立山 国見岳、天狗山 2006年5月4日

 

 

 立山は核心とも言える雄山付近の3000m近い山の他に、室堂の南側に2500m前後の国見岳、天狗山という夏道がない山がある。私が浄土山等を登ったときはガスっていて何も見えず、この尾根の植生がどうなっているのか全くわからないが、おそらくはハイマツの海だろう。武内さんは無雪期に登ったらしいが、一般的には残雪期に登るのが適当だろう。ネットで調べると山スキーの記事で登場するが山頂に登ったという記録は発見できなかった。ついでに地獄谷に北側のピーク、エンマ山も稼ごうと考えた。ここは日本山名事典に新たに記載された山で、無雪期はロープが張られて立入禁止であるから、それが埋もれた残雪期に登るか夜陰に紛れて登るしかないだろう。乗鞍岳と事情が同じである。

 室堂まで文明の利器を利用すれば歩く労力は僅かであり、大明神山で疲れた体でも充分に登れる山だろうと好天が約束された翌日に登ることにして、前夜に立山駅駐車場に車を入れた。ここはシーズン中はよほど早朝でないと駐車場の空きが無くて遠くの駐車場から歩く必要があるので、前夜に車を置いて車中泊し、朝一番で切符を買って待ち時間ほぼ無しで出発するのが得策である。前夜だと一番近い駐車場でも20台程度の空きスペースがあった。

 翌朝、始発は6時であるが、続々と客が駅に向かう姿を見て早めに並ぶことにし、朝飯を食って駅に向かうと既に長蛇の列だった。交通のボトルネックはケーブルカーで定員は125名とのことで10分間隔で運行されるが、6:20の便を確保することができた。朝早くて雪が締まった時間帯に登った方がいいので早い便に越したことはない。切符購入から30分後であり、これなら朝飯を食わないで列に並んでチケット購入後に飯を食った方が良かったかもしれない。まあ、今日は大した山でないので多少遅れても大きな問題ではないが。

 今日はザックに昼飯が入っていることをしっかり確認し、12本アイゼン、ワカン、ピッケルのフル装備を持っていく。40リットルのザックでは荷物料金は請求されることなく、荷物は手持ちでロープウェイ、バスに乗り込んだ。路線バスは繁忙期はダイアに関係なく逐次運行されるのでバスはすぐ出発し、いきなり両側は雪の残った杉林の中を走り始めた。ほとんど地面が出た部分はなく、標高が上がると徐々に雪の高さが上がっていく。そしていつしかバスの高さを超えて両側は雪の壁になっていた。風景が見えないのは残念だが快晴の天気で窓から差し込む日差しは強烈で目を開けていられないくらいだったから助かると言えば助かった。

室堂ターミナル 室堂から見た浄土山

 

 室堂ターミナルは立山劔登山と、薬師岳縦走の2回利用しているので迷うことなく出口に向かい、雪の上に出てからアイゼンを履いて国見岳を目指した。斜面には無数のシュプールが残されており、バス等でもスキーヤーの姿が目立ったが春スキーの有名どころらしい。浄土山への夏道は影も形もない。国見や天狗は南斜面は崖であり北斜面は傾斜がきつく登れないとは言わないが登りにくいので東西の尾根から攻めるのが常道だろう。労力削減のため、国見岳と浄土山の鞍部めがけて浄土山をトラバースしながら標高を上げる。昼間のスキーヤーの足跡だろうが思いっきり踏み抜いて深い穴になった足跡も多いが、今の時間はアイゼンの歯が潜るだけで快適な雪質だ。それに今回はワカンも持ってきている。

鞍部からは見上げるようなナイフリッジだった でも歩いてみると大したことはなかった
雪稜が広がると国見岳山頂は近い 国見岳山頂。背景は浄土山(右)、雄山等(左)

 

 緩斜面なので恐怖感もなく難なく巻いて鞍部に出ると、予想外に痩せた雪稜ができているではないか。巻いている足跡もあるのだが、もしこの雪稜の最高地点が山頂だったらこれを登るしかないので恐ろしいほどそそり立ったナイフリッジのてっぺんを登ることにした。幸い、ここを登った人が少なからずいて足跡がいくつもあったので、昨日の大明神山同様精神的に心強い。また、実際に歩いてみるとさほど痩せているわけではなく淡々と歩くことができたし、帰りもバックで歩く必要はなかった。ナイフリッジの傾斜が緩むと稜線が広がり、本当の山頂が姿を現した。割と平坦で広い山頂で安心して休憩できる場所である。三角点は数mの雪の下だから確認しようがないが、最高地点だしGPSの表示でも山頂であることは間違いない。

 

国見岳から見た浄土山 国見岳から見た雄山、大汝山
国見岳から見た剣岳 国見岳から見た毛勝三山
国見岳から見た奥大日岳 国見岳から見た大日岳
国見岳から見た鍬崎山 国見岳から見た龍王岳、鬼岳、獅子岳
国見岳から見た裏銀座 国見岳から見た赤牛岳他
国見岳から見た笠ケ岳他 国見岳から見た薬師岳

 

 展望は言うことが無く、昨日登った大明神山に目が行ってしまうのは仕方ないだろう。南側の視界も良好で槍ヶ岳もはっきりと見え、三俣蓮華岳から黒部五郎岳、それと重なるように薬師岳と続く。その左にはすくっと立ち上がったきれいな笠ヶ岳の姿が印象的である。赤牛岳と水晶岳は重なっているが、どうにか水晶岳の頭だけ見えていた。ここも苦しかったなぁ。薬師岳へと続く稜線も全て見えており、その裏側には木挽山、奥木挽山の姿が。どう登るか頭が痛い山である。野口五郎岳、三ツ岳の裏銀座もなつかしい山だ。無線は帰りにやることにして、まずは天狗山を目指すことにした。

国見岳から見た天狗山 近づくとこんな感じでとんでもない!

 

 しかし、ここから見る天狗山も嫌らしい。おそらくは南側が崖なので積もり積もった雪が崖から先だけ落ちて尾根上は緩やかな雪稜ではなく角張っており、残っている北側斜面の雪はかなりの傾斜がある。北の傾斜がきつすぎるので巻くのは無理で、雪の縁を歩かなければならないだろう。でも目を凝らすとエッジに沿って足跡があるのが見え天狗山に登った人があるのは間違いなさそうで、それを勇気に登るしかなさそうだ。今考えると麓を巻いて西から攻めれば安全に登れたと思うが、このときはそのような妙案は浮かばなかった。まあ、もし滑落しても激突する木や岩はなく下部は傾斜が緩んで勝手に止まるので死ぬようなことはないだろうとの考えはあったが。

いよいよ急斜面にとりつく 登るほどに傾斜がきつくなる
ようやく傾斜が緩んだところで振り返る その先は快適な雪稜

 

 雪庇に気を付けて少し北側を歩き、最低鞍部で荷物をデポしてウェストポーチに無線機だけを入れて登ることにした。これで多少は身軽になって危険個所突破の助けになるだろうか。下から見上げると恐怖心をあおる猛烈な傾斜で、登るだけではなくトラバースもあってこれまたイヤらしい。たぶん足跡がなかったら諦めたであろうシチュエーションだろうが、足跡とは背中を押す効果が大きいようだ。足跡があるから安全になるわけでもないのだが・・・。出っ歯の12本爪アイゼンをいっぱいにけり込んで、シャフトいっぱいまで雪面にピッケルを打ち込んで1歩1歩確実に高度を上げていく。恐ろしくてとても下を見る勇気はなく、とにかく上だけを見て慎重に登り続けた。トラバースの最初がもっとも傾斜がきつく緊張の連続であったが、徐々に傾斜が緩んで普通に歩けるようになればもう危険地帯はなかった。その先の小鞍部の登りは遠目に見ると厳しそうだったが現場に行くと何と言うことはなくタダの緩斜面で、その先が天狗山山頂だった。

天狗山山頂。背景は国見岳 天狗山山頂から見た有料道路。完全に雪の谷

 

 地面は何m下なのか分からないが雪庇の上なので展望を遮る物は何もない。国見岳と隣接しているので見える山もほとんど変わらないが、毛勝三山は奥大日岳の影に隠れてしまい見えなかった。知り合いで天狗山と国見岳の山頂を踏んだのは、武内さんとDJFだけのはずだが、これだったら他の人にも大いにチャンスはあるだろう。足跡が残っていたので他にも登る人がいるようだが、それが登山者ではなくスキーヤーかボーダーの可能性はあるか。

 無線をやってからバックで慎重に下りザックを回収し、国見岳で昼飯を食いながら無線をやってから室堂に下った。

エンマ山は地獄谷が立入禁止で登れなかった 観光客で賑わっていた

 

 次にエンマ山を目指したが、なんと地獄谷方面へは夏道そのものが残雪期は通行止めになっているではないか! 埋もれた夏道用ロープの代わりに竹竿ポールにロープが張られている。それが延々と続いており、地獄谷へは降りられなかった。これは予想外の事態であり、この天気で雪原なんかを歩いたら衆人環視の元、目立ってしょうがない。当然ながらこんな場所だから乗鞍岳のように監視員がいるはずで、そんなところで登るわけにはいかない。エンマ山は金さえ出せば登るのは簡単なので、次回は1泊して夜間登山することにして、今回は混雑する前に下山することにした。この好天の元、国見岳、天狗山に登れただけでも\4190の価値はあっただろう。

 室堂に戻る途中は観光客がほとんどだが、大ザックを背負った登山者の姿もちらほら見られた。いったいどこへ行ってきたのだろうか。おそらく今の私では挑戦できないルートだろう。来年あたりは黒部奥地に行きたいが、その実力が付くのは何年後だろうかと不安になるのだった。

 バスは既に100人くらいの待ち行列ができていて、並んでいる最中にぐんぐん長くなっていったが、私は10分程度の待ちでバスに乗ることができ、美女平のロープウェイも10分の待ちだけで済んだ。

 今年の大型連休の立山編はこれで終了。上市で入浴&買い物を済ませて2日後に一ノ沢ノ頭に挑戦すべく、糸魚川経由で大町に入るべく一般道を走った。





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