後立山南部 一ノ沢ノ頭 2006年5月6日

 


大谷原駐車場から見た一ノ沢ノ頭(手前の白いピーク)

 連休も終盤に入ったが、天気予報では土曜日まで好天が続くとのことで有効に使いたい。当初から天候と体力を考慮しながら登山計画を考えており、大明神山の翌日は休憩日を入れずに室堂周辺を登り、翌日は完全休養日として移動や山行記録の執筆に費やし、その翌日の土曜日に一ノ沢ノ頭を目指すことにした。連休の疲労が取れきれるはずもないが、出発地の大谷原の標高は約1100mもあるので標高差はたった900mしかなく、技術的な面は分からないが体力的な面では簡単な山で日帰りできる山だ。しかも東京への帰り道の途中に位置するので好都合である。一番傾斜が緩やかでアプローチがいいのは南東尾根であり、大谷原からほとんど林道を歩かないで尾根に取り付ける。

 一ノ沢ノ頭は地形図では地名として記載されているが、日本山名事典に記載されたピークである。鹿島槍冬ルートとしてメジャーな東尾根を登っていくと最初に飛び出すピークであり、標高は2000mを僅かに超える程度であるので、あまり遅い時期に登ろうとすると藪が出てしまうだろうから今頃がちょうどいいはずだ。ネットで検索をかけると東尾根登山の通過点として登られているだけらしい。それらの記事によると危険個所があるとはどの記事にも書かれていないのだが、記事を書いているのはなにせ東尾根を登る連中なので私との実力差があまりに大きく、私が見ると恐ろしいような急斜面があるかもしれない。地形図を見ると山頂直下の最後の登りが心配だった。山頂渉猟でも急斜面を北から巻くように登ったら山頂だったと書かれており、東向きの尾根なので最後は雪庇が張り出している可能性もある。大唐松山以来、自信を喪失して登れるかどうか不安が大きくなったが、連休中の山行でいくつか怖い思いを克服してきたので少しはマシになったかもしれない。それに連休終盤で先人の足跡が期待できることも大きい。この連休の経験から他人の足跡があると勇気が湧いて登る勇気が湧きそうにない場所でもどうにかなることがよく分かったが、ネットで調べたところでは東尾根は大型連休の記事がほとんどで、今年は連休後半に好天が続いているので入山者が確実にいるのではないかと予想した。

大谷原駐車場(橋の手前) ゲート

 

 途中で昼寝をしたりしながら大谷原に入ると橋の手前にたくさん車が止まっているので空きスペースに車を止める。大ザックを担いだ何人かがポツポツと下山してくる姿も見え、そのうちの1パーティーに声をかけて様子を聞いてみるとことにしたが、そのパーティーは爺ヶ岳南尾根から鹿島槍に登り、赤岩尾根を下ってきたそうで残念ながら東尾根ではなかった。まあ、メットとかザイルを持っていなかったのでたぶんそうかなとは思ったが。でも北峰では登山道がないところから何パーティーも上がってきたと話していたので東尾根か天狗尾根かどちらかから登ってきた連中に間違いなく、足跡が期待できそうだ。赤岩尾根は地図を見ても凄い傾斜だが、本当に凄い傾斜だったとその人は言っていた。特に尾根に入るところはトラバースするのだがそこが凄かったという。尾根を下っている最中も何度か滑ったそうだ。やはり雪がある時期は私の手に負えそうもなく、牛首山は爺ヶ岳から往復するしかなさそうだ。

適当に斜面に取り付く 尾根上は檜樹林
石楠花が混じり始めるが薄い 一時的にブナ林に変わる

 

 前夜の天気予報では夜半に上空を気圧の谷が通過するので朝方まで曇りと伝えていたが、夜中はずっと星空が広がっていた。翌朝、ちょっとだけ薄雲が出ているが無風快晴なので勇んで出かけることにする。大冷沢にかかる橋を渡ると目の前は目的の尾根だ。施錠されたゲートを超えると林道が分岐し、右の林道が尾根を乗り越えるのだが法面で登れないので適当に斜面に取り付く。薄い笹でどうってことはなく簡単に尾根に上がれるが、どうも東尾根ルートはもっと奥から尾根に取り付くようで赤布はないし雪の上に足跡もなかった。まあ、尾根ははっきりして外す心配は皆無なので赤布なんか無くても全く問題ない。最初は檜の巨木の尾根で残雪が所々出てきたが、少し尾根が狭くなると石楠花も混じり雪が少なすぎて藪が出たままだ。まだ石楠花の密度が低いので大したことが無くて幸いである。こんな状況だから踏跡はもっと先で尾根に取り付くのだろうか。

標高1350m付近で赤布が出現する 足跡もたくさん出現する

 

 石楠花が消えていったんブナの明るい樹林になり、標高1350m付近で複数の赤布が現れて正しいルートが尾根に上がってきたことが分かった。しつこいくらいの赤布の数で、これなら下りで尾根を直進する心配もないだろう。とんでもない高い場所に付けられた布も多く、積雪期にも登られるらしい。足跡はかなり多く、何人歩いたのか分からないくらいだったので、東尾根は大賑わいだっただろう。まだ朝早いのでどうにか雪は締まってほとんど踏み抜かないが、ズボっと潜った足跡も見られたので下る時間帯はワカンがあった方がいいかもしれない。今日もピッケル、アイゼン、ワカンのフル装備である。気温はかなり高めで10℃もある。これでは雪も締まらないよなぁ。昨日は下界では28℃くらいまで気温が上がったが、今日も暑くなりそうだ。

檜樹林からブナ林に変わる 藪が出た尾根上を避けて登る
明るいブナ林が続く もうすぐ東尾根と合流

 

 緩やかな尾根なのでアイゼンの出番もなく、再び尾根上だけ檜樹林になって少々暗い尾根を登る。残雪がずっと続くようになり地面は見えないが、無雪期だと笹があるのだろうか。標高が上がるといつのまにかブナの樹林に変化して明るくなり視界も開ける。所々で雪が切れて藪が出ている部分があり、踏跡は尾根左の斜面を巻くように登っているのだが傾斜が急でアイゼンを付けて登る。まだまだ恐怖感が出るような傾斜ではないし、痩せ尾根ではないので問題はない。尾根に戻ると再び傾斜が緩み、明るい林を快調に高度を上げる。

東尾根に乗る 山頂が間近に見える
尾根が狭まると雪庇が出てくる 雪庇の段差を登る
雪が割れて段差が大きい場所 手前の枝に掴まってよじ登る

 

 やがて右手から尾根が合流するが、現場に行くと肩の部分ははっきりしなくて目印や踏跡がないとガスられたら苦労しそうな場所だった。今日のような好天で視界があって足跡もある時なら何の問題もない。まだブナ林が続いて尾根は広く、傾斜もさほどでないので快適な雪稜だ。1850m付近から尾根が細くなり雪庇の根元を歩いたりするが、足跡があるのでルートに悩むようなことはない。1カ所、崩壊しかけてクラックが入った雪庇の先で雪が割れて北側は切れ落ちており、尾根の真ん中には太いダケカンバが通せんぼしている場所があり、左手の雪も割れて藪が出ており、割れた雪の断面が2mくらいの壁になっている。どういうわけかここで足跡が分散しているのかこの雪壁を乗り越えた様子がみあたらない。もしかしたら左の雪庇下部を巻いているのかもしれないが、あんなところは恐ろしくて歩けないので、雪に埋もれて雪面に出ている枝を掴み、雪壁にピッケルを突き刺して支えにして強引に体を引き上げた。登りは段差乗り越えが面倒だが下りは段差のエッジを崩せば問題ないだろう。

ここが急傾斜地。短い これを登ると傾斜が緩む
もうすぐ山頂 一ノ沢ノ頭山頂。背景は鹿島槍

 

 その上部が4,5mの高さで雪の急傾斜だが、大明神山と比較すればとても短いし、これだけはっきりと足跡が残っていれば勇気100倍である。アイゼンを蹴り込んでピッケルをシャフトいっぱいまで突き刺してよじ登った。その上部にもっと厳しいところがあるかと思いきや、この上は穏やかな尾根になり、山頂に接近すると尾根が広がって広々とした山頂に飛び出した。な〜んだ、案ずるより産むが安して思ったより簡単に登れてしまった。

一ノ沢ノ頭から見た爺ヶ岳北峰 一ノ沢ノ頭から見た鹿島槍と東尾根

 

 山頂からの展望は圧巻で、とくに東尾根から北峰に至る尾根というか岩壁がど迫力だ。あんなの本当に登れるの?と疑問に思えるほどの凄さだ。少なくとも私の体験する世界ではなさそうだ。左に延びる尾根を追うと南峰、布引山を経由して最低鞍部、赤岩尾根の合流点、そしてすくっと立ち上がった爺ヶ岳北峰が凛々しい姿を見せている。天狗尾根の険しさもかなりなもので、人間ではなく天狗が登るルートではなかろうか。

山頂のテント跡 下り始める

 

 山頂にはテントを張った跡があり、連休後半初日が一番の賑わいだったのだろう。これだけ広ければ何張りでもいけそうだ。山頂の真ん中付近にザックを置いて休憩を兼ねて無線を運用した。薄雲が多くなってきたが天候は良好、無風でダウンジャケットを着ていると暑いくらいだった。今日も麦わら帽子を持ってきて正解だった。朝飯を食ってからあまり時間がたっておらず腹が減っていないのでウーロン茶を飲んで下山を開始する。

雪庇区間を下る ここまで来ると安全地帯

 

 4,5mの急傾斜だけはバックで下り、その下の段差は下りは楽だった。割れた雪の断面が高さ1m以上あり、適当に降りてもその壁がストッパーになって下に落ちる心配がない。雪の下は笹だったので、やはり夏はそれなりの藪らしい。この先は急な部分はなく、気温が上がって雪が緩んできたためにワカンに履き替えて歩いたがかなり楽に歩けた。傾斜がある部分はワカンを滑らせて下った。

雪が消えた区間では踏跡がある 尾根入口
尾根入口にはこんな看板がある

 

 下りでは赤布が林道のどこから取り付いているのか確認するため赤布を正確に辿ることにして、1300mで右手に下る。まだ雪があるのでワカンを履いたままだが、赤布は小尾根上についていてそこは雪がないので右手の谷を下り、傾斜が増して雪が無くなったところでワカンを脱いで、薄い笹の斜面をトラバースして尾根に乗った。尾根上には明瞭な踏跡までついており、利用者の多さがうかがえる。もしかしたら笹藪の中に断続的に踏跡があって、蒲田富士のように無雪期でも登れる可能性があるか。

上原の湯(旧大町市民浴場)

 さすがに休日は明日しかない日に東尾根を登ってくる人間は皆無で、誰とも会わないまま林道に出た。そこは標高1230m付近で落石注意の看板が目印である。踏跡ははっきりしているし目印も目立つので見落とすことはないだろう。それに沢には堰堤があるので、これもいい目印になる。

 残雪の林道を歩いていると突如として除雪された区間に出て、まもなくゲートが見えてきた。着替えを済ませて大町温泉郷の「上原の湯」に向かう。ここは以前は大町市民浴場という名称だったが昨年くらいに改装されてきれいな建物になった。幹線道路から引っ込んだところにあるので観光客の姿は少なく、いつ来ても混雑していないのがメリットだ。改装後は\500に値上げされたが妥当な料金なので不平はない。今回もガラガラでのんびりできた。劇団四季の資料館?の向かい側なのでそっちの案内看板の方が役立つかも?

5:10駐車場−5:17斜面に取り付く−5:27尾根に乗る−5:55 1350mで踏跡合流−7:05東尾根に乗る−7:43一ノ沢ノ頭着−8:22一ノ沢ノ頭発−9:09南東尾根を外れる−9:19林道−9:37駐車場




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