北ア南部 板戸岳、大ノマ岳 2008年5月16〜17日

 

 

 板戸岳は北アの中でも相当マイナーな山らしく、ネットで検索をかけても山行記録はおろか登ったというリストすら存在しなかった。はたして過去にどれくらいの人数が登ったのだろうか? おそらく武内さんでさえまだ登っていないのではないだろうか。場所は笠ヶ岳から東に伸びる稜線の秩父平から北西に派生する尾根上で、登山道は無いし標高、山域から考えれば無雪期はひどい藪だろうから残雪期に登るのが得策である。北アの中でも南部であり、あまり時期が遅いと雪が解けて藪が出てしまう可能性があるので連休明けからタイミングを狙っていたが、連休の次の週末は悪天でパスし5月中旬に挑戦することにした。山頂渉猟著者は6月頭に登っているが雪が消えて藪漕ぎだったというから、今頃がタイムリミットに近いかもしれない。ま、残雪量は年によって大きく異なるのでまだまだ大丈夫な年もあるのだろうが。

 この山域のこの時期の残雪状況は皆目不明で危険度も不明だが、最も安全なルートは新穂高から双六岳へと向かうルートで弓折岳から笠ヶ岳に向かう稜線に乗り、秩父平で北に向かう尾根に乗ることだろう。問題は秩父平の岩峰で、夏場は南斜面から簡単に登れたが今の時期は稜線上から南に雪庇が張り出しているはずで、そこを通過できるかどうかだ。右から巻ければいいのだが、この稜線を歩いたのは10年くらい前で本格的に残雪期の山を始める前であり、残雪時に登れそうかなどと考えて歩いたわけではなく、年月が経過してあまり記憶に残っていない。大型連休に弓折岳から抜戸岳まで歩いた記録は発見でき、特に危険箇所の記述は無かったので私でもどうにか行けるのだろうか。幕営場所をどこにするかだが、常識的には秩父平くらいだろうか。それ以上進むと大ザックで帰りの登り返しがきつくなる。弓折岳に登らずに大ノマ乗越に突き上げるルートは雪崩の心配と私が登れる傾斜なのかちょっと心配だが、労力削減効果が大きいので現場に行って行けるかどうか判断することにした。

 今週末はそこそこの天候らしいが土曜は松本で曇りや雨、降水確率40%、木金とは快晴続きの予報が出たので、まだまだたっぷり残っている有給休暇を使って金曜に入山することにした。来週水曜日までの解決期限付きの仕事が残っているが、木曜日に原因を特定し仮対策で正常動作を確認したので安心して金曜日は休める。気温がどこまで上昇するかで持っていく防寒装備の重さが変わってくるが、今週は東京では4月の寒さが続いていたが木曜になって天気が回復してやっと20℃を越えるようになった。それでも秩父平で幕営の場合は標高約2600mなので寒そうだなぁ。やっぱ寝袋は2つかなぁ。

信じがたいくらいガラガラの駐車場 穴毛槍は完全に雪が消えていた

 

 新穂高は昨年秋の錫杖岳、大木場ノ辻以来、いや、正確にはあれは新穂高ではなく手前の槍見温泉だったか。昨年夏の笠新道〜笠〜クリヤ谷縦走の時が最後だ。中央道大月付近を走行中に家に2.5万図を忘れてきたことに気づいたが、地形的には難しいところは無さそうなので5万図のエアリアマップで妥協することにしてそのまま進んだ。安房トンネルを抜けて平湯温泉を通過、蒲田川に沿って上流に向かい無料駐車場に車を入れた。平日なので満杯ということはないと予想していたが、車の数は5,6台しかないのには正直驚いた。今の時期は残雪期としては遅くて半端な時期ではあるが、ここまで少ないとは思わなかった。それでも土曜日は満杯近くになると思っていたのだが、下山したら車はせいぜい20台で最上部の駐車場もガラガラだった。酒を飲みつつパッキングを済ませ寝た。夜なので笠ヶ岳の稜線の様子は見えないが雪でべったり真っ白だろうか。

左俣林道ゲート 穴毛谷治山用道路より先の左俣林道
穴毛槍 笠新道入口。まだ水は出ていない

 

 翌朝になっても車の数は増えず、朝食をとって夏山シーズンでは考えられないような一人きりの静かな出発となった。谷間からは青空の下に真っ白な笠ヶ岳と南側は雪が消えて黒くなった緑ノ笠が見えている。穴毛槍は完全に雪が消えて真っ黒だ。南斜面はこの標高でも雪がないのでは大ノマ乗越から笠につながる主稜線も雪が少ないだろうか。蒲田川を渡るとすぐ右手にあったはずの建物は消えて更地になっていた。その上部の有料駐車場には1台の車もない。ゲートを通過ししばらくは雪の消えた林道歩き。先行者の姿が1名見えるがどこに行くのだろうか? 穴毛谷への治山工事用林道は2本あるが、2本目が左に曲がるとその先は最近はほとんど車が入った形跡が無く、右手の斜面から落ちたデブリが林道を覆った部分が出てくるようになった。ただし普通に積もった雪は完全に消えているので大部分は林道歩きであるが。デブリは良く締まってまったく潜らず歩きやすい。笠新道入口を見送って大きなデブリを乗り越えなおも進んでいくと倒木が目立つようになってきた。僅かにトレースがあるようだがデブリの荒れた雪ではよくわからない。ま、歩きやすいところを歩けばいいのだが。

左俣林道から見た大木場ノ辻、錫杖岳 ワサビ平小屋。まだ営業していない
ワサビ平小屋から先で残雪が多くなる 林道は奥丸山方面へ分かれる
林道を離れて沢を直進 谷は一面の残雪。スキー向き

 

 今年はまだ営業していないワサビ平小屋を過ぎると徐々に残雪が目立つようになり、奥丸山方面へと続く林道と分かれて沢沿いに歩くようになると完全に雪が続くようになった。夏道は完全に雪に埋もれて痕跡は見られず、押し出したデブリの歩きやすい場所を選びながらどんどん標高を上げていく。この時期は真新しそうなデブリはなく、落ちるべき雪はほとんど落ちてしまったようだ。快晴の太陽が照りつけ日焼けしそうなので日焼け止めを塗るが、この天気だと大汗をかかされて流れてしまうだろうな。既にTシャツの姿である。今までは平坦に近い林道歩きが延々と続いていたが、今はアイゼンは不要だがいい傾斜で登らされて疲労を感じたので休憩。

秩父沢。稜線まで行けそうだった 鏡平へ至る谷
右手に足跡が出現。この付近からラッセル状態 振り返ると蒲田富士

 

 秩父沢は大量のデブリに埋め尽くされて稜線まで雪が続いており、もしかしたらここから秩父平へ突き上げられるのではなかろうかと思えるほどだが、私の技術で本当に危険箇所がないか自信がないので当初計画通り大ノマ乗越を目指すことにした。DJFや武内さんレベルならこのまま谷を詰められるかもしれない。谷の真ん中ではなく少し右岸寄りを適当に歩き、鏡平へと登る谷を右に見て大ノマ乗越へと至る広い谷を登り始めると足跡が出現した。おお、双六岳方面ではなくこっちの谷を登る登山者がいるのかと思ったが、トレースはやがて右大きくカーブし、鏡平方面に方向転換していたのでルート誤りに気づいたらしい。こちらはこのまま直進だ。恐れていた傾斜は見上げると大したことはなく、このまま淡々と登れば大丈夫そうで一安心。それは良かったのだが標高2200mを越えると真っ白な新雪が積もりはじめ、今まで締まっていた雪が緩んでラッセルになってきた。コンスタントに足首まで潜り、場所によっては膝までのラッセルで傾斜があるので体力の消耗が激しい。こんな時期にこれだけの新雪が積もるなんて珍しく、通常なら今の時期はどこも良く締まった雪でワカンは不要だから持ってくることなど考えなかったが大失敗だ。稜線に出れば締まった雪になるだろうと諦めつつ黙々と足を進めた。

大ノマ乗越が見えてきた。鞍部には雪庇は無い 乗鞍岳は雲がかかっていた
大ノマ乗越直下から見た槍穂

 

 大ノマ乗越へは谷が左に曲がっているので下部からは雪庇が壁になっているか見えなかったが、標高が上がると鞍部が見え、幸いにも壁にはなっておらず問題なく稜線に出られそうだ。稜線上の雪庇は張り出した部分はほとんど落ちてしまい、谷上部のデブリもその雪庇崩壊のブロックらしい。これだったら心配していた雪崩は発生しそうにない。たまに雪が締まった区間が現れて天国だが長続きせず、ラッセルの合間に時々立ち止まって息を整える。天気がいいのはありがたいが、この雪の状態では強い日差しがうらめしい。これ以上雪が腐るのは勘弁して欲しい。振り向けば雪が付いた槍穂の稜線が大迫力だ。蒲田富士も見えているが、あんな痩せた岩の急な稜線は雪があったら俺じゃ無理だろうなぁ。やっぱ無雪期に登ったのは正解だな。

大ノマ乗越から大ノマ岳方面 大ノマ乗越から弓折岳方面
大ノマ乗越から双六岳

 

 這々の体で大ノマ乗越へ突き上げてたまらず大休止。予想通りトレース皆無で真っ白な雪が稜線にべったり付いていて、この先もラッセルの可能性が高そうだ。重い腰を上げて大ノマ岳へと登り始めたが、これがまた臑まで潜るラッセルで傾斜もきつく最初から体力を搾り取られる。せめて先行者のトレースがあればいいのだが、もしあったとしても先週末とかの足跡は雪の下だからなぁ。大ノマ乗越から大ノマ岳まで標高差約200mなので夏道なら30分程度だろうが、これではどのくらい時間がかかるか分からないし、今日中にどこまで進めるのかも全く読めない。

双六岳左側から黒部五郎岳が顔を出す 弓折岳が低くなっていく
もう少しで大ノマ岳 大ノマ岳山頂。背景は槍ヶ岳
大ノマ岳から見た抜け戸岳から板戸岳

 

 傾斜が緩んでもラッセル状況は変わらず、左手の雪庇に寄りすぎないよう稜線やや右手を歩く。稜線上は立木はおろかハイマツさえ全く見えず一面の銀世界だ。右手には双六南峰が大きく、その左手には黒部五郎岳が真っ白な姿を見せている。ゆっくりゆっくり登ってなだらかでだだっ広い大ノマ岳山頂に到着。たしか夏道では巻いてしまうピークで、以前縦走したときに休憩したのは南に見えているピークだったように思う。ここから見る秩父平への尾根は岩壁が立ちはだかり稜線上を進むのは不可能で、夏道のように南のカール状の凹みから登るしかなさそうだが、稜線へ突き上げるところは雪庇があるように見えるし傾斜も急なようだ。ただ、真っ白で汚れがない新雪に覆われて凹凸感がつかめず、本当の傾斜や雪庇の大きさははっきり分からなかった。こうなると労力と危険を冒して秩父平を越えて北西尾根に入るより、等高線に沿って秩父平を北側から巻くのが得策と考えるようになった。エアリアマップでは細かい地形は読めないが、等高線の混み方からすると急斜面は無さそうだ。

鞍部向けて下るが踏み抜き連発 秩父平への登り。最後の雪庇が心配

 

 鞍部までの間は股まで踏み抜く雪面が続き、下りなのに疲れた。穴にハマって脱出しようとピッケルを支えにするのだが、雪が緩いのでピッケルも全長が雪に吸い込まれて支えとならず苦労する。ワカンなら踏み抜かないかもなぁ。スキーならもっといいのだろうが。鞍部でザックを下ろし、断熱シートを敷いてザックを枕にしばし昼寝。ラッセルで体力を使いすぎたが、まだお昼で暗くなるまで時間はあるので長時間休憩で元気を回復して先に進もう。当初計画は秩父平で幕営だったが、巻くのであれば行きも帰りも余分な登りは無いから大ザックを背負って先に進んでもいいだろう。朝よりも雲は増えてきたがまだまだ晴れの天気は続き、仰向けで寝ていると顔が日焼けしてしまうので顔の上に帽子を置いて気持ちよく寝た。

秩父平東直下の岩壁 秩父平北尾根を巻ける箇所を探しながら進む
足跡が明瞭に残るくらい潜る雪質 ここで北尾根を乗り越えた
斜面のトラバース。ここが一番傾斜がきつい 目的の北西尾根が見えてきた
樹林が少ない広大な雪原が広がる スキーなら楽しめる斜面だろう

 

 1時間近く寝てから秩父平を巻きにかかる。今は一面雪に覆われて障害物はないが、たぶん無雪期はハイマツの絨毯だろう。相変わらずの軟雪に苦労しつつ左手の北尾根の様子を見ながら進み、雪庇が切れる場所を探す。尾根上部は岩壁帯だが下がるに連れて岩が無くなり雪庇の垂直の壁に変わり、さらに下がると雪壁の傾斜が緩んで尾根にはい上がれる場所が出てきた。標高は約2480mで尾根に上がると疎らなシラビソ樹林が上部に続き、こんな雪壁があるとは思えない風景だ。この先はできるだけ標高を落とさないよう水平移動に徹するが、相変わらずのラッセル地獄で時々沈みが小さいところで一息つく。尾根を越えてから先はシラビソ樹林は出てきても隙間が多く、スキーだったら快適だろう。北尾根を巻き終わって谷を越えると全く樹木がない広大な雪原が広がり、まさにスキー適地だった。デブリの痕跡もなく雪崩の心配も無い。

一つ手前の尾根から見た北西尾根 笠ヶ岳は真っ白
秩父平を見上げる。完全にスキー向き斜面 黒部五郎を見ながら北西尾根を進む
2490m峰から見た幕営場所(三角点)  シラビソ樹林が点在する幕営場所

 

 小尾根を越えて緩く登るとやっと目的の北西尾根に乗った。尾根上は多少雪の状態は良く足首程度の深さで止まってくれた。疎らにあるシラビソの低い木には目印等は全く見られず人の気配は皆無だ。もっとも、尾根に乗ってしまえば単純明快な地形で目印を付ける必要は無いだろうが。2つある2490m峰はなだらかであるが、疲労が蓄積して僅かな登りでも足が重い。そろそろ幕営場所を探してもいい頃であるが、明日の天気が心配なので雷や強風を避けられる樹林に囲まれた場所にしたい。このピークは樹林が無く吹きっさらしなのでその先の樹林が見える小ピークへと下る。ここは2424.9m三角点設置場所らしいが雪に埋もれてその痕跡は全く分からなかった。尾根頂上より僅かに西に下ったところはシラビソが点在し幕営にちょうど良く、シラビソの木と木の間の雪を足で水平に均してにテントを張った。

 このまま幕営に入ってもいいのだがまだ時間は午後3時前、おまけにGPSのお告げでは板戸岳まで直線距離で約1.8kmしかなく、往復の標高差も300m程度しかない。天気予報では当初より天候の崩れは小さいようだが寒気の影響で明日は大気の状態が不安定で朝は曇りとのこと。明瞭な尾根とはいえガスられるよりも視界がバッチリの今の方がリスクは低い。暗くなるまでにまだ4時間近くあり、ここでアタック装備に切り替えれば軽量化で歩行速度も上がるだろうから、いくらなんでも往復で4時間はかからないだろう。たぶん3時間と見込んでヘッドライトを持ってアタックすることにした。

三角点峰から先はシラビソ樹林に突入 2373m峰付近から見た板戸岳

 

 大ザックが無くなれば背中の軽さは別世界で一気に足が軽くなる。少し標高を下げると尾根上もシラビソ樹林に覆われて、北アルプスではなく奥日光の尾根を歩いているような錯覚に襲われる。痩せ尾根もなく張り出した雪庇もないのでアイゼンやピッケルを置いてきてもよかったかなと思った。樹林に覆われた2373m峰は登るのが面倒で左から巻き、2180m鞍部目指してこれまたシラビソ樹林を下る。帰りのことを考えて歩幅を狭くしてラッセルしておくのは忘れない。標高が下がると新雪が無くなり雪が締まって格段に歩きやすくなったし、樹林中は木々に邪魔されて新雪が積もっていないところが多くラッセルが軽減された。

鞍部もシラビソ樹林 2373m峰を振り返る
最初の2240m峰へと登る これが最初の2240m峰
出ていた藪はこんな感じ 2つめの2240m峰

 

 最低鞍部もシラビソ樹林と一面の雪だが山頂渉猟によるとここは凄い笹藪だそうで、今はそのかけらも感じることはできない。登りにかかってもシラビソ樹林が続き、雪の段差が緩やかなところを選んで登っていく。尾根右側(東側)は雪が遅くまで残るのだろうか、今までと違って樹林が切れて双六から黒部五郎の山並みが大きい。小規模な雪庇になりかけた残雪を踏んで2240m峰に立つと尾根が屈曲する2240m峰とその左手に目的地である板戸岳山頂が見えている。今までシラビソ樹林だったのにこの先は高い木が無くなって展望が開けた。

2240m峰は巻いた 樹木が無い板戸岳の稜線
板戸岳山頂は雪が消えていた この棒と板は山頂渉猟の写真のまま
「oku」さんとは何者だろうか 板戸岳三角点

 

 次の2240m峰はてっぺんを通らず手前を巻いてショートカット、一面の雪面を横切って稜線上に戻り、緩やかに登ったところが待望の板戸岳山頂だった。意外なことに山頂だけ雪が消えて周囲のハイマツと三角点付近の低い笹が出ている。三角点脇には木の棒が立ち、地面には木の板が転がっている。帰ってから山頂渉猟の写真を見たらウリ2つで、10年の歳月を経ているのに全く変わらない風景だったのには驚いた。目印等がないか周囲をよく見るとハイマツの枝に赤テープを発見!! こんなところに来るのだからタダモノではないはずで署名が無いか確認すると「oku」と書かれていた(残念ながらKUMOではなかった)。そこそこ新しく、少なくとも1年以内、もしかしたらここ1ヶ月以内かもしれない。これ以外には標識、目印は無く、武内さんも誰だか知らないが「中村」さんも、柏の小川さんも未踏のようだ。次に登る候補者はこれにDJFを加えたメンバーくらいだと思うが、やっぱ武内さんが先頭だろうか。

板戸岳から見たパノラマ写真(クリックで拡大)

 

 目の前には黒部五郎が笠ヶ岳よりも大きく近く、三俣蓮華から双六まで屏風のような高い山並みが続いている。ずっと前の夏にあそこを歩いたときはガスって何も見えなかったなぁ。反対側は尖った真っ白な笠ヶ岳が見事で、それにつながる秩父平北西尾根だけがシラビソ樹林で黒かった。今、この半径数kmに熊はいても私以外に人間はいないだろう。孤独と言えば孤独だが、誰にも邪魔されない自由気ままな時間でもある、なんて言っても無限に時間があるわけではなくできれば暗くなる前にテントに帰りたいので、少々休憩して周囲の展望を満喫して下山、というより逆の登りにかかる。下りで時間はかかっても歩幅を狭くしてラッセルしたおかげで帰りも行きと同じ程度の所要時間で済んだ。

日が傾く中、2373m峰への登り 自分の足跡を踏まないとラッセルが大変

 

 テントに戻るとまずは腹ごしらえ。今日の行動時間は約13時間で昼飯を食ってから長時間行動だったので相当腹が減ってしまった。もう日が西に傾いて日光で水は作れないのでもったいないがガスを豪勢に使う。ぴかぴかの新雪なのでこの時期にしては考えられないようなゴミが無いきれいな水を得ることができた。さきいかをつまみにたっぷり酒を飲んで眠りについた。気温は予想より下がらずテント内では最低気温は0℃だったので、2重寝袋では暑いくらいだった。

 夜中、ポツポツとテントを叩く霰の音が聞こえたが派手に降るほどではなかった。夜中、小用で外に出るとガスがかかっているのか星は殆ど見えなかったが時々月の輪郭が見え隠れしていた。4時前に起床するとポツポツとテントを叩く音がするが、そのうち止むだろうと飯を食べてパッキングをし始めたが、思ったよりも天候の回復が遅れているようで霰が降り続いているので少し出発を遅らせて再びシュラフに潜り込んだ。どうせ今日は下山だけなのでのんびりしてもいい。この天候だから無理をして昨日に板戸岳を往復しておいて正解だった。

 テントを叩く音が止んだので1時間遅れてテントを撤収、上空の雲には隙間ができはじめ、まだ黒部五郎、双六、笠ヶ岳、秩父平、大ノマ岳は雲の中だが今日も青空が広がりそうだ。もう雪の心配は無いだろう。シラビソの葉の上には僅かに雪が積もり、昨日の足跡にも雪が付いていた。気温は約4℃と昨日日中より低いのだが雪の締まりはなく、昨日の自分の足跡に足を突っ込んでも踏み抜くことがあり、出だしからいきなり疲れる。それでも全く足跡が無い状態よりもずっと楽だが。

ガスの大ノマ岳向けて登る 秩父平を振り返るがガスの中

 

 昨日の深く沈んだ足跡がクッキリ残っているので広大な雪原でも目印は不要で、迷うことなく進んでいく。一時太陽も顔を出して天候は確実に回復しているように見えたが、その後は雲が厚くなり、肌に感じる空気の温度が下がってきたので温度計を見ると0度だ。ほんの僅かだが雪が舞う。しかし雪の状態は相変わらずで水平移動でも疲れる。北尾根を越えて僅かに登って大ノマ岳と秩父平鞍部に到着、本当は大ノマ岳山頂で休憩としたいところだが、この様子では山頂はガスに包まれたままで寒いし何も見えないだろうから、ちょっと早いがここで休憩した。大ノマ岳の登り返しは昨日同様、いや、昨日以上に踏み抜き多発でガックリとペースが落ちる。稜線近くより北斜面を大きく巻いた方が踏み抜きは少なかったようだ。

大ノマ岳を下る 薄いガスの向こうに板戸岳が見えた
大ノマ乗越 すれ違った双六岳日帰り山スキーヤー

 

 大ノマ岳山頂はガスに包まれ、昨日のような大展望はなく素通りして大ノマ乗越へ向けて下るが、ここも膝までの踏み抜きの連続で足をめいっぱい上げなければ足が雪から抜けないので下りなのに体力を使う。下っていくと雲の層から抜けて周囲の展望が開けるが、黒部五郎や双六、槍穂は雲に隠れたままだ。まだ時刻は早いので峠には昨日の自分の足跡しか残っていなかった。乗越からの下りもしばらくはズボズボ踏み抜きが続いていい傾斜の下りなのに全くスピードが出ない。新雪区間が終わると雪が締まって歩きやすくなり、この先は半分滑りながら下れそうだとアイゼンをザックにしまう。雪が締まっていれば快調でグリセードを交えてガンガン下っていくと前方に2名の人影が。接近すると軽装の山スキーヤーで、林道を自転車で入ってこれから乗越を越えて双六まで往復するそうだ。スキーなら踏み抜きは無関係だから速いだろうなぁ。今回のルートは完全にスキー向きだったなぁ。

山スキーヤーの自転車

 林道に出てしばし休憩。歩き出して大きなデブリ帯を越えて林道が顔を出した部分で本日3人目の山スキーヤーと出会う。こちらは大きなザックで乗越で幕営して明日双六まで往復して下山するそうだ。色々話をしたがガスボンベを忘れたとのことで、どうせ私は下山するだけでガスは使わないし、まだ半分くらいはガスは残っているだろうから1泊くらいは持つだろうし(私の飯だと燃料は少なくて済むので数泊できるだろうが)、私の荷物も軽くなるからと、ザックをひっくり返して底の方から引っ張り出した。どうせ車に戻れば何本もガスカートリッジは残っている。

 これでもう登ってくる人は最後かと思ったら、笠新道までもう少しというところででかい三脚をザックにくくりつけた単独行男性が本当の最後のお客だった。こちらはワカンも持っており、私よりも楽に歩けるだろう。その後は山菜取りの人を見かけるだけだった。この時期はこれほど入山者が少ないのだろうか。いや、ワサビ平&鏡平小屋が営業していないのが大きいだろうとの意見はガスを忘れた山スキーヤーの意見だった。

所要時間


5/16
4:52駐車場−−5:12林道ゲート−−6:07笠新道入口−−6:20ワサビ平小屋−−6:43林道と分かれる−−6:57 標高1560mで休憩 7:15−−8:12 標高1900mで休憩 8:43−−8:54大ノマ乗越分岐−−9:28 標高2200mで休憩 9:46−−10:36大ノマ乗越11:16−−11:55大ノマ岳−−12:16 2540m鞍部 13:06−−13:31秩父平北尾根を越える−−13:56北西尾根に乗る−−14:16 北側2480m峰 14:19−−14:27 2435m三角点微小ピーク(幕営準備) 15:15−−15:30 2373m峰−−15:52 2180m鞍部−−16:17板戸岳16:43−−17:01 2180m鞍部−−17:30 2373m峰−−17:49 2435m三角点微小ピーク(幕営)

5/17
5:49 2435m三角点微小ピーク−−6:46秩父平北尾根を越える−−7:12 2540m鞍部 7:30−−8:15大ノマ岳−−8:31大ノマ乗越−−9:32林道9:46−−10:00 ガスを忘れた登山者と立ち話 10:30−−10:39ワサビ平小屋−−10:49笠新道入口−−11:27林道ゲート−−11:41駐車場

 

 

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