立山 仙人山、坊主山偵察 2008年7月12〜13日

 



 DJFが調べた結果では日本山名事典記載の2000mを越える坊主山は日本に3つあるそうで、一つは志賀高原に、一つは甲斐駒北西のろくでもないところに、そしてひとつは黒部奥地の池ノ平近くにある。志賀高原の坊主山は大したことはないが残り2つは難関で、甲斐駒の坊主山は私が調べた結果では山行記録はDJFのものしか発見できていない。黒部の坊主山に至っては記録皆無、DJFはもちろん武内さんでさえ登っていないだろう。私が知る限りではここに登ったことがある人は山頂渉猟著者、私の掲示板に書いてくれたnobuoさん、そしてDJFの記事によると赤布の「柏の小川さん」も2000m峰完全制覇とのことで、当然この坊主山にも登っているはずだ。公開されている唯一の情報源は山頂渉猟で、著者は無雪期、それも梅雨明け直後の真夏に登っている。予想される藪を考えると残雪期が順当な選択だろう。

 坊主山手前にある仙人山は、登山道が通る仙人峠から僅かに北上したところにあるが登山道はなく、仙人山の南に雨量計が設置されたピークがあってそこまでは踏跡があることは昨年お盆のクソ暑い時期(下界の最高気温が40.9℃のとき)に判明していた。しかし標高2000mでもクソ暑くてその先の僅かな藪を漕ぐ気力が出ず出直しとなった経緯があった。今年は残雪期に狙ったのだが大型連休では二股から仙人峠への尾根は遠目で見た限りはナイフリッジで途中で屈曲する部分は雪壁で、もっと雪が溶けた6月くらいがいいだろうと挑戦を諦めた。その6月に狙ってはいたのだが梅雨入りして2日間好天が続く日がなかなかなく、唯一のチャンスは木挽山に使ってしまい6月は終わってしまった。そしてもう7月中旬だが室堂のライブカメラではまだまだ雪に覆われた部分が多く、雪が少ないはずの西斜面でこれだったら坊主山の稜線風下側にはまだ雪庇の融け残りがあるかもしれない。今の時期でも厳しいが7月末では残雪を期待するのはほとんど無理だろうと、今年最後のチャンスと考えて出かけることにした。ただし、今回はマイカーでなく公共交通機関を使って山に出入りしなければならず時間制限が厳しく(特に帰りが)、土日の2日間ではとても坊主山に届きそうにない。今回は仙人山を目標とし、時間が許す限り坊主山に接近して藪の状態を偵察し、次回の計画立案に生かすことにした。できれば最低鞍部まで行きたいところである。

 昨年夏の経験を踏まえてルートは室堂から別山乗越を越えて劔沢を下ることにした。これなら行きの登りは別山乗越までであり、その日のうちに仙人峠に達することができる。昨年夏は内蔵助平経由で歩いたが、内蔵助平の笹の海と梯子谷乗越の樹林帯は全く風が通らずあまりの暑さに梯子谷乗越で完全にバテてダウンしてしまったのだ。それに今の時期は黒四ダム〜内蔵助出合までの夏道が通れるか微妙なのだ。昨年夏に黒四ダムに上がる時に、黒部川から上がったところにある関西電力の管理小屋?の職員と30分くらい立ち話したときに、残雪が多いと丸山谷から押し出した雪がなかなか溶けずヤバいトラバースになって通行止めになるそうだ。残雪期なら河原を歩けるが今は雪が消えて無理だろう。今年は残雪が多くそこを通過できるかどうか不明なので安全を見て室堂から入ることにしたわけだ。それに1ヶ月前には落ちてたままになっていた黒四ダムすぐ下流の橋が直っているかも不明だったこともあった。1ヶ月前なら問題なく渡れたが、観光放水を行っている今の時期は橋がなければ対岸に渡れない。金は高くなるが安全には変えられない。

 天気予報では北陸地方は土曜午前中まで雨だが午後から回復して日曜は好天とのことで、どうせ朝は室堂までの移動で時間を食われて活動開始は9時過ぎになるので雨に降られても短時間だろうと出かけることにした。交通機関の時間と料金を考えると立山駅まで車で行った方がいいのだが、東京から富山まで行くのはえらく遠く、睡眠時間が無くなってしまうので大町から往復とした。まだ梅雨が明けず夏山シーズン前なのでメチャ込みはしないと思うが早めに行って駐車場を確保した方がいいと思って大町から西に向かったが、なんと途中のスノーシェッドが夜間工事で20:00〜5:00まで通行止めとのこと。0:00〜0:30の30分間だけ車を通してくれるとのことだが、そこまで起きていたら睡眠時間が少なくなるので5:00まで寝てから駐車場に向かうことにして適当な余地に車を入れて酒を飲んで寝た。雷は鳴っていないが大粒の雨が降り続いていた。

 5時に起きて車を走らせ扇沢に到着すると予想外に駐車場はガラガラだった。このぶんなら始発のバスに乗るために無理をして早くから並ばなくてもいいだろうとのんびり準備をして飯を食べて、始発の50分前にチケット売り場に向かった。しかし並んでいる人は片手の指で数えられるくらいしかいなく、大型連休や夏山シーズンとは対照的だった。改札前に並んだときには私が先頭だった。

土曜朝の扇沢駐車場。空きが多い 黒部ダムから見た赤牛岳。完全に雲に沈む
黒部ダムから見た黒部別山南峰 黒部ダム下流の橋。ちゃんと修復されていた

 

 ここから室堂までが長い。この時期はロープウェイの待ち時間が30分あるので室堂着は9時半近い。通常なら最初のピークに到着している時刻だ。黒四ダムから先に足を延ばす人は20人くらいで、多くの人はダム周辺の散策が目的のようだ。その中でザックを背負った2人組が平ノ小屋方面に向かったが、どこまで行くのだろうか。1ヶ月前に軒並み落ちていた橋はちゃんと架かっているだろうか。さもないと御山谷は靴を脱いで渡渉だ。

黒部平から見た黒部丸山 黒部平から見た大観峰
大観峰展望台。背景は針ノ木岳 大観峰から見た黒部平

 

 天候は良くなく低い雲がかかって立山は見えず、後立山も針木岳等は雲の中だ。幸い雨は降っていないがこのままだと展望皆無で室堂はガスの中だろう。ケーブルカーを降りた黒部平では展望台から目の前に丸山が見えた。さすがに雪は無く、今は深い藪に覆われているだろう。大観峰は斜面の途中にへばりつくようにあり、冬の間は雪崩が恐ろしそうだが、この先は地中に潜ってトローリーバスだ。扇沢〜黒部ダム間と違ってバスの幅ギリギリの狭いトンネルで、中央付近のみすれ違いできるよう広くなっていた。

室堂ターミナル付近。残雪が多い 雷鳥沢(手前)と剣御前の南斜面

 

 室堂で降りてターミナル上部に上がり屋外に出るとガスがかかって視界が悪いが、斜面はまだまだ白く期待通りの残雪だ。早速スパッツを付けて出発、剣御前上部はガスに入って見えないが、途中の斜面は広く残雪で覆われていた。問題はルートが分かるかどうかと残雪の傾斜で、上部ほど傾斜がきつそうだがガスって見えないのが悩ましい。最悪は大日峠から稜線を上がってもいいかと先を進む。

別山乗越へと導くポール 雷鳥のメス
雷鳥の雄 残雪は最初だけで別山乗越までほとんど夏道

 

 雷鳥沢のテント場はほとんど残雪に覆われているが地面が出ている部分に3張だけテントがあった。冷たそうな雪解け水が流れる称名川源流を橋で渡って右岸を伝わると剣御前方面と大日岳方面に分かれる。とりあえず安全策と大日岳方面を登るが雪でつながった剣御前方面には雪面にポールが点々と続いており、どうやら雪があってもまともなルートがありそうでそちらに乗り移った。雪の緩斜面を登っていくと右手の雪が溶けた細い尾根に乗り移り、それ以降はほとんど夏道が出ていたのには驚いた。下から見ると雪が多いが夏道がある場所はほとんど雪はなかったのだ。登山道脇では雷鳥のカップルがウロウロしていたが雛の姿はなかった。先週の仙丈ヶ岳では小さな雛がいたのだが。

 ガスって展望がないので高度計だけが現在位置を把握する唯一の手段だ。別山乗越の標高は約2750mなので沢の標高2260mから約500mの登りで、標高が上がるに従ってハイマツが地面にへばりついてくる。背後(南)から風とガスが上がってきて今日は出番が無さそうな麦わら帽子が煽られる。ポツリポツリと下ってくる人もあるが平日に入山した人のはずなので僅かな数で、登っていく人の姿はガスがかかって見えない。

剣御前小屋直下 剣御前小屋から先は一面の残雪

 

 別山乗越が近づくと風が強くなり、ガスに追われるように峠の向こう側に回り込んだ。以前ここを通ったのはずいぶん前のお盆の時期だったように記憶しているが、そのときはほとんど雪は残っていなかったと思うが、今回は谷は一面の残雪に覆われていた。そこに点々とポールが立っていて道標となっていた。最初は谷の真ん中ではなく傾斜が緩い東側をトラバース気味に、傾斜が緩むと真ん中を歩くようになっていた。しかし雪の上には足跡はなく、今日ここを歩くのは私が初めてかもしれない。まあ、最終的にはこのまま剱沢を下ればいいので雪が付いていて滝さえなければどこでも歩けるだろう。アイゼンは不要な傾斜だった。

別山乗越を振り返る 剱沢小屋へと下っていく
建設中の小屋右手から剱沢に入る 無人の剱沢を下る

 

 雪原の中に一筋の雪がない地帯が出現し、そこに夏道が出ていた。ここで少し休憩し軽く昼飯を食べた。僅かで剱沢小屋前を通過、テント場は完全に雪の下で水場の水道だけが雪の上に顔を出していた。この後の3連休に利用したらまだ雪に覆われたままだろうな。剱沢小屋から先はどう進むのか分からくて困った。雪が付いているのでどこを歩いていいのかもしれないが、なにせメジャーなルートなので何かの理由で決められたコース以外は歩いてはダメってことがあるかもしれない。念のためアイゼンを付けて地形図を見て破線を忠実に辿ったが竹竿も足跡もなく、少しきつい傾斜の雪面を下って谷に降り立ったら竹竿発見、結局は最初から沢の中心をそのまま下ればよかったようだ。

武蔵谷 平蔵谷
真砂沢ロッジの水源 真砂沢ロッジが見えてきた
真砂沢 真砂沢ロッジはテント場まで雪に覆われていた
雪渓末端 夏道は草刈りされた直後だった

 

 剱沢は一面分厚い残雪に覆われクラックは無く、安心して下ることができた。念のため12本爪アイゼンとピッケルの装備を持ってきたが完全にオーバースペックだった。傾斜は白馬大雪渓より緩やかでまだ氷化していないのでピッケルは不要でアイゼンは無くても歩けるし、使っても6本爪で充分だろう。下っていくと雲の層から出て下界が見えるようになったが、上空は雲に覆われたままだ。真砂沢ロッジはテント場が完全に雪に覆われ、幕営は断熱マット2枚重ねくらいでないと背中が冷たくて眠れないだろう。昨年はこのすぐ下で雪渓が割れて流れが出ていたが今年はまだ下流まで続いており真砂沢も完全に雪の下だった。昨年歩いたときの最後の雪渓融け残りがあったところ(ロッジから2,300m下流)で沢上の雪も終わっていた。ここまでは高巻きする夏道を歩くより雪渓をそのまま歩いた方が楽だろう。

梯子谷乗越方面の橋がない! 翌日工事中だった 二股までに1カ所大きなスノーブリッジがあった

左岸をへつる場所もギリギリ河原を歩ける水量

背景は南仙人山

二股の吊橋は掛けられたばかり

 

 僅かに下ると梯子谷乗越への分岐へ到着するが、なんと橋が無い! まだシーズン前で橋を架けていないようだ。まあ、今の時期なら雪渓で対岸に渡れるので問題にならないが。それに翌日に橋に板を取り付ける作業を真砂沢ロッジ従業員が行っていた。南股は八ッ峰から落ちてくる谷の部分で大きなスノーブリッジに覆われていたが、他はほとんど夏道だった。草刈りをしたばかりのようで刈り取られた草が青々としていた。ここから見上げる南仙人山の稜線には雪は皆無で谷筋に僅かに残るばかりで、残雪の淡い期待は完全に裏切られたことを知る。おそらく坊主山の稜線も完全に藪が出てしまっているだろう。

二股から三の窓方面。雪渓末端が迫る 雪渓が続く北股。背景は池平山
雪がない尾根を仙人峠目指し登る 小窓。稜線まで雪がつながっている

 

 二股では剱沢出会の100m程度手前まで三の窓雪渓が続いており、おそらく北股から小窓雪渓は途切れることなく稜線まで続いているだろう。池の平へ直接行くなら北股から登った方が早いが、もしかしたら仙人峠近くに部分的でも雪田が残っていればそこで水を得て仙人山南の雨量計ピークで幕営して時間を節約しようと考えていたので直接仙人峠を目指す。ネットで調べたら二股にかかっている吊橋は1週間前にかけなおしたばかりとのことで、もし6月に入山していたらスノーブリッジを使うしかないか。飛び石で渡れそうな水量、石の位置関係かまでは確認しなかった。大型連休には恐ろしいほどの積雪だったこの尾根も今は雪のゆの字も見えず、樹林で風が通らずに日差しが無くても気温が高くて大汗をかきながら登った。たまらず標高約1800m地点の崩壊で開けた地点で休憩、虫が多く虫除けを塗って刺されるのを防ぐ。

仙人峠付近から見た黒部別山 仙人峠直下に残雪有り
仙人峠から見た南仙人山 仙人峠から見た坊主山

 

 暑い中をさらに登ってようやく仙人峠到着、峠の北側には僅かに雪が残っているがほぼ全て消えているし、南仙人山方面を見ても仙人池ヒュッテ付近のみ白い物が残っているが稜線上には全く見えない。やはり残雪期として登るにはあと1ヶ月早く来る必要があろう。雪があったのでこれで水は得られるが、雪面は斜めでテントを張るには不向きで峠付近で他にテントを張れそうな場所は植生保護の点でまずく、雨量計があるピークで張れそうな場所がないか見に行ったが適地はなく、池ノ平へ下ることにした。

池ノ平小屋へと下る 最初の雪渓トラバース
2つ目の雪渓トラバース。小屋の水源の沢 池ノ平小屋

 

 昨日ネットで調べたところ、池ノ平小屋の営業は来週からなのでまだ小屋は閉まっているはずだ。小屋近くの雪を溶かして水を作ってもいいが燃料を食うので池ノ平への道は途中で小さな沢があって水が得られるのでそこで水を汲んでいくことにした。しかし途中の沢地形は雪に覆われ水はその下を流れており、昨年夏に水を汲んだ沢も雪の下の可能性が高い。しかし幸いなことに昨年夏には流れていなかった小さな沢で雪解け水が流れており3リットルを汲んだ。水場の沢は案の定雪渓と化しており、2カ所ほどトラバースした。昼間はいいが朝気温が低いときは雪が固くなってちょっとイヤらしい。ここだけはアイゼンがあるといいが今回はピッケルがあるのでバックアップに使って通過した。雪が微妙にスプーンカットしかかっていることも助かった。

 小屋に到着するとドアが開いているのでもう人が入っているのかと除いてみたら発電機が置いてある小屋で、裏手に回って建物の隙間が入口となっていた。そして予定と違って小屋番のオジサンが入っていてお客らしい女性もいた。この時期にこんなところに入山するのだから一般登山客ではなく常連さんと見た。小屋番と話をすると「真っ黒ネコ」さんが昨日ボッカで来ていたとのこと。「真っ黒ネコ」さんとは清水岳から祖母谷へと下る途中にある不帰岳山頂で見た山頂標識の団体名を検索してメールを送った相手で、今年の大型連休で登ったサンナビキや滝倉山につての情報もいただいた人だ。富山の道がない山にも残雪期に思いも寄らないコースで登っており、富山の山については面白いHPだ。

 小屋番には今回の目的が坊主山の偵察だと正直に申告したが、あからさまに反対されるどころか他にも坊主山に挑戦した人やパーティーがいたと話してくれた。年平均で1パーティーくらいのペースのようだ。小屋が開いているときにやってきているのだから無雪期に間違いなく、もしかしたらアプローチが悪い残雪期よりも無雪期の方が登られているのかもしれない。今回は帰りの時間の関係で坊主山山頂は無理でどこまで行けるか時間次第だが、次回来るときには山頂往復に1日かけられるようにして山頂まで到達したいところだ。

池ノ平小屋テント場 小屋から池ノ平まで雪が続く
池ノ平小屋から見た坊主山 池ノ平小屋から見た八ッ峰

 

 テント場直前の小屋前まで池ノ平から雪が続いているがテント場はかろうじて地面が出ていて今日は暖かく寝られそうだ。天候は徐々に回復して夕方にはだいぶ晴れてきて池ノ平山も姿を見せてくれた。酒を飲んで寝るときの姿は長袖シャツ+フリース+ダウンジャケット+3シーズン用の薄手のダウンシュラフだったが、これでちょうどいいくらいだった。夜中に起き出すと満天の星空だった。その後も熟睡してしまい予定より30分近く寝坊して4時前に起床、急いで飯を食って5時に出発、上空は薄い雲が出ているが快晴と言って差し支えない。八ッ峰の荒々しい岩峰に朝日が差していた。テントは夜露で濡れることはなく、この分なら藪もおよそ乾いているだろう。

池平山と池ノ平小屋 大型連休に登った駒ヶ岳と滝倉山

昨年秋歩いた赤ハゲ、白ハゲの稜線

 

 固くなった雪渓を横断して無人の仙人峠着、どうせ誰も来ないからとベンチ横に大ザックを立てかけて、アタックザックに水、食料、ゴア、長袖シャツを入れて出発だ。最悪、帰りを室堂経由とすると室堂最終バスが16:30なので、休憩込みで真砂沢ロッジ発は遅くても5時間前の11:30、藪との格闘である程度体力を使うことを考えれば1時間くらい余裕を見たいところだ。そうすると安全を見てここに戻ってくるのは8時前後、今は5時半なので2時間半である。藪の状態を見ながら戻るタイミングは考えよう。

仙人峠から踏跡に入る 踏跡入口
まともな踏跡が続く 雨量計ピーク
雨量計ピークから見た展望(クリックで拡大)

 

 峠東側に立入禁止のロープが張ってあるはずだが大半が雪に埋もれており、雪田を横断して明瞭な踏跡に入る。やはり藪は乾いており今日は元気に藪漕ぎできるだろう。雨量計がある2190m峰は樹林が切れて草付きになっており展望良好だ。眼下には池ノ平小屋と反対側には仙人池ヒュッテ。目の前の仙人山の右手奥には坊主山が鋭く頭をもたげている。

雨量計ピークから見た仙人山 ダケカンバの藪に突入
色が抜けた赤布が点在 場所によっては明瞭な踏跡がある

 

 ここからいよいよ藪に突入。手の届く高さに色が抜けた赤布がかかっているので無雪期に付けられたものだろう、多少勇気づけられる。藪はさほどの密度ではない細い笹にダケカンバの樹林、それに背が低いナナカマドで、踏跡は皆無だがまだまだ藪漕ぎというほどではないので楽々進める。最初のうちは全く踏跡はなかったが少し進むと何となく踏跡のような藪が薄い筋が見出せるようになり、明らかに鋸か鉈のような刃物で切り落とされたと思われる切り口を持つ枝の断面もあって、つい最近ではないが明らかに手を入れた形跡があった。このまま坊主山まで続いていれば予想以上に楽ができそうだがどうだろうか。一番考えられるのは池ノ平小屋から上がってくる尾根が合流するピークまで刈り払った跡があるケースだろう。

仙人山山頂。背景は池平山 仙人山から見た雨量計ピーク
仙人山から見た坊主山〜八ッ峰(クリックで拡大)

 

 ナナカマドと柔らかい笹を掻き分けながら鞍部から緩やかな登りにかかるが、同じように薄い踏跡があって本格的な藪漕ぎどころか場所によっては明瞭な踏跡と言っていいくらいの場所もあり快調に登っていく。鞍部付近は背丈を越えるダケカンバもあったが登りにかかると木の高さも低くなり視界が開けてくる。登りきったピークは樹林が開けて低いダケカンバと少しの岩が点在して展望がいい場所で、地形図上の仙人山であった。念のためGPSで確認すると間違いなく仙人山山頂。標識等は皆無で何もなく、緩いピークである&この先には同じような高さのピークが並んでいるため、地図を見ながら歩いていないと山頂とは知らずに通過してしまいそうな場所だ。「落書き」は帰りにつけることにしてまずは先に進む。

人工的な切口。どこまで続くか? 仙人山北の2210m峰
このような青いグラスファイバー棒が点在 2つ目の2210m峰(U峰と呼ぶべきか)

 

 次は最初の2210mピーク(仙人山U峰とでも呼ぶべきか)向けて背丈より低い笹とナナカマドの尾根を進んでいく。ここもさほど藪は濃くなく、尾根上の右(東)直下に何となく藪が薄い筋があってそれを拾いながら進んでいく。色が抜けた赤布の他に青いグラスファイバー製の細い棒が点々と立っているのが見られうるようになったが、いったい何のための棒なのだろうか? そしてどこまで続いているのだろうか? ピーク手前で池ノ平小屋から上がってくる尾根と合流するが、今まで見たのと同じ色が抜けた赤布は見られるが踏跡は見られない。ここも大した藪はなく最初の2210m峰に到着、藪は薄く背が低くて好展望ピークだった。この先も同じような高さのピークが2つ続くが見える限りは同じような植生だ。

左端が仙人山本峰、中央がU峰 V峰から見た坊主山

 

 2つ目の2210mピーク(仙人山V峰とでも呼ぶべきか)とその先のピークへも笹や低い潅木に覆われて入るが、稜線右側にそこそこ高い木が無い一筋が見出せる。場所によっては石や土が露出したり草つきだったりと明らかに道らしい様相で、遠い昔の登山道の形跡だと確信できた。まだ青いグラスファイバー棒は立っているが、棒の新しさよりも道の跡の方がずっと古そうだ。稜線上には這松が混じるようになるが、道の痕跡はそれを避けている。

2200m峰(地図では肩)へと向かう 2200m峰から見たU峰(中央)
ここでも枝を打った形跡有 登山道跡らしき筋がある
2170m峰 坊主山への稜線

 

 頂上付近のみ這松に覆われた2200mの4つ目のピーク(仙人山W峰とでも呼ぶべきか)に立つと尾根が少し右に曲がり2170m峰手前でぐっと右に曲がるが今日は視界がいいので問題なし。今までより若干藪が濃くなり、藪の背が高くなり視界が途切れる場所もあるが激藪とはほど遠い状況だ。ダケカンバとナナカマド、それに薄い笹が中心であった。

 

2170m付近で最後の棒登場 2143m峰へと下る

 

 2170m峰へと登り返すと再び樹木の高さが低くなって視界が開け、てっぺん付近のみハイマツが生えていた。ここで左に屈曲しており、最初の下りは尾根の形状を成しておらず視界が無いときは苦労しそうだ。今までのような歩きやすい筋は全くなく、潅木と笹に覆われた藪に突入して周囲の様子を注意しながら下り、うまく尾根に乗るようルートを補正する。今までより背丈が高いナナカマドとダケカンバが中心だが、体を押し返されるような密藪ではないので助かる。それに藪の高さは人間の背丈をちょっと越える程度なのでどうにか視界は得られる。

再び尾根に乗り2143m峰へと登る 2170m峰を振り返る

 

 やや尾根を行き過ぎて東に寄ってしまったがうまく尾根に乗ることができた。ここで気付いたのだが、今まで降りてきた藪より東側が草付になっており、見上げると古い道形と思われる草に覆われた一筋のルートが浮き上がる。どうやら古い道はピークから下っているのではなく、もう少し東に下ったところから尾根に乗り移っているようだ。帰りに確認してみよう。今まで同様に尾根右側の所々で古い道形が出現、道形が無い場所はナナカマドと笹、ダケカンバの藪で、ちょっと藪が深くなったようだ。でも2143m峰近くになると尾根右側の古い道形が明瞭となりずっと歩きやすく快調に距離を稼げる。歩きやすいからと岩が出てきてからも右を巻いていると傾斜が急になって木につかまりながらトラバースする場面もあった。

2130m肩から見た坊主山。あと1.24km 2130m肩から見た2143m峰(右)と登山道跡
帰りの登り返しがつらそう 2070m2重山稜鞍部の残雪。ここで偵察終了

 

 這松に覆われた2130m肩から急激に高度を下げる場所にかかると古い道の形跡はすっかり消えて笹と潅木の藪がひどくなり、尾根直上しか歩けなくなって進路を尾根上に戻し、藪の中を下っていく。最初はかなり傾斜が急で藪の濃さもあいまって帰りのことを考えると苦労しそうだ。傾斜が緩んでも藪は深いままで、木の高さも高くなって視界が効かない。今まではそこそこ標高があったせいか傾斜が緩いところは展望地が多かったがここは完全に樹林帯に埋もれている。先の様子が見えないができるだけ周囲の地形を見渡しながら尾根を外さないように進んでいくが、どうも左手に尾根が移るようだ。そしてその間には小さな谷があり、白い残雪が見える。もしかしたらここが山頂渉猟の著者が帰りに体を冷やしたと書いている2重山稜の残雪だろうか。真新しいカモシカの足跡が印象的だった。ここのみオアシスのように藪が無い空間が広がっていた。ここは2143m標高点峰とその先の2080m小ピーク間の2070m地帯にある。

 時刻はそろそろ7:00で、帰りを考えると引き返す潮時だろう。GPSで残距離を確認すると1.24kmで仙人山から坊主山までの約1/3を歩いたことになる。もしこの先もこの調子の藪が続くなら無雪期でも充分到達可能と見た。自宅に帰ってからのカシミールによる計測では、仙人峠から坊主山までの道のり(片道)は約2.7km、仙人峠から今回の最終到達点までの距離は約1.45km、つまり今回の偵察で全行程の約54%を歩いたことになる。今回の偵察でかかった所要時間は往復約2時間半なので、藪が同程度ならば計算上は約5時間で往復できることになる。しかし山頂渉猟を読むと最低鞍部から先が藪が酷いらしく、最低鞍部までの標高差を考慮するともう少し時間がかかりそうだ。クソ暑い時期を避けて藪漕ぎすれは9時間はかからないだろう。

2130m肩から先は左を巻き気味に戻る 2170m峰へは左の草付きを登り藪皆無
草付きから2143m峰を見る こんないい道が付いてる場所も

 

 帰りの難関は2143m峰への登り返しで、傾斜がきつくて藪が深く、足は笹を踏みつけた状態で滑りやすいので笹や木を掴んで最後は腕力で登っていくとてっぺん直下でこちら側に幹が寝ている這松のお出ましだ。これ以外はさほど苦労する箇所は無かった。下りでは藪が深かった2170m峰から北に尾根が曲がるところは東の草付きで藪漕ぎを避けて稜線に出ることができて大幅時間短縮だ。ここのみ数箇所にテープを残した。

 

 行きの記憶があるおかげで帰りは藪が薄いところを的確に捉えることができた。それに藪に目が慣れてか、行きでは見えなかった道の形跡が藪の中に見えてきて、行きでは完全な藪だと思っていた場所でもうっすらと踏跡が見えることが多々あった。それとも引き返した2重山稜付近の藪の濃さと比較すれば2200mの一連のピークはどこも藪はずっと薄いからだろうか。とにかく帰りは行きよりずっと楽に感じた。

仙人峠 仙人峠から見た白馬岳周辺
仙人峠から見た梯子谷乗越方面
仙人峠から見た劔岳北方稜線(クリックで拡大)
仙人峠から見た後立山(クリックで拡大)

 

 無人の仙人峠に戻って少々休憩、今日は東京まで戻らねばならない。まずは真砂沢ロッジで内蔵助平経由の夏道が使えるかどうかの確認が必要であるが、そこまで行くのに2時間くらいかかるだろうか。大ザックを背負って暑い日ざしが照りつける中尾根を下っていく。最初は樹木が低いので多少風が通って心地よいが、すぐに背丈を越える樹林となって風がなくなり気温も上がってどっと汗が噴出す。もし梯子谷乗越を越えるとなるともっと気温が高い時間に通過することになるから今以上にクソ暑く、ここと同じように風が通らないのは間違いない。昨年夏はあまりの暑さで内蔵助平まででほぼダウン、梯子谷乗越で完全にダウンしてしまった経験からすると、標高差で損をしても剣沢雪渓を登り返したほうが涼しくていいかもしれないと考えるようになった。アルペンルートのチケットはどんな事態にでも対応できるよう室道往復で購入してあるので問題なし。まあ、真砂沢で考えよう。

今日の三ノ窓は稜線まで見えていた 梯子谷乗越方面の橋を渡す作業中

 

 二股でたまらずザックを下ろして冷たい雪解け水で体の汗をふき取ってリフレッシュ。気温は20℃前後で体を動かさなければ快適なのだが・・・・。時間的にあまりのんびりしていられないのでザックを背負って剣沢を南下、梯子谷乗越分岐では真砂沢ロッジの一同3人が橋に板を渡す工事中だった。私の姿を見て何事か話しているのだが水流の音で全く聞こえない。どこへ向かうのか聞いているのかと思って大声で叫んだが全く伝わらず、向こうが手招きするのでザックを置いて橋を渡ってひげ面の男性に近寄ると、今小屋は無人だから適当にベンチを使ってよろしいとのこと。黒部川沿いの夏道が通行可能か聞いてみたが、今橋をかけているくらいなので今シーズンはまだそちらからの登山者は皆無で不明とのこと。こうなれば暑さ対策を兼ねて素直に剣沢雪渓を登り返したほうがいいだろうと決心し、剣沢から室道に帰りますと答えてザックを背負いなおし、なおも剣沢を上流目指した。

 ここから夏道は一度高巻きして河原に下りて再び高巻きするが、2回目の高巻きは目の前に雪渓末端が見えているのでそのまま河原を歩いて小さな流れを渡り、昔の梯子谷乗越方面用登山道の梯子を登って雪渓に取り付き、あとは雪渓を歩いていった。高巻きするよりずっと楽だし、雪渓を吹き降りる冷たい風が火照った体に何とも心地いい。やっぱり樹林や笹の壁で密閉された梯子谷乗越や内蔵助平のコースよりこっちの方がいい。真砂沢ロッジで少々休憩するが、体を動かさないと吹き降りる風は寒いくらいで長袖シャツとジャージのズボンを履いた。

 さあ、この先が本日最も体力を消耗する別山乗越までの長い登り返しだ。涼しくて汗をかかないのは大いに助かるが、約1000mの標高差を稼ぐので体力と時間がかかる。それも偵察の藪漕ぎで既に体力を使っているので100%の状態ではない。1時間強で標高差400mを登ってひっくり返って休憩していたら30分も寝てしまった。出発してしばらくすると霧の中からボーっと人影が2人、男性パーティーが下ってきた。剣沢雪渓の上り下りで初めて人に会った。この時間だと真砂沢ロッジのお泊りだろうな。

剱沢雪渓末端

剱沢小屋

 

 次はどうにか剣沢小屋まで上がったが1時間半近くかかってしまい、ここで最後の腹ごしらえ。これで非常食を除いて飯を食い尽くした。まだ乗越まで標高差200m、通常体力だったら30分だが今の体力だと45分かなぁ。こういうマージンをみて峠出発時間を決めておいてよかったぁ。ゆっくり登っていくと針金を巻いたような環状のでかい荷物を背負った長靴を履いたおじさんとお客らしい女性が下ってきた。牛歩戦術でやっと峠に到着、ここからは下りだ。まだポツポツと登ってくる人がいるが日曜の午後なので数は少ない。残雪帯に出てからは靴を滑らせてスピードアップ&体力セーブだ。

僅かな時間だが劔岳が見えた 剱御前小屋向けて登る
雷鳥沢へと下る 地獄谷の噴気
硫黄の塔 沸騰する池。まさに地獄

黒部ダムから見た赤牛岳。奥木挽山はまだ雪がある

 

 雷鳥沢キャンプ場から最後の標高差200mの登りだ。疲れた体にはこれがきつい。少しでも楽をしようとピーク群を巻いて地獄谷経由で室道に向かった。地獄谷の噴気は非常に元気でゴーゴー音を立てて水蒸気を噴出す噴気孔が目に付いた。硫化水素も濃いようで風向きで水蒸気がこちらに流れてくると思わず咳き込むこともあった。熱湯の池の底からぶくぶくと沸きあがるこれまた熱湯。まさに地獄だ。最後の登りで雪を踏んでミクリガ池近くの遊歩道に飛び出し、なおも少し登ってようやく室堂ステーションが眼に入った。最終バスの25分前で、これから着替えるとちょうどいい時間だ。しかしこれだけ人が多いと着替える場所がないから、やりたくはない方法だがトイレの個室に篭って着替えを済ませる。日曜の夕方となれば大町方面への客はほとんどおらず、バスに乗り込んだのは10人を切る人数で、黒部ダムで増えたがバス2台でおつりが来る程度だった。


所要時間
7/12

9:30室堂−−10:10雷鳥沢キャンプ場−−11:31別山乗越−−11:43剣沢小屋11:55−−12:49真砂沢ロッジ−−12:57雪渓末端13:13−−13:20梯子谷乗越分岐−−13:44二股13:52−−14:27 標高約1800mで休憩14:48−−15:40仙人峠16:06−−16:14沢で水汲み16:25−−16:35池ノ平(幕営)

7/13

5:00池ノ平−−5:27仙人峠5:31−−5:39雨量計ピーク−−5:51仙人山−−6:04仙人山U峰−−6:08仙人山V峰−−6:19 2170m峰−− 6:31 2143m峰−−6:35 2130m肩−−6:47 2070m2重山稜(撤退)−−7:34仙人山V峰−−7:39仙人山U峰−−7:44仙人山7:47−−7:54雨量計ピーク−−8:00仙人峠8:15−−8:59二股9:22−−9:55梯子谷乗越分岐−−10:01雪渓末端−−10:20真砂沢ロッジ10:39−−11:50休憩12:17−−13:30剣沢小屋13:56−−14:42別山乗越−−15:23雷鳥沢キャンプ場−−16:07室堂

 

 

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