転車利用の問題もあるが、雪質の問題もある。過去の経験からすると、今頃はまだ残雪期としては早い時期で、南側で日当たりのいい場所では雪が締まっているが、北斜面の日当たりが悪い場所ではズボズボ潜って苦労すると予想される。奈川ダムから登ると鉢盛山まで北に面した尾根の登りが続き、気温が低い朝でも延々とラッセルの可能性がある。それに大して小鉢盛山からだと登りは概ね南斜面なので締まった雪面が期待でき、鉢盛山を越えて北側尾根に入ったら下りになるので少しくらい潜っても支障はない。だから金山を始点とし奈川ダムを終点とする方がリスクが少ない。自転車で苦労しても山中で楽した方がいいか。

 ちなみに旧奈川村村営バスが通っているはずだが、4/1に松本市に吸収合併されてHP改修中で時刻表が見られなかった。ただし古い時刻表を発見、それによると午前午後一本ずつなので、こちらの下山時刻と一致するかかなり怪しいから、やっぱ自転車を使った方が良さそうだ。時間に間に合わなくて10kmを歩くのはしんどい。

 会社が終わって急いで出発、松本ICで降りて国道158号線を西進、真っ暗なので残雪状況は不明だが、大白川林道入口でもほとんど雪が見あたらないのを見てこりゃまずいと思った。これでは取り付きは藪だろう。林道入口は施錠されたゲートがあるのでここで自転車をデポした。除雪で溜まった雪山以外は全く雪はなかった。雪が多いと言われるこの年の4月頭だというのに雪が皆無とは思わなかった。いったい、どこまで雪が融けてしまったのだろうか。

車道で入れる所まで入る 雪が残る車道を歩く

 次は車で金原まで移動、車を運転しながら自転車で走る道の様子を確認すると、最初からとんでもない上り坂が続いており、奈川村中心部に入ってからももう一つ上り坂があって、縦走から疲れ切って下った体でこの2つの坂を上るのは不可能と思われた。もちろん、武内さん並みの体力と精神力があれば別だろうが。しかも金原集落内で県道から分岐する林道も思ったより雪が無くてグングン奥まで入れてしまい、標高1250m付近でやっと雪が現れて車が進めなくなった。県道からここまで自転車で上がるのは不可能だろう。下に車を置いて朝歩いて上がればいいが時間も体力ももったいなく、縦走は止めて別々に登ることに決めた。結果が吉と出るか凶と出るかは登ってのお楽しみだ。

 翌朝は冷え込み窓は霜で覆われていた。寝不足で起きるのが遅くなってしまい、出発は6時近くになってしまった。もう1時間早く出たかったのだが長距離移動で睡眠時間が短いのだからしょうがない。最初は雪が残った林道歩きでよく締まってほとんど沈まず歩きがはかどる。雪があったり無くなったりと場所によって残雪状況が異なるが、周囲を見るとほとんど雪はなく、特に南斜面は全く無い。キャンプ場がある隣の尾根は南向きで白い物は見えなかった。さて、どのくらいまで登れば本格的残雪にありつけるだろうか。まあ、藪がなければ雪がある必要はないが。振り返ると乗鞍の剣ヶ峰、大日岳が真っ白な双耳峰を見せていた。

牧場が現れ、正面のピークめざし登る 1670mピークから1742m三角点峰の尾根

 地形図で車道終点となっている所を過ぎても道は続いており、標高が1200mを越えた場所で牧場が現れた。ここから斜面が急激に立ち上がるようなので、車道を外れて牧場の柵の横を登ることにする。牧草地?を過ぎると唐松植林帯で雪が現れ、僅かに潜るのでワカンを付けて登る。すぐに急斜面となるが危険を感じるほどではなく、ピッケルの出番はなくジグザグに高度を上げていく。谷筋の方が傾斜が緩いので右手に進路を取り、尾根が近づいてきたところで左手に戻ると小さな尾根に出て、僅かで小ピークに到着した。1670mピークらしい。山頂近辺は木がなく一面真っ白で、この調子で雪が続いてくれることを期待させる。ただ、日当たりのいい部分以外は踏み抜きが多いので、できるだ上空が開けた場所を歩いた。

1742m三角点峰のてっぺん

 1742m三角点峰へは北側の尾根を登るが、予想通り雪が締まっていなくて膝まで潜りながらの登りだ。三角点峰てっぺんはかなり広くて平らであった。一面真っ白で雪の下がどうなっているか不明であるが、周囲は唐松の植林が続いているので、下部と同様にまだ藪はないかも知れない。

1800m付近の尾根。シラビソ樹林で無雪期でも歩きやすい 1900m付近で笹と雪が出現 標高が上がると徐々に雪が増える

 

 東側の小鞍部に下り、細い尾根を登り始めると雪が減り地面が見えるようになる。左手は唐松の植林、右手はシラビソの自然林で笹藪はなく、雪の上を歩くより地面を歩いた方が楽なのでワカンを履いたままだが地面を歩いた。南アのような下草のない、気持ちのいいシラビソの尾根だった。このままどこまで雪も藪もないかと思っていたら、標高1900m付近まで笹の出現はなく、雪が増えると共に笹も増えてきた。しかし、残雪が多くなる標高がまさか2000mとは予想だにしなかった。まだ4月始めである、今年は例年より残雪が多いと言われるが、今年でこの雪では例年では4月になるとほとんど雪が残っていないのではないだろうか。3月ではまだ残雪期とは言えないよなぁ。雪も締まっていなくてラッセルではないだろうか。

 標高2000mを越えると本格的な残雪になり、下に笹があるのかないのかも分からなくなった。周囲はシラビソ樹林で高山の雰囲気、しかし相変わらず踏み抜きが多くワカンを着けても時々股まで落ち込んで脱出に一苦労するときもある。昨年はどこの山に行っても踏み抜きなんて無かったのだが今年はこんなことの連続だと苦しいなぁ。樹林が切れて日当たりがいい場所なら日中は日差しで雪が融けて夜間の低温で凍ってよく締まるのだが、深い樹林だとそうもいかないようだ。でも去年は大丈夫だったんだなぁ。

2250m肩直下から見た木曽御嶽 2250m肩直下から見た鎌ヶ峰

 2250m肩直下で立ち枯れ地帯が広がり、樹林が開けて木曽御嶽や乗鞍岳がすっきりと見えた。今日は空気の透明度が高いようで乗鞍の南側には飛騨の真っ白な山々が見えていたが、あの付近の山は知らないのでどこなのか分からない。2250m肩ははっきりした地形でGPSに頼らなくても場所が分かり、目の前の2287mピークは南を巻いて鞍部に直接出るルートを取るが、これまた踏み抜きで体力を搾り取られた。

2260m鞍部と2287mピーク 2260m鞍部から見た鉢盛山 2260m鞍部から見た焼岳、笠ヶ岳、霞沢岳
2260m鞍部から見た前穂、奥穂、槍 2260m鞍部から見た大天井岳から蝶ヶ岳 鞍部から山頂目指して疎林を登る

 

 2260m鞍部は樹林が少なく展望が良好な数少ない場所で、雪をかぶった槍穂や常念岳、蝶ヶ岳、そして懸案の小嵩沢岳もシラビソに覆われた黒い姿で見えている。鉢盛山の反射板は意外に近く見えているが、ここは林道が使える時期なら楽に登れるし、無線の飛びがいいようなので後藤さんや奥積さんと一緒に登りたいと考えて今回はパスだ。幅の広い尾根で一面の残雪、頭上に広がる青い空、これぞ残雪期の山といった風景で、木の密度が低くて全体的に日当たりが良く雪が締まって楽しみながら上を目指した。最後は尾根というよりタダの斜面だが、雪の上にワカンの跡がくっきりと残っているし、2287mピークが見えるので目印なしでも問題なし。そういえば今回は目印は1カ所も付けてこなかった。

小鉢盛山山頂

 待望の山頂はシラビソに覆われて視界はなく、文字の消えかけた山頂標識だけが出迎えてくれた。古いスキーの跡らしきものが残っていたが、スキー場から登ったのだろうか。1,2mの雪の下に埋もれているだろうから三角点は見あたらないが、GPSの表示や地形からすればここが山頂に間違いなし。早速無線の店を広げると吉原さんの声が聞こえたので声をかけると鈴鹿山系御池岳だった。あちらもまだ雪があるとのことで、標高は私が駐車したところと大差ないのだが、あちらの方が雪が多いようでビックリした。標高は同じでも麓と稜線では積雪量に差があるのだろうか。

 軽く昼飯を食べて出発、同じコースを戻るだけだが2287mピークを巻いたところで危うくルートを間違えるところだったが、GPSで場所を確認したら南に寄りすぎていたのでトラバースしながら西に進んだら自分の足跡を発見して一安心、あとは尾根が単純なので間違えることもなく下れた。ただし気温が上がってズボズボ潜ることが多くなったのには苦労した。下りなので重力の助けを借りて強引に足を動かせたが、登りでこれだと死ぬだろうな。三角点峰を越えて1670mピークから急激に高度を下げるところで残雪が多いところを求めて正確に尾根を辿り牧場に降り立ちワカンをしまった。しかし、その後の車道歩きが地獄で、ほとんど水平移動のところでズボズボ潜ったのは本当に疲れた!

 まだお昼だが奈川温泉「リフレ・イン奈川」に立ち寄る。乗鞍スーパー林道へ入る道を曲がったすぐにあり\500で貸し切りだった。Tシャツで首の周りが日焼けしたようでヒリヒリしたのには、もう春だなぁと感じさせる要素か。買い物のため波田町まで下り、明日の予定の大白川林道入口ゲートまで戻った。


5:47車−6:18牧場−6:56 1670mピーク−7:11 1742m三角点峰−8:42 2250m肩−8:48 2260m鞍部−9:10小鉢盛山着−10:12小鉢盛山発−10:22 2260m鞍部−10:29 2250m肩−11:13 1742m三角点峰−11:16 1670mピーク−11:31牧場−11:52車


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