後立山 白馬岳、旭岳 2008年7月19-20日

 


 先週の坊主山偵察により今年は残雪が多いことは分かったが、アルプス級の標高でも谷筋以外はもう雪は期待できないことが判明し、涼しい時期が来るまでは藪漕ぎはやめて登山道がある森林限界を超える山で涼むのがいいだろう。いってみれば私にとっては「シーズンオフ」の山登りであり、私にとってのシーズン本番は残雪期でクライマックスは大型連休と言える。

 上高地周辺だけはこの時期でも登れる山が残っているが、天気が良さそうなこの3連休に上高地に入って待ちかまえているのは地獄の混雑だろう。行くとしたら夏の観光シーズンを過ぎてからが安全で、今は別の場所を考えた方がいい。ネットで山の天気予報を見ると南アより北アの方が予報が良く、登山口の標高(涼しさ)、登山道の涼しさ、テント場や水場の関係を総合的に勘案して猿倉から白馬岳とした。登山道の半分くらいは雪渓上を歩くので涼しさは他の山より格別で、ここしばらくの東京のクソ暑さから解放されるだろう。

 会社を終わって猛烈な蒸し暑さの中を出発、甲府盆地を過ぎれば窓を開けて外気を入れた方が涼しくなった。豊科ICで高速道を降りて市街地を走行すると道路脇の気温表示は24℃まで下がっていた。これなら猿倉はずっと涼しかろう。白馬市街地手前から八方尾根の案内標識に導かれて左に入り、舗装された県道をひたすら上がっていく。さすが人気の登山口なので私と同様に車中泊の車が何台か同行、まだ日付は変わっていない時間帯で駐車場の入りは2/3程度だったが、たぶん明日は満杯だろう。下山時には満配で下の駐車場も満杯で路肩に駐車しているくらいだった。

早朝の猿倉駐車場。背景は白馬岳 猿倉荘

 

 今回の目的は涼むことなので急ぐ必要もなく、村営宿舎に到着して幕営体制を整えてしまえばやることはないのでのんびり出発する。上空は高層に薄い雲がかかっているがほぼ快晴といったところだ。稜線にはまだ白い物が多く、今年の残雪の多さが分かる。これなら水場は大丈夫だろう。残雪期に使われる林道ルートはロープで塞がれており、猿倉荘から登りにかかる。これから出発しようと準備中の登山者が多い。

 樹林帯の登山道を緩やかに登り林道に出て緑の濃い中を歩く。残雪期は雪に埋もれた沢はしっかりと流れているので橋を渡る。その次のカーブで刈り払われた踏跡が右に分岐しており、これは冬ルートかと入ってみると冬に歩くルートより右寄りであったが刈り払われてしっかりと整備されていた。再び林道に出た場所は林道終点だった。

白馬尻小屋 ここで大雪渓に乗る

 

 整備された登山道で標高を上げていき、小さな沢をいくつか横切って白馬尻小屋に到着、たくさんの人が休憩中だ。さすが7月下旬近いので雪渓は後退して小屋よりもっと上がらないと雪にありつけない。少し登って白馬大雪渓のケルンが出てくる以前から右手には雪が続くようになり、ケルンで雪渓に乗る頃には広くて立派な雪原となっていた。大半の人はここでアイゼンを装着しているが、残雪期に歩いた経験では傾斜が増す小さな尾根まではアイゼンは不要で、おそらく今の時期ならその尾根は夏道が出ているはずなので登りではアイゼンの出番はないと思う。もちろん、念のために6本爪の軽アイゼンは持ってきているが。

大雪渓を登る。アイゼンは不要だった この尾根に取り付く。冬は急な雪面
ここからしばらく夏道 緑が濃く高山植物が咲いている

 

 雪渓を見上げると登山者の列が延々と連なっており、さすが人気の山だけある。雪は先週の剱沢と同様で微妙にスプーンカット化しているがまだ完全に氷化していないのでアイゼンが無くても問題なし。雪の上にはベンガラが撒かれてルートを指し示しているが、尾根に取り付くまでは雪渓歩きが続くので歩きやすいところを歩けばいい。雪渓から尾根に乗り移る場所は予想通り夏道が出ており、雪渓を登り切った多くの人がアイゼンを脱ぐのを兼ねて休憩中で、私も出発して2時間以上経過しているので少し登って沢の脇で休憩とする。ここまで涼しい風が吹き下ろす中を登ってきたため発汗は少なく疲労もあまり感じずに済んだ。冬装備よりもずっと荷物は軽いし、これなら余力を充分残したままテント場まで到着できるだろう。

登山道脇の大量の残雪 小雪渓のトラバース
傾斜が緩む 夏にここで残雪を見たのは初めてだ

 

 雪渓上では休憩する人の姿はほとんど見られなかったが、夏道に入ってからはあちこちで腰を下ろす登山者の姿が目立つようになり、先を歩く人の姿が徐々に減っていった。小雪渓のトラバースは雪がカットされてアイゼン無しでも安全に横断できるようになっているが、ここでもみんなアイゼンを装着していた。ここを通過してしばらくすると今朝猿倉を出発した登山者をほとんど追い越してしまったようで先行者の姿が見えなくなってしまった。本当に足が強い人は私の視界から消える範囲まで先行しているのだろうが。巨岩と標識がある場所は今年は雪に覆われており、やはり残雪が多いのが分かる。ベンガラは左をトラバースするように撒かれているが、ここはロープが流されているように直線的に登るのがいいようだ。ここも特にアイゼンを使う必要はない。

村営宿舎が見えてきた 振り返ると杓子岳と白馬鑓
缶ビールの自販機。屋外なので24時間購入可能 私のテントしかないテント場

 

 静かな登山道を登り切り、あまり疲労を感じないままあっけなく村営小屋に到着してしまった。まだ9時前で時間が有り余っているので、テントを設営してから白馬岳に登ってくるか。最初に見たときにカルチャーショックを受けたビールの自動販売機前(少なくとも南アでは見たことがない)を通って売店で幕営手続き。どうやらシーズン開幕前はここで手続きするようだが夏山シーズン開幕後はテント場近くの別棟で手続きするらしい。\500を払って領収書代わりの荷札の片割れをもらい、テントの目立つところに取り付けるように言われた。テント場に向かうとテントは皆無でどこでも張り放題。テント場の管理を任されているらしい老人が清掃中で、手続きは売店で済ませたことを伝えると、赤い荷造り紐を渡されて領収済み目印としてテントに付けるように言われた。さすがに小さな荷札の片割れでは見えないだろうからなぁ。テントはどこでも好き放題張れるが、トイレに近すぎず遠すぎずの位置で私のテントにジャストフィットするサイズの場所を選択。大きなテントが張れるような場所は大パーティーの大型テント用に取っておくのがマナーだ。なにせ大型テントが設営可能なスペースは限られているから。

白馬岳山頂を目指す 旭岳。やたら残雪が多い

 

 さあ、まだガスが上がらず天気もいいし白馬岳山頂で展望を楽しもう。もう午前9時半くらいで早朝の空気より濁って遠望は落ちているだろうが、もし明日早朝にガスられたらそれどころの話ではない。アタックザックに双眼鏡、水、食料、防寒着を詰め込んで出発。稜線に出ると北西の風がやや強いが体を動かしていると放熱にちょうどいいくらいだ。テントを設営している間に何人か登ってきたようで白馬山荘へと登る姿がチラホラ見られた。左手の旭岳の残雪も多く、トラバースルートは一部残雪に覆われたままだった。

白馬岳山頂 旭岳方面
白馬岳から立山方面
白馬岳から見た八ヶ岳、富士山
白馬岳から見たパノラマ展望(クリックで拡大)
白馬岳から見た南アルプス(クリックで拡大)
白馬岳から見た北アルプス(クリックで拡大)
白馬岳から見た黒部別山、坊主山(クリックで拡大)

 

 山荘を通過して岩稜と草付きの尾根西側を登り切るとまだ人が少ない白馬岳山頂。残念ながら東側は雲がわき上がって展望はイマイチで、期待していた上越国境や奥日光方面は雲の向こうだった。しかし南アは霞んではいるが光岳や池口くらいまで見えているようだ。コントラストが低くデジカメの液晶画面ではどこを撮影しているのか全く確認できないほどで、光学ズームいっぱいでこの辺だろうとシャッターを切ったが、聖岳くらいまでは入っていたがそれより西側はフレームからはみ出てしまっていた。光学ズーム無しでは写っているが距離が遠くて分解能不足で個々の山は判別できなかったが、肉眼で見た限りは尖った池口岳が見えていたので、深南部北部まで見えていたようだ。北アは距離が近いせいもあって槍穂もクッキリ、たぶん3連休で今日は大賑わいだろうな。水晶岳付近もだいぶ白い。奥木挽山付近は残雪が見られるが稜線の7,8割はハイマツが出てしまっている。やっぱり次のチャンスは来年の残雪期だろう。立山剱はすっきり見えているが旭岳が邪魔で大型連休中に登った滝倉山は見えない。そうだ、時間があるので旭岳も登るか。

白馬岳から見た旭岳、清水岳 谷を歩くカモシカ発見(光学6倍ピクセル等倍)

 

 祖母谷方面分岐から西に向かっていると、右の谷の雪渓上に黒い物体が動いているのを発見、歩き方からしてカモシカらしいがデジカメを構えた頃には無雪地帯に入られてしまい、保護色でどこにいるのか判別不能になってしまった。しょうがないのでこの辺だろうと適当にアングルを決めて撮影、帰宅後に写真判定したところ無事写っていた。ただしピクセル等倍にしないと小さくて分からないくらいだったが。距離が離れているのでしょうがない。

鞍部へと下る 雪渓のトラバース。日中はノーアイゼンでOK
中背山が近い 清水岳も大量の残雪

 

 さて、旭岳へのルートだが、東尾根に明瞭な踏跡があるのは前回登ったときに分かっているが、これだけ天気が良くて周囲から丸見え状態で正式な登山道とは言えないルートを堂々と歩く自信はなく、今回は稜線から見えない南西尾根から登ることにした。この尾根分岐には赤ペイントで「旭岳」と書かれているのを見たことがあり踏跡があるらしい。ベンガラを頼りに緩い雪面をトラバースして夏道に出て次の雪面のトラバースが若干心配だったが、雪が緩いのでアイゼン無しでも大して問題はなく通過し、南西尾根から下りにかかるところで記憶通り「旭岳」の文字があり尾根上に薄い踏跡があった。もっとも、この標高でこの植生だと藪はないので崖さえなければ問題なく登れるが。

南西尾根を登る こんな踏跡あり
東尾根と合流 旭岳山頂

 

 踏跡は薄く部分的に見えなくなる区間もあるが、ハイマツを避けて高山植物を踏み荒らさないよう歩きやすい石をつなぎながら登っていけばいい。特に危険箇所もなく淡々と高度を上げていくと小ピークで東尾根と合流、明瞭な踏跡に乗って北上すると小さな金属プレートがある山頂に到着、岩稜帯で木はないので展望はすこぶる良く、西を見ると残雪が豊富に残った清水岳。私が猫ノ踊場に登った時より少し少ない程度で、この時期にしてはびっくりするくらい多く、清水岳直下で雪解け水が得られるだろう。小旭岳は藪が出てしまっているが半分くらいは残雪が使える。駒ヶ岳〜毛勝山までの稜線も見えているが若干コントラストが落ちていて肝心の滝倉山と毛勝山の尾根が重なって分離が難しい。

旭岳山頂のコマクサ 東尾根を下る。明瞭な踏跡あり
ジグザグに道が付いている 最後は残雪に乗る

 

 時間はまだたっぷり余っているしここに登ってくる人はほとんど皆無なので、山頂で堂々と昼寝することに。日差しが強いが弱い風があって地面にひっくり返ると快適な体感温度だ。予想通り誰も登ってくることはなく静かな山頂のひとときだった。面倒なので下山は東尾根を下ってしまうことに。記憶通りに明瞭な踏跡がジグザグに付いており高山植物を踏み荒らすこともなく残雪帯に到着、適度な傾斜なので靴を滑らせて快速で下っていくと鞍部で休憩中の男女がいた。この時間でこの軽装だから祖母谷方面へ行くわけではなく私のように静かな場所で休憩したいのだろう。県境稜線は賑やかであるが、ここまで足を延ばす人は皆無とは言わないがほとんどいない。

お昼頃のテント場 午後4時前後のテント場。もう満杯
午後に入っても登山者の列が続く 水源の雪渓はロープで通行止め

 

 稜線に上がってテント場を見下ろすと到着時の更地が嘘のようにテントがびっしりではないか。好天の3連休初日で人気コースとあってはこうなるのが当然か。早い時間にテントを設営してしまって正解だった。これだと長距離歩いて夕方に到着するパーティーはテントを設営する場所が無いのではなかろうか。その心配どおり夕方到着のパーティーはトイレ前に張ったり、その後はヘリポートの方へ誘導されていた。

 丸山に登って最後の展望を楽しんでからテントに戻る頃にはガスが上がってくるようになり、適度に日影になってテント内でも快適に昼寝できた。夕方ガスが晴れてから稜線に上がってみたが周囲は雲に覆われて展望はなく、明日朝に期待したいところだ。先週と同じ装備での標高2700mだったがちょうどいい暖かさだった。水を汲みに行くと水源の雪渓はロープが張られて入れないようになっていた。しょうがないので少し下って登山道脇の沢で水を汲んだが、テント場受付横に超大型ポリタンクがあってそこで水を自由に使えるようになっていた。小屋の水源は雪渓の雪解け水だが、今は通行止めの場所より下流でポンプアップしており、上で洗い物等をされると小屋の水が汚染されるために入れないようにしたのだろう。それとも今年は雪が多すぎて例年は別の沢から水を引いているのがまだ雪に埋もれて使えないのでこのような措置をとっているのだろうか。

 翌朝は3時過ぎに起床したが上空は雲に覆われているようで星は見えず、1時間ほどまどろんで薄明るくなった外を見ると低い雲に覆われているようだった。4時半くらいにテントから出て稜線に上がったが白馬岳は雲の中で劔岳等もガスで全く見えず展望を楽しむどころの話ではない。こりゃ、テントで時間をつぶして適当な時間で下山するしかないか。ところが明るくなってくると雨粒がテントをたたき出したではないか! 確かに昨夜の天気予報では北陸は曇りだったが雨とは言ってなかったが、下界と高山では天気が異なるのはよくあることだ。さすがにこの天気では長居する気にならず、朝食を取って下山することにした。雨は強くはないが霧雨よりは粒が大きく雨具を着ないと濡れてしまう程度は降っており、テント内でゴア上下を着てザックにはテント以外をパッキングしてザックカバーをかけてから外に出して雨の中でテントを畳んだ。せっかくの3連休だからかこの雨でも稜線に向かう人が大半であったが、この天気では残念だろう。ガスって猛禽類に狙われる心配がないので雷鳥でも出てくればいいが。

 下山している人は私だけではなく前方にポツリポツリと見えているが多くはない。小雪渓のトラバースは私だけノーアイゼンのまま進んだので入口で数人を追い越し大雪渓取り付き点へ。最初だけやや傾斜があるがノーアイゼンでもぎりぎりいけそうな程度だが、大衆の目の前でコケるのもみっともないので軽アイゼンを装着することにする。必要なのは最初の100mくらいだが、歩きだしてしまえば脱ぐのが面倒で大雪渓が終わるまで付けたままだろうな。6本爪は前の方に歯が無く12本爪とは使い勝手が違うが、下りは踵の方でブレーキをかけるので問題なく次々と人が登ってくるトレースを避けて適当に下っていく。さすがにアイゼンさえあれば怖いもの知らずで透明に氷化した部分でもしっかり食いつく。怖がってへっぴり腰になるとスリップしやすく、踵で蹴りこむように足を出すのがコツだ。まあ、コケたとしても白馬大雪渓は上部以外は大した傾斜は無いので長い距離滑っていくことはないだろうが。

 

 ゴアを着たままで通気性が悪いこともあるが、高度が下がると徐々に気温が上昇し、雲で日差しが無いのに汗が噴出してくる。雪渓から夏道へと乗り換えるところでアイゼンを脱ぐと同時にゴアも脱いで涼しい格好に復帰、たまに雨粒が落ちてくるが山の上と違って濡れるほどではないので気にせずそのまま歩いていく。白馬尻小屋を過ぎて林道に出て橋で沢を越えるところでザックを下ろして顔を洗い、濡れタオルで腕と足の汗をぬぐって気分爽快! 満車の駐車場で濡れたテントを広げて干しながら着替えをしたが、ここでも時折雨が落ちてきてテントを完全に乾燥させることはできなかった。白馬市街地でも雨が落ちてくる天気で、どうやら今日は稜線上は1日中雨だったかもしれない。大町で温泉に入り南下したが、北ア、乗鞍は軒並み雲の中で姿が見えず、高速に乗って茅野まで南下して目に入った八ヶ岳はいい天気だった。南アは鋸岳は見えたが他は雲の中だがお昼過ぎだったので熱雲が上がってきたのかもしれない。


所要時間
7/18

4:51猿倉−−5:28林道終点−−5:49白馬尻5:53−−6:05大雪渓−−7:15尾根に乗る(休憩)7:32−−8:40村営宿舎9:05−−9:34白馬岳10:05−−10:17祖母谷分岐−−10:45南西尾根−−10:59旭岳12:28−−12:53村営宿舎

 

7/19

6:31村営宿舎−−7:18大雪渓7:22−−7:41夏道7:44−−7:53白馬尻−−8:06林道終点−−8:40猿倉

 

 

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