南ア深南部 椹沢山 2006年11月04日

 


 南ア深南部で地形図記載の山は昨年の鶏冠山で終わっているが、まだ日本山名事典が出版される前に地形図記載の山に登ったものの、日本山名事典に新規記載された山がいくつかできてしまった。それが信濃俣のすぐ南の椹沢山と、大無間山のお隣に位置する前無間山と三方峰である。信濃俣は光岳から往復し、大無間は田代から往復したので新規記載の山は未踏となっており、どうせならまとめて登ろうと考えていた。昨年11月初旬に深南部を登ったが、今回も3連休を利用して一掃するチャンスであろう。あまり寒くなりすぎると幕営も大変であるからいい時期かもしれない。1年前は中ノ尾根山周辺で最低気温が-7度にも下がって厳冬期用シュラフでも寒く、下界に戻っても1週間近く熱が下がらなかった記憶が鮮明に残っている。

 今回の3山をマイカー利用でまとめて登るにはどんなルートをとればいいか悩んだ。大無間周辺は最悪後日1泊で行けるので気楽に考えてもいいが、信濃俣近くの椹沢山は奥深いので絶対に片づけたいところだ。この1山だけなら畑薙第1ダムから信濃俣河内を遡って1686m標高点がある尾根を登って往復するのが最短だろうが、これでは大無間が遠く、しかも稜線に上がると水が無いので全部担がなくてはならない(アザミ沢のコルで水が得られるのは知らなかった)し、昨年の気温が例年の冷え方だとすると2000mの稜線で寝るのはあまりにも寒いので敬遠したい。他に往復できそうなルートは寸又峡温泉から恐怖の林道歩きしかないが、このルートなら林道にテントを張ったまま各山頂を往復できるため大ザックを背負って標高差を稼ぐ必要がないので労力を軽減できること、林道はいくつもの沢を横断するため水を担ぐ必要がないこととお泊まりの際に水はいくらでも使えること、林道でテントを張れば標高が低くて寒さも厳しくないことなどメリットも多い。山歩きとしては尾根通しに歩けないので面白味に欠けるのは事実だが、3日間で片づけるには仕方ないだろう。

 ということで、山登りとしてはイマイチの計画になるが、寸又峡から左岸林道を歩いて椹沢山、前無間山を個別に往復することにした。本当は自転車が使えると労力を削減できるのだろうが、折りたたみ自転車は2年以上前にベアリングが破損して廃棄処分してしまったので車で積んでいけるものは持っていないので歩くしかない。歩くなら最初から左岸林道を歩くより千頭ダムまで歩いてから左岸林道に乗り移る方が距離は短くて済むので、寸又峡から千頭ダムまでは右岸林道を歩くことにした。

 静岡に向かう場合は東名が理想的であるが、武蔵野から東名に入るには市街地を20km近く走らなければならず、深夜早朝以外は1時間近くかかるのが難点だ。そこで効率は悪いが中央道で河口湖まで走り、富士山西側山麓を走る国道139号線で富士まで至り、富士ICで東名に入ることにした。このルートでは国道は富士市街以外は田舎道で信号も少なく時間的ロスも都内を走るよりずっと少ない。ついでに高速の利用距離が少ないので高速料金も安く、河口湖までなら100km以内なので夕方の通勤割引で半額(ただし調布〜八王子間の定額区間を除く)になるのも魅力的だ。川崎ICからでは100kmを越えるので通勤割引は適用されない。国道139号線もスイスイ走り東名に入ると相変わらず凄い交通量でよくも渋滞しないなぁと思えるほどだった。清水ICで降りて国道1号線静清バイパスでこれまたスイスイ、何年ぶりかで走る国道362号線は奥に行くにつれて道幅は狭まるが軽自動車で車の幅も狭いし、夜中で対向車の有無が分かるので安心して運転できた。川根本町に入って下りになると道路が改修され道幅が広がり格段に運転しやすくなっていた。まだ工事中の区間もあるが、近いうちにそれも終わりそうだ。大規模なトンネル工事も行っていた。千頭の集落に出て寸又峡の案内に従って峠を越えて久しぶりの寸又峡温泉街、しかし駐車場はどこが一番奥なのかすっかり忘れてしまい、入口の案内地図で確認、車両進入禁止の看板がある手前が最後の公共駐車場だった。あれ、前回もここに車を置いたのかなぁ? 全く記憶がない。先客が駐車場にテントを張って寝る準備中、こちらはこのまま車中泊だ。パッキングをしながら酒を飲んでから寝た。

寸又峡温泉のゲート 夢の吊橋
寸又川右岸の千頭ダム巡視路 千頭ダム

 

 翌朝、どうせ初日は林道歩きで終わってしまうのは確実なので、あまり早い時間に出てもしょうがないのでゆっくり寝ていたが、テント組が活動を開始して賑やかになったので起き出してしまった。朝飯を食って出発、施錠されたゲート脇を通ってほぼ水平な林道を歩き、大間ダムを眼下に望むところで吊り橋向けて高度を下げる。吊り橋は朝露で踏み板が濡れて滑りやすいので注意しながら渡ったが、板の両側は人が転落しないような構造になっているので問題はない。渡ってから林道にはい上がるのが急な登りで一汗かかされた。森林鉄道の小さな機関車が展示された公園を過ぎるとゲートで、一般車立ち入り禁止と書かれているが、ここを歩かないことには先に進めないのでそのまま歩いた。この車道は千頭ダムの巡視道のようで整備が行き届いており、全線舗装で傾斜もなく自転車が役立ちそうだった。5カ所あるトンネルのうちはじめの2個は短いので問題ないが、残り3個はそこそこ長く出入り口から光が届かず内部は真っ暗、ヘッドランプ必携である。2つめのゲートから約7kmで無人の千頭ダムに到着、堰堤を渡ると慰霊碑があり、標識は皆無だがそこから踏み跡が尾根に上がっていた。地図を見ても登山道はこの尾根上に存在することになっているので間違いなかろう。そのまえにちょっと休憩。

ダム堰堤を渡ったところにある慰霊碑。登山道入口の目印 登山道入口
トラロープがある でも藪がはみ出した区間もある

 

 入口は階段があるがすぐ怪しくなり、こりゃ廃道かと思いきや、ちょっと登ると祠があり、その上部には固定ロープが設置してあり、全く手が入れられていないわけではないようだ。その上が一番藪っぽい区間で両側から藪がはみ出しているが道筋ははっきりしておりルートとしては心配がない。でも朝露で濡れた今の時間はイヤだなぁ。尾根上にはダムの管理棟か何かのTV視聴用だろうか、大唐松山でも見たようなケーブルが走っている。どこにアンテナがあるのか分からないが、しばらくはこれがいい目印になるようだ。やがて植林帯になって登山道は尾根東側を巻くようになり、本当にこれで尾根を辿るのか心配になって尾根上に上がったが、帰りに登山道を正確に辿ったらちゃんと登ったときと同じルートに出た。尾根上は道はないが藪もほとんど無く歩くのに支障はなかったが、途中で露岩が現れたところで右手に見えた登山道に下って合流した。

最初の林道に出た場所 林道を右に歩くと尾根取り付きがある
尾根取り付きの腐った桟道 ここもトラロープがある
藪はない まだTVケーブルが続く

 

 そこから一登りで林道に出た。林道には古ぼけた「千頭ダム」の案内標識が立っており、尾根の続きは林道造成で法面の崖になっているので登れないが、右手に少し歩いたところで尾根にはい上がる桟道があった。ところがこいつは腐って崩壊し、途中は倒木地帯のような状態で不安定な丸太を乗り越えた。そのうち危険で使えなくなるかな。ま、適当なところから尾根にはい上がればいいだけだが。上がると植林帯で道はしっかりしており、トラバースする所にはロープが張られていた。植林と落葉広葉樹、そして照葉樹が混ざって無国籍状態なのが何とも言えない。林道があるくらいだから植林されていて当然か。

寸又川左岸林道に出た所(お立台)にあるトイレ お立台から見た椹沢山
お立台から見た合地山、中ノ尾根山 お立台から見た不動岳

お立台から見た黒法師岳、丸盆岳

 

 上部は杉の植林帯で、ジグザグって明るくなると寸又川左岸林道に飛び出した。林道は尾根の突端でカーブした場所で路肩が広く、登山道の入口がどこにあるかは林道から見えないのに標識は立っていないのはちと使い勝手が悪いかもしれない。下山してきたらここで林道を外れて路肩を探す必要があるだろう。踏み跡はしっかりしているのですぐ分かるはずだ。林道は普通車でも問題なく走行できるくらいきれいなダートで最近もたくさん車が入った雰囲気が濃く、おまけに立派なトイレがあり案内標識もあった。石碑には「お立台」の文字が。展望が開けて谷の反対側には深南部西端の山々が連なり、明日登る椹島山、一番近くてでかい諸沢山、その左には昨年登った合地山、中ノ尾根山から黒沢山、不動岳、鎌薙ノ頭、丸盆岳、黒法師岳、前黒法師岳と続く。この3連休に登っているパーティーもいるだろうな。

 さあ、ここからまたまた林道歩きだ。大無間登山口の大樽沢まではさほど遠くないが、信濃俣登山口はまだまだ遠い。長く単純な林道歩きは携帯音楽プレーヤでBGMを楽しみながらでないとやっていられない。大樽沢登山口は大樽沢にかかる橋を渡ってすぐに手製の標識があり、谷沿いに上がる桟橋もガイドブックでは崩壊していると書かれていたが、今は整備したらしくしっかりとしていた。これでとりあえず明日は安心して上がれそうなので先に進む。古い造林小屋を過ぎだ先に新しい造林小屋があり、そこには工事業者の車が止まってオッサンが刃物を研いでいたので挨拶した。どこに行くのか聞かれたので今日は信濃俣登山口までだというと造林小屋を使ってもいいとのこと。どうやらこの先にもあるらしいが、状況によってはそうさせてもらおう。小屋のすぐ先に水量は少ないがパイプから流れ出る水場があり、この小屋も使い勝手がよさそうだ。

大無間山の大樽沢登山口 大無間山の樺沢登山口。標識無し
小根沢にかかる橋 寝水の水。寝耳の水ではない、残念

 

 大きく張り出した尾根を回り込んで突端が標高が最も高く、もったいないことにそこから先は下りになる。沢で折り返したところが樺沢登山口のはずだが標識は無く、申し訳程度に踏み跡が上がっていた。私が持っているエアリアマップではこちらが赤実線で大樽沢が赤点線だが今となっては立場逆転か。さらに下って小根沢を橋で渡り、さらに標高を下げて斜面が緩やかになったところに造林小屋群があったが、ここはまだ信濃俣登山口に遠いので使うわけにはいかない。再び林道は登りに変わり、尾根突端を過ぎるた緩斜面地帯で「寝水の水」と書かれた水場を通過する。「寝耳の水」なら笑えたのだが。ここまで来るとほとんど車が入らないようで林道は一面落ち葉に覆われていた。

本日の宿とした造林小屋 橋の奥の崩壊場所から大根沢に下る

 

 延々と続く林道歩きももう少しで本日の予定が終わる。水場の都合で大根沢付近を幕営場所に考えていたので、今日は登山口まで歩かないのだ。その大根沢にかかる橋の一つ手前のカーブに小さな造林小屋が建っていたので利用させてもらうことにし、中に入ってみると2人が寝られる程度の狭い小屋で、窓の片方のガラスが無くなっていること(適当な板で塞いだ)、ドアが完全に閉まらないのと屋根と壁の隙間が広くて気温が高い時期はいいが今は夜間冷え込みそうで、部屋がほぼいっぱいになってしまうがテントを張ることにした。しかし中では狭すぎて組立不可能なので屋外で組み立ててから中に押し込んだ。テントの幅より寝床の床の方が狭いが1人寝るには充分なのでいいだろう。水は大根沢から簡単に得られると思っていたが両側が絶壁でとても下れない。しかし天の助けか橋のすぐ上流で左岸が崩れて石ころが川岸までつながり、そこだけ下れるようになっていた。両手がふさがっていてはまずいのでザックを背負って水3リットルを汲んで持ち帰り、水の心配はなくなった。小屋に中にテントを張ったので朝露で濡れる心配もなく上々だ。窓が半分板で塞がれているので小屋内部は暗くなるのが早く、早々にろうそくをともして酒を飲んで寝た。昨年より格段に暖かく快適に寝られた。

大根沢を渡る橋 信濃俣登山口。光岳と書かれている

 

 翌朝は防寒具を着て出発したが、かなり気温が高くてそうそうにシャツを脱いで歩くことになった。林道を歩く距離は1,2kmかと思っていたが、実際に歩いてみると15分経過しても登山口は現れずGPSで確認してもまだ先で、結局は登山口到着に30分かかってしまった。若干上り坂なのでスピードは落ちるが実質4km近くあったようだ。でも水場等を考えると昨日の造林小屋の選択は誤ってはいなかっただろう。登山口には「光岳」の文字があるが、ここで光岳と出してしまっていいのか少し疑問は残る。正式な登山道はこの先の尾根で、こっちは信濃俣経由のエアリアマップでは茶色点線のマイナールートで、ちゃんと地図を見ながら歩けばここが赤実線ルートでないことはわかるはずだが、最近の登山者は地図を見ないで標識任せの人もいるから、マイナールートでこの標識だと道迷い遭難事故が発生する可能性もあるのでは?と心配になる。もっとも、今時こちらのルートから光岳に登る登山者はマニアしかいないだろうけど。尾根入口にはいかにも使って下さいと言わんばかりの太さも長さもちょうどいい棒が立てかけてあったので使わせてもらうことにした。

尾根に取り付くといきなり急な登り 傾斜が緩む
紅葉が混じった場所でちょっとだけ視界が開ける 1651mピーク

 

 入口はそこそこの踏跡の濃さだったが、尾根に上がると藪は皆無で歩きやすいのだが、踏み跡はかなり薄く、落葉が地面を覆う今の時期ではルートがどこを通っているのはほぼわからなかった。地形図では破線が描かれているが、実際には利用者が少なくほぼ廃道化しているようだ。標高を上げてもところどころで踏み跡がはっきりするが全体的には踏み跡皆無といっていい状況だった。基本的には一本道の尾根なので尾根を外さなければいいので登りは心配ないが、尾根が広がる部分は下りでは嫌らしい。そういうところではたまに赤テープや白い荷造り紐が登場するが、尾根がはっきりする部分では何もなく、藪慣れた人でないと相当不安になると思う。忘れたころに南ア深南部で見かける交通標識のような標識が所々に登場するが、それこそ稀な存在なので役立ちそうにない。でもこの標識があるということは昔はそこそこ歩かれるルートだったようだ。どう見ても踏跡が無いところで標識があったりして、今ではその面影も無い。

1651mピークから見た椹沢山 1880mの水場分岐
これを下ると水場があるらしい シラビソの尾根を登る
まだまだ登る 2134m峰の尾根に乗る

 

 1651mピークでいったん休憩、深いシラビソ樹林で見晴らしは無く日当たりも無いので体を動かさないと寒いので防寒着を着た。気温は約5度でこの時期としてはそれほど冷え込んでいないようだ。1800m鞍部を超えてグングン登り、1880mの小さな肩に出ると意外にも水場の標識が現れた。尾根の左側を指して往復20分とのことで、この付近は深いシラビソ樹林なので小鞍部でも水を集めて沢の源頭をなしているのかもしれない。知っていればここまで水を持ち上げなかったのだが、今日は500cc以上持っているので通過した。そこから少し登ると昔なつかしのマナスルの灯油コンロの外箱が落ちていた。私も以前は使ったことがあるが、単独行で日数が短い場合はガスコンロが軽くて使い勝手がよいので、今では実家で眠っているはずだ。再び傾斜がきつくなってシラビソ樹林を効率よく高度を上げていく。登るにしたがって尾根が徐々に広がり倒木も多くなってくる。ルートもはっきりしないので、尾根を外さないよう注意しながら歩きやすい東側を巻き気味に歩いた。

 傾斜が緩むと左から大きな尾根が合流、2134mピークから椹沢山へと続く尾根に乗ったようだ。後ろを振り返ると歩いてきた場所はとても尾根には見えず、登りはいいが下りでは目印をつけないとこのまま尾根を直進してしまうだろう。よく見ると枯れて皮がむけた太いシラビソに薄くなってしまった赤スプレーの丸が描かれているが、目立たないので新しく目印をつけておいた。ただ、この尾根は2重山稜で北側を歩いてきたらこの目印も気づかないので要注意だ。実際、帰りはここの場所は2重山稜の谷を歩いていたので今回自分でつけた唯一の目印は見えず行き過ぎてしまった。

2重山稜を歩く 南側尾根は倒木の嵐
適当に歩きやすいところを歩く 椹沢山は目の前

 

 尾根に乗って踏み跡がしっかりすると思ったが、今まで同様ところどころはっきりした踏み跡に出るが、ほとんどは踏み跡はないが藪もなくどこにルートがあるのか皆目見当がつかない状態が続いた。南アでよくある深いシラビソ樹林であるが、今までと違って一気に倒木が増えて歩きにくくなり、できるだけ倒木が少ないルートを辿った。大まかに言って2重山稜の南側尾根に倒木が多く、北側は少ないようだ。帰りに歩いた感じでは昔のルートは北側の尾根にあったようだが、今ではそこも倒木が塞いでいる部分が皆無ではない。目印の位置もバラバラで明らかに歩きにくいところに付けられた妙な目印もあるので、目印は気にせずに歩きやすいところを歩けばいいだろう。

草付きの尾根を登る やがて深いシラビソ樹林に

樹林が僅かに開けた場所から見た池口岳、鶏冠山

 

 長い2重山稜地帯が終わると倒木も減り、尾根が狭まって鞍部に到達、南側の視界が開けて日当たりがよく休憩にちょうどいい。昨日の長い林道歩きの疲労が抜けないのか、今日は妙に背中の荷物が重く感じペースが上がらないので、ここでザックをデポして防寒着とウェストポーチだけ持って山頂を目指すことにした。尾根が収束しているので2重山稜地帯と違って荷物を見落とす心配はない。ここで昼飯を食い水を飲んでおく。空身になってもペースは上がらず、今までと同じようなスピードでシラビソ樹林帯の尾根を登って行く。廃道化してだいぶ年月が経つようでルートを示す標識があってもそこはシラビソ幼木の藪だったり。時々現れる目印は参考程度にとどめて、藪と倒木が無い場所を選んで適当に登っていった。登るにしたがって尾根が広がり、山頂直下は斜面になってしまうので帰りは尾根を外さないように注意しないとなぁ。幸い、点々と目印があるのでそれを追えばいい。この付近には踏み跡は全く無く、どこでも自由に歩けるのでルートファインディングに慣れていない人には下りは難しいであろう。ここまで踏み跡がきれいさっぱり無いということは、もしかしたら以前から大した濃さの踏み跡ではなかったのかもしれない。

椹沢山山頂 山頂のテントサイト

 

 地形図では偽ピークはなく、傾斜が緩むとGPSの残距離表示もどんどん0に近づき、平坦な樹林の中に標識と思われる横長の板が取り付けられた樹木が登場し、間違いなく椹沢山山頂に到着した。山頂は予想通りシラビソが生えて視界が無かったが、頭上に空間が開けた場所もあるので日向ぼっこしながら休憩できる場所もあるのは助かった。すぐ北側には信濃俣があるはずだが濃い樹林でわずかに透けて見える程度だった。百俣沢ノ頭から信濃俣まではっきりした踏み跡だったように記憶しているが、椹沢山から信濃俣へのルートは踏み跡がはっきりせず、大根沢山方向も目印はあるが踏み跡ははっきりしなかった。千頭営林署の山頂標識は地面に置いてあり、分岐標識が木に打ち付けられていた。私が登ってきた尾根には寸又川左俣林道の表記はあるが、実際は道無しと同じ状況だから書いてあっていいものか悪いものか。でも深南部でもこの辺まで足を伸ばす人なら藪山は慣れているだろうから問題ないのかもしれない。山頂には適度な石が転がりテントを張った跡があったが、周囲は樹林に覆われて雨も風も直接当たらないので、水場がないのは難点だがいい場所だろう。

 どうせ人は来ないだろうと真ん中でひっくり返って休憩しながら無線運用したが、当然のように誰も来なかった。3連休2日目だから易老渡から入った人がいたら、光小屋を出発してそろそろ通ってもいいかもしれないが、易老渡までの足の問題があるから実行する人はほとんどいないだろう。

2134mピーク手前で左に下る。非常にわかりにくい

 さあ、林道まで下ってからも今日中に大樽沢登山口まで歩かなくてはならないので、帰りはゆっくりしていられない。走るほどではないが適度に急いで下った。荷物を回収して倒木帯を右に左にと通過するが、歩きやすいところを選んでいたら左に尾根を外す場所を通り過ぎてしまい、どうも尾根が下りになってしまうし見覚えがない風景だと気づき、おそらくあの稜線だろうと南にバックするとちゃんと枯れ木のマークと私がつけた目印があった。よかったぁ。その後は順調に下り、尾根末端まで行ったのでは林道をバックするようなものなので、1366m肩で左に逸れて小さな尾根を目指した。下り始めてしばらくははっきりした尾根だったのが途中で急激に下るところではっきりしなくなり、磁石で進行方向を確認すると南に向かっているため目的の尾根を外したと判断、左にトラバースしながら下っていく。しかし傾斜はどんどん急になり、降りる先は明らかに谷になってしまい、さらに左にトラバースを繰り返し、傾斜が緩んだところで小尾根を下ったが、これまた途中からえらい傾斜になってしまった。尾根を間違えたのに違いないが、とにかく降りられるところまで降りてみようと尾根を辿っていくと眼下に林道が見え、わずかに法面が低くなった箇所から岩に掴まりながら林道へと降りることができた。目的の尾根はもっと西にあり、どうやら南に向かっていたがあのまま尾根を辿るのが正解だったようだ。まだまだ読図能力が甘いなぁ。

 尾根ショートカットの効果で林道歩きは10分程度に短縮、造林小屋に到着して荷物をまとめて出発だ。これから小根沢、樺沢を超えて大樽沢まで歩くから4時間近くかかる! もう時刻は午後1時を過ぎているので下手をすると真っ暗になってしまう。1山登ってからの林道歩きは格別で、しかもいきなり上り坂である。寝水の水を通過して大根沢山から伸びる尾根末端を回り込めば下り坂になるが、造林小屋群を過ぎて再び上り坂になって小根沢近くの日当たりのいい場所にひっくり返って休憩。これで行程の半分だ。気持ちよかったお昼寝を終えて再び歩き出し、樺沢を通って大無限山からの尾根を回り込めば大樽沢へ向かって下りになる。

2日目にお世話になった造林小屋 断熱性が良く畳敷き、薪ストーブもあって快適!

 

 今夜は昨日工事業者のおっさんが作業していた造林小屋を使わせてもらうことにするが、大樽沢登山口からどれだけ離れているのかわからないのでGPSを見ながら歩いていると、残り約700mで目的の小屋が登場、まだ明るいうちに到着できてよかった。細い水場なので汲むのに時間がかかるが小屋のすぐ近くなので大助かりだ。小屋は昨日のボロい作りとは違って密閉性もよく真新しかった。窓のサッシも新品で煙突つきの薪ストーブまである。これなら少々の生木を燃やしても煙に巻かれることはない。周囲から枯葉や枯れ木、チェーンソーで切られた木材の切れ端を集めてストーブの燃料とし、暖を取りながら着替えて歯を磨き酒を飲んだ。実際はストーブをつけると暑いくらいで、薪が炭になってちょうどいい暖かさになった。思ったよりも小屋の断熱性がよかったようで夜中は暑さで起きだしてしまい、温度計を見たら+15℃もあって驚いた。

 翌朝、本日は最終日なのでできるだけ早い時間に行動を開始して早い時間に東京に帰りたいので、暗いうちにおきて飯を食って薄暗い時間に出発、登山口で荷物を仕分けしてデポする分は大きなビニール袋に入れて草むらに隠した。ま、一般車は入れないから隠す必要はないだろうが。荷物整理をしていると意外にも3人パーティーが登っていくではないか。今日ここから入山ということは、私のように強行行程でないかぎり今日中の下山は難しいだろうから、たぶん明日もお休みなのだろう。もしかしたら同行者がいるかとちょっとだけ考えていたが実際に存在すると驚いてしまう。

11/3
寸又峡温泉−0:22−夢の吊橋−0:11−林道−0:03−ゲート−1:31−千頭ダム(休憩)−0:32−林道−0:32−寸又川左岸林道(休憩)−0:47−大樽沢登山口(休憩)−1:08−休憩−0:07−小根沢−0:07−造林小屋−0:48−寝水の水−0:19−造林小屋(宿泊)

11/4
造林小屋−0:30−登山口−1:07−1651mピーク(休憩)−0:26−1828mピーク−0:18−水場分岐−0:30−2134mピーク尾根に乗る−0:31−2143m鞍部(休憩)−0:21−椹沢山(休憩)−0:13−2143m鞍部(休憩)−0:26−2134mピーク尾根を外れる−0:17−水場分岐−0:14−1828mピーク−0:13−1651mピーク(休憩)−0:23−1366m肩−0:21−林道−0:09−造林小屋(休憩)−0:21−寝水の水−0:47−造林小屋−0:11−小根沢(休憩)−0:30−樺沢(休憩)−0:37−造林小屋(宿泊)

 

 

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