中ア南部 アザミ岳、前安平路山

(おまけで摺古木山、シラビソ山、安平路山、風穴山)

 2005年4月16〜17日

 


 中央アルプスはほとんど登り尽くし、残りは新たに日本山名事典に記載された山がほとんどだが、アザミ岳だけはコンサイス山名事典に記載され、以前から残っていた気になる山だ。ネットで調べたら僅か数件だが記録があり、大型連休終わりに登ってだいぶ笹が出ていたとの記述があった。ただし、この時は林道終点まで車で入れたとのこと。摺古木山の近くであるが登山道は廃道化し笹が深く、楽をするために残雪期に登ろうとして時期を待っていた。また、日本山名事典に記載された安平路山南側にある前安平路山も笹が深そうな山で、残雪期でないと死にそうな植生と思われたので、アザミ岳に登るときに一緒に登るのがベストと考えられた。

 

 ちなみに両者とも山ランで登った人間はいないと思うが、難易度が高いからではなく、これだけの山のために時間をかけるのがもったいないからであろう。上位陣は主稜線上の山はほとんど登り尽くしているだろうから、アザミ岳のためだけとか前安平路山のためだけに一日を費やすことになり、非効率的だ。私の場合はこだわりがあるので数が稼げなくても2000m峰を優先して登っているのでこんなことができるが、2日かけて2山しか稼げないような山登りをやっていると後続部隊に追い越されてしまうだろう。でも山の渋さから言うと今回はなかなかのものだろう。アザミ岳なんてその筋では知られた山だろうが、実際に登ったという人は少ないだろう。恵那山を除く中央アルプス最南端の2000m峰だから注目する人もいるだろう。

 先週の鉢盛山周辺の疲労がまだ抜けていないので、残雪期に適した山の中でも楽な場所を考えた結果、1泊でアザミ岳と前安平路山が良かろうとの結論に達した。問題は林道がどこまで入れるかで、終点まで入れてしまえば場合によっては日帰り可能であろうが、そうでない場合はテントを担ぐか安平路避難小屋で宿泊となろう。ただ、この時期の中ア南部の積雪状況は皆目見当が付かず、絶対に雪があるだろうが小屋のドアが埋もれるくらい残っているのか出入りに問題ない程度なのか不明だった。ネットを捜しても4月中旬の記事は皆無で、今年は例年より残雪が多いはずなので小屋に入れない危険性を考慮する必要があるだろう。ピッケルを持っていくのでドアを掘り出すこともできるかも知れないが、入口は西向きで雪が吹き付けて吹き溜まりになっている可能性もあるから、ツェルトくらいは持っていこう。

 なお、林道は残雪状態は全く読めないし、もし雪が無くても雪解け直後で入る車もほとんどいなくて路面は荒れているだろうと予想された。大型連休直前くらいにグレーダーで整地?するらしいが、それも期待できないだろうから、現場にて無理しない範囲で車は諦めるのがいいだろう。花崗岩が風化した砂礫で水はけはいいから泥濘がないのだけは救いだろう。その代わり風化した砂の中に埋もれた花崗岩の法面が続くので、雨が降ったら花崗岩が転げ落ちてくることもあるが。雪解け直後で地盤が水を含んで緩んでいるから落石の危険性を考えるべきだろう。まあ、ダメだったら6kmの歩きを加えればいいので、時間はかかるが登れないわけではない。車で入れた距離がそのまま楽をする距離になる。

 飯田は東京から遠く、大平は飯田ICからも遠い。しかも細くウネウネした山道でスピードが上がらず時間がかかる。夜間は対向車がライトで遠くから見えるので対向車を気にせずガンガン走れるから楽でいいが、帰りは気を付けないと危険だ。特に大平から飯田峠の間はカーブミラーもないので、馬鹿なドライバーが道の真ん中を走ってきたらこっちが徐行していない限り避けようがない。げんに帰りにそういう車が1台いた。道幅は狭くないのだからお互い道路の左半分を走行していれば問題ないのに、カーブで堂々と?真ん中や反対車線に突っ込んでくる車がいるから困ったものだ。見通しの悪い道の場合は夜間走行の方がずっと安全なのは何という皮肉なことだろう。

 県道走行中、僅かに残雪を見たがほとんど無いも等しく、これなら林道の雪もかなり雪が少ないと予想できた。雪はほとんど見なかったがカモシカを2頭目撃した。舗装道路をうろついているくらいだから数の多さがうかがえる。大平廃村で標識に従って右に曲がるとしばらくは舗装道路で(すっかり忘れていた)両側から笹がはみ出しているが路面自体に問題はない。すぐにダートになるがまだ不安になるような路面ではなく、速度を落としてデコボコを避けながら上がっていく。巨大な落石があるが車が通過できる隙間があるのでそのままになっている箇所もあり、帰りが不安になる。1207m標高点で「路肩崩壊のため前面通行止め」の看板が出てくるが、終点まで入れるとは最初から考えていないので、入れるところまで入ってみることにする。

車を止めた場所付近の林道(除雪直後)

 全般的に谷は南に開けているので日当たりは良く、黒川を渡るまで雪はないと予想していたが部分的に残っている場所があったのは意外で、さらに、その雪が除雪されていたのはもっと意外だった。これだったら終点まで行けるかも知れないと進んだが、除雪の幅は車1台が通過できる幅しかないし、雪解けが進んで道はグジャグジャで、花崗岩が風化した砂が中心とはいえ、これだけ水を含んでいたら下手に止まったらスタックは必至なので1速に落として慎重に通過した。1404mのジグザグは酷いデコボコだが乾いているのでかえって気楽だ。しかし1480mカーブはかなり水気を含んでおり、一部の雪が路面を覆っていて半分スリップしながら通過したほどで、帰りが不安なので今の内に安全圏内まで車を戻し、車3台くらいが駐車できる路肩が広くなった場所で仮眠した。不安材料を抱えたまま寝るよりは多少歩きが増えても安心して寝たり縦走に出かけられた方が精神衛生上よろしい。

 翌朝、5時に起きて飯を食って出発。色々考えた結果、地形的に傾斜がきついところはないのでアイゼンは不要と判断してワカンにピッケルだけにして軽量化を図ることにする。なにせガスボンベの残りが少なく、雪を溶かして水を作るのに必要な燃料を考えると不安があり、カセットコンロのボンベが使えるコンロにしたので重くなってしまったからだ。EPIガスボンベを買ってこないといけないな。ピコ6は試運転したら電池切れのようだったので430だけ持っていくことにした。これでもかなり軽量化できたはずだ。ただし、厳冬期用シュラフに防寒着なので重さは相殺されたか。

落石超危険地帯。1日で落石が増えていた 林道終点の休憩舎

 除雪がどこまで進んでいるかと思ったら標高1570mの赤谷を渡る橋までであり、その先は雪で覆われていた。車のデポ地点の選択は悪くなかったようだ。2年前の秋に袴腰山までピストンしたときに車を置いた、黒川を渡る橋の手前の広場も真っ白であった。その先の林道は南面は雪無し、カーブは真っ白と半々くらいで、終点の休憩舎駐車場は半分が雪に覆われていた。その途中に何カ所も法面があるが、特に一カ所は広範囲に渡って風化した砂が露出し、細かな落石がいくつも落ちている危険箇所があった。私がここを通過した当日に重機で除雪&積もった砂礫の排除をしたばかりのはずであるが、翌日下山時に歩いたらもう落石が落ちていたくらいなので、この手前の広場に車を止めていくのが無難だろう。落石で道を塞がれて出られなくなったら悲惨である。あわよくば途中の適当な尾根からアザミ岳に直接突き上げようと考えていたが、そこまでは雪は多くなく、遠回りになるが夏道で標高を上げてから尾根を南下することにする。ちなみに小屋から正面に見える山がアザミ岳であることは帰りに分かった。

摺古木三角点峰へ直接登るルート分岐 デポ地点から見たアザミ岳

 登山道に入ってしばらくは夏道が出ていたが、標高が上がって1900m付近になるとかなりの部分が雪に覆われてしまい、斜面を巻いている夏道も埋もれてルートがはっきりしない。たぶん一般ハイカーなら完全に道を失うところだろうが、私は既に2往復ここを歩いているのでおおよその道の付き方は知っており、木の間隔等でも道の在処が何となく推測できるのでほぼ正確に夏道を辿ることができたようで時々埋もれた標識が出てきた。場所によっては急斜面のトラバースでアイゼンが欲しいところだが、持ってきていないのでピッケルとワカンの歯で踏ん張る。まあ、ここなら滑っても谷が浅いので怪我もしないだろうから恐怖心は感じないが、横に斜めになったところを歩くので足への負担が大きい。これじゃまっすぐ上がって尾根に突き上げた方が楽ではないだろうか。帰りのルートは考えた方がいいかな。

 摺古木山山頂へ直接突き上げるルートと分かれてから先は歩いたことはないが、地図では巻道が続くし、ここで上を目指しても摺古木山に上がってしまうのでトラバースを続ける。やがて赤テープが現れるようになると巻道が終わって雪に埋もれた谷筋を登り始め、太い尾根というより高原状のなだらかな場所に出た。地形図を見ると2090m地点らしく、ここでアタック装備にしてアザミ岳を往復することにする。だだっ広い地形なので荷物を発見できるか不安があるのでGPSに現在位置を記録する。積雪は1m以上あるだろうか、一面真っ白で笹のさの字もない。今のところ雪の踏み抜きも無く快適に歩けている。

2100m付近から見たアザミ岳

2050m付近の稜線から見た摺古木山。雪庇状の残雪歩きが楽しい

2010mピークから見たアザミ岳。手前の丘が1995m峰

 

 アザミ岳に達する主稜線はここより西側の尾根なので、小さな谷を越えてそちらの尾根にはい上がり、たっぷりの残雪の尾根を南下する。先週の悪夢のような踏み抜きが多かったのとは対照的に雪庇状で固く締まった雪で快適! やっぱ残雪期はこれでないと来たメリットがない。アザミ岳は見おろす位置にあるが、思ったより残雪が少なく笹が出ている部分が多く見え、はたして笹藪漕ぎなしで歩けるのか不安があった。ただし、この尾根はまだ標高が高いので当面は大丈夫だろう。特に東側斜面に逃げれば問題はないだろう。

1995mピーク山頂。花崗岩が目印 1970m微小ピークの登り アザミ岳山頂。文字が消えた標柱がある

 

 小さな雪庇が残る尾根を正直に歩いて徐々に標高を下げていき、1995mピークで少しだけ登りにかかる。ここは右手の斜面は既に笹が露出しているので左手から回り込むように山頂を通過、笹と花崗岩があるだけで人工物は見あたらなかった。ここで進路は西に曲がって雪の量がぐっと減り一部笹藪を突破する。風下になる南の方が北斜面よりも残雪が多いようなので南にトラバース気味に下って最低鞍部付近から尾根に戻ると再び笹の出現だが10mも満たないで残雪にありつく。1970m微小ピークは少し痩せた雪庇登りで展望を楽しめる。その後は残雪が続く快適な尾根を適当に登って行くとアザミ岳山頂に到着した。

 山頂は思ったより広くて平坦な場所で、意外にも文字が消えた標柱が立っていた。一面の雪原なので夏道の有無は不明だが、たぶん笹原なのだろう。今回は笹の上を歩いたのはわずか数10mだが、最近の気温から考えると来週は全体の1割くらいで雪が消えてしまうだろうか。ただ、風下側に雪田は残るだろうから遠回りになってもそれらをつなげて歩けば楽できるかもしれない。大型連休にもなると1/3くらいは笹が出るだろうか。今年は積雪が多いはずだが、それでこの残雪だと例年だったら大型連休では笹藪漕ぎが待っていると思われる。林道の除雪と稜線上の残雪が融けるのとの競争だ。ただ、出ている笹を見ると松川乗越や与田切乗越のような強烈な密度ではなく、高さも腰ほどなので良好な視界の中で適度に笹と戯れる程度だろうか? 先週の五六峰の笹の状態と同等であろう。

 今回の無線は430なので名古屋の連中とつながるかと思って声を出したが応答はなく、代わりに知多郡の局から声がかかった。

アザミ岳から見た摺古木山。南斜面を見るので雪が少ない

摺古木山西側尾根の階段状雪庇

摺古木山山頂 積雪1mくらい?

 

 さあ、デポ地点まで戻らないと。気温が上がって雪が緩んで来たが、先週と違って踏み抜きはほとんどなくて融けた雪を5cm程度潜るだけでかなり楽に歩けた。主に南向きの尾根で日当たりがいいからだろうか、こうでないと残雪期に登るメリットがない。GPSを使うまでもなく無事荷物をデポした地点を発見、小休止して安平路避難小屋を目指す。まずは摺古木山西峰を目指して夏道らしき筋を登っていくが、時々赤テープがある以外は一面の残雪でルートははっきりしないが、笹が埋もれて自由に歩けるので夏道ルートに拘る必要はない。ピークを越えて東の尾根に取り付くと階段状に雪庇が発達していた。こんな南の方の山でもなかなかの積雪で、おそらく小鉢盛山よりも多いような感じだ。主稜線でもろに風が吹き付けるからであろうか? たどり着いた摺古木山は、東端は3mくらいはあると思われる雪庇に覆われており、山頂標識は雪面ギリギリの高さだった。ここから南アがよく見えるはずだが空気の透明度が非常に悪く、霞んでしまってほとんど見えなかったのは残念だ。空木、南駒付近はよく見えていた。

摺古木山北尾根。ここも階段状雪庇 指まではっきり残った熊の足跡 シラビソ山山頂

 

 この先は夏道ルートだが完全に雪に埋もれて夏道の有無などわからない程だった。積雪はたぶん平均1m程度で場所によっては2mくらいではないだろうか、それほど多くはないが道の気配を消すには充分な量だ。意外にもトレールは皆無、連休前はほとんど人が入らないのだろうか。まあ、尾根を外さぬよう歩けばいいので、夏道は気にせずに歩きやすい所を歩こうと適当に歩いていると熊の足跡を発見。こんな雪山では餌なんかないと思うが、毎年残雪期になると熊の足跡を見かけるんだよなぁ。私が登る山はそれだけ人里離れた変な山ということなのだろうか。個人的感覚では残雪期の山に熊の足跡があるのは当たり前のことに思えるのだ。

 

 シラビソ山はなだらかだが長い山で、雪が緩んでワカンを着けていても徐々に沈む深さが増してきたこともあって2250mピークでたまらず休憩、昼飯を喰う。天気は朝から快晴が続き、顔が焼けそうだ。シラビソ山の山頂標識もかろうじて顔を出していることから積雪は1m弱という感じだろうか。この先は尾根が広くなり夏道がないとルート判断が難しい場所で武内さんが迷ったのもここだろう。なだらかで樹林が深くて先の状態が見えないので読図が必要だ。磁石で方位を北に振り、周囲を見ながら尾根を外さないよう歩き始めたが途中で不安になって戻った場面もあったほどだ。でも選択したルートは正しく、下るに従って尾根がはっきりとしてきた。夏道は全く分からず、時々幼木の密集地帯に突っ込んだりする。

半分埋もれた安平路避難小屋と安平路山

 GPSで小屋までの距離を確認しながら歩いていたので騙される心配もなく、尾根を下っていると樹林が開けて小屋の赤い屋根が見えた。ようやく本日の行程が終了である。問題は小屋に入れるかどうかで、入れないようなら樹林帯にツェルトを張らなくてはならない。小屋は半分埋もれているがドア付近は雪解けが進んでおりちょっと掘ればアクセスできそうだった。試しにドアに手をかけてみたがびくともしなかった。やはり掘らないといかんかなぁと思いつつ他に入口がないか探索したら、窓の鍵がかかっていなくて入れる場所が2カ所あった。行儀が悪いが窓から出入りさせてもらうことにした。中に入るとひんやりとした空気であるが、半分埋まっているから雪で断熱されているようなものだから夜間の冷え込みはさほどないかもしれない。スコップがあったのでドアを掘ったが、雪の重みが原因なのか、小屋自体が上から圧縮されたようにドアを上下に押していてスライドしなかった。まだ雪が融けたばかりなので、もしかしたら日数が経過すれば元に戻るかも知れない。時間があったので室内の日当たりを良くすべく、雪に埋もれていた西側の窓の前を掘っておいた。

 この小屋は10年前の梅雨の時期に安平路山に登った際に利用しているが、その時は午後から雨となり、東風に吹き付けられた雨が窓周辺から水となって小屋内部に浸水した記憶がある。そこで新聞紙やガムテープで隙間を埋める応急処置をしたのだが、なんとその時の赤いガムテープが今でも壁に張り付いているのを見て驚いた。世の中広しといえども赤いガムテープを使うのは少数で、某山下さんの物に間違いないだろう。

水場分岐点だけ地面が出ていた 水場の沢は雪の下だった

 水は沢の水を得られれば燃料節約になるので、暖まって柔らかくなった雪に苦労しながら水場に行ってみたが、水源の谷は完全に雪に埋もれていた。これだけ苦労して歩いてこれでは馬鹿みたいだ。小屋に戻って雪を溶かして4リットルに水を作った。残雪期の雪にはゴミが多いはずだが、小屋周辺は樹林が開けている影響かきれいな水が得られた。

 やることがないので昼寝をして時間を潰し、暗くなる前に酒を飲んで寝た。もしかしたら誰かやってくるかと思ったが私一人だった。天気予報では明日も快晴らしい。長野全域には霜注意報がでているとのことで、明日朝は冷え込みそうだ。雪が締まって歩きやすくなるのは大歓迎だが、下界の20℃に体が慣れてしまったせいか、寝袋に入っても寒さを感じるためツェルトにくるまって寝たが、こいつは効果があった。それでも週末から鼻風邪気味だったのが症状が悪化し、花粉症以上に鼻づまりが鬱陶しかった。

 翌朝、起きると室内温度は−3℃、冷えている。昨日作った水もうっすら凍っていて冷え込みの程度がわかる。5時だと充分明るくなっており、ラーメンを作って食べて体を温めて、アタック用ディーパックに水だけ入れて出発だ。今は水だけだが、歩いている途中に暑くなってこの中は防寒着で膨らむだろう。

 冷たい西風が強く、耳を覆う帽子のようなものをかぶって歩く。水場分岐の尾根上だけ地面が露出していたが他は一面の雪で、良く締まってとても歩きやすい。相変わらず夏道がどう付いているのか分からないが、帰りのことを考えてわかりやすいルートを登る。広い尾根でどこを歩いたらいいのか判別しがたいが、北寄りに登ると急に落ち込んでいるのではっきり尾根境界がわかるのでそこを登った。時々目印を見かけたが夏道の目印なのか不明だ。雪は表面がクラストした歩きやすい状態で、ワカンは全く沈まず舗装道路を歩くようでグングン高度を稼げる。笹は埋もれてどこでも自由に歩けるので適度な傾斜になるようジグザグに登れる。夏道と違って自由度が高いので、もしかしたら無雪期より短時間で登れるかも?

安平路山山頂 安平路山南の2310m峰 2310m峰北側から見た浦川山、南駒、木曽駒

 

 ようやく傾斜が緩むと安平路山山頂に到着、山頂標識は雪の下に埋もれて一面の雪原だけだった。ここに立つのは4度目になるが雪が残る時期は初めてだ。写真を撮って先を急ぐ。雪の状態がいい時間にできるだけ距離を稼ぐのが得策だ。南に延びる尾根の出だしはタダの斜面なので、尾根がはっきりするまでは慎重に下る。最初はシラビソの密林だがやがてばらけて視界が開け、尾根がはっきりと見えるようになればしめたものだ。2310mピーク北側は樹林がほとんど無くて見晴らしが良く、北に続く主稜線の山々もくっきり見えている。袴腰山までの笹藪の斜面も一面真っ白で、今の時期なら奥念丈岳まで楽に往復できるのではないだろうか。松川乗越のあの笹藪が埋もれているんだからなぁ。彼方には木曽駒も見える。与田切乗越は南側から見るからか雪は見えないが、おそらく北側には残雪があるだろう。あそこの笹も難儀したなぁ。

2310m峰。細いシラビソのジャングル 2310m峰南尾根西側は笹が出ていた 2310m峰南尾根東側は残雪

 

 2310mピーク上は細いシラビソのジャングルで木の隙間が狭く歩きにくいが、こんなところで赤テープを発見、その後も点々と残っていたが、モノによっては雪面近くもあったので、これを付けた主は無雪期かもっと雪が少ない時期に歩いたらしい。下り始めると再び大きなシラビソに覆われて歩きやすくなるが、右手の西斜面は幼木が多く、場所によっては雪が消えて笹が出てしまっている場所もあった。雪の上にはカモシカの足跡だけでなく熊の足跡まで残っていた。昨日日中の雪が柔らかくなった時間帯に歩いたようで5本指までくっきりと残っていた。その近くでカモシカと遭遇したが、走って逃げていってしまったため写真撮影はできなかった。そういえば昨夜の林道でも2頭のカモシカを見たが、中央アルプスはいつ来てもカモシカが多い。

2310m峰南尾根の熊の足跡 前安平路山への登り 前安平路山から見た2310m峰

 

前安平路山山頂 謎の「反射板」標識 2220m峰。もしかしたらここに反射板があった?

 

 もったいないほどぐんぐん下って最低鞍部から残雪を伝って登り切ったところが前安平路山だった。エアリアマップにも無いので標識も何もないが、地形及びGPSからここが山頂に間違いない。来る途中、この先に樹林が切れた広い雪原が見えたのでそちらに行ってみることにし南下すると「反射板」なる立派な標識を発見! もしかしたらそこに反射板があり、そこに達する夏道があるのだろうか? 期待しながら進むと2220mピークに到着、ここが広い雪原だった。しかし反射板は見られず、一体どこにあるのか見当がつかない。もしかしたら昔ここに反射板があったのだけど、他の通信手段が整備されたので撤去され、開けた場所だけが残っているのだろうか?

 せっかくなのでこちらで無線運用、まだ朝7時だが、昨日と同じ局からコールがあった。

2310m峰北側鞍部から見た安平路山

摺古木山から見た安平路山、前安平路山

 さあ、これで目的の山は完了した。今度は車までの戻りだ。その前に安平路山を越えなければならず、エッチラオッチラと2310mピークを登り返し、面倒だからと安平路山へは登らずに南から巻いてしまった。場所によっては「密林地帯」があって上に迂回したが大した労力ではなく、数少ない目印が出てきて主稜線に無事戻ることができた。これも残雪期でないとできない芸当だ。

 小屋でパッキングを済ませて掃除を行い。一晩お世話になった小屋を後にした。これで中ア南部2000m峰は完全に登り終わったので、もう来ることはないだろうな。まだ雪が締まっている時間帯なので昨日より楽に登ることができ、シラビソ山を越えて細かいピークを越えて摺古木山に到着、少し休憩しながら今後のルートを考えた。夏道に従って下ってしまってもいいが、延々と続くあのトラバースは歩きにくくて面倒だし面白みもない。どうせなら尾根通しに下ってトラバースを大幅カットしてみるか。どうせ標高が高いところはどこも雪で覆われて藪の心配はないし、もし迷ったとしても西側に下ればどこかで夏道にぶつかる(ただし雪に埋もれて分からない可能性が高いが)だろうから安全性も高い。こんなコースは今の時期しか歩けないので楽しめるだろう。ついでに風穴山にも立ち寄れるし。ただ、この山は無雪期に笹を漕いで登ったので私にとっては山ランには関係ないが。

摺古木山から見た2164m峰 2164m峰山頂 風穴山北側鞍部から北を見る

 

 そうとなれば尾根通しに決定、矮小な樹木が生える2150mのならだかなピークを難儀して乗り越え、2164mピークの登りもそんな樹木の隙間を縫ったり東側を巻いててっぺんに出たが、当然のように人工物はない。ここからの下りはしばらく尾根がはっきりしないので方向を確認しようと磁石を捜したら無い! 昨日、シラビソ山を越えたところで使ったが、その時に落としてしまったのだろうか? 今日は天気が良くいて目視で尾根が見えるので周囲に注意を払いながら慎重に下り、うまい具合に尾根を捕まえることができた。しかしこの尾根から風穴山に向かうにはまた尾根の乗り換えが必要で、尾根が高度を急激に下げ始めるところで右に曲がり風穴山を正面に見ながら鞍部向けて下る。どうにかまだ雪があり、それらをつなげながら下った。今回は天気が良く、磁石が無くても目視でルート判断できたが、これが視界不良だったら完全にアウトだっただろう。私のGPSは方位磁石内蔵でないので正確な方位は分からないから。

風穴山山頂。前回は無かった目印があった 風穴山から見た2164m峰 2164m峰から見た2018m峰

 

 風穴山の登りにかかると再び雪が豊富になって、本来ならば苦労する笹の上を楽々歩きでピークに到着した。見覚えのある山頂だが真っ白で笹の姿はなく、シラビソがポツポツあるだけ、そして前回にはなかった鮮やかな蛍光色の目印がかかっていた。おお! こんな所に登るヤツが他にもいるのか。写真を撮って先に進んだ。

南から見た風穴山 2018m峰西尾根途中から南に下る

 このまままっすぐ行くと笹に覆われた東の尾根に入ってしまうので、2018mの目の前のシラビソのピークに直角に尾根を変える。目印もこの尾根を歩いているようだが途中で見えなくなったので正確に尾根を辿ってきたわけではないらしい。鞍部から登りにかかるが面倒だからピークを巻いてしまえと右の斜面に入り、トラバースしながら徐々に高度を下げる。心配していた雪もまだあって藪漕ぎを強要されることもなく歩きやすい所を拾いながらピークから西に延びる太い尾根に到着した。雪の量が減って笹や石が出ているので雪の残る場所を選んで下っていくが、そのまま尾根を歩くと遠回りなので適当な場所で南に進路を変える。だいぶ雪が少なくなった斜面だがまだまだ残雪を利用でき、ワカンで制動をかけながら急な斜面をガンガン下っていくと不意に登山道に出た。標高1900m地点で、もう少し進路が東に寄っていたら登山道に乗れずに林道まで斜面を下ることになり、雪がずっと続けば問題ないが消えていたら藪漕ぎが待っていたはずで運が良かった。登山道には昨日歩いたと思われる足跡が残っていた。でも摺古木山山頂にはなかったなぁ。夏道に出てしまえばワカンの出番もなく林道に到着した。

1700m地点まで進んだ除雪終点

 あとは気楽な林道歩きだけであるが、林道上の雪が緩んで踏み抜くと先週のように非常に疲れる。しかし踏み抜きもなく楽々歩けたので助かった。そして驚いたことに標高1700m付近で除雪された林道が顔を出した! なんと昨日も除雪作業を行っていたのだ。おそらく今週に入って除雪を始めたばかりで、私がヤバイと感じた現場は当日に除雪したばかりだったのだ。まさにいいタイミングで登ったらしい。除雪後丸1日経過するとだいぶ雪も融けて路面は乾いてくるようで、撤退を決意した場所も歩いてみると今ではどうでもない路面へと変わっていた。この分なら今週末は終点まで入れるようになっていると思う。ただし、落石の危険は肝に銘じて欲しい。

5:47車−6:10赤谷(除雪終了)−6:16黒川−6:49トイレ前−6:51林道終点−8:01摺古木山直登コース分岐−8:28荷物デポ−8:42主稜線−9:02 1995m峰−9:25アザミ岳着−9:46アザミ岳発−10:08 1995m峰−10:36主稜線を外れる−10:41荷物デポ地点着−10:55荷物デポ地点発−11:26摺古木山着−11:34摺古木山発−12:28 2250mピークで休憩−12:43出発−12:51シラビソ山−13:34安平路避難小屋(泊)

5:51安平路避難小屋−6:05水場−6:34安平路山−6:46 2310mピーク−6:50熊の足跡−6:56カモシカ目撃−7:00前安平路山−7:05 2220m峰着−7:20 2220m峰発−7:23前安平路山−7:46 2310mピーク−7:51安平路山を巻く−8:02夏道ルートに出る−8:07水場−8:17安平路避難小屋着−8:44安平路避難小屋発−9:22シラビソ山−10:11摺古木山−10:30 2164m峰ー10:43 2030m鞍部−10:51風穴山−10:58 1990m鞍部−11:08 2018m峰西尾根に乗る−11:15登山道−11:24林道終点着−11:33林道終点発−11:45除雪終点−11:59黒川−12:03赤谷−12:16車


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