南ア南部 笠松山 2007年11月03日

 


 兎岳から西側に大きな尾根が分岐し、そこには立俣山があって何年か前に登っている。兎岳は南西にも大きな尾根が張り出していて、その途中に笠松山がある。もちろん登山道は無く、なかなか面白そうな場所にあったが標高が2000mに届かないこともあって登ろうとは思っていなかったが、今年も北ア2000mは冬山シーズンに入りつつあり、半端な積雪での藪漕ぎは大変なので残雪期まで保留せざるを得ず、2000m以下の山を物色しているときに思いついた。この付近の植生はシラビソが出てくる標高まではブナ科の樹木を中心とした落葉広葉樹林で藪は皆無、シラビソ樹林になってからも藪は皆無と、無雪期に登るのが適当だろう。登るならアクセスがいい易老渡か便ヶ島から適当な尾根を辿ればいいと考えたが、念のためネットで検索をかけると遠山山の会で登山道を整備中とのことで、兎洞林道終点から非正規の登山道があるようだ。これを登るのが一番確実だが、途中でゲートがあって林道歩きが長く、しかも今年9月の台風で林道が崩れて終点まで2時間半歩く必要があるようだ。もしかしたら今は復旧しているのかもしれないが、歩けないと考えておいた方が現地でがっかりしなくてすむだろう。そんなわけで安全ルートは使わずにルートファインディングを楽しむことにした。

 どの尾根を使うかであるが、易老渡からの尾根は下部が急で上部はなだらか、便ヶ島からの尾根は山頂までずっと急な尾根が続く。効率はいいのだが、所々でコンタが詰まっており、これだけ急だと途中で危険箇所が出てこないとも限らない。。それと便ヶ島は車中泊すると\500取られることもネックであり、料金節約で易老渡で寝てから便ヶ島まで車を動かしてもいいのだが、そんなことするなら易老渡から歩き出した方がトータルでは早いだろう。そんなわけで易老渡から適当に登ることにした。

兎洞林道分岐の標識 易老渡駐車場。この時期にしては多い

 

 東京から遠山郷は遙かに遠い。高速料金節約で諏訪ICで降りてから国道152号線を南下、易老渡に到着したのは出発から5時間後、走行距離310kmだった。兎洞林道分岐には「笠松山方面」の標識もあり、登山コースの存在を臭わせる表現だ。笠松山の登りは標高差約1000mと日帰りでは楽な部類で水平移動もさほど無いので午前中には下山できると判断、ゆっくり起きても問題ないだろうと酒を飲んで目覚ましをかけないで寝た。駐車場は数台の車が止まっており、私と同じく車中泊で明日朝に光岳向けて登るのだろう。夜中にも車がやってきたようだが熟睡していたので気づかなかった。

 6時近くに起床してお湯を沸かして朝飯を食って7時近くに出発した。最初は急斜面が続くはずなのでピッケルでも持っていって支点にしようかとも思ったが、普通のストックにしておいた。念のためお助けロープもザックに入れる。GPSに笠松山の緯度経度を入力して出発だ。そういえば私のetrex-ventureはウェイポイントは500点入るのだが既に満杯近くで1ヶ月前にいくつか削除した。その後いくつか入力しているので、そのうちまた満杯になってしまうだろうか。画面の調子も悪く、表示がおかしくなったときに衝撃を与えると復活するので、最近はエッジを手で叩くことが多い。そろそろ寿命かなぁ。歩いているときに電源を入れていなくても持ち運んで衝撃がかかれば劣化するらしい。

 お隣の車が出発する直前にこちらが出発したには非常にタイミングが悪く、ザックを背負って道がない背後の斜面に取り付くのはちょっと恥ずかしい。絶対にあれはどこに行くんだ?と不審に思われるだろう。キノコ取りと違ってザックを背負って山靴を履いてストックまで持っているので山登りスタイルだし、判断に迷うだろう。

表示が不調(これは衛星捕捉画面)。叩くと直る 駐車場裏のザレ急斜面を登り始める
写真では分からないが相当な傾斜 左の尾根に逃げる

 

 駐車場裏手の斜面はザレて足場が悪く、傾斜が非常にきついので登りにくいが獣道もあって使わせてもらう。地図を見ると左の尾根上部は傾斜が緩くなるので、標高差で200mくらい登ってから適当なところで左に進路を取ろう。確かに傾斜はきついが足下さえしっかりしていれば問題なく登れそうだが、富士山須走のような下りにはいいが登りではズルズル下がるザレではなかなか前に進まない。帰りのことを考えて目印を付けながら登っていく。紅葉がいい感じで気温も低くて汗もかかず気持ちよく上がれる。

露岩混じりの尾根に乗る この辺りは尾根がはっきりしている
左の谷が消えると傾斜がきつく尾根がばらける 左から尾根が合流。目印あり(上の目印が私の紙テープ)

 

 さらにサレの傾斜がきつくなっったところで左の尾根に取り付く。シラビソや榧が混じった急な尾根で、地図で見るよりずっと傾斜がきつく気が抜けない。露岩が混じるが特に危険箇所はなく淡々と乗り越えて進んでいく。さすがにこんなところから登る人はいないようで目印皆無だ。藪も皆無、自由気ままに歩けるが、これだけ急だと尾根がイマイチはっきりしないので帰りはルートを外さないよう要注意だ。尾根左手は切れ落ちて小さな沢が音を立てて流れている。もう易老渡から200m以上高度を上げたのにいっこうに傾斜は緩くならず、それどころか標高1300m付近では再び猛烈な傾斜となって木に掴まりながら登っていった。登り切ると左手から太い尾根が合流、帰りは引き込まれること確実なので目立つ目印を残した。しかし、こんなところで尾根が合流するはずないんだけどなぁ。

太く尾根らしい尾根を登る ブナが中心の気持ちいい尾根

 

 ようやく傾斜が緩んで尾根も太く立派になって尾根歩きらしくなった。ただ、尾根は全体的に太っているので痩せ尾根と違って下りは真上を通るのが難しいかもしれないので、これまた目印を頻繁に付ける。もっとも、尾根が合流してからは荷造り紐の目印が頻繁に出てくるようになり、自分で目印を付けなくてもいいくらいになったが、これを追っていくと帰りはどこに降ろされるかわからないので自分用目印も必要だ。この目印は付け方がまだらで、接近した3本くらいの木にまとまって付いているかと思ったら、なだらかな場所でしばらく見かけないこともあった。やはり自分で目印を付けるのが確実な方法だ。

気持ちの良い低い笹原が広がる 1786m標高点小ピーク

 

 相変わらずなだらかで太い尾根が続くが、標高1600m付近で再び太い尾根が左から合流、ここには枯れたシラビソが立っているのでそれに目印を付けた。ここも目印無しでは登ってきた尾根に乗るのはかなり難しいだろう。2重山稜っぽい尾根の右端の尾根を登り、途中で尾根が消えて左に移る。 標高1660mを越えると低い笹が混じり始めた。足首程度の高さだから歩くのに支障はなく、鹿の楽園のような雰囲気を醸し出す。現に鹿の姿も見たし、笹の中に鹿道もあった。鹿に皮を食われて枯れてしまったシラビソも見た。進むと笹の高さが高くなるが、それでもせいぜい膝丈で密度も薄いので藪漕ぎとは言えないが、倒木が見えなくなるのはちとやっかいだった。それにますます尾根が広がって、目印無しでは正しいルートを下るのは難しいだろう。

 

 傾斜が緩い低い笹尾根を登り続けると小ピークに到着、どうやら1786m標高点らしい。自然林から唐松植林帯に変わり、今度は赤テープも混じって賑やかになって目印の出番はなさそうだ。境界を示す黄色い杭まであって人間くさくなった。1786m標高点から北西に尾根が張り出しているが、ここから登ってきたものだろうか? 唐松の隙間からすくっと立ち上がった笠松山が見えているが、木が邪魔して写真を撮影する気にはなれなかった。

1786m標高点から先は唐松植林帯 1800mを越えるとシラビソ樹林に変わる

 

 何となくあるような無いような踏跡なのか獣道なのか分からないが、筋を辿って唐松樹林を登っていく。尾根上と南斜面が植林されているので、南側から登ってくる作業道があるのかもしれない。尾根が細くなるといよいよシラビソ樹林に入り南アらしい雰囲気だ。踏跡はまだ続くが鹿の足跡が濃いので獣道らしい。何も無いよりは歩きやすいので勝手に使わせてもらう。尾根上には赤テープが見える範囲にいくつかあるし、ここは尾根がはっきりしているので下りでルートを外すことはないだろう。

シラビソの尾根を登る 笠松山三角点
「笠松山←分岐→兎岳」の標識 「伐開地の頭へ1h」の標識
兎岳方面へも目印が続く 便ヶ島へ続く尾根。目印は見えなかった

 

 傾斜が緩んで平らなシラビソ樹林になると、ネットで見たのと同じ笠松山山頂標識があった。ひっそりと三角点が鎮座し、無人で静かな山頂だった。正確には山頂は1987m標高点だが、GPSの指示を頼りに残距離ゼロ地点に立ったが特にピークは無かった。まあ、三角点を山頂として問題なかろう。三角点から少し登ったところには手製の標識があって、この尾根の先を指して「兎岳」、左(北)を指して「伐開地の頭」と書かれている。兎岳までこの樹林が続けば、兎岳直下のハイマツは嫌らしいだろうが、それ以外は楽勝だろう。兎岳日帰りはきついと思うが、入山初日にして兎岳に立てる唯一のコースかもしれない。ただ、この樹林が続くので笠松山を含めて展望皆無なのが残念だ。便ヶ島から上がってくる尾根に目印があるかどうか見てみたが、山頂から見える範囲には目印は無かったようだ。

登ってきた尾根を下り始める 唐松植林の標識

 

 しばし休憩してから元来たルートを下山開始。しかし、1615m標高点付近で枝尾根に乗り移るところでいきなり間違えた。急に目印が無くなり怪しいと気づき、数分登り返すと例の枯れ木に私が付けた目印があった。これだから登りで目印を付けても下山は集中力を保たなければならない。私の目印だけでなく他の目印も消失したので、この尾根の主尾根末端から登ってくる人は少ないようだ。歩きやすい広葉樹林の尾根を目印を見失わないよう慎重に歩き、今度は1340m付近で更なる枝尾根への分岐目印を発見、しかし、よく地図を見るとこの尾根はこのまままっすぐ行けばいいはずである。ここで登りでは目的の尾根ではなく一つ東の微小尾根を登ってしまったことに気づいた。易老渡駐車場すぐ裏手の広い谷の斜面の左の尾根はは、じつは1306m標高点がある太い尾根(これを登る予定だった)と、林道がトンネルで貫通する尾根の中間の尾根だったのだ。これで登りで不審に思った謎が全て解けた。

トンネルが貫通する尾根を下る 木で見えないが下に林道が見える
樹林境界を下った 林道に下った斜面(ガレ)

 

 そうと分かればこのまま尾根をまっすぐ降りてもいいのだが、地形図を見るとやっぱり最下部は急で、どこかで尾根を外れて左の斜面に入る必要がありそうだ。これでは登ってきた尾根と同様なので、このまま目印を頼りに下っていくことにした。急な小尾根をガンガン下っていくが、いつの間にか目印が無くなっていた。どうもこの尾根からさらに枝尾根を登ってきたらしい。地形図を見ると、今いるのは末端でトンネルが貫通している尾根に間違いなく、地形図を見る限りは傾斜が緩いので最後までこのまま行くことにした。もう目印がないので有視界飛行で尾根を外さないよう慎重に下っていく。標高1000m弱で尾根が分岐するが、南を辿ったら猛烈な傾斜で落ち込んで下れず、登り返して東向きの尾根に乗ると今度は間違いなくその先が続いていた。そして下りが終わって登り返しが出てきたところで右下に林道が見えた。なんと真下がトンネルだった。しかし両側とも絶壁に近くて下るのは無理で、もう少し戻ったところから降りるしかなさそうだ。獣道が左をトラバースするように続いているのでそれを辿ると、地形図に出ているガレに出た。そのガレはどうにか下れそうな傾斜で、しかも岩ではなく砂利が積み重なったもので、境界の樹林に掴まりながらなら下れそうだ。こんな時はお助けロープで、木に引っかけて急な場所も安全に下り、1ピッチ下ったところでロープを引っ張って回収、次の木に引っかけて再び下ると薊が生い茂ったザレ場に出て、林道に降り立った。やれやれ。そこから易老渡駐車道は1分程度だった。

所要時間
6:45易老渡−(0:17)−7:02小尾根に乗る−(0:46)−7:48 1340m付近で尾根合流−(0:37)−8:25 1610m付近で尾根合流−(0:29)−8:54 1786m峰−(0:27)−9:21笠松山三角点10:02−(0:16)−10:18 1786m峰−(0:23)−10:41 1610m付近で枝尾根に入る−(0:17)−10:58 1340m付近で枝尾根に入る−(0:30)−11:28トンネル上に出る−(0:08)−11:36林道−(0:01)−11:37易老渡

 

 

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