浅間 牙山、剣ヶ峰 2007年10月21日

 

小諸市内から見た牙山、剣ヶ峰


 2007年も秋が本格化し、冬型気圧配置がやってきて高い山は軒並み降雪が予想された。本当は上高地周辺の2000m峰に行く予定だったが、予想通り金曜から槍のライブカメラは雪。土曜も雪でどのくらいの標高まで雪なのか不明だ。下手に雪があると雪付きの岩登りになったり雪が乗ったハイマツ漕ぎだから苦労もリスクも倍増で、特に北斜面が危ない。しょうがないので来年に先送りすることにして雪がまだ降っていないところを考えた。未踏リストを見ていて思いついたのは浅間周辺の牙山と剣ヶ峰だ。ここは標高差は少ないので労力は大したことはないが藪の状態が不明なのと牙山の岩場が問題だった。周辺では群馬の重鎮(別名巻き巻きの君)がずいぶん前に剣ヶ峰に登っているのは知っていた。重鎮は藪山も登るが私よりはまだ軽い藪山が多く、重鎮が登れるのなら私が登れると考えても差し支えないので剣ヶ峰は問題なく登れそうだ。ネットで調べたところ、北東尾根から登って南西尾根を下っている記事を発見、藪はどうということはないらしく危険箇所も無さそうで、やっぱり問題ないようだ。それと同じコースで登りは登山道を利用して楽をするのが得策だろう。

 問題は牙山で、検索をかけた結果は登山記録は皆無だった。1つだけ登ったルートを鳥瞰図上に書き込んだ記事があったがルートの様子等の情報は皆無で参考になるようなならないような。剣ヶ峰と牙山を結ぶ尾根の中間付近から稜線に登って稜線を西に辿って牙山に至ったようだ。地形図を見ると中間付近に崖マークの切れ目はあるが、相当な傾斜で私のように岩の覚えのない人間が登れるのか全く分からない。また、稜線に出ても北側が絶壁マークの連続で南はコンタが混んでいて斜度がきつい。稜線を行けない場合は南を巻くしか無さそうだが巻けるかどうかこれまた分からない。一番いいのは傾斜が緩い南尾根を登ることだが、そこへのアプローチがやっかいだ。稜線からアタックしてダメだったら後日考えてみよう。

 土曜は仕事で会社に出て土曜夕方に出発。本来なら練馬から関越道→上信越道と走るのだが、時間の都合で高速道路のETC通勤割引が絶望的なのがネックだ。そこで中央道で韮崎まで走って(韮崎ならば八王子料金所から100km以内なので半額)、その後は清里を抜けて佐久に入ることにした。一般道が長いが高速料金は半額以下にできる。

 関東平野ではさほど風は強くなかったが甲府盆地に入ってから西風が強くなった。こりゃ高い山の上は吹雪だろう。夜なので南アや八ヶ岳の山々は見ることができない。小諸から浅間山荘目指して登っていくが、ロードマップの道と現地の道が異なって迷ってしまい、30分くらいロスってしまった。結局は車坂峠へ向かう県道に出て、浅間山登山口の標識で右に入った。ダートの道が続き終点に浅間山荘があったが、駐車場は山荘利用者用で登山者用の駐車場は右に入ったところを下ったところらしいが、昼間専用で夜間はチェーンがかかっていて入れない。しょうがないので林道を駐車余地が出てくるまで戻り寝ることにした。山荘まで歩いて10分はかからないだろう。朝何時に駐車場が開放されるのか分からないが、明日はこのまま歩いてしまおう。

浅間山荘 浅間山荘横の登山口
浅間山案内標識 林道が登山道

 

 今日の行程は短いのでのんびり起きて充分明るくなってから出発する。次々に車が上がっていくが戻ってくる車が無いのでもう駐車場が使えるのかも知れないが状況不明なので予定通り歩く。浅間山荘に到着すると駐車場への鎖は外されていた。ま、いいか。何人もの人が出発準備中で、浅間山の人気のほどがうかがえる。登山口がどこなのか知らなかったが、これだけ人がいれば問題なし、車道の続きにまっすぐ林道が延びていてそれを歩くのだ。もちろん車止めされて一般車は進入できない。

 最初は林道歩き。橋で何度か沢を渡ってからは左岸を歩くが道が2つに分かれる。このまま左岸を行くのが滝経由の道であるが、ここは剣ヶ峰から下ってくると歩くことになるので沢を渡って右岸の道を登る。前も後ろも人が歩いているなんて、最近の山行では珍しい。上空は真っ青な秋の青空で紅葉もボチボチだ。時々北風が吹き抜けTシャツでは寒い。気温を見ると約0度と冷え込んでいるが、これならほぼ汗をかかないので気持ちよく登れる。樹林から垣間見る牙山は絶壁で西側から登るのはまず無理だろう。

沢沿いから見た牙山。西側からは登れそうにない 火山館
天狗の露地への道。ちゃんとした道だった 天狗の露地から見た浅間山

 

 登山道が合流し、右岸を上っていくとやがて右に曲がって火山館に到着、無人かと思ったら煙突から煙が出ているので常駐者がいるらしい。ここには案内標識があって牙山に向かう踏跡には×マークが書かれ、浅間方面は小屋の裏を登っていく。浅間山は天狗の露地経由で登っていくのかと勘違いしていたのでそのまま登っていったが、黒斑山と合流するところに地図があり、このまま行くと浅間山西斜面を登って前掛山に行ってしまう。地形図を見ると小屋の前でこの道と分かれて東に入らなければならない。戻って踏跡を見るとさっきの×マークだが、これしかなさそうだ。そのまま構わず入ると目印が点々と続いたはっきりとしたルートで、どうやら間違いないようだ。すぐに右に分岐する踏跡があるが入口が塞がれている。ここから牙山に向かっても絶壁下に出るだけなのでパスし、天狗の露地から稜線を目指すことにする。

 

火山館付近から見た牙山 最初に取り付いた場所は壁で行き詰まり東に迂回

 

 細いシラビソの樹林を進んでいくと突如として樹林が開けて目の前に浅間山が姿を見せる。どうやらここが天狗の露地らしい。ここから右の樹林に入って尾根に取り付くことにし、適当に樹林に分け入る。和名倉山山頂のような細いシラビソでジャングル状態だがそれを抜けると防火帯のような樹林が切れた帯が出てくる。尾根に登れそうな藪が付いているところを確認してからそれも突っ切って、いよいよ稜線への登りだ。樹林で上方の様子が見えないので、下部が絶壁でないところから登り始めたがすぐに上部が絶壁になってしまった。両側は下部から絶壁なのでこの一帯から登るのは不可能で、牙山が遠くなるがもう少し東を調査してみることにした。

稜線まで達する草付きの谷を発見 上から見下ろす

 

 絶壁の基部は樹林が開けて歩きやすく、とにかく岩が切れるところを探して進んだ。地面は霜柱がたち、湿った所はカチカチに凍っている。右手の岩が切れて稜線まで草付きの谷が達している部分を発見、傾斜が急だがガレてはいないので、これなら登れそうだ。たぶん、この尾根に登れるルートはここだけではなかろうか。この先も再び切り立った絶壁だ。草や岩を掴んで谷間をグングン高度を上げていくが、凍っていたらちょっといやな場所だ。鞍部になっているようで稜線は近く、最後まで草付きを登って右に曲がると稜線に出た。特に危険はなかったが、とにかく傾斜がきついので転けて転がり落ちないように注意が必要だ。

稜線から谷への取り付き点 稜線南側は穏やかな草付きだった
やばいところや藪は全て南を巻いた。獣道あり これも稜線南側

 

 稜線に出ると今までの岩と急斜面が一転、南斜面は思いの外傾斜が緩く草付きや深いシラビソ樹林で非常に歩きやすく、割と明瞭な獣道まであるではないか。しかし人工物は一切無く目印も皆無だ。まあ、この獣道なら目印は不要だ。目印は登ってきた谷への下り入口だけあればいいだろう。ルートは稜線上を行けるところは稜線を行き、岩や急傾斜でちょっとなぁというところは南に巻いてる獣道があった。おかげで危険箇所も無く順調に進んでいく。

この垂直岩峰は越えられない。右も絶壁 岩基部左を巻いたが手がかり無しの急斜面で撤退

 

 しかし巨大な2つの石塔が尾根上に出てくるところでどうするか悩んだ。10mを越える垂直の壁なので直進は無理、右も切れ落ちて迂回は無理で、左を巻くしかない。少し下って岩の基部から回り込んだが、草付きの谷の傾斜が猛烈で、トラバースするのに危険が伴う。岩じゃないので墜落はないが、木が無い草付きなので滑り落ちたら止まらない。それこそピッケルが必要だ。手がかりとなる岩や樹木がないし、ここからは見えないが谷を詰めたところが絶壁とも限らない。無理をしないでここは撤退を決めた。

岩峰東の草付きを下る 最初のうちは楽勝
傾斜が緩んで谷をトラバース 谷を見上げる。左の岩壁が低くなる場所を探す

 

 さて、どうしようか。このまま牙山を諦めて剣ヶ峰に向かってしまおうか。しかし、地形図を見ても牙山南尾根は傾斜が緩く、この草付きの谷さえ渡れればその後は楽に登れそうだ。もっと下まで下って巻ける場所を探してみよう。どうせ今日は時間はたっぷりある。問題はこの尾根がこの先も安全に下れるかどうかだが、最初は草付きで問題無いが樹林帯に入ると傾斜がきつくなって、ルートを選ばないと下れない箇所が出てきた。テラス状のところを下ったり、木にしがみついて降りたりと岩がないのに緊張する。まあ、それも距離にして20m程度だろうか。急傾斜区間を抜けると右手の谷も傾斜が緩くなってトラバースできるようなので行ってみると獣道出現。な〜んだ、野生動物も同じことを考えるんだな。

写真ではわかりにくいが段差2mくらいの壁

この付近しか登れそうなところはなかった

左の段差を登れば安全地帯

 

 無事トラバースして尾根に取り付こうとしたが、上部は絶壁で不可能、その絶壁の高さがどんどん下がり、目の前では2mくらいになっていた。しかも草付きであり、どうにか草を掴んで体重を支えれば登れそうだ。なにせ高さは2mくらいだから滑って落ちても足から着地すればどうということはない。これが池平山北面の下りのように足下が急斜面だったらお助けロープがないと挑戦する気にはなれないだろう。草を掴んで土で崩れやすいギリギリ足がかかる僅かな窪みを利用してどうにかはい上がれば、この尾根に取り付いた谷のように傾斜は急だがホールド等はあるので無理なく登り、安全地帯の樹林帯に入った。やれやれ。下りはここしか谷に降りられないので時限式目印を残した。ま、今回はお助けロープがあるので問題ないだろう。

穏やかな尾根を登る 上部はシラビソ樹林
牙山山頂 牙山山頂のKUMO布。落書きを追加
牙山から見た浅間山 牙山から見た火山館とカルデラ

 

 尾根は穏やかで今までの岩稜や急傾斜が嘘のようだ。成長したシラビソがメインで奥秩父のように歩きやすい。さすがに上部は矮小なシラビソが出てきたが藪と言うほどのことはなく稜線に出た。獣道を辿って西に向かうと最高点に出た。GPSで位置を確認すると山頂は南に50mとなっているが、南は何も無いので誤差だろう。よく見ると目印が1個だけついており、この稜線で初めての人工物だ。よく見ると何とKUMOの署名があるではないか! 錫杖岳山頂で見たのと同じ布であるが、ここの方が劣化が進んでおり1,2年は経過していると見た。武内さん公認の山頂なので間違いないだろう。錫杖岳同様、私の落書きを追加した。ピンクリボンは無いのでDJFは未踏らしいが、近場なのでそのうち登るだろう。ま、嫦娥岳と比較すれば問題外だろうな。北側は切れ落ちて樹木もないので展望は良く、眼下には火山館も見えた。

帰りはロープを出して段差を下った 尾根を下って猥雑な樹林を進む

 

 帰りは同じルートで戻る。最初の谷への下りでお助けロープを出して適当に下った。登り返しの尾根も強烈で、やっぱりルートを選ばないと登れそうにない。岩峰直下の草付きにはい上がって一安心。尾根を東に進み、鞍部から谷を下って危険地帯を脱した。もうこれ以降は剣ヶ峰を含めて大丈夫だろう。

天狗の露地から見た剣ヶ峰 剣ヶ峰北東尾根に取り付く
北東尾根には目印、踏跡あり 草付きを登る
奥の高まりが剣ヶ峰 剣ヶ峰山頂。低木のみで展望良好

 

 進路を北東に取って猥雑なシラビソ樹林を突っ切っていくと無事登山道(踏跡に近いか)に出て、あとは剣ヶ峰北東尾根直下までこれを歩いていく。最高点で樹林が切れて浅間山が見える。適当に東尾根に取り付くが藪がないのでどこでも歩ける。尾根上は意外にもはっきりした踏跡があり目印もあってそこそこの人数が入っているようだ。低い樹木と草付きが中心で、後ろを振り返ると浅間山が巨大だ。山頂直下の岩は左から巻くよう踏跡が続いているのでそのように歩くと山頂に飛び出した。

剣ヶ峰から見た浅間山(クリックで拡大)
剣ヶ峰から見た後立山、立山、劔、北アルプス、乗鞍岳、木曽御嶽(クリックで拡大)

 

 山頂は開けた場所で展望が良く、浅間だけでなく雪をかぶった北アルプスが丸見えだ。右端は唐松岳で左端は前穂。さらに乗鞍岳、木曽御嶽と続く。乗鞍も白く、御嶽は僅かに白い。八ヶ岳と南アは南に延びる尾根の樹木に邪魔されて見えないが南峰から見ることができ、一部白くなっていたが今日は山頂は快晴だろう。これが今シーズン初めての本格的降雪だったようで、アルプス級はいよいよ冬山シーズン突入だ。

剣ヶ峰から見た牙山 剣ヶ峰南峰から南西尾根を下る
カラマツ+草付き。踏跡明瞭 笹地帯もあるが低く踏跡あり
火山礫で開けた南西尾根 南西尾根から見た牙山とそのルート

 

 展望がいい山頂で休憩してから南西尾根を下る。ここは顕著な尾根なので迷う可能性は少ないと思っていたが、なんとはっきりした踏跡があって迷う心配が無かったのには驚いた。最初はカラマツと低い笹の中に踏跡があり、やがて尾根が広がると踏跡もバラけて不明瞭になるが、方位磁石を取り出して進行方向を南西に振って下っていく。できるだけ尾根の右端を歩くよう心がければいいだろう。単純に歩くと南の尾根に引き込まれやすい。薄い樹林と笹原を抜けると視界が開け火山礫帯に出た。この尾根は標高1800m以上では断続的にこのような砂礫地帯が広がり、火山館への登山道と違って大展望が楽しめる穴場の尾根だった。南西方向には雪をかぶった穂高が見えており、方向を間違わないいい目印になる。視界さえあれば先の様子が見えるので尾根を外す心配もないが、火山灰にははっきりと足跡が残るし、適度にケルンはあるし、樹林に入るところには目印もあるので歩きやすい。

樹林帯に入る こんな標識もあったがこの先踏跡薄い
でも藪はなくどこでも歩ける 登山道から下ってきた斜面を見る

 

 標高が下がると砂礫地帯が終わって樹林帯に入るが、笹は現れず紅葉落葉樹林で下草は本当に草程度で歩きやすかった。途中、浅間山荘と書かれた手製の標識もあり、歩く人の多さを物語っている。しかしその先で藪っぽくなり右を巻いてから尾根に戻ると踏跡ははっきりしなくなり目印も減ってしまった。ま、藪があるわけではないので問題ないが。どうも進路を左に取りすぎたようで尾根から外れたが、この先は西から南西を目指せばいずれ登山道に出られるので細かいことは気にせず歩きやすいところを下っていくと登山道に出た。そこは1490m付近で、登山道がないところから人間が出てくるのを一般登山者に見られると熊と間違われるからそ〜っと下った。この尾根は最後がわかりにくい、藪はほとんど無いので登りで使う方がいいかもしれない。ただし北アを背中に登ることになるので、砂礫帯に出たらたまに後ろを振り返るのがいいだろう。

 

 あとは登山道を辿って車に戻った。

所要時間

6:24車−(0:10)−6:34浅間山荘−(0:27)−7:01一の鳥居−(1:01)−8:02火山館−(0:08)−8:10戻る−(0:05)−8:15火山館−(0:10)−8:25天狗の露地−(0:15)−8:40草付きの谷−(0:08)−8:48牙山の尾根に乗る−(0:08)−8:56岩峰−(0:05)−9:01岩峰基部を巻こうとしたが諦める−(0:23)−9:24牙山9:36−(0:29)−10:05天狗原−(0:08)−10:13登山道に出る−(0:07)−10:20剣ヶ峰北東尾根−(0:25)−10:45剣ヶ峰11:15−(1:03)−12:18登山道−(0:11)−12:29浅間山荘−(0:10)−12:39車

 

 

山域別2000m峰リストに戻る

 

ホームページトップに戻る