南ア北部 池山、城峰 2007年8月5日

 

 

 関東も梅雨明けし、台風5号が通過して晴れるかと思いきや、通過ルートとその後の高気圧の張り出し方が悪くて南西の湿った風が吹き込み、下界はそこそこの天気でも標高が高い稜線はいかにもガスりそうな気圧配置だ。本来ならテントを背負って高い場所に涼みに行きたいが、大気の状態が不安定で夕立が長引きそうな気配なのでお手軽に日帰りの山を考えた。近場で未踏の2000m峰で考えられるところは北岳の池山吊尾根上にある池山と城峰がある。ここの登山口は鷲ノ住山を野呂川に下ったところにあるが、広河原のマイカー規制以降はアプローチが悪くなり気が進まなかったが、近年になって奈良田からバスが出るようになり足の便が解消されたのがうれしい。いや、これは白峰三山縦走者も同様だろう。以前は奈良田から広河原や芦安に戻るには身延経由で延々と電車、バスを乗り継がなければならなかったが、今なら芦安へ戻るには奈良田〜広河原〜芦安とバスを乗り継げばよく時間もかからない。ただ、奈良田〜広河原の林道は大雨が降るとすぐ崩れてしまい、昨年はほぼシーズン通して使用不能で池山、城峰に行きたくとも行けなかったし、今年も台風4号で崩れて一時通行止めだったが、今は崩壊現場を歩いて反対側で待つバスに乗り換えるという方式で運行再開したのだった。またいつ止まってしまうか分からないので、動いているうちに早々に登ることにした。

 奈良田〜広河原間バスの運行情報はネットに掲載されているが、あるき沢登山口付近にバス停があるのか不明だったので営業所に電話して確認すると、途中に何箇所かバス停はあるが最寄がどこになるのか分からないが、自由乗降区間なので好きな場所で乗り降りできるとのこと。ここまでネットに書いてくれるとありがたいのだが。奈良田駐車場バス停で確認すると「あるき沢橋」バス停らしく料金は\700であった。途中にあるバス停としては大門沢登山道の「第1発電所」、鷲ノ住山登山道の「野呂川発電所」と今回の「あるき沢橋」の3つが書かれていた。

奈良田駐車場。マイカーはここまで あるき沢橋とバス停。登山口はすぐ手前

 

 土曜夜に奈良田集落先の駐車場に入り、翌朝AM5:32の始発バスを待った。広河原のメインルートは夜叉神峠経由の路線なので駐車場の入りはさほどではなく、木陰になる場所を確保、酒を飲んで寝た。翌朝のバス停に並んだ人数は僅か5,6人だったが、始発の奈良田で20人程度が乗り込んでいたのでバスの座席はほぼ埋まった。開運隧道を通過し、少し行ったところで歩いて工事現場を通過、大規模に崩壊したのかと思ったら崖側1車線を残して路肩側が崩壊しただけで普通車なら通過できる程度だった。反対側に置かれたバスに乗り込んで「あるき沢橋」バス停で降りると目の前が吊尾根登山口で、私の他にも2名が降りたが登山者ではなく渓流釣りの人だった。近くで工事をやっているようで登山口には簡易トイレと移動式休憩所があったが、休憩所は鍵がかかっており登山者は利用できない。下山時、雨が降ってきたら雨宿りできるかと思ったのに残念。

 今回のコースは登山口から城峰まで標高差約1200mで、標高差400m/1時間のペースで登れば所要時間は3時間、下りはその2/3くらいで2時間といったところだろう。これに休憩を加えると合計6時間ちょいと予想される。今の時刻はAM6:30で、バス時刻表を見るとPM0:30の次はPM4:05とえらい時間が空いており、大気の状態が不安定で雷雨が予想されることを考えれば12:30の便に乗りたいところだ。しかし時間は6時間しかなく予想所要時間ギリギリであり、乗れるか乗れないかスレスレの状況で、休憩時間を削って歩くしかなさそうだ。幸いなことにこのコースはいきなり急な登りが始まって池山まで延々と続くはずで、登りも下りも標高差の割には時間はかからないと思う。今日は日帰り装備で荷物は軽いからスピードをセーブせずに足に任せて登ってみよう。

吊尾根登山口 途中で拾った鹿の角。枝が消失している

 

 夏場は草が生い茂っている可能性もあり、半ズボンでは足が傷だらけになる可能性があるのでロングスパッツをつけて出発した。登山口には掠れた文字で吊尾根登山口と書かれた標識があるので見落とすことはないと思うが、慣れない人だとちょっと心配だ。主に冬ルートとして使用されるが夏ルートとしては広河原等が圧倒的だろうからどれくらい笹や草が茂っているだろうか。登り始めると樹林帯をジグザグに登っていくが最近の足跡はないものの薮はなく、笹は夜叉神峠や大唐松山同様に数年前に開花したらしくすべて枯れていた。一部樹林が開けて日当たりがいい場所だけ草が茂っていたが、ほとんどスパッツの出番はなかった。踏跡は一部バラける箇所もあるが全体的にはしっかりしていて目印多数なので迷う心配はない。しかし人が少ないのは事実のようで登山道上で鹿の角を発見してしまった。長期間放置されて枝はなくなって幹しか残っていないが、今まで拾った角の中ではもっとも太かったが、こんなものが発見されずに落ちているのだから状況は察せられる。枝がないとはいえちょっと重いので登山道脇の木に引っ掛けて帰りに回収することにした。

笹は全て枯れていた シラビソ樹林に変わる

 

 出だしの標高は1200mちょっとで気温は約20℃、暑くはないが体を動かすには涼しいというほどでもなく、徐々に汗が噴出して髪の毛を滴り落ち、腕にも汗の玉が浮いてくる。この時期なのでしょうがないから準備もしており、濡れタオルで汗をぬぐってザックの中からうちわを取り出して扇ぎながら歩くようにするとだいぶ汗の出方も少なくなって快適になった。荷物が軽いので快調に足が出てペースが上がり、1時間で標高差600m近くを登ることができた。標高が上がるとブナ科の落葉広葉樹林からシラビソ樹林に変わり、枯れた笹もなくなって苔むした地面に覆われるようになる。こうなるとずっと涼しくなってますます快調なペースで歩ける。森林限界を超えた岩稜帯もいいが、こういった深く静かなシラビソ樹林の雰囲気も好きだ。夏の間は日差しが遮られて涼しくていい。

池山三角点

 尾根直上というよりやや北寄りを登っていくことが多く、標高約1900m肩で尾根に乗り再び標高を上げて傾斜が緩むと池山三角点だった。地図では三角点の北側を巻いているはずで、このなだらかな場所で三角点を探すのは面倒だなぁと考えていたが、実際はちゃんと稜線上だったのだ。2.5万図ではこの先が最高点だが、これだけなだらかでだだっ広いとどこが最高標高なのか判別は不可能であり、一般的には三角点を山頂としても問題なかろう。まあ、冬の積雪では三角点も埋もれて発見できないだろうが。ここまでの所要時間は約1時間半で予定よりずいぶん早く、これなら城峰まで登っても2時間半はかからないだろう。道は歩きやすいので下りは登りの半分で下れそうで、12時半のバスには余裕で間に合いそうだ。

池には水がなかった 池山避難小屋

 

 深いシラビソ樹林を突っ切って池山山頂付近を通過するが特徴もなく山頂の雰囲気はない平地だ。わずかに下ると左手に開けた笹原と草原が出現、どうやら池山の名の元となった池のようだが今は干上がっている。地図とは違って池の右側を巻いて小屋の前を通過、外から見るとなんとなく荒廃しているように見えるが、中を覗くとまともな小屋で10人くらいのキャパシティーか。水場は遠いらしいが雪がある冬なら関係ない。

 

シラビソ樹林を登る 城峰山頂
城峰山頂付近から見た鳳凰三山 城峰山頂付近から見た大唐松山

 

 小屋を過ぎて緩やかなシラビソ樹林を登り続けると再び尾根に乗り、傾斜が緩んで岩も混じるようになり稜線らしい雰囲気になる。ほぼ水平移動が続き急な下りが現れる直前の細長いピークが城峰だった。僅かに登山道が山頂を巻いているが目くじらを立てるほどの距離ではない。でも山頂標識は無くタダの通過点としか認識されていないようだ。シラビソ樹林に覆われているので視界は無く、少し西に進んだところで僅かに樹林が開けて鳳凰三山方面が見えるが、他は樹林の向こうだ。ここまでくれば南には大唐松山がでーんと聳えているのだろうが、この樹林ではいかんともしがたい。帰りがけに少しでも見通しがある場所がないか探しながら歩いたら僅かに見える場所が1箇所だけあったが、残念ながら雲がかかって大唐松山は見えなかった。農鳥の稜線もガスの中で、今日は南ア稜線は霧に覆われて視界が無いのは予想通りだ。涼しくていいけど何も見えないのは残念だろう。

 まだまだ12時半のバスには余裕で間に合うのでのんびり休憩し、池山に下ってまたもや休憩。予定以前のバスの時刻は調べてこなかったが、もしかしたら11時くらいにあるかもしれないので今から下ればそれに乗れるかもしれないとふと気づき、どうせダイヤはわからないのだから飛ばさずに適当に下ればいいやと出発した。傾斜があるので意識的に飛ばさなくても勝手にスピードが出てぐんぐん標高が下がり、汗が噴出してくるので再びうちわの登場だ。登りで発見して引っ掛けておいた鹿の角も無事発見、ザック脇に刺して下り続けると林道に到着、時刻表を見ると僅か6分の差でバスが出た後だった! 先週の笠では逆に数分前に到着したので運勢は±ゼロってところか。結局、城峰まで往復する間に誰とも会わない静かな山を堪能できた。

 1時間半以上空き時間があるので、あるき沢に下って水浴びをして着替え、林道路側の日陰にひっくり返ってお昼寝を決め込んだ。真昼間のこの標高で体を動かせば汗だくになるが、日陰で寝る分には暑くもなく寒くもなく快適だった。やがて釣り人がやってきて総勢6人に。話を聞いていると昨日からテントを張って粘っていた人もいたようだが、あまり釣れなかったらしい。やってきたバスはガラガラで、おそらくは奈良田駐車場に車を置いた人の大半は広河原までバスで入って白峰三山を縦走して第一発電所に下りてくるのであろう。その第一発電所では1人が乗り込んできた。


 これで南アも登山道がある2000m峰は全部登り終わり、残りは坊主山、離山、嫦娥岳の3つだけとなった。離山はザイル必携なので今の私には登れないが、残り2つはどうにかなりそうなので今年中に挑戦したい。ただし嫦娥岳は猛烈な傾斜で途中に出てくるらしい衝立の様な岩壁帯にルートを見出して突破できるか、坊主山はハイマツとの格闘をひたすら我慢で、どちらも一筋縄ではいかない山だなぁ。


所要時間
 あるき沢橋−1:28−池山三角点−0:11−池山避難小屋−0:33−城峰−0:31−池山三角点−0:46−あるき沢橋

 

 

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