立山劔周辺 黒部丸山、黒部別山(本峰、北峰、南峰)、大タテガビン(撤退) 2008年4月28〜29日

 


 黒部別山は2000m峰が3つ並び2000m峰ハンターとしては効率がいいのだが、いかんせん山奥過ぎて今まで足が向かなかった。いや、正確には黒部奥地は秘境&危険地帯のイメージが強く、私程度のレベルの人間が残雪期に入って大丈夫なのかとても不安だったのだ。登山道はなく、冬の雪深さから考えれば藪の深さは想像でき、山頂渉猟を読んでも藪の深さは充分読みとれたから常識的には残雪期に登るべき山だろう。ただ、ネットで調べても黒部別山に登るのが目的の記録は非常に少なく、黒部川横断山行や大タテガビンの岩登りのついでに通過した記録がほとんどであった。たぶん、純粋な黒部別山登山目的の記録はDJFのものだけではないだろうか。ちなみにDJFに遅れること半日で武内さんも黒部別山と丸山に登っている。こんなところで怪人2人が出会うのもらしいといえばらしい。

 こんな連中の記録ばかりだから黒部別山そのものはさらっと触れられているだけで詳細な情報はほとんど得られないし、彼らハイレベルな登攀者の目から見た記録だから危険箇所は全く無いように書かれているが、私のような主に藪山登山でその延長で残雪期の山を登っている者にはそうはいかないだろう。結局はDJFの記録しか参考にしようがないが、彼と私との経験、技術、精神力の差は埋めがたく、DJFが受けた印象どおりにはいかないだろう。あとは地形図を見て自分なりにリスクを考えて、現地で危険度を判断して進むか撤退するか判断しよう。

 昨年夏はお盆期間中は猛暑続き、好天続きで長期夏山縦走に最適だったが、その時に今回の偵察を兼ねて内蔵助平からハシゴ谷乗越を越えて池平山に登った。黒部丸山と読んだ方がわかりやすい丸山については、内蔵助平から丸山西側鞍部に登って稜線を往復すれば簡単に登れそうな印象を受けた。ハシゴ谷乗越から黒部別山への稜線は最初のほんの一部区間のみ踏跡があるが、その先は笹藪に覆われて昨年夏のようなクソ暑さではとても偵察する気になれずパスした経緯があり、今回はそのときの経験を生かせるだろうか。なにせ豪雪地帯だから大型連休中に夏道がどこまで使えるのか全く不明で、最初の黒四ダム駅から黒部川に下る林道が雪に埋もれて急斜面をまっすぐ下ることになりそうだし、黒部川沿いの断崖途中にくりぬかれた夏道も雪渓で寸断されて使えない可能性が高いだろう。このへんについても触れられているのはDJFの記事くらいで、半端に雪が残っているよりたっぷりの残雪の方がいいように感じた。登山時期が2週間違うし(今回の方が2週間早い)、DJFが登った2005年と今年で残雪状況は違うだろうし、DJFの記録を読んでも分からないことが多くて現場で判断することばかりになりそうだ。

 計画としては初日に黒四ダムから入山して内蔵助谷を遡り、黒部丸山に登り内蔵助平かハシゴ谷乗越で幕営、翌日に黒部別山と可能なら大タテガビンを往復して剣沢で幕営、翌日に仙人山と南仙人山に登って坊主山の偵察をすることにした。このため日程的には可能ならば2泊3日、余裕を見て3泊4日分の酒と食料を準備した。

扇沢駐車場

 天候、体調の関係で日曜まで自宅で過ごし、日曜夕方に東京を出て扇沢駐車場に入った。明日は月曜日でカレンダーでは平日なので夏と違って駐車場は空きが多い。なんと雪が舞っているではないか! 今頃は山の上は降雪だろう。酒を飲みながら久しぶりに大ザックにパッキング、まだ風邪気味なので寝袋は2つ担ぎ上げることにし、ロールマットだけでは断熱不足で背中が冷たいので追加の銀マットもくくりつけ、防寒着、12本爪アイゼン、ワカン、ピッケル、水作り用に多めのガス、それに3泊4日の食料だから夏装備よりもずっと重く、17kgくらいになっていると思われた(夏の3泊4日なら13kgくらい)。70リットルのザックが満杯である。


 始発は7:30と遅いがこればかりはいかんともしがたい。夏は2時間前くらいから並ばないと始発に乗るのは難しいくらいの長蛇の列だったが、今日は平日なので直前に並んでも問題なかったようだ。ただしその場合は座席には座れないが(15分くらいだから立ったままでもいいけど)。スキーヤー、ボーダーの他に登山者の姿もポツリポツリ見られたがどう考えても幕営装備ではなく、たぶん内蔵助に行くのは私だけだろうなぁ。予想通り、黒四ダム駅で降りて日電歩道方面用トンネルに向かったのは私一人だった。なお、このトンネルは一般用出口とは位置が全く異なり、トローリーバスを降りたら改札に向かわずに先頭のバスのもっと先の2つ目の左に入るトンネルがそうである。夏は案内があったが今は利用者は少ないようで案内がないので初めての人は確実に迷うであろう。夏に来て状況が分かっていてよかったぁ。

日電歩道方面出口。予想外の残雪量 出口から見た黒部別山南峰

 

 無人のトイレに入り、通路突き当たりのドアを開けたらぶったまげた!! なんとほとんど一面が残雪の蓋で一部に穴が開いて外に出られるようになっていたのだ。この穴は人間が開けたのか自然に開いたのか不明だが、もし自然に開いたのなら1週間前まビッチリ雪に塞がれてこの出口は使用不能だったに違いない。重機が入れる場所ではないから、もし人間が除雪したとなると相当な労力だっただろう。夏の様子からは考えられないしDJFの記事でもこんなことは書かれておらず、目が点になってしまう光景だった。初っ端からこんな状況では、いったいこの先はどうなってしまうのだろうか。

林道(夏道)は雪に埋もれて通行不能 目の前の斜面をまっすぐ下ればいい
下ってきた斜面 黒部川を渡る橋は壊れていたが水量少なく問題なし

 

 最初の難関はここから黒部川への下りだが、ジグザクの林道は雪に埋もれて使用不可能だが目の前の斜面は見てみるとどうということはない傾斜で、直線的にガンガン下れそうで一安心。それに昨日のものと思われる足跡(登り)がはっきりと残っているので、うまくいけば内蔵助平まで足跡を追えばルートを的確にとれるかもしれない。一応、アイゼンを装着して残雪の斜面を一直線に下り、下部のデブリも直線的に歩いて夏道の橋のたもとに到着、橋は壊れているが黒四ダムは6月中旬くらいまで観光放水しないため水量は極端に少なく、DJFが飛び石伝いに渡渉できたと書いていたことが納得できた。夏に見た放水しているときの水量では渡渉は不可能である。今回は橋のすぐ上流のスノーブリッジで対岸に渡った。しかし、足跡は左岸に渡るものと右岸を下流に向かうものと2とおりあった。まだどこかにスノーブリッジがあって渡り返せるのかもしれないが、最後は左岸にいなければならないのでこのまま左岸を歩くことにした。

夏道を無視して左岸を歩く 岩屋
右岸が絶壁化すると黒部川はデブリに埋もれる 内蔵助谷出合から内蔵助谷。流れが出ている

 

 最初は夏道が少しだけ出ている区間もあったがそのうちに雪に埋もれて不明になり、先人の足跡を参考に夏道を離れて川沿いに歩いた。DJFの時は藪が出て歩きにくかったらしいが今は藪は埋もれて問題なく歩ける。そのまま水量の少ない黒部川沿いに左岸を歩き、右岸が断崖絶壁になると黒部川はデブリに埋もれて流れが見えなくなり、川の上を堂々と歩いた。せっかくだからと右岸側の岩壁に触っておく。こんなことは夏には不可能だ。内蔵助谷出合直前で流れが顔を出すが再び雪に埋もれ、出合から先で再び流れが出てくる前にスノーブリッジで左岸に降り立ち、難なく内蔵助谷出合に到着した。なるほど、単純に川沿いにくればよかったのか。この感じだと残雪が多いほど歩きやすいだろう。

出合付近のみ夏道を利用して高巻きする 高巻き地点から見た内蔵助谷出合
出合付近以外は谷は残雪&デブリで埋もれていた 丸山東壁

 

 ここからは内蔵助谷を遡上するが、夏道は最初は川の右岸の巨石を縫うように上がり、そのうちに樹林の急斜面を登らされたが、あの斜面が雪に覆われていたら歩くのは危険だ。谷が埋もれているのを祈るばかりだが、最初は雪が消えて水が轟々と流れている。流れに沿って右岸を歩こうとしたが巨岩をよじ登るのに苦労し、半分雪に埋もれた夏道を利用して高巻きすることにする。夏道そのままでは残雪の急斜面で登れないところがあり、雪が消えた歩きやすいところから夏道に這い上がり高巻きをすると、その先は一面の残雪で流れは雪の下に隠れてしまった。水が地上に出ていたのは出合から100mくらいしかなかったのだ。これから上はどこでも歩きやすいところを好き勝手に歩けるので大助かりだ。ここもやっぱり残雪が多ければ多いほど歩きやすいだろう。ただし谷の両側のデブリが落ちきらないと危なくて歩けないだろうけど。今の時期は落ちるべきデブリは落ちきって谷の両側は黒々としており、日中でも危険は感じなかった。

希に穴が開いて流れが出ていた 振り返ると後立山
もうすぐ内蔵助平 左の本流は流れが出ていたので右の支流を登る

 

 先人の足跡は断続的に続いているが、好天で強い日差しで雪解けが進んで輪郭が不明瞭になっている。まあ、あとはデブリを避けて歩きやすいところを拾って雪の谷を遡上すればいいだけなので、足跡に頼る必要はなく気楽だが。1カ所だけ穴が開いて流れが出ているところがあるので、そこだけは左岸側から巻いた。傾斜がきつい登りだが上空は一面の青空で眩しいくらいだ。傾斜が緩んだところで一休み、内蔵助平入口手前で沢が2分し本流は左だが雪が割れて流れが出てしまっているので右のデブリに覆われた沢を登ることにする。地形図を見る限りはどちらを登っても内蔵助平に出るので問題なし。

内蔵助平入口 谷合流地点。ハシゴ谷は少し流れが出ていた
内蔵助平から見た丸山 丸山西部の鞍部へ続く谷を登る

 

 傾斜が緩むと内蔵助平の一角で、夏に来たときには一面の樹林と笹藪、それにオアシスの沢だったが、今はどこを見ても一面の雪原で笹のさの字も見えない。ハシゴ谷乗越方面から流れる沢が一部顔を出しているが、それ以外は沢も雪の下だ。目の前には立山連峰の白く輝く稜線、右には黒部別山南峰、左は丸山手前の2023m峰だ。ハシゴ谷乗越は意外に低く見えている。どこもかしこも真っ白けで夏とは趣が全く違い、残雪期の方がよほど好ましい。あの夏のクソ暑さとは別世界だ。

鞍部へと登る 鞍部から丸山方向
鞍部から御前谷 鞍部から立山方向

 

 さあ、まずは丸山に登ってしまおう。大ザックを置いてワカンからアイゼンに履き替えてアタックザックをを背負って丸山西鞍部を目指す。平らな雪原は雪が緩んでワカンの方が良かったが我慢して突っ切り、小さな谷を一直線に登り始める。遠目から見るととんでもない登りのように見えるが現場に行くとどうってことがない傾斜で、もしコケても滑らないだろう。もっとも、今の雪の緩みでは潜るので滑落はしそうにないが。登るほど傾斜がきつくなり足への負担が大きくなるのでジグザクにルートを取り、傾斜が緩むと稜線に出た。もちろん踏跡皆無で目印も無い。

少し登ったところから鞍部を見下ろす シラビソの尾根を登る
昨日着いたと思われる熊の足跡 丸山山頂
丸山から北東を見る 丸山から見たハシゴ谷乗越
丸山から見た黒部湖 丸山から見た立山

 

 今度は東に向かって登り始めるが稜線上は雪の状態が悪く、ズボズボ潜って踏み抜くと股までいってしまう。こりゃワカンの方が本当に良かったなぁ。南側の方が潜り方が少ないようなのでできるだけ右側を歩く。尾根が広くてシラビソも生えているので恐怖を感じるような所はない。昨日のものと思われる熊の足跡も踏み抜いて苦労の跡がうかがえる。ご苦労さん。小ピークを2つ越えると山頂への最後の登りで、シラビソ樹林を抜けるとなだらかな山頂に到着した。ここは武内さん、DJFが登った山頂なので目印が残っていないか探したが、2週間ほど早い時期なので雪が多くて埋もれているのか人工物は一切見あたらなかった。谷を挟んだ目の前には別山南峰が大きい。このまま尾根がつながっていれば簡単に行けそうなのだが、あそこに登るのは明日だ。内蔵助平への下りは登りと同じルートを取った。

自分の足跡がクッキリ残る ハシゴ谷乗越目指す

 

 内蔵助平へ戻るがやっぱり無人で、今日の入山は私だけのようだ。当初はここで幕営予定だったが、まだ時間はたっぷりあるのでハシゴ谷乗越まで登ることにする。内蔵助平から出発した場合、ハシゴ谷乗越でメインザックから荷物の大部分を出して帰ったらパッキングしなおさなければならないが、ハシゴ谷乗越で幕営する場合、テントを残置して黒部別山を往復できるので無駄な時間がかからないし、雪が締まった早朝に稜線へと登れるので楽ができるだろう。

内蔵助平から見た富士ノ折立 内蔵助平から見た黒部別山南峰

 

 再び大ザックを背負って北を目指す。一面の雪原なので歩きやすいところを適当に歩けば良く、影も形も分からない夏道は無視して僅かに凹んだ谷沿いに上がっていく。夏に来たときは水が流れる沢沿いを歩いたり、水が枯れて両側から笹がかかった沢を歩いたりとメジャーなルートとは言えないコースでクソ暑かったが、その笹も今では雪の下で全く見えない。やっぱ雪はいいなぁ。

左端ピークの左側の谷(写真からはみ出している)を登る この谷を登った。先人の足跡もあった
ひたすら登る ハシゴ谷乗越の目印

 

 いよいよ峠への登りにかかるが、最後の傾斜が急とのことで下から見て一番傾斜が緩そうな一番左(西)のピークから落ちる尾根の左側の浅い谷を登ることにした。地形図を見ると破線が通っているが夏道はジグザグっていたような気もする。谷に向かって登り始めると先人の足跡が出現、考えることは同じらしい。さすがに荷物が重いので足取りは重いが、昨年夏のクソ暑さでバテたときよりはずっと体力消耗は少ない。あの時は本当に疲れ果てたなぁ。確かに傾斜は急だがさっきの丸山の谷よりは緩く特に問題はなく、最後に左から巻き込むようにハシゴ谷乗越に出た。

ハシゴ谷乗越から見た内蔵助平 ハシゴ谷乗越から見た仙人山
仙人山南尾根下部はナイフリッジの連続 ハシゴ谷乗越から見た旭岳付近
ハシゴ谷乗越から見た黒部別山

 

 ここから剣沢に向かって夏道が乗り越える尾根をトラバースするようにトレースが続いているが、この時期ならこんなことをしないで右手の沢を下った方が楽なような気がする。乗越にある目印は雪面ギリギリの高さでDJFの写真より雪が多いようだ。意外にも黒部別山方面には下りの足跡と真新しい目印(商店ののぼりの旗を裂いたもの)があり、昨日に山頂を往復した人がいたようだ。足跡があっても無くても危険度や労力には差がないが、精神的には勇気づけられる。乗越から僅かに別山方面に進んだ平坦地にテントを張り、今夜の宿とした。2重寝袋と1枚余計に持ってきた銀マットのおかげで−5℃でも快適に眠れた。重い思いをしたかいがあった。夜中に一時風が吹いたが基本的には静穏な夜だった。天気予報でも明日は快晴と告げていた。

乗越東側に幕営した このピークの登りが急
ここから急傾斜区間開始 断続的に急傾斜が出現
シラビソの尾根が続く やっと傾斜が緩む

 

 翌朝、朝飯を食べて雪が締まった時間帯に距離を稼ぐべく出発する。この分ならワカンは不要かとも思ったが、帰りの時間帯に使うかもしれないので持っていくことにした。問題はここから黒部別山主稜線までの急傾斜区間で、DJFもかなり急だと書いている。地形図を見ても確かに急だが、今までに登ってきた所と比較しても特別にコンタが混んでいるわけでもないのでどうにかなるだろう。こういう時のための12本アイゼンとピッケルである。問題の急傾斜であるが尾根が左に曲がって立ち上がるところが最初の区間で、嫌らしいことに一番歩きやすそうな尾根右手は雪が割れて登りでは乗り移るのが難しく、左側の急斜面をよじ登る。ただし距離にして10mくらいだし、もし滑っても下は緩い谷なので恐怖感は無い。これでもうおしまいかと思ったが、黒部別山の主稜線に出るまでは階段状に何回か急傾斜区間があった。まるで南アの大唐松山のようだ。あの当時の私の経験ではこれは登ることができなかったかもしれないが、今となっては大したことはない。たぶん今なら残雪の大唐松山も問題なく登れるだろう。

主稜線から黒部別山(一番奥のピーク) 主稜線から2310m峰。南峰は隠れて見えない

 

 最後は傾斜が緩んだ尾根を登ると待望の主稜線に出て後立山方面の視界が一気に広がる。逆光なのが残念だが白馬〜針木岳までずらりと並んでいる。目の前の鹿島槍牛首山が懐かしい。私が登った昨年6月はハイマツが出ているところもあったが今は一面真っ白だ。東谷山への尾根も同様に真っ白。今日のこの天気だと五龍も鹿島槍も人がいるだろう。振り返れば立山から剣の山並みだが天気は基本的にはいいのだが稜線付近は雲がかかってしまっている。これから回復するのだろうか。北側を見れば1段高く黒部別山が姿を見せており、南峰は2310m峰の陰に隠れて見えない。ここから見る限りでは2310m峰までの稜線はべったりと雪が付いたままで藪漕ぎの必要は無さそうだ。今まで続いていた先人の足跡は本峰方面へと続いており南峰への足跡は無かった。やっぱ普通は黒部別山本峰だけ登るのだろう。

黒部別山へ最後の登り 黒部別山山頂
黒部別山から見た北峰 黒部別山から見た仙人山〜坊主山

 

 DJF同様、まずは黒部別山本峰と北峰を目指すことにする。これは困難が予想される南峰で時間を食われて雪が緩んだ状態で長時間歩くより、まずは短時間で片づけられるピークをやっつけた方が効率的だと考えたからだ。なだらかな雪稜を鼻歌交じりで登り上げるとこれまたなだらかな黒部別山山頂に到着。今は雪庇が最高点だが地面は何m下だろうか。雪庇最高点から西の方に木が点在するがどれにも目印はなかった。山中山の会の目印もDJFの目印も雪の下なのだろうか、それとも数年間の冬の厳しい気象条件で劣化して落ちてしまったのだろうか。とにかく目印の類は皆無だった。

北峰目指して北上 写りがイマイチだがキレット状
雪のキレットを越えると再び穏やかな雪稜 黒部別山北峰山頂
黒部別山北峰から見た池平山 黒部別山北峰から見た黒部別山

 

 次は北峰だ。山頂からも見えており大きなアップダウンは無く、淡々と雪庇を歩けば行けそうだ。その雪庇は場所によっては階段状になっており、垂直の雪壁は下れないので西側を巻いて樹林の中に突っ込むこともあるが藪は埋もれているので問題はない。山頂手前の最低鞍部付近の2280m峰を越えた先の鞍部けが痩せた急傾斜で、下手に滑ると黒部川に真っ逆さまなので、ここだけはバックで慎重に下った。雪解けが進むと傾斜も緩くなって問題なくなるのだろう。ここを越えるともう危険箇所はなく南北に細長い北峰に到着、ここも雪庇が最高点で西側に木が点在するが人工物は一切見られなかった。ここから黒部川に向かって尾根が落ちているが、黒部川横断山行で黒部別山北峰に登る連中はこんな尾根を登ってくるのだろうか。私とは別世界の話だ。

雪のキレットを越える 黒部別山へ登り返す

 

 再び黒部別山本峰を越えてハシゴ谷乗越との合流ピークに立ち、出番が無さそうなワカンをデポして問題の南峰に向かう。地形図を見る限りは問題無さそうなのだが、DJFの記録によると雪庇崩壊に伴う藪漕ぎと岩を巻く箇所がポイントらしい。雪庇崩壊についてはDJFの登ったときより2週間早いので崩壊は進んでいないはずで楽できる可能性があるが、大岩については逆に雪があることで巻くのがもっと難しい危険性がある。一番いいのは雪に埋もれてくれていることだが。ちなみに武内さんは岩を巻いた記憶が無いという。武内さんにとってはどうってことがなかったのだろうか。

2310mが目の前に見える 2239m鞍部への下りは雪が落ちた急傾斜
2239m鞍部から北を見上げる 2239m鞍部から2310m峰方面

 

 しばらくは今まで同様の雪稜が続くが、2239m鞍部への下りで雪庇の先は垂直に切り立ち進めなくなってしまった。東は絶壁で巻くのは不可能なので右(西)の樹林帯を巻くことにする。傾斜は急だが雪が消えかけた濃い樹林で滑落の心配は無く、木に掴まりながら鞍部まで下った。振り返ると確かに東は絶壁で、その上に生えたハイマツやシラビソの上に雪庇が乗った状態で、雪庇末端からは進めなかった。

唯一の岩は右を巻いた 少しの間シラビソ樹林を歩く
黒部別山を振り返る 2310m峰はもうすぐ
2310m峰から見た黒部別山 2310m峰から見た南峰

 

 ここから2310m峰への登りがDJFが難儀した区間で問題の大岩がある場所である。遠目で見たのでは樹林で隠れているのか見えないが、さてどうだろうか。登り初めは雪庇ではなく雪が薄いシラビソ樹林ですぐに最初の露岩が出てくるが、これは簡単に右を巻けた。まっすぐ登ることもできるがその先がどうなっているのか分からなかったので巻いたが、そのまま尾根につながっていた。その先はどこで岩が出てくるかビクビクしながら進んだが、雪に埋もれてしまっているのか岩を巻く場面は出てこなかった。よかったぁ。南峰より高い2310m峰はなだらかなてっぺんで、もう南峰は目の前だ。

ハイマツの壁を抜けたこの先に雪壁がある 雪壁を見下ろしたところ。写真だと遠近感が無い
突破して下から雪壁を見上げる もう少し離れたところから見上げる

 

 DJF情報ではもう問題点は無いはずだが、下っていくととんでもない所に出てしまった。南峰との鞍部にもう少しで到着するというところで雪庇の先は垂直に切り立ち進めなくなってしまった。東は雪の絶壁で巻くのは不可能なので右(西)の樹林帯を巻くことになるが、そこに降りるのにハイマツが絡み合った「壁」を突破しなければならず、ザックを背負ったままでは隙間を通り抜けられずにザックを置いて人間だけ通過してからザックを引っ張りこんだ。雪が少し付いた急斜面を下り、もうちょっとで鞍部というところで稜線上の雪庇にクラックが入り、下部が2mくらいずり落ちて垂直の雪壁になっているのだ。右から巻こうとしたが小振りなシラビソの下も垂直な壁で迂回不可能、3mくらいのロープがあれば木に縛り付けて下れるのだが、DJFの記録だとその必要性は感じなかったので持ってこなかった。2mの雪壁の下は傾斜は緩むのだが、飛び降りてバランスを崩して黒部側に滑ったら一巻の終わりだ。それに帰りにこの高さを登れるのか非常に不安だ。もう山頂は目の前でここまで来て撤退は非常に悔しいが、命をかけてまで行くべきなのか心底迷った。このまま諦めて戻ろうかと決め掛けた時、ふとひらめいた。そう、これくらいの段差ならピッケルで段差を崩して段差の高さを1mくらいに低くしてしまえばいいのだ。「雪壁突き崩し作戦」は雪山では常識的なのかもしれないが、私の山行ではそんな必要に迫られたことはなくなかなか頭に浮かばなかったが、どうせ時間はたっぷりあるので挑戦することにした。幸い、雪はガチガチなわけではなくピッケルでつつけば突き崩すことは可能で、人一人分の幅で掘り進んでいく。最初は斜めにして傾斜を緩やかにしようと考えたが、これだと掘る量が多くなるので垂直に掘り進んで雪壁の真ん中付近に「踊り場」を作ることにした。ある程度掘り進むとアイゼンで蹴って掘った方が速いことに気づいて造成途中の「踊り場」に立って工事に勤しんだ。もういいだろうというところでバックで下ると簡単に下段に足が着いて作戦大成功だ。あ〜、いい作戦が思い浮かんで本当に良かった〜。帰りにここを通過したが、下から見ると木が生えた壁の西側は急だが垂直ではなく下れるように思えた。

南峰から黒部別山(奥のピーク) 黒部別山南峰山頂

 

 この先は今度こそ危険箇所はなく、淡々と雪稜を登り切ると待望の南峰山頂に到着。ここも雪庇が最高点で西側に樹木が点在し、そのいずれにも目印、山頂標識はなかった。振り返ると2310m峰が大きい。昨日登った丸山は低く見える。さっきまでガスっていた立山も雲が消えてすっきりとした姿を見せていた。せっかくだからと本日初めての目印を南峰に残した。

大タテガビン向けて下る 南峰を振り返る
2220m小ピーク手前からナイフリッジ 2220m小ピーク。この雪庇の先が切れ落ちて撤退した
2220m小ピーク東から見た大タテガビン 2220m小ピーク東から見た黒部別山

 

 一応、目標はここまでだが、目の前に見えている大タテガビンも行けるところまで行ってみたい。今の私の技術では登れるとは最初から考えていないが、今後挑戦する機会があるかもしれないので偵察もいいだろう。ヤバいと思ったところで引き返せばいいだろう。最初はなだらかな稜線で特に問題はなく、尾根が右に屈曲する2220m小ピーク手前でナイフリッジが出現し慎重に通過してピークに至る。ここまで来ると大タテガビンのツインピークスが丸見えであるが、東は崩壊し掛けた雪庇に西は樹林だが絶壁で何ともいやらしい。2220m小ピークからが痩せ尾根の始まりで、2239m鞍部への下りのように山頂の雪庇が稜線の樹木てっぺんに乗って降下不能、右から巻こうにもこちらも絶壁でザイルで確保せずに下るのはあまりにも危険だ。さっきの雪壁突破とは危険度が違い、ここは納得の撤退となった。いったい再挑戦がいつになるのか、そもそも挑戦できるレベルに達することができるのか大いに疑問であるが・・・・。稜線上の雪が落ちきった頃にアタックするのがまだマシだろう。

雪が消えた部分の藪は薄いが全体がこうとは限らない 稜線上からテントが見えた
稜線から見た白馬岳周辺 稜線から見た唐松岳〜鹿島槍
稜線を離れハシゴ谷乗越に下る 下りの尾根

 

 2310m峰への登りの雪壁は崩した踊り場のおかげで難なく突破し、ザックを降ろしてハイマツの隙間を潜り再び雪稜に出た。ハシゴ谷乗越分岐ピークに到着し、ワカンを回収して急な尾根を下っていく。場合によってはバックで下りが必要かと考えていたが、そういう所は立木があったので木に掴まりながら下った。

ハシゴ谷乗越へとトラバースする登山者 今日も内蔵助平は好天

 

 ハシゴ谷乗越が近づくと剣沢からのトラバーストレースに2人の登山者の姿を発見、私の他にもここを越える人間がいたのだ。テントに荷物を置いて乗越に行くと10人近くが休憩していてビックリ。半分が山スキーヤーで半分がツボ足組だった。たぶん室堂から剣沢を下ってきたのだろう。まだお昼なので今日中に黒四ダムに出るようだ。

 私も今後の予定を考えた。当初計画では剣沢に下って翌日は仙人山、南仙人山を往復だが、仙人山に至る尾根はここから見る限りではナイフリッジで、尾根が屈曲する部分では雪庇が覆い被さるように発達していて雪壁になっているだろう。池ノ平からは稜線が緩やかで安心できるが、そこへ至る尾根は夏に歩いた経験では急でほとんど壁のようなところもある。ここで無理して登らなくても上部だけ雪が残っている時期にあらためて挑戦した方が現実的だろう。ここは黒部別山と違って直下まで夏道があるので今の時期にこだわる必要はない。

ハシゴ谷の沢が出ている部分 内蔵助谷を下る
内蔵助谷出合で右岸を高巻き ダム放水の注意放送用スピーカ?

 

 そう決めると早速撤退だ。テントを畳んで食料がたっぷり残ったままの重いザックを背負い、ハシゴ谷乗越の急な下りを重力の助けで下る。このまま谷沿いに下るとすぐに平坦になって緩んだ雪では歩くのが大変なので、右手の緩斜面をトラバース気味に歩いて少しでも長い時間下り坂を使えるようにルート取りをした。内蔵助平の出口では先行する山スキーヤーとツボ足組のトレースは雪が割れた本流側を下っていたが、こちらは左の支流を下る。あとは黒部川との出合近くの流れが出ているところまでは適当に下り、最後は右岸の夏道で出合に下った。先行者もうまくこのルートに乗っていたが私の昨日の足跡が残っていたのかな? 

デブリに埋まった黒部川を遡上 黒四ダム駅入口の穴はかなり大きくなっていた

 

 内蔵助谷出合で休憩し、黒部川を遡って黒四ダム駅出口の最後の登り手前で最後の休憩、トローリーバスの出発時刻は毎時05分、35分なので時間調整の意味もある。登り切ってから着替える時間も考慮に含めた。重い荷物に照りつける太陽で汗をかかされたが無事駅入口に到着、昨日より雪解けが進んで雪の穴が大きくなっていた。この調子では数日で穴ではなく大きな空間となるだろう。

 今回もDJF情報のおかげでどうにか無事に生還できた。さすが黒部奥地は南会津のおおらかさとはかけ離れた、滑ったらアウトの場面がいくつもあり、それだけに達成感は大きかった。長年の懸案だった宿題を片づけることができ、たぶん今年の山行の中でも最も充実したものの一つとなるだろう。


所要時間
4/28
8:08黒四ダム駅−−8:21黒部川を渡る−−8:58内蔵助谷出合−−9:19標高1250mで休憩9:35−−10:56内蔵助平入口−−11:10内蔵助平中央(荷物デポ)11:38−−12:31稜線−−12:56丸山13:09−−13:25鞍部−−13:45内蔵助平中央14:53−−16:12ハシゴ谷乗越(幕営)

4/29
5:15ハシゴ谷乗越−−6:05稜線−−6:20黒部別山本峰−−6:39黒部別山北峰−−7:06黒部別山本峰7:30−−7:44ハシゴ谷乗越分岐−−7:57 2239m鞍部−−8:14 2310峰−−8:39黒部別山南峰9:02−−9:11 2220m小ピークで撤退−−9:26黒部別山南峰9:45−−10:05 2310峰−−10:15 2239m鞍部−−10:33ハシゴ谷乗越分岐10:38−−11:04ハシゴ谷乗越12:15−−12:50内蔵助平入口−−13:25内蔵助谷出合13:48−−14:40黒部川を渡る14:51−−15:18黒四ダム駅

 

 

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