野麦峠南部 鎌ヶ峰 2005年4月23日


 

小鉢盛山付近から見た鎌ヶ峰

 鎌ヶ峰は野麦峠のすぐ南側にあり登山道は無いが、そこそこ有名だと思ってネットで捜すと数件しか山行記録が発見できなかったのは意外だった。ただし、無雪期登山の記録は少なくとも2件あり、おそらく私でも藪漕ぎできる程度の笹と思われたが、わざわざ苦労しに行く必要もないので残雪期に登るのがお得だろう。特に今年は10年に一度の大雪だそうだから、峠開通直後なら例年よりも雪が多く残って藪漕ぎ区間は短くて済むだろう。登るなら野麦峠からが一番楽なコースであるが、4月下旬まで冬季通行止めで車は入れないので開通を待たずに下から登ってしまうか、藪が出る可能性を覚悟で開通まで待つか悩むところである。

 2週間前に小鉢盛山、五六峰に登った経験からするとかなり雪は消えてしまい、たぶん野麦峠では雪は無いだろうと予想した。ただ、尾根は北向きだし主稜線は南北に延びているので風下になる東側直下は雪庇の融け残りでしばらく雪があるだろうから、割と早い段階で残雪にありつけそうだ。雪庇ならそこそこ締まった雪質が期待できそうかな。小鉢盛山、五六峰のような踏み抜き頻発の雪では体力を搾り取られて死んでしまう。先週のアザミ岳のような締まった雪なら最高なのだが。

 天気予報では今夜上空を寒気が通過し、北日本から北陸で雨や雪との予報で、ネットで48時間予報を見ると土曜日早朝まで雨らしい。山は標高があるので雪の可能性が高いかも。松本ICで降り、小鉢盛山と同様のコースで西に進むと「県境方面 凍結 チェーン必須」の電光表示板を見たが、県境とは野麦峠のことだろうか? 時々小雨がパラつく。奈川渡ダムから旧奈川村に入ると白いものが混じるようになり、川浦を通ると周囲が白くなってきた。そしてウネウネと峠に上がっていくと道も白くなり、工事で片側交互通行の信号で一時停止したらスリップしてスタートに苦労してしまった。この辺りで車を捨てて歩いてもいいのだが、おそらく明日日中にはこの雪も消えて無くなるだろうから、チェーンを付けてでも上がってしまった方がいいと判断し、4月下旬だというのに今シーズン最初のチェーン装着となった。さすが軽自動車はジャッキアップも楽々であった。チェーンがあれば問題なく進むことができ、風が強くて吹雪の様相で峠だと恐ろしい天候と思えたので手前の展望地で酒を飲んで寝た。

野麦峠の館。半分雪に埋もれている

 翌朝、夜明けくらいに車が1台通過していったが、私と同じ目的の登山者か? 天候はいつの間にか晴れていて青空が広がっていた。路面は真っ白だが凍結でツルツルではなく、表面がクラストして摩擦が効きそうな、残雪期の雪面そのままなので、夜間のシャーベット状態より始末がいいかもしれない。峠に上がってから飯を食うことにして、暖機しながら車内を片づけ車を走らせると僅かで峠に到着した。茶屋と反対側の「野麦峠の館」駐車場に車を突っ込むと練馬ナンバーの先客が1台止まっていた。ちなみに茶屋も館も5/1からの営業なので、駐車場を使わせてもらっても問題ないだろう。

 建物は除雪した雪で半分埋もれており、鎌ヶ峰へと至る斜面は一面真っ白で笹の心配は無さそうで助かった。どうやら鉢盛山よりも雪の量が多いようだ。飯を食って出発すると12本爪アイゼンの跡が駐車場を横切っていた。練馬ナンバーの主に違いなく、行き先は鎌ヶ峰しか考えられない。今シーズン初めて山中で人間を見ることになりそうだ。

 建物の裏手から雪面が始まるのでワカンを装着、昨夜積もったばかりのサラサラの新雪を踏みしめて歩き出す。鳥居を潜ると雪に埋もれているが送電線巡視路とおぼしき道を横切るが、無視して斜面を登り続ける。新雪は場所によっては50cmくらい吹き溜まっており、コンスタントに足首まで潜るが軽いのでラッセルは楽だ。

軽い新雪の気持ちいい登り 送電線巡視路? 1800mピーク
1861mピーク。明瞭な踏跡がある 2つめの送電鉄塔 2つめの送電鉄塔から見た塩蔵

 

2つめの送電鉄塔から見た2120mピーク

鎌ヶ岳は隠れて見えない

 明るい樹林をジグザグに高度を上げて、送電鉄塔のある1800mピークを通らずに直接1861mピークに出るよう登っていく。県境稜線に出ると先人の足跡があり、鎌ヶ岳目指していることが確認できた。時間は30分くらい差があると思うが、姿を見ることができるだろうか。笹のさの字も無く急な雪面を登り切ると1861mピークで、意外にも境界標識と尾根上には明らかに切り開かれた筋があった。考えてみればこの先にも送電鉄塔があるので巡視路なのだろう。左に直角に曲がって少しだけ笹の中を歩いて下ると送電鉄塔が建つ平坦な尾根で、この先は巡視路も無く藪が深いエリアと思われるが、塩蔵と呼ばれる1959mピークへの登りは真っ白で笹は完全に埋もれたままのようだ。ま、北斜面だから当然か。ここは見晴らしが良く、山頂手前の2120mピークまでピークが並んで見えていた。2120mピークは尖っていかにも鎌ヶ峰山頂らしい威厳を見せているが、残念ながら本物はその裏側に入ってしまい見ることはできない。

 足跡は段差の大きな雪棚は迂回するし、直登できそうなところは突破しているしでなかなか合理的なルート取りで、こちらもそれに従って歩いた。ワカンが無くても問題無さそうだが新雪が深い場所もあるのでそのままで歩く。周囲の木は新雪をかぶって真っ白で、枝にも雪が乗っているので尾根を迂回して木を潜るところでは頭から雪をかぶるような所もあり、途中でゴアの上着を着た。こりゃ先を歩く人はもっと雪まみれだろうなぁ。

塩蔵への登り。疎林で快適! 塩蔵山頂 塩蔵先の稜線。笹が出ている場所も

 

 急斜面が終わると塩蔵山頂だが、山頂というより肩のような場所で、山頂標識もない。棒が立っていたので帰りに近くをピッケルでつついたら手応えがあったので掘ってみると三角点の頭が出てきた。ちなみにここは帰りに無線をやるつもりだったので行きは気にしないで歩いていたら通り過ぎてしまい、GPSを見たら北に300m行きすぎていた。塩蔵から先は平坦な尾根で、所々笹が顔を出している。雪庇か崩れた下には濃い笹が寝ていたから無雪期はなかなかの藪漕ぎだろう。でも稜線直上を避け西に避けるとシラビソ樹林で笹がない区間もあったので、こっちを歩く方がいいかもしれない。どこまで笹が少ないかは不明だが。

崩壊した雪庇の下は笹藪 崩壊してない雪庇はこんな感じ 尾根西側は藪が薄い箇所も
2120m偽ピーク山頂 2120m偽ピーク直下から見た鎌ヶ峰 鎌ヶ峰との鞍部から見た2120m偽ピーク

 

 緩やかな稜線を雪庇上を歩いたり藪の隙間を潜ったりして進み、2120mピーク手前で急な尾根をグイグイ登るところで念のためワカンからアイゼンに変えたがワカンもアイゼンもなしでも歩ける程度だった。標高が上がると気温が下がって昨夜の雪が樹木を白く包み込んでまるで真冬のような景色を楽しめた。やっぱこの風景、絵になるなぁ。ピークてっぺんは密生したシラビソで展望はなく、少し下ったところで樹林の隙間から鎌ヶ岳本体が姿を現す。その右には真っ白な木曽御嶽がくっきりと見えていた。

もうすぐ鎌ヶ岳山頂 鎌ヶ岳山頂。標識無し 鎌ヶ岳山頂付近から見た木曽御嶽

 

 最低鞍部から緩やかに登り、山頂直下で一気に標高を上げてなだらかな尾根を登ると鎌ヶ岳山頂に到着した。予想に反して山頂標識は1つもなく、目立たない目印が1個だけだった。積雪量はせいぜい1m程度だろうから標識が雪に埋もれているとも思えず、訪問者が少ないからか「ペンチマン」にお掃除されたのだろうか。周囲はシラビソ樹林で視界がないが、もし開けていれば木曽御嶽、乗鞍、槍穂、鉢盛山、中アに囲まれて素晴らしい展望だろう。先人はもっと先まで行ってしまったようで、山頂を誤認しているのか分かっていて先に行ったのか分からないが、この先は標高が下がっているしGPSの表示も間違いないのでザックをデポして南に行ってみることにする。

 100mほど進と標高は僅かに下がるが樹林が開けて見晴らしがいい尾根上のポイントがあり、先行した男性が休憩中だった。野麦峠冬季閉鎖解除直後を狙って鎌ヶ岳に登るなど一般人であろうはずはないと思ったが、話を聞くと70歳の超ベテランであった。先週は木曽駒、宝剣と歩いたとのことで、アプローチはロープウェイだから何でもないが雪の着いた宝剣は私に登る勇気はない。穂高の明神岳も雪が着いた時期に登ったり、三峰川源流部も歩いたりと経験豊富だった。武内さんのような夜間歩行もやっているとのことで、白山書房の「山の本」に文章を掲載したこともあって、KUMOさんと言ったらすぐに分かってくれた。世の中狭いものだ。明日は岐阜県内の山に登るとのことで、山頂で写真を撮って下っていった。こちらは無線で吉原さんと交信してから下った。

リフレ・イン奈川

 下りは同じルートを辿るだけなので気楽だ。日中でも気温は低く、踏み抜き皆無で快適だったが、西風が冷たくて止まって運用すると寒いくらいだった。木曽御嶽や乗鞍頂上付近は雪雲に隠れたまま、その雲が風に飛ばされて時々日光を遮るともっと寒い。

 塩蔵では交信相手確保に苦労し、6mでは近くの送電線ノイズが強烈で、144FMでどうにか交信できた。

 急斜面も下りはラクチンで新雪に乗って下り、送電線を通過すれば巡視路の一部で淡々と足跡を追うだけだ。1800m手前鞍部で左に逸れて館に向けて適当に下ると行きの足跡に遭遇、小屋の裏手でワカンを脱いで舗装された駐車場に降り立った。朝は雪で真っ白だったのに路面にはその面影は無かった。5月1日の開業準備だろうか、車が小屋の前に止まっていた。練馬ナンバーの車は既に無く、私の車だけが駐車場の隅にぽつんと止まっていた。

 着替えを済ませて旧奈川村の「リフレ・イン奈川」で温泉に入り(\500)、川浦で昼寝をしてから野麦峠に戻って晩酌をして寝た。


5:49野麦峠−5:55ワカン装着−6:01送電線巡視路−6:30 1861mピーク−6:45先人が見える−7:04塩蔵南方300m−7:21アイゼンに変える−7:56 2120mピーク−8:05鞍部−8:25鎌ヶ峰着−9:43鎌ヶ峰発−10:05 2120mピーク−10:39塩蔵着−11:27塩蔵発−12:02野麦峠


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