上越国境付近 大倉山 2006年4月29日

 

 

 溜まった代休消化で1週間前から休みに入った私にとっては大唐松山が連休最初の山であったが、世間一般は今週から大型連休に入る。天気は西方面の方がいいようだが、残雪期でないと登れない2000m峰は長野北部や富山に集中しているので関西方面に出かけるわけにもいかない。春の天気はころころ変わって全国的に最初の土日は悪天のはずで家で休養するか車での移動日にする予定だったが、土曜日のみ北関東以北の予報が好転し、急遽出かけることにした。出かけることを決めたのが金曜午後であり、準備等で出発が夕方になったためあまり遠い場所まで一気に行くのは難しく、かかと傷もあるので初日は近くて軽い山にする。その目的には白砂山近くの大倉山がぴったりで、昨年登ろうとしたが駐車場で朝から雨だったため登っていないままだった。登山口となる野反湖の標高は約1500mで、山頂の標高は2000m強なので標高差は500m強しかない。まあ、ピークを越えたり沢に降下したりするので累積標高差はもっと高くなるだろうが、基本的には楽な山であろう。手前の八十三山は佐武流山と一緒に登ったのだが、当時は2000m峰全部を登ろうなんて考えてもおらず大倉山があることを見落としていたので、充分な時間があったにもかかわらず未踏として残ってしまった。

 ルートであるが、最初は地形図にある破線を利用してハンノ木沢、北沢を超えて南西尾根から直接山頂を目指そうかと思ったのだが、間違いなく夏道は跡形もなく埋もれてルートファインディングが必要だろうし、大唐松山撤退の影響でトラバースが安全にできる傾斜か自信がなかったため、一般的に堂岩山、八十三山を超えていくことにした。まあ、この2山くらいは巻いても大丈夫だろう。

夏道登山口付近から見た駐車場 白砂山夏道登山口。残雪で跡形もない

 

 渋川伊香保ICで降りて野反湖目指して走るのは久しぶりだが、何度も走ったコースなのでロードマップを見る必要もなく目的の県道に入った。先週末に既に開通したことは知っているので安心して走行できる。野反湖への登りにかかると徐々に雪が見られるようになるがまだまだ少ない。ところが野反湖に出ると斜面にはべっとりと雪が付き、谷間のカーブでは雪壁ではないか。残雪期は2回来たことがあるが、今回は確実にそれらの雪の量を上回っている。夏道の白砂山登山口のカーブも雪で埋もれたままで全く形跡がわからないくらいだ。駐車場はしっかり除雪されているので数10台は駐車可能で、この点は大助かりだ。まだ車は1台も止まっていない。前に佐武流山に登ったときも連休初日だったと思うが、何台か車があったのだが、今では佐武流山の夏道が開かれたので残雪期にわざわざ登る人が減ったのかもしれない。まあ、静かなことはいいことであるが。

ハンノ木沢へと下る ハンノ木沢をスノーブリッジで渡る
快適な残雪上を尾根へと登る 青空に映えるダケカンバ

 

 翌朝、飯を食って出発。夜中に上がってきたキャンピングカーが増えただけで登山者の姿はない。昨夜は路面上を流れていた雪解け水はカチカチに凍っており、凍る前に上がってきて正解だった。標高1500mともなると早朝は冷えるようだ、とはいえ温度計では−2度くらいでほとんど寒さを感じない。昨年11月の南ア深南部や正月の甲府盆地周辺の山は-6,7度が当たり前だったからなぁ。幸い、昨日日中に歩いたと思われる足跡がクッキリと残っていたのでそれを追いかければいい。雪は良く締まり、表面がクラストして言うことがない良好な状態だ。ハンノ木沢への下りでアイゼンを付けて下り、水量が少なく渡渉も問題ないが、僅かに残ったスノーブリッジを渡る。登りは足跡に従わず適当に歩きやすい所を歩いた。残雪期はこれができるから面白いんだな。あまりに歩きやすい雪なのでアイゼンを外すと足が軽くなる。一つ右の尾根を登って稜線に達して足跡に合流した。振り返れば野反湖はまだ真っ白のままで、浅間、志賀高原の山も白い。

1802mピーク付近 1802mピーク付近から堂岩山を見る
1802mピーク付近から見た野反湖 1802mピーク付近から見た志賀高原へと続く稜線

 

 稜線上の雪もたっぷりあり、前回登ったときは雪庇の残骸の上を歩いたが今年はまだ立派な巨大雪庇のままであった。1802mピークからの下りは雪庇が残り、無雪期よりけっこう高い位置を歩いているのではなかろうか。

谷も雪に埋もれている 巻いた斜面も雪でいっぱい

 

 1880mピークから僅かに下った鞍部より堂岩山を巻くことにして左に入る。入口だけはかなり藪っぽいが、それを過ぎればシラビソ樹林なので好き勝手に歩ける。傾斜があるのでアイゼンを履いて備えるが、クラストしてアイゼンの効きが非常にいい。部分的に急傾斜があっても樹林が濃いし、短距離で傾斜が緩い部分になるのでもし滑っても危険性が少なく、比較的安心してトラバースできた。もちろん、遠目に見て傾斜が急な部分は上か下に避けてできるだけなだらかな場所を歩いたのでピッケルを持ってきたが出番はない。八十三山は1870m肩を通過して巻き、その後はGPSで標高を確認した結果、おおむね1950m前後を歩いたらしい。当たり前であるが人間の踏跡は皆無で、カモシカと思われる足跡を見ただけだった。雪が締まっているので小動物の足跡はあまり残らない。

八十三山−大倉山間鞍部で稜線に出る 大倉山まで快適な稜線が続く
雪庇になりかけたエッジ もうすぐ大倉山。左の雪庇が山頂

 

 八十三山を巻き終わって大倉山の稜線が見えてきて、最低鞍部めがけてトラバースを続けて無事尾根に出た。ここも当然ながら人間の足跡はなく、真っ白な雪面が広がっている。雪庇になりかけたのだろうか、雪の尖った稜線が出てきてちょっとドキドキするが歩いてみると大した傾斜ではなくてちょっと潜るだけで難なく通過する。遠目に見て雪庇が張り出した場所があったが、あれが山頂だろうか。距離が数100mあるのでGPSで確認してもそこが山頂かまでは分からない。なだらかな雪の尾根を気持ちよく登っていく。冷たい南西風がやや強く、毛糸の耳隠しを取り出した。快晴で日焼けしそうだ。

大倉山山頂。雪庇の上がてっぺん 大倉山から見た八十三山。左端は白砂山
大倉山から見た志賀高原方面 大倉山から見た岩菅山〜烏帽子岳
大倉山から見た鳥甲山 大倉山から見た佐武流山(左の平坦地)
大倉山から見た白砂山 大倉山から見た忠次郎山(右側)、上ノ倉山

 

 山頂の一角にたどり着いて西に進むとその雪庇が山頂であった。本当の地面より何m高いのか分からないし、おそらく山頂標識を付けた木があっても雪の下であろう。木がある、というか雪面から木が出ているのは北側だけである。雪の見晴らし台の上だから展望は言うことが無く、目の前には佐武流山が近くてでかい。課題の猿面峰の小さなピークが見えているが、今の時期なら難なく行けそうな場所であった。ただし赤湯から登るのでアプローチが長いのが難点である。林道が雪に埋もれている今では林道歩きだけでもけっこう疲れるだろう。白砂山は日差しが反射して雪面が輝いて見える。その左には昨年登った忠次郎山、上ノ倉山、大黒山だ。今年は三国スキー場上部には雪があるだろうか。大雪と言われた昨年でも稜線には雪が無くて長時間の藪漕ぎで疲れ果てたが、どうやら今年は昨年より雪が残っていそうなので、もしかしたら今頃でも楽に登れるだろうか。岩菅山は当然真っ白、鳥甲山はこんな時期に登れるのだろうかと疑うような急峻な姿を見せている。野反湖西部から志賀高原の山々は樹木があるので真っ白とはいかないが、シラビソの下は大量の雪だろう。巻いてしまった大倉山もここから見ると立派に見える。

 風を避けながら休憩し、430で無線を運用した。FMラジオでも東京、埼玉の放送局が強力に入っているくらいなので関東へは開けているらしくあちこちが聞こえていた。

大倉山山頂。雪庇に埋もれて何もない 大倉山から見た南西尾根

 

 休憩しながら帰りのことを考えた。計画では稜線を堂岩山まで戻る計画だが、山頂から南西尾根を見るとなんともなだらかそうで、あまり危険はなさそうだ。問題は北沢への下降と渡渉であるが、夏道があるらしいので少なくとも崖で下れないとか水量が多くて渡れないということはなさそうだ。それに登り返しも稜線を戻るよりずっと少なくて済みそうで、北沢を渡ってからは地形図の破線よりも西側にトラバースして1600mくらいで尾根に上がれば標高差で100m程度登るだけだ。もちろん道のりは半分以下になるだろう。ということで少しリスクはあるがどうにかなるだろうと判断して南西尾根を下ることにした。

大倉山を下り始める。ちょっと雪が割れていた この辺で尾根を外れて左に下る
南西尾根。ずっと先まで見えている 振り返るとけっこう傾斜がある
下部は傾斜が緩む 疎林で快適な歩きが続く

 

 西に延びる尾根もなだらかで稜線漫歩を楽しめる。このまま尾根を直進するとルートを外してしまうがこれだけ快晴で藪が無いと尾根の下までくっきり見えるので有視界飛行が可能だ。南側は雪庇の壁で下れるポイントは少ないが、傾斜が緩んだ場所を見つけて一直線に下っていく。振り返ると恐ろしいくらいの急斜面だが不思議なことに下りだと何ともない。普通は下りの方が恐怖心が強く出るはずなのだが、私の場合は逆らしい。いや、この地形だと滑っても安全だからそう感じるだけかもしれないな。1カ所だけ目印の白い荷造り紐を見たが、他には見あたらなかった。でも私と同じことを考える人もいることが分かりちょっと安心する。

尾根がばらけて」くるとルートファインディングが難しい 標高1700m付近。雪庇で降りられない
この付近で左に下った 急斜面のトラバースが終わる
前方の尾根を下った こんな感じの尾根。まだ下部は見えない

 

 下ると尾根がばらけてルートファインディングが難しくなり、周囲の様子を注意深く観察したり、GPSで標高を確認したり、磁石で進行方向を確認したりする。標高1720m付近は尾根が広がりすぎて位置が確認できないため、1700mくらいまで進んで尾根が狭まったら南下することにした。もくろみ通り尾根が狭まりGPSも1700mを表示したので南下しようとしたが、尾根が狭くなったおかげで雪庇ができて南は絶壁、降りられない。しかたなく雪壁の傾斜が緩む場所まで進み、どうにか下れそうなところで尾根を外して南斜面に入るがこれまでとは比較にならない急斜面でまっすぐ下れず、バックで滑落に備えながら右手にトラバース、多少傾斜が緩んでからは前向きに歩けるようになった。ごく小さな尾根だが尾根に乗ったのでこのまま尾根を下ることにした。でも地形図の破線はたぶんもっと左だろうな。あまり右に行きすぎると崖に出る可能性があるが、とにかく行くだけ行ってみて、ダメならトラバースだな。

なんと対岸は雪壁であがれない! 熊の足跡が残るスノーブリッジで渡れた
スノーブリッジを振り返る 下ってきた尾根

 

 尾根を下って沢音が聞こえるようになるとけっこう豪快な音で、こりゃ渡渉できるかな、それともスノーブリッジが残っているかなと心配になってくる。どんどん下ってやっと沢が見えてくるとどうやら流れは細くて問題なく渡れそうだったのだが、なんと対岸の雪が4削られてmはあろうかという絶壁ではないか。やはりスノーブリッジを見つけないとあの雪壁は登れない。なおも尾根を下ると対岸の雪の上にトレースが見え、その場所がスノーブリッジになっているではないか。よかったぁ、これで対岸に渡れる。沢付近は雪が消えて藪が出ているが大したこともなく、尾根末端につながった雪を伝わって対岸に渡った。こんなところまで来る人間がいるんだなぁと感心したのだが、なんとその足跡は人間ではなく熊だった。しかも今日早朝以降の雪が緩んだ時間につけられたものだ。こっちは鈴をつけているので大丈夫だろうが、これほど新しい熊の足跡は珍しい。行き先はこっちと逆なので問題はないだろう。

1600m肩目指してトラバース気味に登る 1600m肩
左にトラバースしつつ下る 最後は尾根を外れて小さな沢を下った

 

 今度は西側に巻き気味に上がっていく。1600m付近のなだらかな場所に出ると一番効率がよく、まっすぐ上がってもどうせ尾根を下らなくてはならないのでそれは避けたい。こちらの斜面も藪は完全に埋もれてどこでも好き放題に歩ける。雪に埋もれた小さな谷を横切ると目的の台地?が見えてきて横に移動すると稜線上に出た。もしかしたら足跡があるかと思ったが無く、登り返すのももったいないので左にトラバースしつつ隣の尾根にとりつく。ここが踏跡があった尾根かと思いきや、その手前の尾根だったらしく踏跡はなかった。本当の尾根に乗り移るには大きな谷を巻かなければならないのでここまま下れるところまで下って、もし崖にぶち当たったら左にトラバースしようかと、なんかさっきの北沢に下るときと全く同じ状況になってしまう。尾根が急になって下れなくなったところで左の沢筋に下り、所々に口が開いた谷の真上は恐ろしくて歩けないので左岸に沿って下るとすぐにハンノ木沢に到着、行きに渡ったスノーブリッジよりほんの僅かに下流に位置するだけだった。

 新しいアイゼンの跡が2つくらい増えていたが、あまり大人数が山に入った様子はなかった。いや、私のように早朝に歩いた人間の足跡は残らないからそうとも限らないか。登り返しはゆっくりゆっくり歩き、駐車場へは直接雪面を下った。車は10台前後に増え、家族連れが雪の上で子供と遊んでいる姿も見られた。着替えていると今から出発する人がいたので話を聞くと、時間が時間なので行けるところまで行くという。やはり今年は雪が多いようだ。

 温泉は六合村村営の施設で\400だった。温泉と言うより温泉を利用したスポーツ施設らしく、浴槽、洗い場は3,4人でいっぱいになるようなささやかなものだったが、この下はたくさんの旅館等があって分散するので大丈夫のようだ。風呂上がりに左足かかとの傷の処置をしたが、どうやら化膿は治癒して皮膚が再生し、感じる痛みは傷ではなく、傷の上に貼った市販の防水保護テープのガーゼが皮膚と擦れてマメになりかけていることのようだ。念のためあと数日は消毒等の処置が必要だろうが、山登りの時はまめ予防のテーピングで大丈夫だろう。

所要時間
5:05駐車場−5:23ハンノ木沢−6:55稜線を外れる−7:40八十三山、大倉山鞍部−8:10大倉山着−8:32大倉山発−8:43稜線を外れる−9:51 1720m地点−9:11南西尾根を外れる−9:22北沢−9:39 1600m地点−9:51 ハンノ木沢−10:08駐車場

 

 

山域別2000m峰リストに戻る

 

ホームページトップに戻る