南会津 大中子山 2008年4月13日

 


 大中子山は桧枝岐村南部に位置し、長須ヶ玉山とは舟岐川を挟んだ反対側に位置する。事前にネットで検索調査をしていないが、常識的に考えて登山道があるとは思えないので残雪期に登るのが適当だろう。先週は舟岐川沿いの林道が除雪されていないのを見て歩きが長くなるからと諦めたが、2km程度なら雪が締まった時間帯にスノーシューで歩く分には大した労力にはならないだろうと判断して2日目の山とした。

舟岐川沿い林道の除雪終点

 燧の湯に入ってから除雪終点に行くと先週と様子は変わらず、見える限り林道は雪に覆われたままだ。千葉ナンバーの車が1台止まっていて夕暮れ時になってから夫婦が下ってきたので話を聞くと、なんと大中子山に登ってきたとのこと。何時に出発したのか聞いていないが、下山が暗くなる時間だからかなり時間はかかっているだろう。ずっとツボ足で歩いたようなのでこの雪質だと苦労して時間がかかったのかもしれない。話ではやっぱり雪質は最悪で標高が上がってからの方が悪かったとのこと。登ったルートは深戸沢左岸の尾根だそうで、小さな橋があって対岸に渡れるのだそうだ。この尾根のいいところは登り終わった最高点が山頂なのでだだっ広い山頂一帯で迷う心配がないのだが、私は長い林道歩きを嫌って一ノ岐戸沢左岸の尾根を使おうと思う。ここなら林道が舟岐川から左岸に移る直前で斜面に取り付くので舟岐川を渡る心配をしなくていい。この夫婦は南会津の山はあちこち登っているようで、長須ヶ玉山や坪入山から西に伸びる群界尾根も歩いたことがあるという。明日は佐倉山かどこか登る予定だというのだからタダモノではない。千葉ナンバーの車だったが千葉県から来ているのだろうか。

林道はほぼ全線雪の下 牛首橋
牛首橋から上流を見る。左の台地上を行く ここから台地に登る

 

 早朝の薄暗い時間帯に出発、ギリギリヘッドライトを使わなくて済んだ。最初はツボ足で歩き出したが少し沈むのでスノーシューを装着、その後は快調に歩き、予想より短時間、出発から約30分で目的の橋(牛首橋)に到着した。ここで林道を離れ舟岐川右岸を歩き、一ノ岐戸沢を渡った先の尾根を登る予定だ。舟岐川沿いは切り立っているので台地状に盛り上がった上部を歩こうと登っていくと、予想外に昨日のものと思われるワカンの跡がクッキリと残っていた。昨日の夫婦のものではないが、もしかしたら他にも大中子山に登った人がいたのだろうか。

前日のものと思われるワカン跡 一ノ岐戸沢渡渉箇所

 

 一ノ岐戸沢はどこでも渡れるかと思ったら下部は雪の段差で降りることができず少々遡り、渡りやすいところを見つけて対岸に渡るとワカン跡は消えてしまった。もしかしたら一ノ岐戸沢沿いを上がったのだろうか? だったとしたら山頂まで遠くなっただろうなぁ。

右手の尾根に取り付く 黄色いテープを数カ所で見た

 

 目の前の尾根は直上は地面が出てしまっているので右手の残雪の斜面を登っていくが、徐々に傾斜がきつくなってピッケルを使うような場面になったので尾根上に逃げ、面倒なのでスノーシューを履いたまま落ち葉の上を選んで歩いた。どこまでそうなのか分からないが全く笹は見られず、無雪になっても問題なさそうだ。古い黄色のテープが散見され、他にもここを登る人もいるようだ。

人の手を小型化したようなサルの足跡 やっぱりここにも熊棚があった

 

 1150m地点直下が最も急傾斜であるがスノーシューのまま突破、ここを過ぎると傾斜が緩んで残雪が地面を広く覆うようになった。昨日と同じような雪質で下の古い雪は締まっているようだが、足首尾程度の深さの新雪は表面だけクラストして内部はスカスカで、1歩踏み出すとボコっと踏み抜いて疲れる。どうせなら表面も柔らかいほうがマシだ。真新しい猿の足跡が多数ついていた。上空を見ると当たり前のように熊棚が散見された。

標高1380m肩 登ってきた尾根
東向けて登る 全面残雪だが積雪量は数10cm

 

 1332.4m三角点付近の緩斜面は一面残雪に覆われて三角点は見えず、標高1380mで肩状になり尾根は左へと曲がるが、帰りはここで右に曲がる必要があるので目印を付けた。付近は広い範囲で雪が消えて地面が見えているが笹は薄いし、ここまでも何箇所かで地面が見えていたがどこも笹は薄かったので、ここまでなら無雪期でも問題なく登れそうだ。僅かにできた雪庇上は雪が柔らかいので雪が消えて落ち葉に覆われた地面の上をスノーシューのまま歩き、地面が雪に覆われてからは少し沈むのを我慢して歩いた。しかし、昨日の疲労もあってか今日の足取りは極端に重く、20歩くらい進んでしばし立ち止まって休憩を繰り返すようになり速度が一向に上がらない。一時は山頂を諦めて帰ろうかとも思ったくらいだったが、時間はたっぷりあるので普段の倍の時間をかけてもいいやと自分にいいきかせて登り続けた。これほど苦しい登りはじつに久しぶりだった。

標高1600mを越えると針葉樹林帯 雪が多くなるが締まりは悪い
孫兵衛山付近は暗雲漂う 大中子山山頂?が見えてくる

 

 標高1600mを超えると植生がブナからシラビソ、檜の仲間へと急激に入れ替わり尾根が暗くなるので、できるだけ雪の締りがよさそうな尾根南側を歩くようにした。傾斜は全体的に緩やかであるが所々で雪の段差があり、疲れた足には非常に厳しかった。尾根上で樹木が密集して邪魔な場所は南から巻いた。

そろそろ山頂一角 平坦地に出る。無雪期はGPSか目印必須

 

 何度も立ち止まって遅々として進まなかった高度計の表示がやっと1800mを超え、こぶを一つ超えると尾根が広がって広大な山頂の一角にたどり着いた。周囲は深いシラビソ樹林で先の視界はないからどこに山頂があるのか目視確認は不可能で、地形図を見ながら右に進路を振って平坦地を進んでいく。ここも踝くらい沈んで苦労するが傾斜が無い分だけ今までよりマシだった。その苦労よりも沈んで自分の足跡が残り目印をつける必要が無い方がうれしい。このだだっ広い平坦な地形では、無雪期は目印がないと今まで登ってきた尾根に取り付くのはほとんど不可能だろう。

樹林が切れて明るい場所に出た 帝釈山が顔を見せる
台倉高山はかろうじて雲の下 地形図に表現されない山頂手前の偽ピーク

 

 思ったよりも右への進路変更が少なかったようで、東側に斜面が現れて目の前の視界が開けた場所に出た。すぐ近くに見えるのは帝釈山のはずで田代山はその奥で見えない。右手には台倉高山が続いているが雲がかからないギリギリの高さだった。

 

大中子山山頂。千葉ナンバー夫婦の足跡が残る 標識はMWVとSSKさんのもの

 

 進路を右に直角に変えて今までより密度が低いシラビソ樹林を僅かに登った高まりに出たが標識類は全くなく、確認のためGPSの電源を入れると山頂は西にあるとのお達しだ。緩やかに下って同じくらい登り返したシラビソ樹林がちょっとだけ開けたところに人間の足跡がついたエリアを発見。近くには1967年10月25日のMWV標識(私が生まれるより前に取り付けられた!)と裏側に2007年の日付がある新しい山頂標識があった。ここが大中子山山頂である。足跡は昨日出会った夫婦のものに間違いない。

MWV標識(三角点名)。41年前のビンテージもの SSKさんの標識。2007年大型連休のもの

 

 積雪量は分からないが両方の標識とも雪面から50cmくらいだから取り付けられたときより雪は深いらしい、なんて考えたのだが、よくよく考えるとMWV標識についてはこれは誤りだ。なぜかといえば取り付けられたのは10月25日だから雪があってもごく僅か新雪のはずで、せいぜい地面から1.5mくらいの高さに取り付けられたはずだ。2007年秋(もちろん無雪期)に登ったノラさんの写真によるとMWV標識は頭上遥か2.5〜3mくらいに取り付けられていて、2007年大型連休頃につけられた新しい標識とほぼ同じ高さにある。この謎を解く鍵はMWV 標識が取り付けられてから現在までの長い年月にある。40年も経過すれば樹木はそれなりに成長するので、当時の標識取付高さよりも木が成長した分だけ高くなるわけだ。この標高でシラビソがどれくらいのスピードで成長するのか知らないが、40年もあれば1mくらい高くなっても不思議ではなかろう。私が今まで見たMWV標識の中では最も古く、これを取り付けたワンゲル部員が当時二十歳だったとしたら今では60歳を過ぎて定年退職している年齢だ。手製標識の中では飛びぬけて長寿と言えよう。

大中子山から見た台倉高山 大中子山から見た孫兵衛山

 

 山頂は僅かに南方向に樹林が開けて展望があるが、雲が低くて孫兵衛山に雲がかかるかギリギリだった。よく見えるよう少し下った場所に移動したが、スノーシューを脱ぐと場所によっては膝まで潜り、スノーシューの威力をあらためて知った。昨日ここまでやってきた夫婦の足跡はつぼ足だったが、これじゃ相当苦労して帰りが夕闇ぎりぎりというのも納得できる。今回の私の体力ではつぼ足だったら間違いなく山頂に到着できなかっただろう。

帝釈山へと続くなだらかな尾根 長須ヶ玉山
会津駒は雲の中 三岩岳右に稲子山が見えた
牛首橋が見えてきた 牛首橋より少し下流で林道に出た

 

 しばし休憩後、下山にかかる。下り始めれば多少足が沈んでも問題ないが、最初の水平区間での体力消耗が心配だったが、往路で踏んだ自分の足跡を正確になぞると全く沈まないので天国のような楽な歩きで済み、先人のトレースのありがたさが身にしみて分かった。足跡のおかげで登ってきた尾根に無事到着し、あとは重力の助けで快調に飛ばして下っていくだけだった。いったい登りの何倍の速度だろうか。1380m肩で右に曲がり、その先はスノーシューを脱ぐのが面倒なので若干尾根を外しても残雪をつないで歩いた。急傾斜区間はどうしようと迷ったが、結局はスノーシューを履いたままでピッケルを雪面に打ち込んでバックで下り、適度な傾斜になってからは緩んだ雪の上をスキーのように滑り降りた。林道に出て除雪終点に戻ると車がほかに2台駐車していた。


所要時間
4:49除雪終点−−5:16牛首橋−−5:28一ノ岐戸沢−−6:15 1380m肩−−6:39 標高1520mで休憩 6:49−−8:15大中子山8:47−−9:33 1380m肩−−9:52牛首橋−−10:15除雪終点

 

 

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