南会津 山毛欅沢山、小手沢山 2008年4月6日

 


 男鹿岳〜鹿又岳周遊の翌日、桧枝岐村の大中子山を目指して西に進む。この山は舟岐川右岸の山であり、ずいぶん前に登った長須ヶ玉山の対岸側に位置する。聞いたことがない山なので当然のように道があるとは考えにくく、残雪期に登るのが常道だろう。ルートとしては舟岐川沿いの林道をしばらく歩き、広窪から西尾根を上がるのが最短コースだろう。4月下旬はその辺りまで林道が除雪されていたが、今の時期はどうなっているのか不明で現地に行って判断することにした。

 国道352号線は桧枝岐の街で除雪終了だが、舟岐川沿いの林道入口まではちゃんと除雪されている。いつのまにか田代山、帝釈山登山口の標識までできていた。私が孫兵衛山〜台倉高山を縦走した頃からは考えられない光景だ。燧の湯を過ぎてなおも奥に入るが、集落から僅かに離れた木工作業場で除雪は終わっており、まだまだ尾根取り付きまで2kmくらいはありそうだ。無雪の林道なら問題なく歩くが雪の上を2kmともなると緩んでボコボコだったら相当苦労する。前日にきつい山に登らず体力が温存されているなら挑戦するが、この疲労度では無理だろうから後日再挑戦とする。

 別の山を考えることにするが、困ったことに地形図は他には持ってきていない。そこでロードマップを見て明快な尾根で急傾斜がなさそうで車道から直接取り付ける山を探したところ、山毛欅沢山(ブナザワヤマ)が目に付いた。標高差は約900mで山頂東側から南東に顕著な尾根が伸びており、傾斜は緩やかそうだ。国道からすぐに尾根に登ることができ、条件にピッタリだ。それに名前がいい。ブナを漢字表記だからなぁ。ロードマップを見ると北側約1.3kmに小手沢山があり、時間と体力があればオプションとして加えることにした。

山毛欅沢山南東尾根 ここから尾根に取り付いた

 

 桧枝岐方面から走ってくると赤岩橋を渡る手前で川沿いに左に入る舗装道路があり、他の車が入ってくることがなさそうなので今夜の宿泊地に決める。このまま目の前の斜面を登ればいいだろう。翌朝、まだ暗い早朝にもかかわらず車が入ってきたが、おそらく釣りだろう。こちらはザックにピッケルとスノーシューをくくりつけて川とは反対の山に向かう。釣り人から見れば登山口もないところにでかいザックを担いだ怪しい人間と写ったかもしれない。

目的不明の廃屋 尾根上は落葉樹林で藪は無い
徐々に雪が増えてくる 標高約900mで雪が連続する

 

 コンクリートの壁をあがって杉植林帯の急斜面を登ると雪が消えた浅い谷が出てきたのでそれを登り、左手の小尾根によじ登ると目的不明の壊れかけた建物があった。門が残っているが周囲のフェンスは倒れているのでこっけいな風景だ。ここから小尾根を登るが、杉の植林帯は日当たりが悪くてズボズボ潜る雪で我慢が続くが、すぐに植林帯が終わって日当たりの良い広葉樹林となり残雪が消えて快適な登りになった。まだこの標高では笹薮の登場は無く、少しだけ潅木が邪魔だが大した問題ではなかった。帰りのことを考えて目印を付けながら登っていく。尾根の傾斜が緩む標高900mくらいで雪が連続するようになりスノーシューを装着、よ〜く見ると古いワカン跡があるようだ。それに古い赤ペイントの目印も見られ、歩く人は多少はいるらしい。

標高1000mで多数のトレースと合流 なだらかな尾根歩きが始まる

 

 標高1000mで右からの尾根と合流すると、なんと多数の足跡+スキー跡が付いているではないか! この新しさは間違いなく昨日のものであり、人数は5人以上は確実だ。ネットで山毛欅沢山を検索したことはないが、こんなに入山者がいるような山なのだろうか。ただ、これで安心材料ができ、山頂までいけそうな目処が付いた。スキーヤーがいるのだからルート上はそこそこ傾斜が緩いはずで、スノーシューで問題なさそうなこと、これだけ足跡があれば目印不要なことだ。まさかこの尾根を登って山毛欅沢山山頂に登らないなんてことはあり得ないだろう。

残雪のブナ林が続く 深い青空に吸い込まれそう!
山毛欅沢山が見えてきた やっぱり熊棚があった

 

 この先の尾根はまことに素晴らしい尾根で、残雪に覆われたブナ林が続き、青空目指して緩やかに登っていく。無風快晴、この時間は雪も締まってスノーシューは全く沈まず、これ以上の好条件はないと言っていいくらいだ。これがあるから残雪期の山は止められない。欲を言えば先人の足跡がなければもっと気持ちいいが、その程度は許容範囲だろう。冬の季節風の風下側になる稜線東側は雪庇ができて遅くまで雪が残るので樹木の成長が妨げられ、尾根の東側は樹木が無くて展望がいい場所が多い。1285m標高点は小ピークで、帰りは雪が緩んだ時間帯に登りになって疲れそうな場所だ。1386m標高点はなだらかなピークで、トレースは西側を巻いて最高点はパスしていた。主稜線までほとんど緩やかな尾根が続き、まことにスキー向きの尾根だった。

主稜線から見た山毛欅沢山 主稜線から見た東の稜線
山頂付近は巨大雪庇 北斜面を巻きながら登る

 

 主稜線に上がると踏跡、スキー跡とも山毛欅沢山方面のみ付いており、小手沢山方面はまっさらな雪面が続いていた。この天気でこの時刻となれば小手沢山まで足を延ばさないのはもったいないので、山毛欅沢山山頂を踏んでから空身で向かうことにした。ここから見る山毛欅沢山は巨大雪庇のてっぺんが山頂のようで、本来の山頂より3m以上は高くなっているだろう。雪庇に寄り過ぎないようトレースは北側についており、私もそれに従う。雪庇の崩落が無くともクレバスが隠れているのはよくあることだ。スノーシューを履いたまま穴に落ちると脱出が難しいだけでなく足を怪我する可能性もある。

山毛欅沢山山頂。背景は三岩岳 山毛欅沢山から東へと続く稜線
山毛欅沢山から見たパノラマ展望(クリックで拡大)

 

 大きく右に巻きながら標高を上げれば山頂だが、トレースはどれも最高点まで行かず巻いたまま進み、やや西側で途切れていた。なんと昨日ここへ来た全員は山毛欅沢山を往復しただけらしい。登り2時間程度の山なのでスキーで下ればあっという間だろうから、主稜線を東西どちらかに進んで隣の尾根を下れば時間も適度に使えて楽しめそうだが。私もそうしたいところだが、月曜日の会社を考えると小手沢山に加えて周回コースの時間と体力的余裕はない。本当の山頂は巨大雪庇の下なので現在立っている位置は無雪期では空中だろうが、その分だけ展望がいい。北側にはブナがあるので見えないが、それ以外は邪魔する物のない大展望だが、今日は無風で空気の透明度が悪く奥日光さえ微かにしか見えなかった。でも真っ白な丸山岳を間近に見られただけでも収穫か。

小手沢山向けて歩く 1526m峰から見た小手沢山(奥)

 

 先ほど登ってきた尾根分岐まで戻り、余分な荷物を置いて小手沢山に向かう。やはり足跡がないまっさらな雪面に自分の足跡を刻むのは楽しいことで、締まってスノーシューの歯しか跡がつかないほどなのでラッセルもなく、他人の足跡の助けは不要だ。1526m峰で進路を左に変えると雪庇が発達し、まるで並木道のように尾根の左側(西側)に行儀よくブナが立ち並んでいた。ここへきてこの天気で防寒着も不要だろうとザックもデポして空身で往復することにして、近くのブナにザックをぶら下げた。首や顔が日焼けしそうなほど快晴だ。

1520m峰 右から丸山岳、梵天岳、高幽山
小手沢山山頂 尖ってるのが城郭朝日山(と思う)

 

 1520m峰を越えて小手沢山の登りにかかる。ここまでずっと緩やかなアップダウンで痩せ尾根は無く、南会津のおおらかさを実感できた。やはりこういう地形だからこそ稜線上に湿原が点在するのだろう。最後も緩やかに登って雪原が広がる小手沢山最高点に到着した。東側に少しだけダケカンバがあり、もしかしたら目印か山頂標識があるかと探したが見当たらず、ほとんど人が訪れることがないマイナーな山らしい。北に目を向けるとなだらかな稜線の向こうに城郭朝日山が鋭く頭をもたげている。あそこまで縦走できたらもっと楽しいだろうなぁ。

1520m峰へ登り返す 1520m峰から見た山毛欅沢山(奥)
無人の南東尾根を下り始める 標高1000mで左の尾根に入る
急な斜面を谷めがけて下る 杉の植林帯になる

 

 無人の尾根を戻りデポした荷物を回収し、南東尾根を下山開始。ちょっと遅い時間帯だがもしかしたら登ってくる人がいるかと思ったが終始無人地帯で、昨日の足跡が特別だったのだろうか? もちろん、私にとっては静かな山の方がありがたい。下りはこのまま足跡を追ってどこから登ってきたか確認することにし、自分の目印を無視して標高1000mで尾根を左に曲がり下っていく。どうやらこちらの尾根の方が残雪が多いようで、一部のみ雪が途切れたがほとんどつながっていてスキーにはちょうどよかった。やがて尾根を外れて左の急斜面を下るようになり、谷間の杉の植林帯をまっすぐ下っていく。ここまで標高が下がると気温が上がって雪がスカスカで、スノーシューを滑らせながら下っていると時々踏み抜いてブレーキがかかり、2回も雪の上に前のめりにコケた。倒れるのは雪の上なので怪我はないが少々濡れてしまった。

水平な作業道?に出る 作業道?にも雪が残っている
作業道?終点 車を置いた車道の終点に出た

 

 そのまま谷を下るとトラバースするような作業道?が出現し、足跡はそれを辿って西に向かっており、そのまま進むと車を止めた車道の終点に出た。


所要時間
5:07赤岩橋−−5:48標高約900mでスノーシュー装着−−7:25主稜線−−7:35山毛欅沢山7:56−−8:03南東尾根分岐−−8:36小手沢山8:41−−9:08南東尾根分岐9:21−−10:18 水平作業道−−10:23車道終点−−10:29赤岩橋

 

 

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