木曽川源流 五六峰 2005年4月10日

 

 五六峰は日本山名事典に記載された山で、地形図やエアリアマップには無いので一般には知られていない山名だろう。私もどこにあるのか皆目見当が付かなかったが、カシミールで緯度経度から確認してみたら鉢盛山北尾根上の2173m三角点峰のことだった。もちろん登山道はなく、無雪期は笹藪に覆われているだろう。積雪期に鉢盛山に登るには野麦峠スキー場から登るのが一般的だから、積雪期でさえこの尾根を歩く人はほとんどいないと思われた。それでもネットで捜したらスキーの記録が一件あったが、下った先は大白川林道ではなく、こちらが計画した尾根の状態は不明であり、現地での出たとこ勝負だった。

大白川林道入口ゲート ゲート前T字路の駐車余地

 波田町で買い物を済ませて大白川林道ゲート前に戻り、暗くなるまで時間があるので仮眠。昨夜見たように周囲にほとんど雪は見られず、どこまで登れば雪が出てくるのか不安になるほどだ。藪さえなければ雪が無くても問題ないが、雪がない内に笹が出てくるとやっかいだ。夕方近くなって起きだして作業開始。車でノートパソコンを動かすための12V→20V昇圧用DC-DCコンバータが昨夜故障してしまい、パソコンの内蔵電池が動く短い時間で小鉢盛山のデジカメ写真転送とDVD鑑賞(というより消化か?)を楽しみ、酒を飲んで早めに寝た。明日の行程も長いので、できるだけ早く出発したいところだ。

 翌朝、起きると暖かくて雪の状態が心配だ。まずはゲート脇を越えて林道を歩くが、頭上に林道の続きがあるのにいっこうに高度が上がらないので斜面を登って上の林道に出た。これなら車の所から直接登った方が良かったかな。しかし、この段階で昨日の疲労が相当残っていることが判明、足が重くて出だしから疲れる。これで本当に山頂までたどり着けるのだろうか? それとも体力以前に藪で撤退か。藪+疲労だったら最悪だな。

 大白川上流向けて歩くと支流の沢を林道が横断するところがあり、その先の顕著な尾根が予定の尾根かと思ったが、地図で確認するとその尾根ではなく沢を渡る前の小尾根を登ることになっている。とても尾根という感じではない広い地形であるが、上を目指せば尾根が狭まってくるので間違える心配もないからどこを登っても同じだろう。こんな地形での問題は下りだが、GPSで車の位置を入れてあるし、そこへは顕著な尾根はなくどこを歩いても大差無さそうだから磁石で方位を確認しながら適当に下っていいだろう。等高線に沿って広い範囲で林道が巻いているので、適当に下ってもどこかで必ず林道にぶつかるはずである。

取り付きは露岩+シラビソ樹林 とうとう雪がないまま笹が登場

 林道を外れて花崗岩が積み重なった崩壊地から尾根に取り付く。藪はないので歩きやすい所を選んで急斜面を上を目指す。すぐに巨岩で直登できなくなり、左手を迂回して上部に出ると小尾根に出て、笹のない岩混じりのシラビソ樹林帯になった。雪は全くないが、この急斜面では無雪の方が都合が良く、笹もないのでこれまた無雪のメリットだろう。問題はいつまでこの植生が続くかであるが。時々尾根上は岩壁で直登できなくなるので、獣道に従って右側を巻きながら進んだ。人間の目印やゴミは一切無く、人跡未踏のエリアのようだ。

 再び小尾根に乗って東に向かってグングン高度を上げる、と言いたいところだが、足が重くて思うように進まず、小刻みに立ち止まりながらだましだまし歩くような状態だ。傾斜がきついのでこんなペースでもそこそこ標高は上がっているだろうか。やがて恐れていたように雪を見ないまま笹が出現してしまうが、少し進んでも猛烈な密度ではなかったので我慢して笹をかき分けながら登るが、疲労と重なって精神的にはいつ撤退するかの判断に迷うばかりだ。少しでも笹の薄い場所を探して右に左へとコースを変えるが、劇的に濃いところはないが薄いところもなく、どこでも同じ程度だった。所々オアシスのように笹が薄いところはあったが。

こんな感じの笹藪が続く 1636m三角点直下。一番笹が深い 1636m三角点で残雪にありつく

 

 大した藪漕ぎではないので我慢して登り続けると傾斜が緩み、突如としてはっきりした尾根に出て笹藪が急に深くなってこりゃもう撤退だと思ったが、同時に待望の残雪が出た! 予定通り1636m三角点がある太い尾根へはい上がったのだ。今までの斜面は南西を向いていたの雪解けが早く完全に雪が無くなっていたが、尾根の反対側は一面の銀世界で別世界のようだった。こりゃ、登るべき尾根の判断を間違えたかな? でも長野中部のこの標高でこれしか雪がないなんて考えもしなかったのだからしょうがないか。GPSにより三角点の場所の±数mにいるはずなので周囲を捜したが、残雪の下なのか笹の領域には見あたらなかった。

1700m〜1920mまでは笹が薄い尾根

 これで笹から解放されるのでワカンを着けて尾根中心より北東側の残雪上を歩くことにしたが、気温が高く(+5度)雪が腐って潜ること! でも笹藪漕ぎよりはマシだと歩いたが、場所によっては膝までの踏み抜きの連続で、こうなるとまだ藪漕ぎの方が楽なので残雪と笹藪の境界を歩いたり、ワカンのまま笹藪を歩いたりする。高度が上がると笹の密度が下がって場所や、全く笹のない気持ちのいいシラビソの尾根になったりして、笹が薄くなってからはワカンを脱いでしまい、1920m肩まではほとんど雪の上は歩かなかった。結局、三角点付近が一番笹が深かったようだ。もちろん、完全に雪に埋もれていた1920m以上の笹の状態は不明だが。

1920m肩の水平尾根

 1920m肩直前までは雪がないが、水平領域で一気に雪が増えたのでワカンを着け、それ以降は地面を見ることはほとんどなかった。相変わらず雪の状態は最悪で踏み抜きが多く、傾斜がきつくなるところでは足下が崩れていっこうにはかどらない。尾根左手は落葉樹林で開けて日当たりがよさそうで雪が締まっている可能性があったが、傾斜が急なので登れず、右手のシラビソ樹林で踏み抜きと格闘が続く。尾根が北を向いているのでしょうがないのか。こういう場所こそスキーなら潜らずに楽なのだろうに。

2050mで太い尾根に出る。帰りは要注意 2100m微小ピークから山頂方向 あるのは自分の足跡だけ

 

 もうバテバテになっていつ山頂に到着するのか、GPSの高度表示と距離を見ながら牛歩戦術を続け、どうにか2050mに出ると残雪の量が一気に増え、季節風の風下になる左手には雪庇が発達するようになった。この尾根が主尾根なので帰りは気を付けないとここを下ってしまうので目印を付ける。雪の上に残った自分の足跡を辿れば間違えることはないだろうが。これだけ潜ってくれるとどれだけ気温が上がっても一日で足跡が消える心配は皆無だ。

 もう山頂は近いが、やっと雪が安定することが多くなり、楽に歩ける時間が長くなった。それでも階段状の雪棚直下はボカボカで股まで潜ってやっかいだった。ピッケルを刺しても手応えが無く軽々と刺さってしまうので体重を支えられずにそれこそもがくばかりだ。棚の上に上がるととたんに雪が締まりピッケルも先端しか刺さらないくらいで快調だ。2100m微小ピークからは雪庇の残った真っ白な稜線とそれに続くシラビソに覆われた山頂が見えた。雪庇の先端ほど日当たりがいいが寄りすぎると崩れて転落するのでほどほどの距離を歩くようにすると潜らずに済むが、所々雪の下にクレバスがあるようで時々ズボっと潜ることも。2120mでもう1つ太い尾根に乗れば山頂は目前で、はっきりと最高点と分かるような山頂に到着した。

五六峰山頂。樹林で視界無し

 予想通りシラビソ樹林で視界はないが、雪庇がせり出しているので東だけは樹林を通して下界が見えるが、昨日と違って空気の透明度が悪く霞んでしまっている。ワカンの跡やスキーの跡もなく、最近数日は通過した人間はいないようである。エアリアマップにさえ掲載されていない山なので山頂標識はないが、最高点に間違いないしGPSでも誤差10mだから誤認はあり得ないだろう。本当に疲れた! たった4時間だが、無雪期でちゃんとした道がある山を6時間歩くよりも疲れた。昨日の小鉢盛山がなければここまで疲労はしなかっただろうが、それでもこの雪質では苦労しただろう。もっと早く三月中に登った方がいいのだろうか。

 めでたく山頂に到着できたので無線を運用、携帯電話で知り合いにメールを送ると御在所岳の吉原さんから天気が悪くて小屋にいるとの情報がもたらされたが、こちらは西風は強いが快晴で雨の気配はこれっぽっちもなかった。ただ、小鉢盛山には低い雲がかかっていたが、上空は青空なので天候の崩れはないようだ。

 休憩をして下山を開始したが、覚悟していたように雪質はもっと悪くなり踏み抜きが多くなってスピードが出ない。でも登りと比べたら天国で、重力の助けを借りて強引に足を引き抜く、といいながら抜けないこともあるのだが。遠回りになってもできるだけ日差しがある場所を選んで歩くようにしても、北向きの尾根で日差しが強くはないので踏み抜きは避けられなかった。こうなると笹が深くても下りなら強引に藪漕ぎした方が楽なので、1920m肩でワカンを脱いでからはほぼ雪の上を歩かずに笹との境界や笹の中を歩いて1636m三角点に到着した。ここから雪の残る尾根を外れて一面笹の斜面を目印を頼りに下っていき、途中からは方位磁石とGPSを頼りに駐車地点めがけて直線的に下った。登ったときと違う尾根だが地形は似たり寄ったりで笹が無くなると岩っぽいシラビソ樹林で、尾根を正直に辿ると絶壁で下れなくなる箇所があるのでGPSで位置を確認しつつ右へ左へと迂回しながら藪のない急斜面を下り、久しぶりに人工物である石垣を見た直下で林道に出ると、その下に駐車した車が見えたので林道をショートカット、急斜面をまっすぐ降りてゲート前に戻った。

 

竜島温泉 せせらぎの湯(\500) お薦め

 帰りの途中、波田町の竜島温泉に立ち寄ってみることにする。以前から看板は何度と無く見ているが、日帰り温泉施設ではなく宿だろうとばかり思いこんでいたが、昨日の買い物帰りに見たら広い駐車場にたくさん車が止まっている平屋建ての施設が見え、ありゃ日帰り温泉施設では無かろうかと感づいたのだ。看板に導かれて右折、立派な橋を渡って水力発電所前を通過して広い駐車場へ。今年四月から値上がりしても\500(それ以前は\400)とのことで妥当な線だ。沢渡より上流にある白骨温泉や坂巻温泉などより知名度は低いが、日帰り専用?でジモティーが多く穴場的存在だ。休憩所は混雑していたが浴室は空いており快適だった。これからはこの方面の帰りには使いたい温泉だ。


5:30大白川林道ゲート−5:43斜面に取り付く−6:07笹が出てくる−7:06 1636m三角点−7:56 1920m肩−8:47 2050m−9:14五六峰着−10:01五六峰発−10:17 2050m−10:35 1920m肩−11:02 1636m三角点−11:17笹が終わる−11:39林道−11:42大白川林道ゲート


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