東大雪 ニペソツ山 2005年7月9日

 

 

 北海道は昔納めた機材の年1回の定期整備のおかげで出張の機会があり、土日は客先も休みのため作業もお休みで自由時間となり、個人でレンタカーを借りて山登りに勤しんでいる。ただ、金曜夜千歳発日曜夜千歳戻りなので、北海道内と言っても千歳から離れたところに行くのは困難で、道東の網走や根室付近まで行ったときは2日間で1000kmの運転で疲れ果ててしまった。高速道路が使えればそうでもないが、一般道だけでこの距離を走るのは大変だった。

 というわけで今年はあまり遠くは狙わず、残った2000m峰の中で登山道があるが面白そうなニペソツ山にした。主峰旭岳を中心とする大雪山系の東側に位置する東大雪最高峰で、北海道では珍しい岩峰である。といってもガイドブックで読んだだけなのでどれほどのものか分からないが。でも単調な登りではなくアップダウンがあり、しかも周遊コースでないのでちょっとばかり大変そうである。コースは十六の沢林道終点からと幌加温泉からの2つがあるが、地図を見る限りでは十六の沢林道の方が登山口の標高が高いので楽できるだろうから、そっちから登ることにした。私のカシミールには北海道のデータは入れていないので累積標高差の詳細は分からないが1300m近くあるのではなかろうか。一般人にとっては日帰り限界点付近であろう。事前にネットで調べると今年6月終わりに登った人の記事があり、林道終点まで車で入れるようだし、登山道には雪はないらしい。

 金曜日の仕事が終わり、会社で借りたレンタカーにガソリンを入れに行くついでにレンタカー屋でデポしてもらい、車を借りて常宿としているホテルに戻り荷物を積み込み、近くのスーパーで食料調達して出かけた。東大雪は夕張、十勝や大雪山系が邪魔をするのでまっすぐ行けず、北回り旭川経由で行くルートと南回り鹿追町ルートで行くのが考えられるが、ナビにお伺いを立てたところ北回りの方が距離が少ないとのことで一路旭川を目指す。ナビに頼りっぱなしだったが、私が地図を見ながら行くのとほとんど変わらないコースだった。賑やかな旭川市街地を抜けると信号もない閑散とした地帯になり80km/h(制限速度20km/hオーバー。もし速度違反で捕まると罰金\30,000コース)で延々と走行できるようになる。層雲峡を抜ければ国道273号線分岐は近く、前も後も車のライトがない広々とした道を快適に運転する。

十六の沢林道終点の駐車スペース 十六の沢林道終点の登山口

 ニペソツ山登山口へ向かう林道分岐が分かるかどうか心配だったが、ニペソツ山、石狩岳、音更山のはっきりとした案内標識が立っていたのですぐに分かり右に入る。まだほとんど走行していない新ピカのレンタカーなのに最初から未舗装の林道走行は可哀想だ。路面は普通車でも問題なく走行でき、ニペソツ山方面の林道に入ってなおも標高を上げると林道終点に到着、そこが登山口である。思ったよりも駐車スペースは狭く、終点広場で10台くらいしか駐車できない。そこに置いても良かったが後続車のUターンが面倒になるので止めておき、若干斜めになるが路側に車を突っ込み、酒を飲んでパッキングを済ませて短い仮眠をとる。所要時間は一般道のみ使って千歳から5時間弱だった。

 翌朝、目覚ましが鳴る前に車がやってくる音で目が覚めてみると4時、しかし既に日が上がっており木の隙間から日差しが差し込んでいる。予報では雲が多めと言っていたが今は快晴である。気温は寒いくらいで10度を切っており、車の中でも3シーズンシュラフでは寒かった。それでも登りは涼しくて疲労が少ないだろうから助かるはずだ。昨夜パッキングは済ませたので飯を食って出発だ。次から次へと車がやってきては私と同様に路肩に止めていきすぐにいっぱいになる。さすが200名山だか300名山だけはある。

登山口と丸木橋 小天狗岳付近から見た前天狗岳 遙か東には雄/雌阿寒岳と阿寒富士

 

 沢を丸木橋で渡り(無くても渡渉できるが)、緩やかな尾根を登っていく。さすが登山道がある山は楽で、足を動かしていればいい。ほぼ完璧な刈り払いだが体に触れる笹が全くないわけではなく、笹が濡れた時はゴアがあった方がいいかもしれない。樹林帯が続くので視界はないが日差しが遮られるので日中も日に焼かれなくていいとも言える。頭にかぶった麦わら帽子がマヌケだ。

 やがてちょっとした肩に着くと目の前にピークが見えるが、それが小天狗だと分かったのは帰ってからである(まじめに地図を見ていない証拠)。小天狗は山頂を通らずに巻くが、その一番標高が高い場所は岩になっているが、そこで1人の先行者が岩の前でウロウロしていた。一見してそれほどコース取りに悩むような困難な岩ではなく、道を譲ってもらって先に通過しようとしたら麦わら帽子が落ちてしまったので取りに行き、一番危険度が高そうな(といっても大したことはないが)狭い岩棚がある一番下のコースを通過するとすぐに岩が終わって再びおとなしい道になった。先行者はそっちのコースの方がいいかと聞いてきたので、そのまままっすぐ行く方が安全だとアドバイスした。帰りは私もそちらを通った。

 緩やかに下ったところが天狗のコルだが、もうほとんど雪渓は残っておらず、かなり汚い水しか得られそうになかった。鞍部からは前天狗への登りにかかり、徐々に樹林の高さが低くなり、やがて立ったハイマツに変わる。そしてハイマツが切れた場所に出ると初めて展望が開け、残雪をまとった表大雪がずらっと並んでいるのが目に飛び込んでくる。この雪の量が例年並みだか多いのか分からないが、谷筋の雪の量は明らかに今の時期の北アルプスよりも多かった。

 そこから左に曲がって一直線に上を目指して登り始める。いよいよハイマツの高さが低くなって視界が恒常的に開けるようになり、右手に大雪を見ながら高度を上げていく。この山は古い火山のようで周囲は火成岩が点在する場所もあり、いかにもナキウサギがいそうだなぁと注意して聞き耳を立てているといたいた! ナキウサギの鳴き声が聞こえる。鳴き声は兎というより(というか兎は鳴かないのだが)鳥で、知らない人は鳥の鳴き声としか感じないに違いない。ピーッという鳥よりも鋭い鳴き声で単発的である。たまに連続して鳴くこともあるが、ほとんどは散発的に鳴く。いるのは岩場なので樹林帯で鳴いているピーは違う。今回はなかり鳴き声を聞いたのでたくさん生息しているようだ。1回だけ姿を見たが、ほんの一瞬だけで岩の下に潜り込んでしまい詳細は見えなかった。色合い、大きさはイワヒバリそっくりだが形状はねずみらしい。

 歩いている内に体調がおかしいことに気付いた。どうもだるく体に力が入らない。おそらく熱があるのではなかろうか。木曜日に一緒に出張してきたヤツが風邪を引いて鼻水ズルズル、くしゃみもしていてうつされたらヤダなぁと思っていたが、金曜日の作業では気温が思ったより低く長袖+長袖の作業着では寒いくらいで(東京では考えられない)抵抗力が下がってウィルス撃退に失敗したようだ。昨夜から鼻水が出ていたがとうとう発症したのだろう。しかしここまできて諦めるのはもったいないので、行けるところまで行ってみるしかなかろう。熱があるが歩いて運動による発熱がある間はまだいいだろうが、休憩して運動による熱が無くなったときに大丈夫かどうか心配だ。そこそこ防寒着は持ってきているが健康体で必要な衣類で、悪寒がしているときに足りるかどうかわからない。おまけにいつの間にか雲が広がって日差しが無くなってきたぞ。

前天狗岳から見たニペソツ山 幌加温泉コースとの合流地点
前天狗岳から見たトムラウシ山 前天狗岳から見た十勝連峰

 前天狗は僅かに右側を巻いて幌加温泉からのコースと合流、トイレらしき小屋がある。ガイドブック通りここで初めてニペソツ山頂が飛び込んでくるが、これまたガイドブックの記述通りのド迫力。東側は切り立った崖で、いくつかの岩峰が並んで真ん中の一番高いのが山頂らしい。稜線を正直に行くのではなく、山頂直下は右側を巻いているのが見える。右手には煙を吐く十勝岳を中心とする十勝連峰、表大雪からトムラウシもよく見えている。あの辺もだいたい歩いたんだよなぁ。オプタテシケなんかガスッたし帰りは雨だったしなぁ。

天狗平から見た天狗岳 天狗岳山頂(背景はニペソツ山)

 小鞍部を登り返すところが今回で一番花が多かった場所だ。ナキウサギもこの辺が一番鳴き声が賑やかだった。登り切ると天狗平で、エアリアマップでは左側のピークを天狗だけと表記しているが、日本山名事典では右側のピークを天狗岳としているのでそちらに向かう。お花畑が点在する岩稜帯で、植物を踏まないように岩の上を選んで登ると岩の山頂に到着、標識は無い。ここで休憩を兼ねて無線だ。体が冷えてくると悪寒がしてきたのでやはり風邪による発熱をしているらしい。着られる物を全部着ると薄日程度でもそこそ暖かくなりブルブル震えながらの運用はなさそうだ。無線はまだEスポが開けておらず、紋別郡移動の局を捕まえておしまいにする。

ニペソツを見ながら鞍部に向かって下る 天狗岳方面 もう少しでニペソツ山頂

 

 天狗平に下り、鞍部に向かって標高差100m強を下る鞍部付近は両側からハイマツがはみ出していて、濡れていたら最悪だがこの時間はもう乾いているので問題ない。登り返しは遠目に見るととても急だが、実際に登ってみると傾斜はあるが崖っぷちを登るわけではなく、ルートは安全な場所に付けられていてエアリアマップにあるような危険箇所は無かった。さすがに発熱の影響もあり最後はかなり疲れてペースが落ちたが、トラバースして右から突き上げ、ナキウサギの歓迎を受けつつ頑張ると待望のニペソツ山山頂だった。

ニペソツ山頂 ニペソツ山から見たウペペサンケ山 ニペソツ山から見た石狩岳

 

 岩峰なので遮る物の無い大展望で、やはりトムラウシがでかい。表大雪、十勝連峰は全部見えるし、やや霞んでいるが夕張山地の夕張岳、芦別岳もはっきりわかり、雄阿寒岳、雌阿寒岳、阿寒富士もはっきりと識別できる。北方には石狩岳、南方はウペペサンケ山(覚えにくくて困る名前)。日高の山並みも見えるがかなり霞んでしまって同定はできない、というより、同定できるほど日高の山並みは見たことがないが、東京人としては当然だろう。それどころか東京人で地図を見なくても上記の山々を同定できるのだから自慢しても良かろう。時間の経過と共に徐々にガスが上がってきて遠望が効かなくなってきたが、到着時に充分楽しめたのでまあいいか。

 天気は天狗岳同様薄曇りでそこそこ日差しがあり、風もなかったので長袖シャツとフリースでも暑いくらいで、発熱による悪寒は感じずに済んだので大助かりだった。山頂南端に陣取り、ハイマツの枝を3本まとめてアンテナポールに縛ってどうにかアンテナを立てて6mを聞くとEスポで西日本が開け、JH3LBD/4笠岡市が強かったので声をかけた。1エリアの猛パイルを突破するのに苦労するが、こっちでは1エリアはバックスキャッターで聞こえるだけで開けはしなかった。JH1BSJ芝山さんの声も久しぶりに聞いた。

 体調により帰りの時間が予想以上にかかると思われたので無線を終えて昼飯を食って早めに下山開始だ。その頃には十勝連峰は雲がかかって見えなくなり、トムラウシも西側半分が雲に覆われ、表大雪も旭岳周辺に雲がかかり始めて全体が見えなくなるのも時間の問題だろう。上空は薄日が差したままなので大きな天候の崩れにはならないと思われるが、これから山頂に到着する連中は残念ながら大展望は望めないようだ。

 鞍部に向けて下っていく途中で運動による体温上昇で暑くなってTシャツに変身、登り返しはゆっくりと登るが風邪の発熱の影響か体が重く眠気も感じるので、前天狗で大休止をとって石の上でひっくり返った。ここでも日差しがあって快適に休めたのは大きかった。まだ登ってくる人がいるが、下山は何時になるのだろうか?

 こちらものんびりしすぎると下山が遅くなるので出発、少し前に通過した男性高齢者3人パーティーを追いかける。このパーティーは登りで追い越して天狗岳で無線運用中に追い越されてニペソツ本峰の登りで再び追い越し、下山では天狗岳への登り返しで追い越して前天狗でひっくり返っている間に追い越されたという、追いつ追われつの関係だった。すぐに追いつくがこっちも体調が悪いのでのんびり歩いて話しながら下山となった。今月初めから岐阜からやってきて、約2週間ほどこちらで過ごし山を転戦しているとのことで、ニペソツに登るくらいなので例の如く300名山潰しとのこと。中には既に全て登った猛者もいるとのことで、なかなか経験豊富らしい。本州が梅雨の時期に北海道で、梅雨明けくらいに戻るのだから美味しい計画だ。そういえば登山口の車のナンバーは北海道外もたくさん見かけたから、こんなパターンで山登りの人も結構いるようだ。ただしサラリーマンではこんな時期に長期休暇を取るのは難しいので定年後の高齢者が多いかな。私も仕事ではなく遊びで北海道に来られれば効率的に登れるのだが。

 のんびり話しながら下ったので時間はかかったが、あまり疲れることもなく風邪によるだるさも話で気が紛れたのか感じることもなく快調に登山口に到着できた。「岐阜軍団」はお迎え部隊がいて、ずっと下のスペースに張ったテントから車で迎えに来ていたのには驚いた。明日はどこへ行くのだろうか。

 

 私が山頂に到着した時はまだ3人しかいなくて、その後も数人しか登ってきておらず、無線をやっている間に先に下っていったのは2,3人だろうから、登山口の車はほとんど減っておらず満杯状態だった。午後1時を過ぎてこんな状態という山も珍しい。最後に下ってくる人は暗くなってしまうのではないだろうか。ま、この時期の北海道は七時でも明るいけど。

 虫がうるさいので刺されやすい足首周りに虫除けスプレーを吹き付けてから着替えを済ませ、明日は日高の伏美岳にしようと帯広を目指し、途中の糠平温泉を目指す。最初に出てきた「湯本館」で入浴、\500だった。素泊まりもできて\1500とあり、コインランドリーもあってバイクツーリングの宿には最適だろう。再び風邪の症状が出てきて寒気を感じたのでゆっくり温泉に浸かって体の心から暖めた。


4:41十六の沢コース登山口−5:45 1484m肩−6:07小天狗を巻く−7:07前天狗直下(幌加温泉コース合流)−7:26天狗岳着−7:47天狗岳発−8:11鞍部−8:56ニペソツ山着−9:35ニペソツ山発−9:40ナキウサギ目撃−10:03鞍部−10:47前天狗(休憩)−11:10前天狗発−13:29十六の沢コース登山口

 

 

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