南ア北部 仙丈ヶ岳 2007年6月16日

 


 入梅前の最後の晴天を狙って五龍西部の東谷山を往復し、目論見どおり下山翌日から入梅したが、なんとその週末は早くも前線が南下して梅雨の晴れ間になるようだ。天気予報を見ると前線は小笠原諸島付近まで南下するので関東南部でも晴れマーク、水曜まで山に入っていた体なので疲労が残り、本来ならば週末はのんびりしていたいところだが、あまりにも天気がよさそうなので手軽な山に日帰りすることにした。どのみち今の体力では登り残しの2000m峰にアタックするのは無理だろう。場所であるが、こういう時期こそ最適なのが仙丈ケ岳だ。北沢峠へのバスは金曜日に営業を始めたばかりで今シーズン最初の週末であり、夏山シーズン前なので目茶込みはなく、登山道はほとんど夏道が出ているが山肌には適度に雪が残って絵になる風景を楽しめる。気温も涼しく真夏のような汗をかかずにすむ。ついでに雷雨の心配もない。バスで標高2000mまで登るので疲れた体でも大丈夫と、いい条件が揃っている。

 予想天気図を見ると低気圧が東北沖に通過して北東の風がやや強いかもしれないが、南の湿った風ではないので山の上はガスが出ないかもしれない。せっかくなので金欠病のMさんを1ヶ月ぶりに誘って、今シーズン最後となりそうな残雪の風景を楽しんでもらうことにした。ネットで調べると今年は残雪が多く、未だ駒津峰経由の甲斐駒へのルートは通行禁止と書いてあるが、仙丈ケ岳は大丈夫らしい。数年前の同一時期に登ったことがあるが、1箇所だけ急な雪田を登る場所があったがアイゼンは不要で、おそらく今年はそれより雪は多いと思うので念のためにアイゼンを持っていったほうがいいだろう。まさかピッケルが必要な場面はないだろう。夏に登った限りではそんな傾斜の場所は無かったように思うので、ストックがあればいいだろう。

 旧長谷村は近いので諏訪ICから杖突峠越えで向かった。何度も通った道なのでロードマップを見る必要は無く仙流荘奥の駐車場に到着、意外に車が止まっており30台近いのではないだろうか。それでもスペースはたくさん空いているので適当な場所に止めた。お隣も車中泊らくし前部座席にはザックが鎮座していた。バスの始発は6時なのでゆっくり寝られるのはうれしい。

 駐車場に出入りする車がうるさくて5時前に起床、雲ひとつ無い快晴で外は充分に明るかった。ここは谷間なので稜線上で風があってもここでは風は無いが、鋸岳の稜線はすっきりと晴れており、少なくとも風で稜線のみガスがかかっていることはなさそうだ。バス代は北沢峠往復で\2200、40リットルのザックでは荷物料金は請求されなかった。6時少し前にバスの待ち行列に加わったが、バス3台分くらいの人数である。しかし、よほどの大人数でバスの台数が不足するほどでないかぎりは全員乗るまでバスを増発するので心配はなく、我々は2台目のバスの最後に乗ることになった。あとはバスに揺られて北沢峠を目指すのみだ。林道から見る仙丈ケ岳は思ったよりも雪は少なく、もしかしたら登山道に雪は無いかもしれないと感じた。

北沢峠 北沢峠の仙丈ヶ岳登山口
登山道に雪はない 僅かな樹林の切れ間から北岳が見える

 

 予定よりも少し早く7時前に北沢峠に到着、トイレに入ってから歩きだした。Mさんとはペースが違うので基本的には別行動とし、体調が不安定なMさんは午後1時になっても山頂に来なかったら諦めて下山したと考えて下っていいとのお達しが出た。私の通常の体調ならば、たぶんこの日帰り装備なら標高差1000mを2時間で登れると思うが、なにせ東谷山から中2日なので3時間を目標にしてゆっくり登ることにする。目の前に大ザックの老夫婦がいたのでそのペースで歩き、休憩に入ったところで先行する。高度計を見ると1時間で300mしか登っていないが、最初は傾斜が緩いのでこんなものだろう。ここしばらくは冬装備&幕営装備が続いたので日帰りの荷物はとても軽く、先行者がいなくなって自分のペースで歩くと思ったよりも足が軽く、前を歩く学生グループを追い越して、さらに2人組を追い越した。大滝頭で休憩している人が何人かいたが、こちらは疲労を感じないのでそのまま歩く。

大滝頭 大滝頭を過ぎると登山道に残雪登場
森林限界直下はザクザクの残雪帯でスパッツを付けた 森林限界を抜けると雪が消える
甲斐駒。甲斐駒左は八ヶ岳 早川尾根と鳳凰山山

 

 大滝頭まで雪は全く無かったが、ここを境にやっと残雪が登場する。といっても最初はおまけ程度でスパッツも不要だが、森林限界に向かって樹林の高さが徐々に低くなると雪が連続的に出てきて、時々踏み抜くのでスパッツをつけた。まだ大した傾斜ではないし、足跡がたくさんついているのでアイゼンはザックにいれたままだ。森林限界を超えて傾斜が緩むと雪も消えて真っ青な空の下、大展望の夏道歩きだ。背後には甲斐駒から鋸岳の荒々しい稜線が広がり、左手には中央アルプス、木曾御嶽、そして白山、乗鞍、槍穂、後立山、妙高火打とこれ以上の展望は無いというほどの素晴らしい眺めだった。近場の早川尾根、鳳凰三山、北岳には全く雲がかかっていない。弱い冬型のような気圧配置で乾いた空気が入って透明度がいいらしい。北よりの風がやや強いが麦藁帽子が飛ばされそうになるほどの強風ではなく火照った体を冷却するのにちょうどいい風だった。

小仙丈ヶ岳直下の雪田。特に危険はない 雪田を登り終わったところから見下ろす
小仙丈ケ岳から見た甲斐駒〜鋸岳 小仙丈ケ岳から見た仙丈ケ岳。残雪が多い
小仙丈ケ岳から見た鳳凰山山と富士山 小仙丈ケ岳から見た北岳、間ノ岳、塩見岳
小仙丈ヶ岳から見た北アルプス〜妙高山のパノラマ写真(クリックで拡大)

 

 目の前には数年前にも登ったはずの小仙丈ケ岳直下の雪田が広がり、一直線に足跡がついているのが見える。前はこれをビビりながら上り下りしたが、今となっては危険皆無の雪田としか見えない。もし滑っても途中に樹木はないし下部は平坦だから危険はないし、そもそも途中で止まる程度の傾斜だろう。よくステップが切れているので簡単に登ることができた。その先を僅かに登ると小仙丈ケ岳山頂だが、盛んにシャッターを切って足が先に進まない登山者がいた。峠を出発してすぐに追い越された人だが、この大展望なので森林限界を超えてからは歩いている時間よりもファインダーを覗いている時間の方が長そうだ。こちらも小仙丈ケ岳山頂で写真を撮ってから先に向かった。

仙丈ヶ岳向けて歩く 鞍部手前から見た仙丈ヶ岳
1つめの雪田を横断 2つめの雪田を登る

 

 仙丈ケ岳の残雪は以前来たときよりも確実に多く、残雪をまとった姿は雪が無くなった夏山よりもずっと絵になる風景だ。ただ、この先に残雪で危険箇所があるかどうかが問題だが、稜線真上はほぼ雪が消えているのが通常なのでさほど問題はないだろう。緩く鞍部に下って登りにかかると小さな雪田を横断してから、小仙丈ケ岳直下の雪田と同程度の大きさと傾斜の雪田登りが待っていた。これも特に危険を感じる場所ではなく、アイゼンも履かずにステップに従って淡々と歩けば通過できたし、帰りも前を向いたまま下れた。

小仙丈ヶ岳を振り返る。左は甲斐駒、右はアサヨ峰 再び夏道。天気は最高!

 

 稜線上の岩稜帯を右に巻く夏道はすっかり雪が消えて淡々と歩き、待望の山頂が見えてきた。思ったよりも人が少なくて2人しか見えていなかった。ということはあれだけたくさんの人がバスに乗ったが、仙丈を目指した人は僅かしかいなかったということか。下山ですれ違った人を勘定すると、最終的には30人に達しなかったのは確実だ。これが夏山シーズンなら大混雑だろうなぁ。

仙丈ヶ岳山頂が見えてくる。右のピークが山頂 山頂手前のピークで雪堤を歩く
雪堤を渡り終わってから後ろを見る ここが山頂。先客は2人しか見えない

 

 山頂の一つ手前のピークでは尾根上に雪堤が残って夏道はその下なので、雪堤の上を歩く。距離にして20mくらいの短い区間だが少しだけ痩せて高度感があるので慣れない人はおっかなびっくりで歩くだろうか。この前の牛首山、東谷山の痩せた雪堤と比較すれば痩せ方も距離も落ちた場合の危険度も比較にならないので、私にとってはどうってことはない。凍っているわけでもないし水平なのでアイゼンも不要である。山頂への最後の登りも雪に埋もれているので雪が消えた岩の上を歩いて山頂に到着した。

仙丈ヶ岳山頂 カール底の仙丈小屋
仙丈ヶ岳から見た地蔵尾根、丸山 仙丈ヶ岳から見た二児山、大沢丸山、立俣山、深南部
仙丈ヶ岳から見た横岳、白岩岳 仙丈ヶ岳から見た鋸岳、編笠山
仙丈ヶ岳から見た笊ケ岳〜荒川岳
仙丈ヶ岳から見た荒川岳〜光岳
仙丈ヶ岳から見た荒川岳〜二児山
仙丈ヶ岳から見た中央アルプス、木曽御嶽、白山(クリックで拡大)
仙丈ヶ岳から見た木曽御嶽、白山
仙丈ヶ岳から見た乗鞍岳
仙丈ヶ岳から見た甲斐駒〜鋸岳、八ヶ岳
仙丈ヶ岳から見た八ヶ岳南部
仙丈ヶ岳から見た奥日光の山々

 

 時刻は10時前で夏山シーズンならそろそろガスが上がってくる時間だが、周囲の山を見ても全く雲はかかっていない。360度遮るものがない大展望が広がっている。南を見ると塩見、荒川、赤石、聖が重なり合って分離しにくいが、一通り見えている。その左には笊と布引山、右手には大沢岳、兎岳、加加森山、池口岳、鶏冠山と続く。それより南側の南ア深南部は標高が低くなって手前の山に隠れて見えなかった。前茶臼、奥茶臼はガレと特徴ある形ですぐに分かり、ずっと手前で黒檜山が懐かしい。その右手は二児山から小黒山の稜線で、西に目を移すと地蔵尾根から南に派生する丸山だ。恵那山、中アは南から北の端まで前部見えており、その後ろには木曾御嶽が。御嶽も今頃の時期に2回ほど登ったことがあるが、今年は明らかに雪が多い。例年だともう登山道には雪が無く谷筋だけ残っているが、今年はまだまだ白くアイゼンが必要かもしれない。乗鞍もまだまだ雪が付いている。その右手は槍穂で、笠ヶ岳から抜戸山の稜線も見えている。槍の右は山々が重なって双眼鏡が無いと同定できないが、帰ってからデジカメ写真をパソコン画面で見てカシミールの展望図と比較したところ、水晶岳、常念岳、大天井岳、三ッ岳と並んでいることが分かった。そしてその左は、現場ではたぶん立山剣ではないかと予想したが、周囲より白い山はその通りで立山と剣岳だった。その右には針ノ木岳、蓮華岳と続き、爺ヶ岳、鹿島槍、五龍と並び、唐松岳、白馬槍、杓子岳、白馬岳はほぼ重なり合って肉眼では分離できない。小蓮華、乗鞍の右側少し離れた場所には雨飾山が僅かに白く、焼山は高妻、乙妻の影に隠れて見えなかった。その右には火打、妙高が聳え、手前に低く黒姫山だ。これより東になると空気の透明度が悪くて遠い山は見えなかった。手前の八ヶ岳は手に取るように近くに見え、もうほとんど雪は無かった。甲斐駒の僅かに左側の遠方にはうっすらと山並みが見えるがコントラストが低くて重なった山を分離することはできず、おそらく袈裟丸から奥日光辺りが見えているのではと予想はしたが、もしかしたら赤城が見えているだけかもしれず確信は持てなかった。帰ってからカシミールで確認すると男体山から日光白根にかけてが見えていたのだが、男体山と女峰山が重なって台形になっていたり、錫ヶ岳や皇海山も別の山に重なって分離できなかったりで一般的な遠景とはかなり異なり、日光周辺と人目で見分けるのは難しかった。

 Mさんが無事山頂到着、私より30分遅れくらいなので本人が宣告したよりずっと早い時間だった。午後1時発の北沢峠バスは無理だろうが3時には余裕で間に合う時刻で、膝を痛めているMさんは下山に時間がかかるので先に下り始めるが、こちらは気合を入れれば2時間で下れるだろうから12時まで昼寝タイムとした。風を避けるために南に下り、断熱シートを敷いてダウンジャケットを着て寝た。日差しが気持ちいいが完全に風を避けることができず少し寒かった。その間に私が追い抜いてきた人たちが次々と山頂に立っては下っていった。学生グループが雪堤を歩く姿が見えたが、残雪には慣れていないようでへっぴり腰で時間をかけて渡っていた。靴も登山靴のような足首まで覆うタイプではなかったので、たぶん今の時間では雪が緩んでズボズボ潜って靴の中はビショビショになってしまうだろう。こっちは下りで出発時はスパッツを付けておこう。

仙丈小屋 ライチョウ発見。仙丈では初めて見た

 

 12時になったので私も下り始めることにする。山頂には3人が残っているが、この時間なら3時のバスに間に合うだろう。仙丈小屋分岐手前ではオスのライチョウを発見、啼かないし動きが少ないので気づきにくいが、登山道から離れた斜面をウロウロしていた。仙丈ケ岳でライチョウを見たのはこれが初めてだ。小仙丈ケ岳を過ぎた雪田下りでは、これまた残雪に不慣れな単独の若者がおっかなびっくり下っており、僅かにハイマツが出てしまってステップが崩れた場所で立ち往生してしまったので私が先行して雪に蹴りこみながら下った。雪田直下で休憩している人が何人もいたが、お帰り組みだろうか。大滝頭まで残雪を歩き、その先は雪は無いのでスパッツを脱いで足が涼しくなる。すぐ先でMさんを追い越したが、時刻はちょうど13時だからバスの時刻まで2時間あるので余裕でたどり着けるので安心だ。こちらもバスの時間までだいぶ余裕があるのでのんびり下り、午後1時半に峠到着。

 バスの時刻は山頂で会った登山者に聞いたものなので、確認のためバス停の時刻表を見ると、午後3時の便は夏山シーズン以外の平日にしか出ないことが判明、これならもっと山頂でのんびりしていてもよかったかなぁ。でもあれだけ展望を楽しめたから充分か。バス停は運動会で使うような屋根だけ付いた大型テントが設置されているが、標高2000mでは日影では涼しすぎるため、日向に出てシートを敷いてお昼ねすることに。しかし最初は快適だったがどんどん暑くなって僅かに日が漏れる木陰に移動、今度こそ快適だった。

 お客が多いせいか、今日は運休のはずの午後3時発のバスがやってきて、1台では全員乗り切らないが10分ほどで次が来るとのサービスぶりで、柔軟に運用するらしい。1台目のバスに乗り込んで下っていくと林道上に親子と見られるカモシカが出現、カモシカらしく道路から山の斜面にどいても遠くまで逃げずにじっとこちらを眺めていたので、こちらもじっくり観察できた。カモシカを見たのは今年初めてで、最後に思わぬ幸運に恵まれた山行だった。

所要時間
6:59北沢峠−−8:21大滝頭−−9:02小仙丈ケ岳9:09−−9:50仙丈ケ岳12:01−−13:43北沢峠

 

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