南ア北部 宮ノ頭 2006年12月02日

 

旧武川村から見た宮ノ頭


 甲府盆地から甲斐駒へ登る尾根としては黒戸尾根が有名(というか実質上ここしかない)であるが、甲斐駒からはいくつもの尾根が伸びている。黒戸尾根の一本南側にも尾根があり、日本山名事典で2165m標高点が宮ノ頭として記載された。もちろん登山道はなく、地形図を見たが北東に延びる尾根の両側は深い谷と沢があり、林道を使ってもおそらく沢が渡れないと判断し、尾根末端から登るのが一番良かろう。篠沢にかかる橋を渡ったところで尾根に取り付けるので、そこまで車で入れたらラッキーだが、だめでも集落までさほど遠くないので歩く距離もたかがしれているだろう。

 問題は尾根の状況で、地形図を見ただけでは危険箇所は無さそうだが、なにせ花崗岩でできた甲斐駒の尾根である。黒戸尾根でも難所が出てくるが、お隣の尾根だから同様の危険箇所があってもおかしくはない。少なくとも雪が付く前に登る方が安全だろうと、12月に入ってすぐに出かけることにした。それでも先週の日光では2000m以上で雪が出てきたので今回も軽アイゼンを持っていくことにした。

篠沢を渡る橋。すぐ先がゲート 施錠されたゲート。右側から尾根に取り付いた

 

 金曜日に仕事を終えてすぐ出発。今回はネットで高速道路の料金計算を事前に行い、ETC通勤割引(料金半額! だたし走行距離が100km以内+時間制限あり)が効く区間を調べた結果、中央道八王子からだと韮崎まで有効だった。半額は相当大きな経済効果があるので有効利用しない手はなく、今回も韮崎まで走ることにした。韮崎で降りて甲州街道を諏訪方面へ走り、甲斐駒登山口の横手、竹宇の案内標識で左折、道は曲がりくねっているが県道沿いに走り、5差路だか6差路だか複雑な分岐で案内地図を見て大坊方面へ進む。やがてキャンプ場を通過、T字路を右に曲がるとダートに変わり山肌に沿って奥に入っていき、篠沢にかかる橋を渡るとゲートが閉まっていた。どうせここから歩くから関係ないが。橋まで戻り2,3台駐車できる余地に車を置いて酒を飲んで寝た。

落ち葉に覆われた斜面を適当に登る 尾根に乗る。目印あり
薄い笹があるがほぼ全て枯れている 1067mピークで道が現れる

 

 今日は日帰りにしても時間が余るだろうからとゆっくりと寝て、6時少し前に起きて飯を食べて7時少し前に出発した。天候は晴れているが山の方にはやや低い雲が出ており、日中は取れてくれるだろうか。予報では今日は1日いい天気らしいが、これは平野部での話だろう。林道の橋を渡りゲートの横で山肌に取り付いた。落葉樹林で藪はなくどこでも好き勝手に歩くことができるので、地形に関係なく歩きやすいところを上を目指した。とにかくどこでも登れば目的の尾根に乗れるので細かいことは気にしない。尾根に乗ると予想外に目印があり、それも赤テープ、黄色の荷造り紐、その他と複数種類だ。まさか宮ノ頭は意外に登られている山なのだろうか? 落葉樹林が続くが大唐松山の時のように枯れてしまった笹が点在しており、ここも数年前に笹の花が咲いたらしい。まあ、この程度の密度なら笹があっても問題はないが。ルートは問題ないのだが、今日は出だしから妙に足が重く、これで山頂まで行けるのかちょっと心配になるくらいだ。先週の山はそれほど厳しいところではなかったので疲労が残るほどではないはずで、今週の仕事も座って手先を使う仕事中心だったので足の疲労は無いはず。思い当たる理由がない。ただ、今週後半は仕事で立ち上がったときに立ちくらみが頻発するようになり、体調が悪いのか?と考えてはいたので、それと同じ原因なのかもしれない。ま、時間はたっぷりあるからゆっくり登ればいいか。

唐松植林帯 自然林に戻ると笹も消える
まるで登山道があるような 隙間から宮ノ頭が見える
こちらは黒戸山 時々出てくる笹は足首程度

 

 1067mピークに出ると驚いたことに右の尾根から笹が刈り払われた道が合流し、唐松植林帯になった。植林帯は枯れた背の高い笹とは別に低い笹も生えているが、歩くのに邪魔なほどではないし踏跡なのか鹿道なのかわからないが道があって問題はない。そういえば鹿の糞がたくさん落ちていたし、鹿の鳴き声も聞こえた。鹿の角が落ちてないかなぁ。しばらく植林帯が続いたが突如として終わり、同時に笹も消えて再び広葉樹を中心とする自然林に変わった。やっぱり藪山はこの風景が似合う。目印は相変わらず続いており、どうやら林業作業用目印ではないらしい。やはり宮ノ頭への目印だろうか? そういえば目印の中には配管バルブの開閉状態を示す赤い「開」の札があった。工場の施設メンテナンス関係者だろうか? ちょっと高価な標識が風に揺れていた。

ロープは斜めだがここを真下に下る

鞍部反対側から岩を見たところ

 

 自然樹林帯は笹も無く下草も無く歩きやすい。低い笹が現れる区間もあるが足首程度なので全く問題ない。このまま歩きやすい尾根が続くのかと思いきや、1480m付近で小ピークを超えて鞍部に下るところで花崗岩の一枚岩が尾根に立ちはだかっていた。鞍部に下るには高さ3mくらいのこの岩を下る必要があり、風化した花崗岩には手がかり、足がかりとなる穴が数箇所あるが場所が離れており位置関係が悪い。それでも岩に張り付いた木の根が1本だけあり、下りはこれに捕まればくぼみに足が届きそうだ。ただ、足を滑らせて落ちると死ぬまではいかないと思うが怪我は必死な高さと斜面の状況なので、残置された古ぼけたフィックスロープを保険に使うことにする。幸い、ロープを使わなくても降りることができたが、帰りにここを登るときには岩の穴位置が非常に悪く、最初のとっかかりがないのでロープが無いと無理だろう。古いロープのほかに赤い平ロープがくくりつけられており、こちらはもっと新しそうなので帰りはこちらのお世話になった。下りに使うには取り付け位置が下過ぎるので手が届かないが登りではちょうどいい場所にあって便利だった。今回は正直に稜線を通過したが、尾根両側はそれほど切れ落ちているわけではないので、少し大きく巻こうと思えば巻けると思う。

1480m鞍部からの登り 尾根を外れて登る
1715m三角点付近から笹が現れる 目印にバルブ開閉札がぶら下がっている

 

 鞍部を渡り、反対側の尾根は潅木を掴んで安全地帯によじ登ればロープのお世話になる必要は無い。ここからは枯れた笹の間に獣道?が続き大唐松山を思わせる風景である。一気に傾斜がきつくなり、硬く土が凍った(といっても土の中の水分が土と一緒に凍っただけで滑るわけではない)斜面を登って行く。尾根から僅かに右に外れたところがルートのようで、よじ登り終わって傾斜が緩むと左にトラバースして尾根に合流、帰りはここで直進してしまうだろうから珍しく目印をつけた。ここから腰ほどの高さの笹原が始まり、ツヅミ(1715m三角点峰)山頂へ緩やかに登って行く。笹の中に筋があるのだが、鹿道らしくいくつも走っているし尾根が広くてはっきりしないので下山時は目印を見ながら下る必要がある。

1715m三角点峰山頂付近 1715m三角点峰西側鞍部

 

 三角点は最高地点より東側にずれて設置されているようであり、この笹原では探すのに時間がかかりそうなので三角点捜索は帰りに実施することにして、最高地点付近で休憩とする。だだっ広いのでどこが本当の山頂なのかはよくわからないし、標識等も無い。南よりの冷たい風が強く、少し南側が盛り上がって風が避けられる場所に座った。気温は-3度くらいで標高が上がるにしたがって徐々に下がってきたが、体を動かしているときはまだ問題ないが休憩時は持ってきた防寒着を目いっぱい着込む必要があった。

鞍部から登りにかかる 笹が消える
砂礫地から見たアサヨ峰 砂礫地から見た甲斐駒

 

 軽く飯を食べて出発、1660m鞍部はもっと標高差が少ないように感じられ、ちょっと下るだけで通過、登りにかかる。ここは下山時に迷いそうな尾根中心を外れたところで稜線がつながった場所なので下りは要注意箇所だが、実際に歩いてみると迷うことなく簡単に歩けたので、踏跡や目印がしっかりしていたらしい。高度が上がると落葉樹林からシラビソ樹林になり、1850m付近で尾根南側が花崗岩の風化した砂礫地になると季節風で風下に枝が伸びた唐松になると同時に展望が開け、摩利支天が恐ろしいほど切り立った甲斐駒が目に飛び込んでくる。思ったよりも白くはなく、部分的に雪が付いたくらいだが、谷を挟んだアサヨ峰近辺は真っ白だった。その向こうが北岳だが早川尾根で見えないし、その早川尾根もガスがかかり始めて上空は雲に覆われ、こちらからだとちょうど太陽に位置なので日が陰ってしまい寒い。

シラビソ樹林に変わる シラビソ樹林を登る

 

 再び暗いシラビソ樹林に入り、固まった土を踏みしめながら登って行く。2110mピークで再び砂礫地と唐松樹林になり、鞍部から最後の登りにかかる。派手な赤テープが巻かれたシラビソが何本かあるが、山頂直下は尾根が分岐して本物がどれだか分からなくなり下りで苦労しそうな場所なので目印は大いに助かる。1箇所だけ自分の目印をつけたが、この尾根は全体的に目印が多く、わざわざ自分でつける場所は少なく、目印用資材はあまり持ってこなくて良かったなぁと後悔。

2110mピークの砂礫地 2110mピークから見た宮ノ頭
宮ノ頭山頂 宮ノ頭から西に下る尾根。目印が続く
宮ノ頭西から見た甲斐駒 宮ノ頭西から見た黒戸山

 

 最後の登りが終わると傾斜が緩み、藪を避けて右側から巻くように山頂に到着した。山頂標識も三角点もなく、立ち木に巻かれたテープだけが山頂を示すマークであった。目の前にはでかい甲斐駒が聳えているはずだが樹林で視界が無いのは残念だ。ただ、帰りがけに少し西に下ると樹林が開けて甲斐駒と黒戸尾根を望むことができた。また、目印はまだ西に続いており、黒戸尾根まで歩いた連中が複数いるようである。帰ってからネットで検索したら冬場に縦走した記事をいくつか発見できので、他にも歩いたパーティーは何組もいるのだろう。

 木の隙間から僅かに日光が差し込む場所を選んで休憩。気温は-5度まで下がり、防寒着を着た体はいいのだが、長時間体を動かさないと足の指先がだんだん冷えてくる。足が重くてゆっくり歩いた割には(ゆっくり歩いたからか)疲労が少なく手早く無線を済ませて下山開始。相変わらず白峰三山方面から雲が湧き上がって日光が途切れがちで寒い。あっちは吹雪だろうなぁ。標高が下がると徐々に気温は上昇、ツヅミで-3度は登りと変わりがない。下りながら三角点を探したがだだっ広すぎるし一面の笹原で発見できなかった。1500m鞍部の岩は赤いロープのお助けで難なく突破、唐松植林帯を突っ切り刈り払われた道とおさらばして忠実に尾根を下り、橋が見えてきたら適当に斜面を下って林道に出た。予想通り誰にも会わない1日だった。


所要時間
篠沢橋−0:21−尾根に上がる−0:19−1067mピーク−0:50−1480m鞍部−0:37−1715m三角点峰(休憩)−1:12−宮ノ頭(休憩)−0:44−1715m三角点峰(三角点探索)−0:13−1480m鞍部−0:14−1350mピーク(休憩)−0:28−1067mピーク−0:15−篠沢

 

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