北信 赤倉山 2007年5月13日

 


 黒菱山、鬼ヶ岳から下山し、温泉と買い物を済ませて再び笹ヶ峰方面へと戻り、スキー場を横切って南地獄谷へと伸びる林道入口近くの空き地に車を止めた。明日は赤倉山がターゲットである。赤倉山は妙高山外輪山の東端に位置し、地形図を見るとゲジゲジマークの連続で危険度が高いと予想された。山頂渉猟でも急斜面を登るとの記述があったし、新潟の藪山情報を交換するメーリングリストのメンバーも場合によってはザイルがあった方がいいと書いていた。いずれも赤倉山の西側から登っている。ところが昨年、DJFが東尾根を辿って山頂に到達していたことを知った。HPの山行記録ではやっぱり危険箇所があったようだが積雪期にスキー兼用靴でザイル無しで登っているのだからそこそこ登れるルートなのだろう。ただ、私とDJFでは岩と雪の技術差は歴然としているので甘く見てはいけない。技術に劣る人間が安全に登るには藪の助けで滑落を防ぐのが最も効果的で、痩せた稜線上の雪は落ちてしまってもそこまでの尾根には残雪がある状態がベストだろう。今年は雪が少なく、昨日も十二曲がりの下まで雪が無かったので、もうそろそろその条件を満たしているだろう。逆に雪が消えすぎていないか心配なほどだが。林道を走行しながら赤倉山の稜線を見上げたがほとんど白くない。スキー場も遥か上まで全く雪が無く、林道から東尾根にとりついたらいきなり藪の可能性が高い。黒菱山、鬼ヶ岳でほとんど体力を使い果たしてしまったので、明日は残雪、藪の状態によっては撤退してもいいだろう。

 信濃町のスーパーで買い物を済ませ、杉野沢を通過して目的の林道分岐を過ぎて僅かで道路右側に駐車場がある。ここは旧道が通っていたようで奥には草に埋もれた古い橋がかかっていた。今では山菜取りの駐車場ってとこだろうか。夜間の車の通りは少なくぐっすり寝られた。酒を飲みながら明日の天気予報を聞いたが、新潟上越地方は雨、お昼ころから曇り、午前中の降水確率50%の最悪予報だ。雨に濡れた笹薮漕ぎは最悪なので、明日は雨ならそのままお帰りだろう。

 翌朝、起きると雨は降っておらず路面も濡れていな。早朝は空の様子は分からなかったが徐々に明るくなってくると雲は多いが隙間から青空も見えているではないか。天候は時間経過とともに回復基調なのでこれ以上悪くなることは無いはずで、文句なしの出発であろう。朝飯を食ってザックにピッケル、アイゼン、ワカンをくくりつけて出発だ。Mさんは昨日は相当疲労して今日は車周辺で野鳥観察でもと言っていたが、1晩寝たら元気が出たようで林道まで同行して鳥の観察をすることになった。

林道入口のゲート ゲレンデから見た赤倉山。雪少ねぇ
赤倉山拡大 ゲレンデの落とし物

 

 林道入口はゲートが閉まっているので横から入ったが、歩行者も含めて立入禁止の看板が出ていた。まあ、東側はスキー場のゲレンデで出入り自由だから大した意味は無いが。舗装された林道を少しだけ歩くと林道はゲレンデを離れて左手の唐松樹林帯をジグザグに登っていくようだが、こちらはショートカットのためゲレンデのリフト沿いにまっすぐ上がることにした。舗装道路を歩くより足に優しいことも大きな理由だ。ほとんど雪が無く日当たりがいいゲレンデは、たいていの場所では蕨の宝庫なのだがここでは全く見かけなかったのは不思議だ。その代わり、スキーヤーが落としたデジカメを発見してしまった。おそらくスキーでコケたときにポケットから落ちて雪に埋もれて発見されなかったのだろう。精密電子機器の場合は内部に水が入ると部品の足やプリントパターンが腐食して使えなくなってしまうので拾うことはしなかった。帰り道は現金\600をゲット。まっすぐゲレンデを歩くだけでこんな拾い物ができるのだから、ゲレンデ内をくまなく探せばけっこうな金額が落ちていると思う。他のゲレンデで硬貨を拾ったことが何回かあるので、コケて落とす人は予想以上に多いのだろう。みなさんも紛失しないよう気をつけたほうがいい。

ゲレンデ内の熊棚 例外的に残雪が多い場所

 

 林道と再び交差するところから先は素直に林道歩き開始。この先は主に未舗装なので足への負担も軽くなる。ゲレンデ内に僅かに残る樹木に熊棚を発見、こんな人間くさいところに熊がいるのだから新潟にはたくさんいるのだろう。次々とゲレンデを横切るとしばしゲレンデが無くなって樹林帯の中を歩くが、野鳥はこのような環境のほうが多いようだ。雪は少しずつ増えてはいるが、大まかに言えばほとんど消えてしまっている。これでは東尾根に雪庇の残骸が残っていない限りは藪漕ぎ確定だろう。

東尾根と林道交点から見た南地獄谷 東尾根には作業用モノレールがあった

 

 最後のジグザグを切り緩やかに登ったところが目的の東尾根との交点で、地形図だとリフト最上部のように見えるがリフトもゲレンデも無かった。その代わり工事用資材が置いてあり、ここを始点として東尾根上部に向かってモノレールが伸びているではないか! これは想定外の事態であり、雪が消えて藪漕ぎかと覚悟していたのがモノレールに沿って藪がきれいに刈り払われているので楽に登れる。モノレールがどこまで続いているのかわからないが、雪が断続的に現れるところまで伸びていると大助かりだ。いくらなんでも赤倉山の山頂までモノレールがあるということはないだろうなぁ。林道はまだ先に続いているが除雪はここまでで、この先は東尾根の北側になり残雪が増えて車も通行不能でゲートが閉まっていた。まあ、林道入口にゲートがあるから我々一般人にとっては関係ないが。

雪がすっかり消えたモノレール沿いに進む モノレール終点。まだ工事中
ようやく雪が現れ始める まだ刈り払いは続く

 

 歩き出して2時間近く経過したので少々休憩してから出発、いきなり急な登りだが藪が刈り払われているので快調だ。最初のうちは雪はたま〜に出てくるくらいだったが高度を上げると徐々につながり始めた。どうもこの刈り払いは雪が降る前に実施したようで、雪が消えかけた場所も藪はなかった。やがてモノレール軌道終点が現れたがまだ工事中のようで軌道が地面に置かれ、その先も刈払いが続いていてラッキーだった。傾斜が緩んだところが本当の終点らしく、右手に見えている落石防止ネットの工事用資材運搬が目的のようだ。ここまで来ると雪田が続くようになり笹薮漕ぎの必要は無く、モノレールのおかげで大助かりだった。

林道上部の落石防止ネット 刈り払い終点
少ない残雪の東尾根を登る 1920m峰直下
1920m峰から見た2018m峰 1920m峰を振り返る。尾根には雪庇しか残っていない

 

 尾根は単純だが下部では広がっているので、念のために目印をつけながら登っていく。まあ、この尾根は北側が急激に落ち込んでいるので北側に少し寄って歩けば尾根を外すことは無いが。僅かに笹が出てしまったところは笹を突っ切るが、ほぼ雪田が続いて出現するので雪を求めて左右に進路を変えながら進んだ。笹がメインで樹木は少々の植生なので、笹さえ埋もれる雪の深さがあれば問題なく歩ける。さきほどの落石防止ネットがモノレール終点かと思ったが、その後も雪が消えたところには刈り払いが現れ標高1760m付近まで続いていた。傾斜は大してきつくは無いが、下手に滑って尾根右手に落ちると危険なので1920mピークでアイゼンを付けた。このピークを超えると尾根が狭まり、残雪は雪庇しかないので幅の狭い雪庇を登りきるととうとう雪が無くなって藪漕ぎ開始だが、いつまた雪が出てくるか分からないので12本爪アイゼンのまま藪漕ぎだ。いやらしいことに尾根が狭まると同時に尾根直上には枝を横に広げた潅木が混じりだし、乗り越えるのに一苦労する。

2018m峰への登り。この雪が消えると藪漕ぎ開始 雪が消えると灌木の藪
2018m峰にかかる 2018m峰。南側は草付き

 

 2018mピーク手前は傾斜がきつくて苦労するかと思ったが雪がないせいかどうということはなく、潅木を掻き分けて登りきって傾斜が緩むとピークに到着。ピーク付近のみ稜線南側の藪がきれいさっぱり無くなって草付きになっており天国のように歩きやすい。ここから見る山頂への登りは鞍部からしばらくは雪が付いており、地形図で見ると急な尾根なので私に登れるかちょっと心配になるが、少なくとも昨日の鬼ヶ岳西鞍部の雪壁よりはずっとマシだろう。

2018m峰を下る 崖はあるが大した高さではなかった
2018m峰を振り返る 赤倉山東峰は目の前。残雪を登れるか不安

 

 藪を掻き分けて下ると再び潅木混じりとなり鬱陶しいことこのうえなく、鞍部で残雪にありついてほっとする。目の前は最後の登りの雪の斜面だが、どうも大した傾斜ではなさそうだ。この登りは尾根がはっきりしない場所なのでどこを登っても傾斜は同じくらいだが、一番安全なルートはまっすぐ登って途中で右に向きを変え、雪が消えて笹が出てしまった地帯の右に登り、あとはややはっきりした尾根に沿って登るルートだろう。でも直進して登っても大丈夫とみた。山頂まで大した距離が無いのでメインザックはデポしてウェストポーチに必要なものを入れ、アイゼン、ピッケルを持って出発した。

鞍部から見た赤倉山東峰 残雪帯の登り。思ったより緩やかな傾斜

 

 登り始めは緩斜面で徐々に斜面が立ってくるが、下りのときに後ろ向きになるほどの傾斜ではなく淡々と登ることができ、結局は雪がつながった最短ルートで左に曲がった尾根上に出た。思ったより簡単でよかったぁ。残雪が途切れると再び潅木混じりの笹薮であるが、尾根が細いので落ちないようできるだけ尾根直上の潅木と格闘することになる。潅木が無く笹のみの藪の区間はずっと進むのが簡単だ。もちろん、これらが雪に埋もれている期間なら藪との格闘は無く天国だろうが、尾根が細いのでナイフリッジや雪庇の踏み抜き、急斜面での滑落が怖い。DJFが登ったときの写真を見ると簡単そうに見えるのだが、写真では遠近感が実際に眼で見た時とは異なり斜面の傾斜は現実より緩やかに見えるので、やっぱり度胸がいるルートだろう。だとすれば、私のような藪山派にとっては雪が消えて藪が出て苦労は多く根性は必要でも技術は不要な時期の方がよかろう。

赤倉山東峰から見た赤倉山山頂 赤倉山東峰を振り返る
赤倉山山頂直下 赤倉山山頂。藪にピッケルが我ながら間抜けだ

 

 地形図には表現されない顕著なピーク(ここでは赤倉山東峰と呼ぶことにする)に出ると、鞍部を挟んでその先にさらに高まりがあり、地形図を見る限りではそこが山頂だろう。稜線にはほとんど雪は無く、今までどおり潅木と笹の藪が続くが傾斜は緩やかなので藪を掻き分けての登りよりはマシだろう。よほどアイゼンを脱ごうかと思ったが、短い距離でも雪田をトラバースするような場所が出てきたらまたつけるのが面倒なのでそのまま進んだ。手に持っているピッケルも鬱陶しい。木をかいくぐって笹を掻き分けて最後の登りで、尾根北側の潅木が切れて笹も薄くなり天国のような歩きやすさになり、北側から回り込んでピークに到着した。しかし三角点は見当たらず、GPSの電源を入れて赤倉山までの距離を確認すると西に200mと出たではないか! このピークは上空が開けて衛星は5個以上受信できているのでGPSが嘘をつくわけないし、だいいち三角点がないのだから山頂ではないようだ。ただ、DJFがつけたと思われるピンクリボンの結び目が木に残っているのが気になるが、山頂標識としてつけたのではなく目印として付けた可能性もあるから山頂の証拠とは言えない。

赤倉山山頂から見た2150m峰 赤倉山西側直下

 

 かなり気落ちしたがGPSの言うことを信用して西のピークに向かう。今までの様子からしてアイゼン、ピッケルは不要だろうとここにデポしていくことにした。アイゼンが無くなると足が藪に絡まる頻度がとたんに低くなり足が軽くなり、ピッケルが無いので両手で笹を掻き分けることができ、歩みが速くなる。ただ、相変わらず潅木+笹薮の尾根が続き登りになると苦しい。特に最低鞍部から20mくらいは笹が猛烈に深く、雪が溶けてから時間がたっていないので登りでは「逆目」となり笹の根元に潜り込むように地面に這いつくばって進んだ。周囲は全く見えず、下りでは尾根を外したかも判別しようが無いので頻繁に目印をつけながらだ。笹地獄が終わると今度は少しばかりの岩の登場で、尾根をまっすぐ登れないので左側を巻いたが傾斜が急で手がかりが少なく、低い潅木や笹を掴んで体を引き上げた。ここは雪が付いていたらイヤな場所だ。

2150m峰東側の岩壁 2150m峰山頂
2150m峰から見た2300m峰 2150m峰から見た妙高山

 

 そこを突破するとすぐに最高地点に到達、ピークは笹が切れて草付になっており展望がいい。GPSを見ると間違いなく山頂なので三角点を探すが見当たらないし、DJFの目印どころか標識類も一切無い。ここで地形図を出して周囲の地形と見比べることに。残念ながら南側は笹が深くて視界が無く尾根がずっと伸びているのか分からないが、西方面は僅かに下ると幅が広がり穏やかな稜線に変化している。また、先ほど登ったピークは南に僅かに尾根が張り出しているがその先は急激に落ち込んで消えている。このことを考えると今いるピークは南に崖マークが連続する尾根が延びる2150mピークではないか? さっきのピークで三角点が見当たらないのは納得いかないが、下山してからよ〜く地形図を見ると三角点の位置は最高点より南東側らしく見える。現地ではそれは気づかず南や西を探してしまったが、南東を探せば発見できたかもしれない。まあ、どちらが山頂だとしても両方踏んだので山頂に登ったことは間違いない。

赤倉山山頂のDJFピンクリボン残骸 DJFの落とし物か?

 

 東側ピークに戻って西側ピークを見ると、東側がガレた尾根が続いているので地形図の2150mピークに間違いなく、今立っているピークが正しい赤倉山だった。な〜んだ、DJFのリボンは山頂標識だったのだ。三角点を探しているときに弁当についているような醤油の小袋を発見、館林の正田醤油の製造だから群馬県内で販売された可能性が高く、たぶんDJFの落し物だろう。

南地獄谷の湯気。稜線まで硫黄の臭いが漂う 南地獄谷の噴気。すごい音がしている

 

 さあ、下山だ。しばらくは雪が無いのは登りでわかったのでアイゼンを付けずに手に持って藪漕ぎだが、足は軽いが手が重かった。サブザックを持ってくればよかったなぁ。東隣の小ピークから2018m峰西側鞍部へと下る雪尾根はアイゼンを効かせれば前を向いたままで簡単に下れ、デポしたメインザックを回収、2018m峰を超えて雪が出現すればもう藪漕ぎは無い。林道に出て1時間ほど歩いて車に戻った。


所要時間
車−1:22−東尾根(休憩)−0:13−モノレール終点(標高約1660m)−0:16−刈り払い終点(標高約1760m)−0:51−2018m峰−0:14−鞍部−0:04−雪原地帯を抜ける−0:17−赤倉山−0:16−2150m峰(休憩)−0:12−赤倉山(休憩)−0:21− 赤倉山東鞍部(休憩)−0:08−2018m峰−0:24−刈り払い終点−0:10−モノレール終点−0:06−林道−0:56−ゲート−0:01−車

 

 

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