信越国境 赤倉山、ナラズ山、猿面峰、佐武流山 2006年6月2〜3日

 

 

 野反湖から佐武流山は9年前の大型連休に歩いたことがある。当時はまだ秋山郷からの登山道は存在せず、佐武流山に登るには藪漕ぎするか残雪期に登るかしか選択肢がなかったのだ。今は夏道ができて佐武流山の日帰りも可能になり訪れる人も増えただろう。さらに佐武流山から苗場山までの間も刈り払いが行われて、今では県界尾根大縦走が可能となっているようだ。

 このように白砂山〜苗場山の間は昔とはずいぶん環境が変わって登りやすくなった。このエリアで未踏の2000m峰はナラズ山と猿面峰だが、開かれたルートの正確な場所は良く知らず、もし地形図の破線と同じルートだったらナラズ山は巻いているだろうし、猿面峰は主稜線から外れたピークなので道があるはずはなく、雪がある時期に登るべき山だろう。ちなみに猿面峰は佐武流山の北西方向にあり、山頂から北方の県界尾根から西に派生しているピークである。こんな佐武流山のおまけのようなピークに名前が付いているのも不思議であるが、山名事典に記載されているのだから登らないわけにはいかない。ネットで検索すると秋山郷からの登山道途中にあるピークが出てくるが、私が登ろうとするピークについては記録は発見できなかった。まあ当たり前だろうが。

 6月に入れば例年なら佐武流山周辺でも残雪はほとんど期待できないだろうが、2006年は残雪が多く例年より2週間くらいは雪解けが遅れているのではないかとの勝手な想像で、まだどうにかなるのではと期待して6月に入ってしまったが向かうことにした。ルートとしては秋山郷の夏道が最有力だが、地形図に道が記載されていないのでルートが分からずネットで検索してみたところ、月夜立岩南方を通る林道から檜俣川を渡渉して1870m、1891m標高点がある尾根を経由して県境稜線に達する尾根を登るらしい。無雪期は問題ないが残雪期にはちょっと心配な点がある。まずは雪解けで増水するので檜俣川の渡渉が可能かどうか、そしてその後の尾根の取り付きの斜面の傾斜で、コンタを見る限りは夏道はジグザグっているだろうが積雪があるとそんなものは埋もれてかなりの急雪面をよじ登ることになり、私の度胸ではかなり恐ろしい体験となろう。尾根に出てしまえばなだらかになるので心配ないが、いったいどの程度まで雪が残っているのかわからない。

 結局、秋山郷からのルートは諦めて赤湯経由で登ることにした。例年だと大型連休くらいには林道も開通し赤湯までの間も雪は無くなるらしく、もう6月なので問題はないだろう。今年の大雪で林道開通が遅くなるとの考えもあって今の時期までずらした経緯もある。棒沢から赤湯までの間はトラバースの連続で急斜面もあり、もし雪が残っていたらかなり嫌らしいので時期が早すぎるのは避けたいところだ。こちらの問題は赤湯から赤倉山までのルートで、山頂渉猟の記述では笹に埋もれて藪漕ぎだったと書かれており、残雪が少なすぎると相当苦労しそうだ。そこは残雪頼みになってしまうが雪に期待するしかない。


清津川沿い林道入口 車止めにぶら下がっている注意書き。正確には鉄橋は落ちておらず破損が適当な表現か
赤湯へ分岐する林道入口 赤湯分岐下ヘアピンカーブの駐車場

 

 5月は梅雨入りしたような悪天が続いて先週も山に行けなかったが、今週末はどうにか雨は降らなくて済みそうなので決行を決定する。金曜まで快晴でそれ以降は徐々に雲が増えてくるとのことで、まもなく梅雨入りして来週以降は山に行ける確率が大きく減るだろうからと金曜に代休をとって出かけることにする。月夜野ICで降りて国道17号線を登るがトンネル周辺でも全く雪は見えない。標高は1000m程度あるはずなので、ここで雪がないと赤倉山までもしばらくは雪が消えていると考えざるを得ず少々気が重くなる。苗場プリンスホテルの正面を通過して目的の林道を発見、苗場山登山道の案内もあった。舗装された道を進むと林道が分かれ、右手は広場の向こうでゲートが閉まっているが苗場山の案内が無く、バックして左側の林道を覗くと標識があったのだが、なんと棒沢にかかる鉄橋が破損して当面は通行止めとの表示があるではないか! 林道は手でどかせる車止めが置かれているだけなので進入は可能だが、地図を見ると棒沢は赤湯に至るずっと手前で、ここを渡れなかったら苗場山だけでなく赤湯にさえも行けない。地形図を見ると棒沢は両側はゲジゲジマークではなく谷へ降りられそうで、水量によっては渡渉も可能だろう。今から秋山郷に向かっても同様に渡渉が可能かリスクがあり、どっちもどっちだろうとこのまま行くことにして車止めをどかして車を入れて車止めを元に戻してから進んだ。橋で右折して清津川を渡りしばらく走ると右側に廃林道?が分岐し、そこに案内標識がついていた。どうやら車はここまでらしいが置き場所がないので河原へと下る林道を辿るとヘアピンカーブで広い駐車スペースがあり先客が1台あった。自然保護員の腕章が置かれており、どうも赤湯関係者の車らしく無人だった。夜中に無人の車があると言うことは持ち主は山中で宿泊のはずで、当然ながら赤湯の確率が高く、そうなれば棒沢は渡れるということだ。私に渡れるかわからないが、少なくとも絶対に渡れないということはなさそうで多少は安心、パッキングを済ませて寝た。

林道は豪雪で倒木がひどい 破損した棒沢にかかる橋。これでもビクともせず渡れた

 

 寝たのは12時過ぎで、初日はナラズ山付近で幕営予定なので急ぐ必要もなくアラームを設定しないで寝ていたら、早朝に車がやってきて釣りらしき男性が林道を上がっていた。おお、もしかしたら私と同じく棒沢を超えるのだろうか? もう少し寝てから朝飯を食い出発した。最初は廃林道歩きだが、林道に上がると廃林道ではなくまだ使用されている林道のようだった。今年の大雪でたくさんの木が倒れかかり、法面からの落石、崩落も多く、開通するにはかなり時間がかかりそうだ。特に木が邪魔で迂回したり隙間ををくぐり抜けたりと鬱陶しいことこのうえない。大ザックでは枝に引っかかるし、ザック脇のピッケルも木に引き戻される大きな要因だ。入口付近がもっとも倒木が多いが徐々に減ってきて歩きやすくなる。林道終点からは廃林道となり立派な登山道が水平に続き、問題の棒沢の沢音が聞こえてきた。橋は雪の重みで真ん中からV字型に折れ曲がってはいるが崩落しておらず、縄ばしごのように手すりが橋の上に並べてあってそれを手がかりに渡れそうである。朝露で濡れた鉄はツルツルだがロープに掴まって「鞍部」に下り、手すりのパイプを挿入する穴を足がかりに登り返して無事対岸にたどり着いた。思ったより簡単で、帰りの心配もしないで済む。この山奥でこれだけの構造物を作り直すのは時間がかかりそうだが、すぐに落ちそうな気配はないので今シーズンは何とかなるだろう。

鷹ノ巣峠。でもここは最高地点ではない 熊沢へ下る道。足場が悪い

 

 その先は鷹巣峠への登りになるが、登山道はしっかりしており倒木もなく林道よりずっと歩きやすかった。ツツジ、石楠花が花盛りで初夏を感じさせる。しばらくは尾根を登るが1184m標高点(鷹ノ巣峠)から巻き道に入る。峠だから最高点かと思ったらまだ上がり、下り初めて「見返りの松」ではドコモのみ携帯電話入感地との案内があった。試しに私の携帯(ボーダフォン)の電源を入れたが圏外だった。緩やかに下った後は急斜面のジグザグ道だが雪解けで道が崩れて歩きにくくピッケルが心強く感じる。これで雪が付いていたらとんでもない傾斜を直登だから私には無理だろう。

熊沢を渡る鉄橋。棒沢鉄橋と同じ構造。手すりは寝かせたままになっていた 赤湯温泉の露天風呂
赤湯温泉。立派な建物で驚いた 清津川を鉄橋で渡り赤倉山の尾根に取り付く

 

 下りきると折れ曲がっていない鉄橋で熊沢を渡る。ここも手すりが橋の上に並べてあるが、冬の間は雪によりロープが切れないようにこうしておくのだろうか。次も同様の鉄橋で清津川を渡るが、これが微妙に曲がっており簀の子状の足下の板が落ちないかちょっと心配になるくらいだが、こいつは手すりが付いたままでそれで安全を確保して渡った。対岸が赤湯温泉で露天風呂がいくつかあり、その先にはこんな山の中でどうやってこんなでかい建物を建てたのか不思議になるほどの立派な温泉宿が現れた。ここまでは温泉客も通る道だが、この先は登山道である。

新緑がまぶしい 赤倉山ルートの分岐

 

 清津川河原が登山道なので、増水した今の時期は右岸の岸ギリギリや河原から出て高い場所を歩かなくてはならない場所もある。目印の石は水の中に沈んでいる場所も。やがて高い場所にかかった鉄の橋で左岸に渡ると苗場山への登山道へと登りになるが、地形図によるとこの左の斜面に赤倉山分岐があるはずだがその形跡も見られない。でも、この苗場山への道は半島のように熊沢へと突き出た尾根を超えて熊沢を渡りため、尾根のてっぺんに踏跡があるかもしれないのでそのまま進む。そして尾根に出ると予想外にもきれいに刈り払われた登山道がまっすぐ上に向かっているではないか。県境稜線の復活に合わせてここも刈り払いを実施したのだろうか。これだけ雪がないと笹藪漕ぎは大変なので大助かりだ。道ははじめは尾根南側をジグザグに登るが、やがて尾根を超えて北側を巻くように付けられている。刈り払いは完璧で体に触れる笹はほぼ皆無、完全にエアリアマップの赤実線レベルだ。山頂渉猟の著者が登ったときは深い笹で苦労したそうだがそれが嘘のようだ。時々残雪が現れるがアイゼン無しでもまだ登れる。

赤倉山ルートは完璧な刈り払い 標高1800mで広い雪面に出る
尾根南側をトラバースしつつ県境稜線を目指す 残雪の赤倉山山頂

 

 標高1500m地点の風通しがいい場所で休憩するが、今の時期はもう虫が多くて刺されないように虫を追い払うのに手間がかかる。早く雪が連続して出てくるようにならないかなぁ。そうすれば虫もいなくなるだろうが、まだまだその気配はない。快適な登山道が続き、標高1800mでやっと広い雪面が現れ再度休憩、アイゼンをつけて登り始めるが上部は雪が切れて猛烈な笹藪が見えている。今まで同様北側を巻くのかもしれないと調べてみるが笹に切れ目はなく南を見てみるとありました、ここからは左を巻くように笹が刈られていた。再び雪が切れて夏道を登り、とぎれとぎれに現れる雪田をトラバースし、最後の斜面を横切ると赤倉山山頂一帯の広大な残雪帯に飛び出した。だだっ広いし夏道は埋もれて分からず、下りに迷いそうなので短い区間は目印を付けながら進む必要があった。そしてGPSが山頂を示す最高地点で休憩した。山頂一帯はシラビソ樹林が開けた場所で、雪面すれすれに山頂標識が付けられていた。雪が増えたら虫がかなり少なくなり快適に休憩できて大助かりだ。

赤倉山からナラズ山へと歩き出す 1900m付近から見たナラズ山
ナラズ山手前から振り返る もうすぐナラズ山山頂

 

 この後は快適な雪稜が続くと思いきや、山頂から1930mピークにかけては雪が豊富だったが、その先はほとんど夏道を歩くことになった。こちらも刈り払いはほぼ完璧で藪のやの字もないので苦労はないが、残雪期の山に登って夏道を歩くのはちとなぁ。道はほぼ稜線上につけられ、時々わずかに右に逃げる程度でわかりやすい。藪山と違って登山道がある山は記事を書こうにも書くことがないなぁ・・・。

ナラズ山山頂 標識の裏にはDJFの落書き

 

 ナラズ山への苦しい登りもほとんど夏道で日差しが暑い。今日も麦わら帽子で正解だった。地形図では破線は山頂を巻くように付けられているが、いつになっても巻く気配が無く忠実に稜線を辿り、いつの間にかナラズ山山頂に到着した。専修大学ワンゲルが1980年夏に付けた山頂標識がひっそりとお出迎えで、道がないときに藪漕ぎでやってきた連中の貴重な標識だ。佐武流山山頂のGWVの標識も生きているだろうか。あれも夏に登った連中が付けた物で、昔の大学ワンゲルはハードな藪山山行が盛んだったらしいが、今では妙な藪山に入ってもワンゲル標識を見ることはなく、20年以上昔に付けられた標識は見ても近年の物は見たことがない。学生よ、夏のアルプスよりも藪山の方が面白いよ! 専修大ワンゲル標識の裏側には「05.10.22 DJF」の落書き発見。昨年秋にDJFが歩いたのか。たぶん佐武流山から苗場山までまとめて登ったのだろうな。

 ここでこの後の予定を考えた。正午を過ぎた程度でまだ時間はたっぷりあるが、この先に行くと標高1800mまで下って佐武流山への登りにかかることになる。今までの感じから考えると佐武流山の山頂付近まで行かないと雪は期待できないだろうから、途中で水を得るのは難しい。そして佐武流山まで行くのは今の疲労具合から考えると無理ではないがかなり苦しいし、もしそれをやると明日は大ザックでナラズ山の登り返しもある。それよりもここで幕営して明日は空身で猿面峰を往復する方が得策だろう。かなり時間は早いがここでマッタリすることに決めた。明日の行動時間が長くなっても土曜日で、翌日曜日も休みだからまあいいか。

ナラズ山山頂のテント ナラズ山から見た赤倉山、苗場山

 

 山頂は北側は夏道が出ているが東側と南側は雪に覆われており、三角点は雪の下だった。できればテントは地面の上に張りたいが、刈り払われた登山道はテントが張れるほどの幅はないし水平な部分も無いため、東側の雪の上に張ることにした。その前にシュラフの虫干しと水作りの準備。気温が高いから以前より燃料を使わなくて済むだろうが節約できるものは節約した方がいい。午前中は青空だったのが徐々に雲が増え、そのうちに周囲はガスに覆われるようになったが、天気予報は明日朝は雲が出るが日中は晴れとのことで明日はいい写真が撮れるだろうか。昼寝をして夕方からラジオを聴きながら酒を飲んで寝た。ナラズ山は関東に開けているようでFMラジオは関東一円全て入っており、NHK総合TVの音声も良く聞こえていた。

 6月ともなれば気温は高めで0度まで下がることはなかったが、雪の上での幕営はちと寒い。銀マットの上にザックを敷いて冬用シュラフ、ダウンジャケットでちょうど良かった。下界では夏日が続いて体も徐々に夏モードだからしょうがない。ダウンジャケット、フリース、長袖シャツなどはシュラフ同様寝ているときにしか使う必要はなく歩いているときは日の出直後からずっとTシャツだった。

 まだ暗い時間に起床して朝飯を食い、テントはひっくり返して無雪地帯で虫干しした状態で猿面峰にアタックだ。防寒具は長袖シャツにゴアだけにして荷物は最低限だけにした。念のためアイゼンとピッケルは持っていくが、歩き出してすぐの尾根が広い区間だけ雪が続いたが尾根が狭まると夏道の連続になりアイゼンを脱いだ。そうそう、雪はこんな残雪期としては遅い時期なので日中でもほとんど潜ることもなく早朝は快適に歩ける。これは予想できたことなのでワカンは持ってこなかった。

ナラズ山西方から見た猿面峰 ナラズ山付近から見た佐武流山

 

 猿面峰は佐武流山の右手に黒々とした姿が見えている。ありゃ雪は少ないなぁ。でも尾根の裏側はここから見えないので、もしかしたら残雪があるかもしれない。もし無くても雪田は多少は残っているだろうから夏場よりは楽できるはずだ。稜線からさほど離れていないので藪を漕いでどうにかなるだろう。昨年の三国スキー場から県境尾根経由忠次郎山の長距離長時間藪漕ぎ山行を考えれば大した距離ではない。

佐武流山が高い 鞍部へと夏道を下る
水場分岐。しっかりと刈り払われている 秋山郷登山道分岐

 

 相変わらず素晴らしい道が続き、最低鞍部を通過して少し登ったところで右に分岐が出てきて、もしかしたらこれが秋山郷からの登山道か?と思ったら水場への分岐だった。ここも少なくとも入口は完璧な刈り払いだったので、おそらく沢の源頭まで藪が刈り払われているだろう。その上部で本物の秋山郷への登山道が現れ立派な標識も設けられていた。ここを境に道のグレードがさらに上がり、利用者が多いことがうかがえた。さすが200名山だか300名山だけのことはあるようだ。そのまましばらく夏道を上がると標高2000m付近の緩斜面で一面の残雪帯になり、うっすらと足跡が残っているのが確認できた。この気温だからすぐに足跡は消えてしまうので、間違いなく昨日登った人のものだろう。今の時間だと全く足跡が付かないくらいの堅さなので日中に登ったものに間違いない。残雪期ギリギリでも登る人がいるんだなぁ。このコースで人がいるのだったら檜俣川は渡渉できたと言うことだし、尾根上も下部の急斜面にも雪は無かっただろうから秋山郷から登った方が楽だったなぁ。まあ、それは結果論で事前予想は難しいのでしかたない。

標高2000m付近の残雪帯。僅かに足跡が残る 猿面峰へと至る尾根入口

 

 標高2100m近くが猿面峰へと分岐する尾根なのでGPSで標高を確認しながら残雪を上がっていく。時々夏道が現れるが雪でどこでも歩けるからあまり気にしなかった。雪は東斜面は残っているが西側は一面の笹藪なのでどこで尾根が分岐するのか発見できるのかかなり不安があったが、うまい具合に目的の尾根分岐点だけ残雪が西に延びていたので大変わかりやすかった。当然ながら分岐点には目印が無く、無雪だと笹の海で分かるかどうか。ここでアイゼンと付けて下り始めた。さてどこまで雪が続いてくれるだろうか。

どうにかギリギリ残る残雪 しかし雪が切れて笹藪漕ぎ
尾根上は笹とシラビソの混合 笹を抜けて残雪にありつく
鞍部まで雪は続く 鞍部からも残雪がありラッキー!
鞍部から佐武流山方向を振り返る。尾根上は藪 残雪帯を猿面峰へと登る
鞍部を見下ろす。残雪帯は細い 残雪終点でこの先は強烈な藪漕ぎ

 

 すぐに雪はなくなるかと思ったが100mくらいは快調に雪の上を歩け、雪が切れたあとは狭い尾根上を正確に歩いた。笹藪が主体で時々シラビソが混じるが、笹は腰から胸程度なので視界が得られ、しかも思ったより密度は高くなく尾根を外さなければさほど苦労はなかった。その尾根の真上に木があり邪魔しているところでスピードが鈍り、灌木が登場するとくぐり抜けるのに苦労する。右手は切れ落ちているので主に巻くときは左側をとった。笹藪も長続きはせず残雪の白が見えたときにはほっとした。そこからは鞍部まで続く雪が見え、登り返しも尾根の南側に山頂直下まで雪が続いている。これなら山頂直下だけ藪漕ぎすればいいので楽勝だ。アイゼンを効かせてガンガン下り、登り返して雪が消えたところでアイゼン、ピッケル、メインザックをデポしてウェストポーチだけ持って藪漕ぎ開始だ。GPSによると山頂までわずか40mなので直登だ。今度は笹ではなく半分立ったハイマツ、檜、コメツガの連続で地面に足が着かず、できるだけ薄いところを選んで主に枝の上を歩く。これが無雪期に鞍部から続いていたらやだなぁ。でも距離はまだ短い方だろうか。

ここから藪に突入 ハイマツ+檜+コメツガで足が地面に着かない
山頂は藪が切れて気持ちいい場所 境界標石があってビックリ

 

 藪が徐々に薄くなり、藪が切れたら山頂だった。予想外に境界標石とおぼしき物体が埋まっていたが標識類はなかった。さすがのDJFも無雪期ではここまで足を延ばさなかったようだ。おそらく山ランでもここを踏んだ人はいないだろうし、山岳会全般でも数えるほどではなかろうか。地形図に名前の記載がない枝尾根にあるマイナーピークだからなぁ。休憩兼無線を行い、おまけの佐武流山山頂に向かうことにする。やはり笹藪より半分立った樹木の藪の方が手強かった。

おまけの佐武流山に向かう 佐武流山山頂。地面が出ていた

 

 県境稜線に戻り、荷物をデポして空身で山頂を往復する。半分以上は夏道を歩き、三角点が顔を出した佐武流山に到着した。9年前はあったGWV標識は撤去されてしまったようで見あたらず、立派な標柱がでんと立っていた。誰が撤去したのか分からないが、20年以上前の道がない時期のクソ暑い8月に苦労して山頂に立った連中の苦労を想像できるのだろうか。私が登ったときには唯一の標識だった(他にあったのかもしれないが残雪期で埋もれている可能性もある)ので無くなっていたのは非常に残念だ。

こんな残雪帯が続くと気持ちいいのだが ナラズ山への登り返しはきつい
刈り払いは完璧です うちの会社の山岳会の物?

 

 無線を聞きながら休憩し、水分補給してナラズ山に向けて出発だ。残雪帯ではアイゼンを付けずグリセードで快調に下るが、登り返しは昨日の疲労もあってペースダウンする。鞍部から250mの登り返しはきついが、昨日よりも気温が下がったらしく稜線を吹く風が心地いい。小さなアップダウンや肩が多くなかなか山頂が近づかないが、やっとのことでナラズ山に到着、デポした荷物はそのままだった。持っていった水は飲み尽くしてしまったのでデポした水をペットボトルに移し、残雪を入れて水かさを増やした。これからの行動時間も長く、朝飯を食って5時間以上経過したので昼飯を食っておく。テントを畳んで荷物満載の大ザックを担いで出発だ。振り返ると佐武流山は遠く、谷を挟んだ反対側の大黒山、上ノ倉山、忠次郎山の稜線が懐かしい。

 赤倉山で小休止し、清津川までは虫が多い尾根なので休みなしで一気に下る。山頂直下の雪田トラバースはアイゼンが欲しい傾斜だが、履くのが面倒なのでピッケルだけ持ってステップを切りながら恐る恐る横断した。それを過ぎて尾根に戻ればもうピッケルの出番もなく、夏道を快調に下っていった。苗場山登山道と合流する頃には気温も上昇したが真夏よりはずっとマシだったし、樹林で日差しが遮られて体を動かさなければ快適だった。橋を渡った清津川河原で最後の休憩をし、濡れタオルで体を拭いてさっぱりした。河原を吹き抜ける風は涼しい。

 最後の難関、鷹ノ巣峠の登り返しは牛歩戦術さながらののんびりペース。時々吹く風が心地よかったが下山時の登りは精神的にも体力的にもきつい。峠から下りになってやっと気が楽になった。V字型の棒沢の鉄橋も難なく超えて林道歩きをこなして無事駐車場に戻った。


6/2
5:21駐車場−5:25赤湯への林道−5:49林道終点−5:55棒沢の鉄橋−6:29鷹ノ巣峠−6:44見返りの松−7:07熊沢の鉄橋−7:32赤倉山分岐(休憩)−7:52出発−8:46 1430m鞍部−8:58 1540mで休憩−9:17出発−10:07広い残雪帯1830m(休憩)−10:20出発−10:40赤倉山着−11:05赤倉山発−12:09ナラズ山着(幕営)

 

6/3

4:27ナラズ山発−4:55 1820m鞍部−5:08最低鞍部−5:14水場分岐−5:25秋山郷分岐−5:38−5:52猿面峰分岐(アイゼン装着)−5:56出発−6:07最低鞍部−6:12残雪終了−6:17猿面峰着−6:32猿面峰発−6:36残雪−7:04県境稜線−7:24佐武流山着−7:32佐武流山発−7:58秋山郷分岐−8:03水場分岐−8:07最低鞍部−8:19 1820m鞍部−9:14ナラズ山着−10:01ナラズ山発−10:48赤倉山着−11:00赤倉山発−11:09残雪帯を抜ける−11:38 1430m鞍部−12:07苗場山登山道−12:15清津川の河原(休憩)−12:42出発−13:23見返りの松−13:37鷹ノ巣峠−13:57棒沢の鉄橋(休憩)−14:02出発−14:09林道終点−14:31駐車場

 

 

山域別2000m峰リストに戻る

 

ホームページトップに戻る