南ア白峰南嶺前衛 大黒山 2006年12月16日

 

 

 今年は12月に入っても何故か冬型が長続きせずに太平洋側で雨が降る日が多く、標高が高い山は例年より積雪が多いと予想された。北ア以北はとっくに冬山だから登れないとしても八ヶ岳以南もかなり雪が積もっていると予想され、中ア千畳敷のライブカメラでもかなり雪が積もっていた。山梨以南の2000m峰残りで雪が付いていても登れそうな山は北岳池山吊尾根くらいだが、この時期はアプローチが悪いので登るなら夏のバス運行期間と決めているのでパス、他の2000m峰はもう危険だろう。

 そこでしばらくは標高を落とした山で遊ぶことにした。今回は土曜のみ天気が良くて日曜は雨との予報で日帰り山行だから近場の山梨に決め、久々に富士山麓寄生火山でも登るかと考えたのだが、地図を見ていたら大黒山が目に入った。偃松尾から東に延びる尾根上にあり、標高は1990mと2000mを僅かに切る標高だ。周囲には林道等も無く、登るなら尾根末端から登るのが一番と考えた。登山口は奈良田方面へ向かう途中の白石集落で、いつも素通りするだけの場所だ。集落の標高は500m弱で、途中に2つのピークがあるので山頂までの累積標高差は1600mを越えるだろう。最近はこれほどの標高差を歩いていないので体力的にちょっと心配で、雪があるだろうからもっと体力を絞られそうだ。いったい往復に何時間かかるだろうか。ネットで大黒山の山行記録を検索したが1件もひっかからなかった。

 金曜日、仕事を終えてすぐに出発、今回は中央道甲府南ICで降りて一般道を走る。今回も時間、距離ともETC通勤割引適用範囲だから八王子〜甲府南間は半額だった。走り慣れた道なので地図を見る必要もなく目的地に到着、白石集落入口には釣、山菜取の人車進入禁止の看板が出ている。小さな集落だから集落内に車を置く場所はないだろうと県道に戻り、周囲を観察すると道路の反対側が残土置き場のように広々としており車を置くのにちょうど良く、車を突っ込んで酒を飲んで寝た。

 翌朝、快晴かと思いきや、上空には雲が多く、その隙間から青空が覗いていた。でもラジオの天気予報では今日は上天気で気温も上がると昨夜と同じ予報のままなので出かけることにした。雪が積もっている可能性が大なので6本歯の軽アイゼンをザックに突っ込んだ。さすがにピッケルは要らないだろう。雲の隙間から大黒山三角点峰と思われるピークが見えたが白くはなかった。

白石集落から見た1316m三角点峰 白石集落内道路終点
道路終点から尾根に乗る 植林帯が始まると右側に踏跡入口
踏跡は明瞭 送電鉄塔直下。まだ踏跡が続く

 

 集落内の舗装道路を道なりに歩き、終点が目的の尾根の真上だった。祠があり、もしかしたら参道でもあるかなと思わせる。少なくとも途中の送電線までは巡視路があるだろう。踏跡は尾根の真上ではなく右側直下を巻きながらついており、落ち葉に埋もれてはいるがかなりしっかりしている。尾根上は暗い檜の植林帯、尾根右側は落葉広葉樹林で今は葉が落ちて明るい。ピンクリボンが点々と付けられており、もしかしたら大黒山まで続いているのかと期待するがどうだろうか。やがて赤松樹林になると尾根が明るくなり、道をふさぐ倒木を迂回すると送電鉄塔下に出た。立派な巡視路が左右に伸びており、私が登ってきた道は巡視路では無かったらしい。

溝のように凹んだ踏跡 眼下に早川
檜植林帯 733m標高点の檻

 

 この先も踏跡があるか心配だったが、半分藪に隠れているが溝のように窪んだ道が尾根上にはっきりと残っていた。幅は広く、2週間前に歩いた韮崎の荒倉山の登山道と同じような道だ。ただ、最近人が歩いた形跡はなく落ち葉に埋もれ、土が出ている部分には鹿の足跡が残り、人間ではなく動物の道となっているようだ。傾斜がきつい部分では崩れた部分もあり、補修もされていない。しかし、元々はかなりまともな道だったことは間違いなく、これが大黒山山頂まで続いていれば藪も刈り払ってあるだろうしルートファインディングもしなくて済むぞ。いつのまにか赤松から檜樹林に変わり、傾斜が緩むと733m標高点の肩だった。最初は熊の捕獲用かと思ったのだが、何の動物を捕まえるためのものか分からないが入口が閉まった赤い檻が置かれ中には骨が残っていた。骨はいいから鹿の角無いかなぁ。この尾根には鹿の糞があちこちに落ちていたし、鹿の警戒音が響いていた。もう求愛シーズンは終わったようで、もの悲しげな長い鳴き声は聞こえなかった。


標高約780mの緩斜面を尾根に向かう 緩斜面から見る小笊ヶ岳
標高約780mの尾根で左に巻き始める 刺を含む藪の中に踏跡が続く
標高約980m付近 標高約1050mで尾根に出る

 

 この肩を境に道のグレードは1段落ちるが、まだ踏跡は続いていた。再び檜の暗い植林帯から明るい松の植林帯に変わったが、松林は背が高く葉っぱがついているのははるか頭上で、木の間隔も広くて地面に日光が豊富に差し込むためか、灌木の藪がたくさん生えている。しかもまだ標高が低いので刺のある木も混じり、斜面一面を覆っている。踏跡がなかったらちょっといやな場所だ。その踏跡は780mの緩斜面で尾根から離れて南に巻き始め、そのうち尾根に戻るかと思っていたが南の尾根を乗り越えてもまだ巻いているため、どこにいくのか分からないので踏跡を諦めて尾根に戻ることにした。しかし刺混じりの灌木帯は手強く、できるだけ隙間を探して登っていったが手足に刺によるひっかき傷が何カ所もできてしまった。目的の尾根が近づくと左手から廃道化した踏跡が合流、もしかしたらあのまま踏跡を辿るとここに出たのかもしれないが、本当にそうなのか分からない。ジグザクに登って尾根に戻った。ちょうど1050m付近に書かれたガレマークの上であった。

1316m三角点峰が見えてくる 1316m三角点峰てっぺん

 

 尾根に上がると踏跡はもっと細くなり、獣道と区別できなくなった。相変わらず赤松の樹林で低い灌木の藪が枝を伸ばした薄い筋を辿りつつ、尾根が広がって下りで迷いやすいので目印を付けながら登っていく。少し傾斜が緩むと唐松の植林帯に変貌、やっと灌木が消えてすっきり歩けるようになるとこんもり盛り上がった緑のピークが見えてきた。どうやら1316m三角点峰らしく、直下まで来ると名前を知らない背の低い照葉樹が密生した本格的な藪になってしまったので右手に迂回、僅かに藪をかき分けるとテープの目印のついた棒の近くに三角点が埋まっていた。しかし、なんでピーク付近だけこの木が茂っているのか謎である。しかも昨夜の雨で濡れているからズボンの膝から下が濡れてしまった。お、そういえばこの標高で凍っていないのだから相当気温が高いぞ。

1316m三角点峰から見た1380m峰 1316m三角点峰/1380m峰鞍部
1380m峰へと登る尾根 1380m峰を巻いて西側鞍部へ出る

 

 藪の縁に沿ってそのまま尾根を下ると藪が切れた唐松植林帯に変わり歩きやすくなったが、1380mピークへと続く尾根は左手に見えており、この尾根とはつながっていないではないか。地図を見ないで歩くとこういうことが起こることもある。藪がない歩きやすい斜面を尾根向けて歩き、正しいルートに乗ると境界標石があった。ま、唐松の植林帯だから人工物があって当然か。登って行くと植林の中になぜか太いぽつんとブナが生えているのが数本あり、妙にちぐはぐな感じだ。このまま登り続けると1380mピークに登ってから60mも下ることになり、できれば南を巻いて労力を節約したいところなので、傾斜が緩んで左手に獣道が出てきたところで尾根を外れて獣道を進む。あちらこちらに獣道があり、等高線に沿って巻いているルートもあってトラバースするのに使い勝手がよい。ほとんど手入れをされていないようで唐松植林に自然に生えた落葉樹も混じるが藪にはなっておらず、1380mピークから西に伸びる尾根に楽々出ることができた。そこは鞍部から僅かに登ったところで、尾根が狭いためか明瞭な踏跡?獣道?と目印があった。しかし目印はこれが最後で大黒山まで見かけることは無かった。

藪が切れた尾根北端を歩く 1382m標高点を南に巻く。照葉樹林
1382m標高点西側鞍部からの登り 標高約1450m

 

 鞍部から登りになると踏跡は左を巻き始めるので尾根を正確にトレースした。1316m三角点峰に生えていたのと同じ低い常緑樹が邪魔なのでがけっぷちの尾根右端を歩く。この尾根は大体が北側が急峻で南側が緩やかであった。1382m標高点への登りは急で露岩混じりとなり、このまま登れるか先が心配になってきたため南を巻く獣道を通ってピークを迂回し、西側鞍部へ出た。鞍部からの登りもちょっとだけやせた露岩だが、手がかり足がかりがあるので問題なく通過できた。その上の標高1450m肩で休憩。

1922m三角点峰がやっと見える 振り向けば樹林の隙間から富士山
低い笹が出てくる はっきりした鹿道が走る

 

 地形的に複雑なのはここまでで、この先は単純な尾根1本だから安心して歩ける。目印をつける数もぐっと減らせるだろうから手間も省ける。おまけにこの付近は落葉広葉樹の自然林で今は葉が落ちて先が見通せるので「有視界飛行」が可能で、少しくらい尾根が屈曲していても外す心配は少ない。尾根の傾斜はきつくなったりゆるくなったりで単調な登りでないのも飽きが来なくて助かる。いつのまにか足首程度の非常に低い笹が現れ、その中にしっかりした鹿道が続くようになり、1650m標高点付近の平らな肩では腰くらいの高さの笹原になったが密度は薄く、藪漕ぎというほどではない。10月に登った大笹峠〜イタドリ山の笹もさほど濃くはなかったが、それと比較してもずっと薄かった。まさか奥日光のように鹿に喰われた?? 鹿の糞はあちこちに落ちていた。

1650m肩。唐松+腰くらいの薄い笹原 少しの間だけ笹原が続く

 

 1650m肩の平地を過ぎて登りにかかるとすぐに笹は低くなり、今までのように足首程度に落ち着いた。まだ落葉広葉樹が中心だが、標高を上げるに従って徐々にシラビソが混じり始め高山の雰囲気が出てくる。しかしシラビソは年中無休で葉っぱが付いているので視界は逆に悪くなるし、日当たりがなくて寒い。ま、寒いとは言っても+4度くらいあり、この時期、この標高としては異常な暖かさだが。2週間前の宮ノ頭に登ったときも下界の気温は高めの予報が出ていたが、山の中ではほとんど0度以下だったなぁ。あれから2週間経過して冬が進んだはずなのに逆に暖かいのだから、今日の気温の高さがうかがえる。

徐々にシラビソが増えてくる 笹が出ても足首程度で薄く邪魔にならない
緩やかな登りが続く 2重山稜を越え最後の登り

 

 シラビソが茂るに従って徐々に笹が減っていき、シラビソの純林になると笹は消えた。相変わらず尾根ははっきりしており、下りでも迷いようがないから目印の出番は全くない。標高1800mを越えて疲れてきたので休憩を取ろうと思ったが、山頂までの標高差は200m、所要時間で30分前後なので山頂まで頑張ることにする。疲れた足で1922m三角点直下の急傾斜を登るのは容易ではないがゆっくりと行くか。地形図を見ても分かるが急な登りが始まる直前で2重山稜となるが登りでは左側が主尾根っぽいのでそちらを登っていくと尾根が消滅し右の稜線が主尾根となる。こういうところこそ下りで外しやすいので再び目印をつけた。

 傾斜が緩むと1922m三角点付近だが、ここは2重山稜どころか3重山稜で、明らかなピークというものはないし、地図を見ると三角点は北東端にあるようなので簡単には探せない。行きは真ん中の最も太い尾根を歩き、GPSの表示で三角点まで10数mの表示が出たが見あたらず、帰りに探すことにしてまずは本当の山頂を目指す。大黒山はこの先の最高点である。深いシラビソの尾根で藪は皆無、倒木も僅かで歩きやすい。この辺には人の手は入っていないと思っていたが、よく見ると苔むした倒木の切り口が、いかにも鋸かチェーンソーで処理したとしか見えないきれいな断面のものもあり、今生えているシラビソはさほど太くないし、もしかしたら原生林を伐採したのかもしれない。

1922m三角点付近。深いシラビソ樹林が続く 東西に細長い大黒山山頂
大黒山から見た白峰三山

 

 元々緩やかな傾斜がさらに緩み、水平になった場所が大黒山山頂であった。周囲はシラビソ樹林で視界はゼロ、山頂標識も目印もない。ここは宮ノ頭と違って地形図記載の山だが登る人はほとんどいないらしい。どうにか景色が見える場所が無いか探したが、西に僅かに下った所の木の隙間から転付峠から北岳までを見ることができた。さすがに森林限界以上は真っ白で、笹山から南が樹林で黒かった。目の前は別当代山であるが、樹林を通してもうっすらと白かったので地面には雪が積もっているようだ。こちらは予想が外れて雪は皆無でアイゼンはタダの重りにしかならなかった。しかも気温は+3℃もあり凍結箇所もなく、山頂でゆっくり休憩できた。帰りがけに1922m三角点を探すべく3重山稜の一番北側の尾根に乗ると東端に三角点が鎮座していた。ここにも目印類は無かった。

下山途中から見た塩見岳、蝙蝠尾根
下山途中から見た鳳凰三山

下山途中から見た大唐松山、滝ノ沢頭山

 

 帰りは同じルートを下ったが、登りでは踏跡を辿って少し巻いてしまった標高1050mから先も正確に尾根を辿った。しかし開けた赤松林で刺付き藪が茂り、尾根の北側縁だけが藪が無かったので崖っぷちを歩くようなものであった。傾斜もかなりあり、下りはいいが振り返ってみるとこれ登るのは疲れそうだなぁ・・と感じるのであった。やがて右手から踏跡が合流し、その後は踏跡を歩いて白石集落に下った。

 帰りがけの温泉は草塩温泉で決まり!(\500) いつ来ても混雑とは無縁でのんびりできるのがありがたい。


所要時間
6:35 白石集落入口−−6:44 道路終点−−6:54 送電鉄塔−−7:18 733m標高点−−8:34 1316m三角点−−8:57 1380m峰西鞍部−−9:09 1382m峰西鞍部−−9:20 標高1450m肩(休憩) 9:36−−10:04 1650m肩−−10:53 1922m三角点付近−−11:06 大黒山(休憩) 11:38−−11:50 1922m三角点−−12:21 1650m肩−−12:37 標高1450m肩−−13:06 1316m三角点(休憩) 13:21−14:07 送電鉄塔−−14:11 道路終点−−14:19 白石集落入口

 

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