再挑戦! 白峰南嶺 大唐松山 2006年10月15日

 


 10年くらい前に武内さんが大唐松山に登ったときは凄い笹藪だったとのことで、今年の大型連休直前にまだ藪が雪に埋もれた時期に登るべく出発したが、開運トンネルのゲート(門)は人間も進入できない構造で奈良田から登らされた。すると予想外に尾根上の笹は全て枯れ果て、その中にはっきりとした踏跡(獣道?)が刻まれ、目印もそこそこあって自分で目印を付けることなく大唐松山直下まで到達できたが、雪の付いた急斜面+痩せた尾根に恐れをなして撤退し、無雪期に再挑戦することに決めた。そしてもう10月も中旬を迎え2500mを越える道無き高山を登るにはぴったりな時期を迎え、仕事も一段落したので挑戦することにした。もちろんルートは前回と同じく奈良田から雨池山経由である。ただ、今の時期は広河原への林道がマイカー規制で奈良田で止められて開運トンネルまで歩かなくてはならない可能性があるが、7月の大雨で林道が崩壊し現在は復旧作業中でマイカーどころかバス、タクシーも入れない状況なので、奈良田ゲートは撤去されてもしかしたら開運トンネルまで入れるかもしれないと期待した。

奈良田臨時駐車場兼広河原方面バス停 奈良田臨時ゲート(有人詰め所)

 

 前日は風邪気味なこともあって1日ゆっくりと寝てから出発、ところが銭湯に出かけるときにアパートの鍵を部屋に閉じこめてしまい入れなくなり(2年半の生活で初めて)、不動産屋に行ったら私の部屋だけマスターキーが行方不明!! いろいろ悩んだ結果、ちょっとした隙間から内部に侵入できたが、もしあのまま入れず、鍵屋でも呼んだら出発が大幅に遅れただろうし、銭湯から帰ったあの格好で長時間屋外にいたら風邪を悪化させて山どころではなかっただろう。30分遅れで出発できたが、調布ICで中央道に乗ろうとしたらETCゲートが開かず。なんと間違って期限切れのカードを持ってきてしまったのだ!! なんと今日は調子が悪いことか。これ以上悪いことが起こったらたまったものではないので運転は慎重に行い無事に甲府南ICで一般道に降りた。ちゃんとETCが使えれば通勤割引の時間帯なので半額だったのだが。奈良田の集落を過ぎてすぐのところがマイカー規制の駐車場とゲートというか有人詰め所で、番人が見張っていて入れなかった。バスが運休中だから駐車場は空っぽで、おそらく明日もほとんど山登りの人は来ないだろう。酒を飲みながらパッキングを済ませて寝た。

 翌朝、まだ真っ暗な4時半に起床、飯を食ってヘットライトを点灯して出発する。久しぶりの日帰り装備で荷物が軽くて快適だ。ザイルを持っていくか一瞬悩んだが無雪期なら要らないだろうと置いていくことにし、その代わりに底が減って滑りやすい登山靴のために軽アイゼンを持っていくことにした。上空は雲に覆われ星は全く見えず、もしかしたら山はガスの中で寒いかもしれないのでダウンジャケットも持っていく。でも水は念のため1.5リットルだ。小日影山の時は水が足りなくて苦しかったからなぁ。

開運トンネル。冬季通行止めと違って人間用ドアあり 大門沢登山道ゲート。この右側に祠がある
祠と送電線巡視路入口 手すりまでついた巡視路

 

 ゲートは監視人の車が駐車したままだったが、早朝はちょっと下にある工事事務所?に帰っているようで無人で、車で入ろうと思えば入れたのだが帰りのことを気にしながら登るよりはきっぱりと歩いた方が精神衛生上よろしかろう。それに歩いてみたら30分もかからなかったし標高差も少々だった。歩いていると徐々に明るくなってきて林道ならライトも要らないくらいになってきたが樹林中はそうはいかないだろう。開運トンネル前で左に曲がり農鳥登山道へと入り、ゲートが出てきたところで右側の祠から送電線巡視路に入るところでTシャツ姿に着替えているところを、大門沢方面へ夫婦が登っていった。きっと俺も後からついてくると思っているのだろうけど、どっこいこちらはここから登山道を外れて登るのだ。道を外れるだけでなく常識からも外れているか。

導水管下部を見る 導水管上部を見る
巡視路分岐。ここはまっすぐ(左) 導水管最上部

 

 巡視路の最初は平坦な杉林の中だが、タダでさえ杉の落ち葉で隠されて踏跡が薄いのに暗いとなるとルートを探すのは容易ではないが、一度歩いて最終的な斜面取り付き場所が分かっているので適当にそっちへ歩けば問題なく、正しいルートに乗ることができた。斜面をジグザグに登る手すり付き区間まで来れば例え暗闇でも迷うことはなく、あとは淡々と歩くだけいい。導水管にたどり着く前に明るくなってきたのでヘッドライトは不要になったが、それでも曇り空で何とも薄暗く、私のデジカメでは感度不足でシャッタースピードがめちゃくちゃ遅くて撮影不可能な明るさだった(写真は下山時に撮影)。ちなみにシャッター速度が1/30より遅くなると手ぶれの可能性が高くなるので要注意。

 

ここからTVアンテナまで薄い踏跡を辿る TVケーブルの尾根を登る。笹は枯れている
藪皆無で歩き易い TVアンテナ

 

 導水管最上部から送電鉄塔まで登ると巡視路が終わって、標高1360m地点にあるTVアンテナ群までの薄い踏跡を辿ることになる。相変わらず部分的に急傾斜で私の滑りやすい登山靴では注意しながらであるが、前回のような大ザックではないので余裕がある。傾斜が緩むと一升瓶が散乱する場所を通ってTVアンテナ群、崩壊の程度から考えてたぶんもう使われていないと思われる。

新たに付けられていた深紅の目印 最初は広い尾根
1420m肩 尾根の様子1
枯れた笹の中にはっきりした獣道 1542m肩
尾根の様子3 尾根の様子4
尾根の様子5 尾根の様子6
尾根の様子7 尾根の様子8
尾根の様子9 尾根の様子10

 

 さあ、この先が本番であるが、なにせ前回歩いて様子は分かっているし、真新しい深紅の布まで目印として増えているのでつい最近登った人もいるくらいなので全く心配していなかった。最初は広かった尾根が収束すれば、あとは踏跡を辿るだけとなる。相変わらずしっかりした踏跡で、枯れ果てた笹原の中にもはっきりとルートが通っている。枯れた後に笹の新芽でも出ているかと思ったがそんなことはなく、少なくとも数年は笹藪がない快適な尾根のままだろう。標高が上がると徐々に広葉樹の葉が勢いのある緑からくすんだ緑、黄色へと変わっていく。さらに高度を上げるとシラビソ主体の樹林に変わり、雨池山三角点ピークに出た。相変わらず謎のメジャーが落ちている。4月には残雪があったが今の時期はその面影も感じられない。ガスで視界がないが、どのみち樹林で先は見えないから影響はない。

そろそろ雨池山三角点 雨池山三角点
雨池山三角点に落ちているメジャー 雨池山鞍部
鞍部から少し登ったところにある標識 雨池山山頂

 

 鞍部はシラビソ樹林で何となく踏跡があるような無いようなだが、藪がないので適当に歩ける。緩やかな最低鞍部を通過し僅かに上ると前回気づかなかった雨池山山頂標識があったが、どう考えても最高地点ではないこんなところに標識を付けたのか謎だ。標識に書かれた標高からすると三角点の場所のはずだ。その向こうに見える岩の上が最高地点であるが、こちらには標識はないままだった。

雨池山から西に下る 今度は北に下る。この筋、刈り払いだよなぁ
鞍部の薄い笹原 1934mピーク手前
笹原は腰ほどの高さ 標高2000m付近で尾根に乗る

 

 その昔刈り払われたとしか思えない一筋の空間を西に向かい、途中から適当に北に下るがここにも切り開かれたような直線的な空間がある。前回は少し西に行きすぎたが今度はドンピシャで尾根に乗ったようだ。笹の中に伸びる鹿道を辿って歩いていく。うち捨てられたワイアーロープが散乱する1934mピークを過ぎて小さなこぶをいくつか越え、再び薄い笹原の鹿道を追って前回登ったときよりも東側を登ることにした。前回登った時は少し笹が続いてからは落葉広葉樹林、そして唐松植林帯だったが、こちらはすぐに笹が消えてシラビソ主体の自然樹林になり、鹿道をつないで尾根に出ると見覚えのある唐松植林帯に出た。ここまでははっきりした尾根ではなくただの斜面なので登りはいいが下りは要注意である。目印は疎らで、しかも登る人によってルートが異なるようでばらけて付けられているので下りで目印を連続的に目にするのは難しいだろう。私は下りで少し西に行きすぎてしまった。

唐松樹林とシラビソ樹林の境界を登る 真新しい赤布が目立つ
草付きが気持ちいい まだまだ登る
2270m鞍部東のヌタ場 2320m峰南斜面

 

 草付きの唐松植林帯はなかなかの傾斜で、前回大ザックを担いで登ったときにここで休憩したのも頷けるが、今回は日帰り装備なので足が軽く2320m峰までこのまま行けそうだ。尾根の左側が植林地帯、右側がシラビソ中心の自然林の尾根をグングン登っていくとやがて唐松植林帯が終わり一面のシラビソ樹林になり2320m峰は近いが、その手前に2270m微小ピークがあり騙されやすいところだ。鞍部東側には鹿のヌタ場があったが4月は雪に埋もれていたな。

2320m峰の目印 2320m峰西側の平地

 

 広い尾根を登り切ると背の高いシラビソに覆われた2320m峰に到着、4月にはなかった3連の赤布が目立つ。ピーク西側は平らな草付きで幕営適地だったのは、4月は雪に覆われていたので分からなかった。ここから先はもう大した距離ではないので、メインザックをおいてアタックザックで往復することにする。腹が減ったので飯はここで食い水も飲んで、アタックザックに入れるのはゴアと防寒着だけにした。天候は相変わらずガスの中で良くなるのか悪くなるのか分からないが、天気予報では降水確率10%とのことでたぶん雲海の雲の中にいるのだろう。問題は大唐松山の標高で雲海を抜けられるかどうかだが、そもそも大唐松山の展望があるのかどうか・・・。

西へと向かう シラビソ幼木があるが極短距離で薄い
2346m峰 2330m微小ピークの林班界標識

 

 休憩中はあまりにも寒くてシャツ、フリース、ダウンジャケットまでフル出場だったので防寒着は全部持っていくことにしたが、小さなアタックザックなので入りきらずにフリースはアタックザックの上に羽織っていくことになった。おそらく激藪はないだろうから問題は無かろう。ガスに煙る2346m峰を越え、前回ワカンをデポした地点を通過し、唯一の林班界標識を過ぎると核心部が始まる。

最低鞍部へと下る 最低鞍部

最初の短い急傾斜 次の急傾斜。ここは4月も突破
傾斜が緩む 露岩が混じる
また急斜面。4月はここで撤退 苔むした尾根
また急な尾根 まだまだ登る
倒木処理の跡。たまに営林署が入るのか? 大唐松山が近づく

 

 草付きの最低鞍部は問題なし、2320m微小ピークの次の鞍部は露岩で左右は切れ落ちているので岩の上を越えていく。ここは前回緊張した場所だが無雪期ならなんと言うことはない。最初の短い急斜面は緊張して越えたところだが全く問題なし、次に前回ロープを出した急斜面は雪がなければホールドスタンスともたくさんあるので特に問題なく突破できた。やはり雪の有無は大きい。次の急斜面はちょっと距離があるがここが前回の撤退場所、しかし今は簡単に登れザイルなど全く不要だ。この後も2カ所くらい急斜面区間があったが雪がなければどうということはなかった。この尾根は階段のように急な場所と緩やかな場所が交互に現れ変化に富んで楽しめる。登るに従って徐々にガスが薄くなって上空が明るくなり、とうとう雲の層を抜けて青空の下に飛び出した。やれやれ、これで快適な登りが楽しめる。

大唐松山三角点 大唐松山三角点の山頂標識
大唐松山三角点から見た農鳥岳 西側はハイマツの藪だ!

 

 山頂が近くなるとそれまで背の高いシラビソ樹林だったのが矮小なシラビソ樹林に変化し、尾根上に岩が現れて左右どちらか巻かなければならなくなったが、結局はどちらからも通行可能で登りは右側(北側)から、下りは左側(南側)から巻いた。これを登り切ると樹林が開けて山頂の一角で、石楠花、ハイマツが混じった平地に三角点が出ていた。標識は2枚あり、そのうち1枚は武内さんが登ったときにもあった標識らしいが文字は消えかかっていた。あとでよく見ると雨池山の標識と同一らしかった。周囲はシラビソが立ち並んであまり見晴らしがいいとは言えないが、北側と西側はどうにか視界が開け、雲の上に北岳の三角形が見えているが、その方向は雲がわき上がってどんどん視界が無くなってきた。西側は農鳥岳がでかいが、これも北側からガスが押し寄せてきて見えなくなってしまった。そういえば林班界標識もあったな。

藪の南側を巻くと樹林になる 次は北側を巻く
山頂東側は石楠花の藪 大唐松山2561m峰山頂

 

 地形図の山名の書き方だと三角点峰、2561m峰のどちらを指して山頂としているのか判別しがたいが、山名事典では2561m峰を山頂としているので先に進むことにする。ところが踏跡はここまででプッツリと消失し、この先の稜線上はハイマツと石楠花の藪であり大唐松山を境に植生が一変したのだ。これをかき分けるのは面倒なので僅かに南に巻いて藪をやり過ごすと再びシラビソ樹林になったがさほど背は高くなく、少し行くとまたもや石楠花の藪になった。今度は北に避けて薄いシラビソ幼木をかき分けて進み、左手が少し高くなったところで稜線に向かうと目印のテープが巻かれたシラビソがあり、周囲もシラビソに覆われた平地に出た。GPSで確認すると正確な山頂に間違いない。テープはDJFの物かと思ったらサインはないし材質も違った。でもDJFも登っているんだよな。

 さすがにこの標高だと櫛形山を越えるためFM放送も東京まで聞こえ、休憩しながら無線も楽々だった。樹林とは言え隙間から日差しがこぼれて気温も高くなり快適だった。約30分の休憩で出発した。とんでもなく急な尾根でも雪さえなければ下りは快調、デポした荷物を回収して昼飯を食って出発、1934mピークへと続く尾根へはちょっと下りすぎて笹原を少し戻ったがロスは2,3分だっただろう。やはり尾根からタダの斜面に入る場所はわかりにくい。ここは目印を慎重に探しながら下るか、自分で分岐点に目印を付けておくのがいいだろう。

 雨池山で休憩をとり、あとは尾根上の踏跡と目印を追いながら下った。もしかしたら1箇所くら尾根を外すかと予想していたが、今回は地図もGPSも使わずに尾根を外すことはなかった。やはり一番はっきりした踏跡を追いつつ尾根を外していないか周囲を見て、時々現れる目印をチェックすれば問題ないようだ。TVアンテナの少し下で最後の休憩をし、藪がない急な尾根を下って送電鉄塔から巡視路と合流、無事林道に出た。あとは林道を淡々と歩いて駐車場に到着、帰りは草塩温泉で汗を流した。


所要時間
5:11駐車場−5:28発電所−5:30ゲート−5:58導水管最上部−6:02送電線−6:26TVアンテナ−6:49 1542m肩−7:06 1650mで休憩−7:21出発−8:00雨池山三角点−8:07雨池山(休憩)−8:21出発−8:45標高2000m−9:29 2320mピーク−9:46出発−9:56 2346mピーク−10:35大唐松山三角点−10:43大唐松山(休憩)−11:09出発−11:16大唐松山三角点−11:46 2320mピーク−11:53 2320mピーク(休憩)−12:15出発−13:01雨池山−13:06雨池山三角点(休憩)−13:20出発−13:55 1542m肩−14:08TVアンテナ−14:11休憩−14:21出発−14:32送電線−14:35導水管最上部−14:50ゲート−15:12駐車場


参考:他に無雪期大唐松岳の記事を発見:http://www.chabashira.co.jp/~tomosan/ookaramt.htm

 

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