北ア南部 中山 2007年5月3〜4日

 


 中山という名の山は日本各地にあると思うが、普通は低山が多いだろう。2000mを越える山もいくつかあるが、北アルプスの常念岳近くにあるのを知っているのはよほどの山ヲタクだけだろう。この中山は東天井岳から南に延びる尾根の末端にあり、その昔はこの尾根に登山道があり、中山北側の最低鞍部から一ノ俣谷か二ノ俣谷に下ったようだが、鞍部から中山山頂まで道があったかどうか不明である。森林限界を超える場所では植物の成長は遅いのでそう簡単に登山道が藪に埋もれることはないため、廃道化しても踏跡程度は残って長期間使用可能であるが、笹地帯になるとそうはいかない。最低鞍部は約2270mと低いため森林限界を割って、おそらくはシラビソ樹林の下は笹の海だと思う。よって、登るとしたら残雪期しかないだろう。雑誌で無雪期に登った記録を見たことがあるが、やっぱり藪で沢登りで登った記録だったと記憶している。ちなみにネットで検索をかけても登山記録は発見できなかった。

 問題はルートである。尾根末端側からの枝尾根はどれも傾斜がきつく、雪が付いている時期には危険を伴いそうでパス。あとは最もオーソドックスな方法として東天井岳から尾根づたいに往復する手が考えられる。この場合、常念乗越をベースにして東天井岳まで登って下ることになり累積標高は結構なものになるし、中山までのコースを地図上で辿ると大きく迂回するようで効率が悪い。他の手段としてはその昔あったはずの中山乗越を辿って鞍部に出て稜線から往復というものがあり、鞍部入口までのアプローチを上高地からにするか常念乗越からにするかの2つの選択肢が考えられるが、今の地形図でも掲載されている一ノ俣谷沿いの登山道は今では廃道化しているのが問題だ。廃道化しても残雪期なら雪に埋もれて藪も関係ないと単純に考えるだけでは検討不足で、問題は沢が雪に埋もれているか流れが出てしまっているかであろう。当然ながら下流に行くほど流れが出ている可能性が高く、おまけに下流部には滝がいくつも存在し、半端な雪があると高巻きも困難となり逆にやっかいだ。こうなると山頂渉猟と同様に常念乗越から行くのがベストな選択肢と考えられるが、今年は記録的暖冬、小雪で、一ノ俣谷が雪に埋もれているか、つまり渡ることができるかが大きなポイントとなる。沢から最低鞍部までの登りもそこそこ傾斜があるが、一ノ沢コースの常念乗越直下の方が傾斜がきついくらいなので問題なかろう。何せ先日のジャンクションピークの登りより傾斜がきついコースなど滅多にあるものではない。

 行程であるが、一ノ沢登山口の標高が約1300mで常念乗越が約2450m、標高差1150mだから楽勝で、そこから中山まで往復で標高差約700m、合計1850mであり、どうにか日帰り可能と踏んだ。ただ、連休中の2回の山行で体力を消耗している状態では相当無理があり、もったいないが1泊とするのが無難だろう。幕営地はもちろん常念乗越だが、時間が余るようならもっと先に行くのもいいだろう。ただしその場合は翌日もテントを背負って常念乗越まで登らなくてはならないから、より体力を使うことになる。また、谷筋に幕営適地があるかどうかも問題となろうから、やはり常念乗越で幕営するのが一番リスクが少ないだろう。

 中山はそのうち登ろうと考えつつも後回しになっていたが、今年の大型連休は好天が長続きせず細切れ山行が続き、連休後半も最初の2日間は晴れだが3日目は曇り、最終日は雨との予報となった。残雪期の2日で行ける山はまだいくつかあるが、比較的雪が少なくて早めに登った方がいいのは中山だったので狙うことにした。その前に登ったのが小嵩沢山なので近いということも理由だ。小嵩沢山を降りて2日間は下界でも天候が悪く、しばし車の中で山行記録をまとめながら休養して体力充電に努めた。下界でも雷が鳴ったり大粒の雨が降ったり強風だったりと不安定な天候だったので、山の上は大荒れの天気だったことだろう。問題は新たにどれだけ雪が積もったかで、大型連休だというのにまたもやワカンが大活躍かもしれない。殆どの年の連休はワカンなど不要な締まった雪なのだが、今年は新雪がよくも降るなぁ。

林道崩壊に伴う臨時登山口 2カ所で林道崩壊があり約5km歩けとの指示

 

 下界で買い物をして温泉に浸かり、谷を1本隔てた北側に移って西に進み常念岳登山口を目指す。さすが百名山だけあって登山口までの距離が書かれた案内標識が完備されているので安心して運転できるのがうれしい。別荘地を抜けてなおも登ると終点でもないのになんと車止めが道路の真ん中にあるではないか。横に置かれた看板を見ると大雨で林道が崩壊してこの先通行止めとのことで、終点まで約5kmとのこと。こういうこともあり得るなぁとは予想していたが、本当に林道が通行止めとはちょっとショックだ。まだ夕方なので別の山に移ろうかとも考えたが、考えてみれば無理すれば日帰り可能なところを1泊するのだから、これくらい行程が増えてちょうどいいくらいではないか。車は10台前後駐車してあるが、何台かは公園を散歩する人だったようで、夕方になっても止まっているのは6台ほどだった。連休後半が明日から始まるので夜の間に車が増えると思っていたが、朝方には倍くらいになっていた。

 朝飯を食べてパッキングをしていると次々に車が上がってきてタクシーからは団体様が降り立ち、一斉に出発準備となった。これだけたくさんの人が入山するならば、先日の徳本峠同様谷筋の急傾斜地帯のステップも完璧だろう。今回も入山届けを出してから出発、北ア南部の入山届け用紙は共通のようで、前回同様霞沢岳の登山道は書かれていなかった。今回の目的地、中山も地図上に書かれていないので自分で書き込んでおいた。これだけの登山者がいても中山に登るのは絶対に私一人だろうな。

施錠されたゲートがすぐに登場 臨時登山口から15分くらいで第1崩壊地
第2崩壊地。全くの手つかずだった 本来の駐車場。林道終点から1.1km手前
これって熊棚? たくさん見かけた 滑り落ちてきた木が道路を塞いでいた

 

 歩き始めるとすぐに施錠されたゲートがあり工事車両以外は進入できない。その後は舗装された林道をテクテク歩くしかないが、歩き始めて10分ちょっとで工事車両も通行不可能な工事区間が出現、崩壊した谷側を削ってコンクリートの壁で土留めする工事がかなり進んでいて、たぶん1ヶ月くらいで通れるようになりそうな。しかしずっと歩いた先でもう1カ所派手に崩壊したところがあり、ここは全く手つかずで夏山シーズンに間に合うかどうか。林道が普通に通行可能な場合の駐車場を通過し(林道終点から1.1km)、登山指導所やトイレのある林道終点に到着した。ここで少し休憩してトイレも済ませておく。途中で追い越したりその後出発した後続部隊が続々と到着し、徐々に賑やかになってきた。私が一番荷物が重いのでのんびり休憩したので先発部隊がいくつかあったが、そのまま先行してくれればトレースもしっかりしていいだろう。

林道終点の登山指導所とトイレ 標高1700mを越えると雪が続くようになる

 

 休憩が終わって出発、しばらくは左岸に付いた夏道を歩く。まだ雪のかけらも無く歩くのが楽であるが、どの高さから残雪が出てくるだろうか。林道終点の標高が1300m弱だったが標高差400mを登ってから休憩することにして歩き続けた。ちょっとばかり雪が出てくる場所もあるが長続きしない。代わりに小さな沢を何箇所かで横切り、冷たい水を飲むことができて助かった。夏場はわざわざ水を担ぎ上げる必要が無くていいコースだろう。途中で休憩中の先発組を追い越して標高約1700mの沢を渡るところで休憩、それより上部で徐々に雪が続くようになり先人の足跡や赤旗がいい目印になる。

谷に出るとデブリの山また山! デブリの重なった谷を登る

 

 今までは一貫して谷の左岸に道が付いており沢から離れて歩いていたのが、標高1750m付近で沢に出ると辺り一面デブリの山ではないか。通常、残雪期の谷と言えば白馬大雪渓のようにスキーに適したなめらかな表面だが、この谷は主に左手の稜線から押し寄せたと思われるデブリが積み重なってまるで土木機械で掘り返したような様相である。これではとても山スキーはできないし、歩くのも面倒だが、デブリは堅いので潜らないのだけは助かる。デブリの山の中に赤旗が点々と立ってコースを知らせているが、しばらくはこのまま雪に埋もれた谷を遡上すればいいのでルートを気にせずに適当に歩きやすいところを歩く。デブリの土手を乗り越えてその先に続く谷に入るが、やっぱりデブリの山であった。前を行く人の姿が見えるようにあるが距離が離れているので追いつけないだろうな。

直進の谷は通行止めロープがかかっている 左に曲がってこの谷を登る
グングン高度を上げる 一番傾斜がきつい区間
最後の登り 常念乗越と常念小屋。後ろに中山が見えている

 

 しばらく谷を遡るとそれ以上直進しないようにロープが張ってあり、左手の小さな谷にトレースが伸びていた。これが鞍部へと続く谷のようだ。若干傾斜が出てくるので休憩を兼ねてここでアイゼンを装着してから出発、しかしトレースが濃くてステップがしっかり切れているのでアイゼンもピッケルも出番が無い。これならわりと気楽に登れるな。鞍部へは谷をまっすぐ登るのではなく途中で右に曲がりながら登り、最後にちょっと傾斜がある区間を登りきると常念乗越に到着した。

常念乗越から常念岳方向を見る。南側は雪がない 常念乗越から横通岳方向を見る。やっぱり南側は雪がない
スノーブロックの影にテントを張った 常念小屋テント場全体

 

 今までは風下の谷筋を歩いたようで風は弱かったが稜線に出ると西風が強く、単独でテントが設営できるかちょっと不安なくらいだった。テント場にあるテントは1つだけで、住人は常念にでもお出かけ中らしい。スコップ持参らしくスノーブロックを積んで風除けにしており快適そうだ。なるほど、スコップはこんな使い方もできるのか。しかし、連休後半ともなると連休前半に幕営した人が積んだスノーブロックが残っており、ちょうど一人用のテントにぴったりサイズで有効に使わせてもらうことにした。本当に私のテントにぴったりで、充分風除けになり大助かりだった。常念小屋のテント場は稜線西側なので季節風がもろに当たるロケーションで、立地条件がいいとは言えない。

 テントを張ってから小屋に手続きに行き、行動予定は素直に中山往復と書いたが、小屋番はいかにもそんなところに行くなといいたげな態度だった。まあ、普通の登山者が行くような山でないことは確かだが、私は普通の登山者ではなく中山だけが目的のへそ曲がりである。3日前は霞沢岳付近の小嵩沢山に登ってきたし、普段から道が無い山をメインに登っていることを説明し、危険箇所がある場合は撤退を考えていることも伝えた。最大のポイントは一ノ俣沢を渡れるかどうかだろうとも。納得した様子はなかったが、残雪シーズンが最も登りやすい時期に違いないから天候が悪化した場合は別だが、そうでなければ行くと決めていたので予定の変更は無しだ。

 これで本日の予定は終了、水作りをした後はやることがないので昼寝していると、今まで日が当たって暖かかったテント内が寒くなってきた。テントから顔を出すと外は雪が舞っているではないか! ラジオをつけると空電ノイズが聞こえ、近くで雷も鳴っているらしい。天気予報を聞くと夜に上空を気圧の谷が通過するそうで、下界では夜遅くに雨が降ると言っていた。既に山の上では吹雪だが、夜になるともっと酷くなるのだろうか。まあ、雨よりは濡れないのでマシだと言えるが、酒を飲んでトイレに行くのが面倒だなぁ。そのうちに雷鳴が聞こえるようになり、テントの中で小さくなっていた。やがて雷は去ったが吹雪は収まらず、時々太陽が顔を出すが雪は降り続けた。酒を飲んで寝た後も真夜中に雷が鳴り響き、これじゃ明日の朝の天気はどうなるのかと心配になった。

下り初めてすぐに中山が見える 谷筋にはなんと足跡が!
谷は雪に埋もれていた 常念小屋の水源? 足跡はここまで

 

 夜明け前にテントから顔を出すと、相変わらず風は強いものの上空には星がポツポツと見えて雲に切れ間ができているようだ。昨日午後のような吹雪だったら帰ろうかなぁと弱気だったが、どうやら大丈夫そうなので勇んで出かけることにした。朝飯を食い終わってテントはそのままにし、防寒具と食料、水、アイゼン、ワカン、ピッケルを持って出かける。出だしはアイゼンで行くことにして装着して出発した。昨日の小屋番の態度が気になるので小屋から見えないよう右側に迂回して谷間に入るとアイゼンではズボズボ踏み抜いて苦労する。これじゃワカンに履き替えないと体力を使い切ってしまうなぁと思いつつ下りだからいいかと歩いていたら、想定外の踏跡が出現したではないか。この踏跡はまさか一ノ俣谷を横尾まで下っているのだろうか? もしそうだったら中山鞍部取り付きまで楽できるぞ〜。踏跡の上を歩けば潜ることもなく楽に歩けるが、いつ踏跡が消えるか分からないので途中でワカンを装着、アイゼンはザックにしまった。しばらく足跡は雪に埋もれた谷筋を下っていき、僅かに谷に空いた雪の穴の先で消えていた。帰りによく見たら北側の谷に取水施設が見えたので、おそらく小屋の水源管理に小屋の人が訪問するらしい。残念ながらこの先はラッセルするしかない。

新雪が重い 一ノ俣谷が近づくと流れが顔を出す
一ノ俣谷出合 一ノ俣谷出合の赤布

 

 幸い、谷の流れは完全に雪の下で割れた箇所はなく安心して歩けるが、積もった新雪は深いところで20cmはあり、下りではどうってことはないが帰りのことを考えると気が重い。稜線では風が強くて雪は飛ばされてしまったがこの辺は風が無く雪が積もってしまったらしい。まあ、強風下で行動するのとどっちがいいかと言われたら微妙であるが。下るに従って徐々に谷の雪が窪むようになり、どこかで踏み抜いて落ちたら悲惨なので僅かに谷を避けて歩くようにする。一ノ俣谷本流との合流点付近では赤布がかかっており、こんなところを歩く人間が他にもいるんだとちょっと心強くなる。

一ノ俣谷本流は完全に流れが出てしまっている 僅かに残ったスノーブリッジで右岸に渡る
鞍部直下までトラバース。でも傾斜が急で面倒 中山乗越へ続く谷の1本南の谷を登ってしまった

 

 一ノ俣谷が近づくと雪が割れて流れが出てしまったので、歩きやすい右岸の樹林を歩いていく。しかし本流と合流すると行き止まりになってしまうので細いスノーブリッジを恐る恐る渡って左岸に移った。案の定、一ノ俣谷本流は完全に流れが出てしまっていて移動は正解だった。この谷は主に左岸の傾斜が緩く右岸は切り立っているので、鞍部直下までは左岸を歩いた方がよい。時間帯や天候にもよるだろうが、朝方ではまだ水量は少なくスノーブリッジを利用せずとも徒渉は可能と見たが、なにせ両岸は雪の壁で切り立って降りるのも登るのも無理で、壁の傾斜が緩やかな場所を探さないと渡渉したくとも沢に降りることができない。よってスノーブリッジを使うのが手っ取り早く、まだ鞍部は先だがこの先もスノーブリッジがあるか分からないので早めに右岸に渡った。これで最大の難関だった徒渉は解決したが、右岸は切り立っているので鞍部まで移動するのが面倒だった。傾斜が急なのでワカンからアイゼンに履き替えて高巻きを始めたが、小さな谷に落ち込む場所で傾斜がきつすぎて突破できず、せっかく上げた高度を下げて岸辺の平地に降りて通過した。そして最低鞍部に続く谷の僅か数10m下流側には頑丈そうなスノーブリッジがあってガックリした。帰りはこれを利用しよう。

急斜面をよじ登る 稜線直下

 

 さあ、これからが本番だ。谷は地図で見るよりもはっきりせず、たぶんこれだろうと細くて急な谷を選んだ。これがまた上を見上げるとかなりの傾斜で滑ったら止まりそうになく、帰りはバックで下る必要がありそうだが、他の斜面も同じなのでよじ登り始める。まあ、傾斜が急だと言ってもジャンクションピークの登りよりはマシなので気楽である。さほど緊張するほどのこともなくキックステップでアイゼンを雪に蹴りこんでピッケルはいっぱいまで雪に差し込み、空いた左手も雪に突き立てて「4WD」で登っていく。雪は適度に締まって足下が崩れることもなく快調に登れた。両手を使えるようにウェットスーツで使われている素材のネオプレーンゴム製手袋をしているので、直接雪に触れて手袋が濡れても冷たさを感じずに済むのは非常にありがたい。峠まで標高差100mなのでゆっくり登っても20分はかからないだろうし、新調した高度計があるので正確に高度が把握できるのは便利だ。さすがにこういう場面で両手を空けてGPSを使うのは危険だし、この樹林帯ではGPS衛星を4個捕捉するのは不可能だろう。高度計を見ると2250mで、そろそろ稜線のはずだが全く稜線が見えず、すっと上まで急な樹林帯が続いているではないか。どうやら谷を間違えたらしいが、中山に近いほうの谷に入ったのか、遠いほうの谷に入ったのか全く判別できず、とにかく上まで登って確認するしかなさそうだ。落ちたら止まりそうにない斜度が続くが、上を見るとこれ以上の傾斜は無さそうなのでまっすぐ登っていった。

稜線に出た箇所から山頂方向を見る 稜線に出た箇所から鞍部方向を見る

 

 ようやく稜線に出ると森林限界の境界付近で標高は約2370mで、中山乗越から100mも高い場所に登りついた。西風が強いが常念乗越よりもマシな強さで耐風姿勢など不要な強さなので行動には支障が無かった。ただ、これでは長時間の休憩は寒いなぁ。ラッキーなことに中山側に寄った稜線なのでちょっとだけショートカットしたことになる。稜線の東側は雪がたっぷり付いて雪庇を形成しており、西側は半分雪に埋もれた矮小な樹林である。昨日の積雪らしくボカボカ潜るのでアイゼンからワカンに切り替えて歩くと、場所によってはウィンドクラストして全く沈まない雪面もあり、できるだけそういうところを選んで登っていく。柔らかい雪の部分では雪の割れ目が隠れている部分もあり、そういうところに足を踏み入れると腿まで踏み抜いてワカンを付けた足を引き抜くのに苦労する。それでも足跡一つ無い処女雪に自分だけの足跡を残して天気が良く見晴らしがいい稜線を歩くのは最高の気分だ。無雪期の植生はどんなものだろうか。この感じだと稜線には笹は無いように思えるが、ハイマツが生い茂っていたら厄介だろうな。その前に中山乗越までは笹がひどそうな。残雪期だからこそこんなタイムで歩けるのだろう。

森林限界を超える このコブが中山山頂
中山山頂。背景は雲に隠れた穂高 中山から見た涸沢テント村。いっぱいあった
中山から見た槍ヶ岳 中山から見た常念岳
中山から見た常念乗越 中山から見た大天井岳〜東天井岳

 

 肩が2箇所ほどあり山頂かと思ったら先にもっと高い場所があったりするが、大した距離でも大した疲労度でもないのでがっかりせずに進み、とうとう最高地点にたどり着いた。山頂付近はさほど深くは無いが雪で覆われているため三角点は見つからなかった。稜線東側は大量の雪で雪庇ができており、たぶん地面よりも高いだろう。西側は僅かしか雪が無く地面を這うハイマツと少しの岩だけで、全く雪が無ければ何かあるのかもしれないが人工物は見当たらなかった。この高さだが森林限界を超えているので見晴らしは素晴らしく、正面には穂高の稜線が聳えるが中腹以上は雲に覆われて見えず迫力はイマイチだ。穂高の左側には3日前に登った小嵩沢山が良く見えている。槍はかろうじて雲の外側。振り向けば東天井岳からの尾根が長く伸び、右側の常念乗越は遠い。常念はちょうど逆光で写真を撮るのが難しいが、あちらには何人も登っているのだろうな。私の姿が山頂から見えるだろうか。これだけ一面真っ白の上に赤いザックだから目立つと思う。

中山乗越近くの赤布 中山乗越

 

 防寒着を全部着てしばし休憩してから下山を開始した。帰りは中山乗越から下ることにして登りで稜線に這い上がった地点を通過してもなおも稜線を下るとすぐに樹林帯に入り風が弱まる。ところが樹林帯は日当たりが悪いようでワカンをつけても潜るようになり、木の近くでは腿まで埋まる。風向きの関係で稜線西側が雪が少ないことに気づいてからは僅かに西側を歩いて苦労せずにすんだ。鞍部付近は地面が出ているところがあったが、どうやら深いシラビソ樹林で笹は無いようだ。まだ新しそうな赤布が1つかかっていので、ここ1年くらいの間に歩いた人間がいるようだ。残雪期に歩いたのか無雪期に歩いたのかはわからない。

鞍部から東の谷を下る 小さい谷だがはっきりしている
下ってきた沢を一ノ俣谷から見上げる 降り立った場所から少し下流で左岸に渡る

 

 ここから東側の谷を下るが、登ってきた斜面と違って細いながらはっきりとした谷で、傾斜もさほどではなくワカンのままで下れそうなのでそのまま下り始めた。今は雪に埋もれているので雪が無い時期に水が流れているか、藪の程度がどうかはわからないが、少なくとも今よりも苦労するだろう。傾斜が少しきついところもあるが滝は無いようで、ワカンをはいたまま前を向いたままで一ノ俣谷まで下りきってしまった。地形図を見るとこの谷はさほどの傾斜ではないが、実際にそうだった。しかし下から見ると細い谷だし傾斜がきついように見えるので、最低鞍部に至る谷とはわからないだろう。私が登った谷は僅か20mほど下流で惜しかった。

一ノ俣谷左岸は傾斜が緩く歩きやすい箇所が多い 振り向けば中山

 

 さあ、これからが登り返しできつくなるが、帰るには登るしかないので頑張ろう。あの足跡が出てくるようになればラッセルが無くなるので楽になるはずで、それまでの我慢だ。行きの私の足跡は何も考えないで歩いたので登りの歩幅と合わず、帰りは苦労することになった。日が当たって雪が重くなるのでこれまた苦労の種が増えた。ただ、これだけ潜れば目印不要というのはメリットだったが。今回は目印は一切付けずに済んでしまった。

 ようやく行きで目撃した足跡に合流、やっぱり沈まないルートは足が軽い。足跡を追って登っていくと小屋の人が下ってきて、どこに行こうとしたのか聞いたので、ルートを間違ったわけではなく中山まで往復してきたと話した。驚いた様子はなかったが、たぶん小屋に泊まる人間で中山に登る人はいないうだろうなぁ。やがて小屋に到着し、左に巻いてテント場に出た。相変わらず風が強くテントの撤収に手間取るかと思ったが、風除けのスノーブロックのおかげで難なく撤収できた。「お札」を小屋に返却、昨日手続きに対応した人が出てきたので無事を報告した。これで安心してもらえただろう。

 今日小屋に泊まった人は常念を往復して降りるのか、それとも縦走してどこか別の場所に下りるのが主流なのかわからないが、もう9:00を過ぎているのでほとんどの人が出発した後だろう。こんな時間に重いザックを背負って下るのは私だけのようだ。最初の下り初めだけが急なのでアイゼンを付けて歩き出すが、中山乗越からの下りを考えれば同程度の傾斜でアイゼンは不要で前を向いたまま下ることができた。登りの人が歩くであろうルートはわざと外してステップを崩さないように歩いた。まだまだ上がってくる人がおり、最後の登りなので皆疲れた表情だが、天気は上々なので気分はいいだろう。申し訳ないがこちらは大またでガンガン下っていき、本流と合流する地点でアイゼンを脱いだ。デブリ地帯歩きはできるだけ傾斜がある場所を選んで靴底を滑らせて楽をした。残念ながら雪の表面が荒れているのと傾斜が緩すぎて白馬大雪渓のような大滑降とはいかない。谷から離れて夏道を行くようになると滑れる場所はほとんど無くなり淡々と歩く。標高1500m地点で最後の休憩をして腹ごしらえ、林道終点でザックカバーも外してスパッツも外してザックにくくりつけたピッケルに引っ掛けて日差しで乾燥させながら下った。臨時登山口駐車場に戻ると車は2,30台に増えており、今日も結構入山したようだ。車の前に店を広げて濡れたものを日干しし、乾燥してから穂高温泉郷に向かった。


所要時間
5/3
臨時駐車場−1:01−正規駐車場−0:18−林道終点(休憩)−0:12−山の神−1:12−標高1700mで休憩−1:17−標高2100mで休憩−0:46−常念乗越(幕営)

5/4
常念乗越−0:44−一ノ俣谷を渡る−0:24−鞍部下の谷−0:39−稜線(ワカンに履き替える)−0:21−中山(休憩)−0:17−中山乗越−0:06−一ノ俣谷−0:31−一ノ俣谷出合−0:49−常念乗越(休憩)−0:22−一ノ沢出合−0:54−1511mで休憩−0:22−林道終点−0:13−正規駐車場−0:49−ゲート−0:01−臨時駐車場

 

 

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