日高前衛 十勝幌尻岳 2008年9月14日



 日高最高峰は百名山の幌尻岳であるが、日高東部の十勝平野に近い尾根上に十勝幌尻岳(略して勝幌)の名を与えられたピークがある。1800mを超える高さで森林限界を超え、日高主稜線から離れているのでずらっと並ぶピーク群を眺めることが可能な展望台の山らしい。登山口からの標高差は約1200mで私の通常体力なら日帰りは問題ないが、なにせ前日はピパイロ岳往復の標高差約1700mを上下したばかりなので足がもつか心配だ。しかし好天が予想されるこの日にぜひとも登って昨日見えなかった日高の山々を眺めたいと考え、スローペースで登ればどうにかなるだろうと挑戦することにした。

戸蔦別林道入口 戸蔦別林道入口の案内標識。かなり立派
オピリネップ林道入口。十勝幌尻岳の文字は無い オピリネップ林道入口の標識。見落とさないよう注意

 十勝幌尻岳はエアリアマップの範囲から外れているがガイドブックがあるので大丈夫。登山口は戸蔦別川沿いの林道を遡りオピリネップ川沿いの林道終点にある。帯広市街地で買い物を済ませカーナビの指示に従って南西を目指し、帯広市八千代から拓成町に入り戸蔦別川を橋で渡って次の分岐で戸蔦別林道に入る未舗装となるが普通車でも全く問題ない。林道入口には立派な案内標識があり見落とすことはないだろう。しかしこの先がいただけない。この立派な標識を見ればきっとオピリネップ川沿いの林道入口にも案内標識があると誰もが考えると思うが、じつは林道分岐には標識がなく私も通過してしまった。カーナビ画面で十勝幌尻岳が真南から南東に見えるようになり、いくらなんでもおかしいと気づいて逆戻り。林道入口から少し行きすぎたところにあるはずの戸蔦別ヒュッテも見当たらないのも気づくのが遅れる原因だった。戻りながら南に入る林道は全部チェックしていくとオピリネップ林道を発見、これが登山口への林道のはずだ。しかし勝幌の文字はどこにも見えない。勝幌山頂で話した人も私同様に行き過ぎており、中には3回目なのにやっぱり林道入口を通過してしまった人もいた。ここは手製でもぜひ標識を設置してもらいたい。

オピリネップ林道も普通車OK

林道終点の駐車場


 オピリネップ林道は戸蔦別林道より1段グレードが下がるがここも普通車でも問題なく走行でき、終点に車10台程度が置ける駐車場が登場、登山口だった。ガイドブックではここは「下の土場」と書かれた場所でもっと先に「上の土場」がありここまで車で入れると書かれているが、それは10年前の話で今は廃林道化寸前で普通車では無理だ。もっとも、翌朝歩いたら大した距離はなかったので下の土場から歩いても大差ないので素直にここから歩くのが良い。普通は日帰りの山なので車中泊する人はいないのでこの時間は無人だ。適当に駐車して酒を飲んで早めに寝た。さて、明日までにどこまで体力が回復するだろうか。

登山口の半廃林道 こんな風に笹がかぶっている
右岸に渡る橋 左岸に渡る橋

 翌朝は夜明け前に起床し5時半に出発。登山口には入林届があるのでノートに記帳を忘れない。半廃林道を少し歩くとすぐに「上の土場」に到着、ここから山道になる。オピリネップ川を橋で右岸に渡るが再び左岸に渡り、その後はずっと左岸を遡上する。沢沿いの道は渡渉が必要な個所や特に危険個所はなく踏跡や目印を頼りに淡々と登っていく。十勝幌尻岳はどのくらいの登山者が登るのか知らないが、道の濃さは昨日の伏美岳以下、ピパイロ岳よりちょっと上といったところだった。両側から笹がかぶるところもあるがその下にはしっかりした空間があるので足への抵抗は少ない。ところによっては廃林道らしき区間もあった。

沢沿いの道。左側にある 中央付近に踏跡あり
沢から離れて尾根に取り付く 標高1400mまでは笹が続くがちゃんと道がある

 たまに沢を離れるときがあるが再び沢沿いに戻り、いつ沢を離れて尾根を登るのかよくわからなかったが標高約900mで傾斜が増して沢を離れた。登山道として開かれたわけではなく廃林道に登山道をつけたらしく、笹には覆われているが斜面の中に幅が広い平坦な場所が散見され、尾根を直線的ではなくジグザグに登っていく。沢沿いよりも笹が増えるが十分な刈り払いがされているわけではなく、両側から覆っているので半袖では腕が傷だらけになってしまい、暑いのを我慢して腕カバーと手袋をする。まあ、暑いのは体を動かしている時だけで休んでいるときはTシャツでは寒いだろうな。途中、少し登山道が広くなって笹を避けて休めるところで休憩する。今のところ予想より疲労は抜けていて牛歩戦術でなくても歩けている。

ここが標高1400mの笹終点。奥が笹原

笹終点から先はモミジ類の樹林


 ガイドブックによると標高1300mくらいで笹が切れると書かれているが、実際は約標高1400mで笹が続き、ある場所でぱったりと笹が消えてモミジの類の低い樹木が生える樹林帯に変貌する。笹の消え方はデジタル的で本当にある場所を境に全く消えうせる。これでやっとTシャツになれて涼しくなるか。笹が消えると道は明瞭になり完全にピパイロ岳の道のグレードを大きく超えてエアリアマップの赤実線クラスといえよう。

少し紅葉したダケカンバ樹林 北尾根に乗る
眼下には十勝平野が広がる快晴の天気 山頂向けて這松の登山道を登る

 標高が上がると大きなダケカンバが目立つようになり僅かに紅葉が始まって葉が少し黄色くなり始めていた。やがて傾斜が緩んで尾根が狭まり、尾根直上に這い松が混じるようになり北尾根に乗ったことが分かる。登山道はまだ少ない這松を避けて付けられている。さらに標高を上げると森林限界を突破し、一面の這松の海に一筋の登山道が伸びているのが見える。振り返ると広大な十勝平野と帯広市街地が広がる。今日は昨日と違ってドピーカンで雲一つない快晴、山頂からの展望が楽しみだ。

登ってきた北尾根 十勝幌尻岳山頂。背景はカムイエクウチカウシ山とその近辺
十勝幌尻岳から見た東カールと幌尻岳
十勝幌尻岳から見たカムイエクウチカウシ山(右のピーク)と八ノ沢カール
十勝幌尻岳から見た日高山脈(クリックで拡大)

 ちょっと寒いくらいの風に吹かれながら登り切ると待望の勝幌山頂に到着。今日は私が一番乗りだ。山頂からの展望は期待を裏切らず、日高主要部はすっきり見えている。さすがに北海道の山は私では山頂同定は不能なので、持ってきたガイドブックの展望写真の解説を見て同定する。最も目立つのはきりりと締まった三角形のピークで、これが日高第2位の標高を誇る1等三角点のカムイエクウチカウシ山(カムエク)であった。南アで言うと甲斐駒のような存在か。次は百名山で日高最高峰の幌尻岳。カムエクとは逆に広くなだらかな稜線を見せ、南アで言えば仙丈ケ岳であろう。両者ともこの標高でカールを抱き、まさに3000m峰の雰囲気だ。この両山はいつか必ず登ってやると心に誓った。そう思わせるに十分な姿だった。目の前には札内岳が天を突くが、ここは登山道がない。昨日歩いたピパイロ岳〜伏美岳の稜線もくっきり見えていた。少し南に目を向けるとドーム状の高峰が目立つ。あとでわかったのだが1839峰であった。これも登りたくなる姿だった。ペテガリ岳以東は雲が湧いて見えなかったのはちょっと残念。

 ガイドブックに書いてあったが、十勝幌尻岳は予想以上の好展望で、できれば十勝核心部に登る前にここでそれらの遠景を眺めることをお勧めする。絶対に登高欲をそそられるに違いない。まさに日高の展望台だった。

 山頂到着から10分程度、展望を楽しんでいると次のお客が到着。私が登山口を出発した時は他に車がなかったので、たぶん私よりかなり速いスピードで登ってきたのだろう。若い男女のカップルで、地元の人らしく男性の方は日高の山に詳しかった。こちらは今日はここしか登らないので時間はたっぷりあって山頂で時間をつぶすつもりだが、2人は少し休憩して展望を楽しんだあと下っていった。次に登ってきたのは単独男性で、話を聞くと釧路からやってきたとのことで、千歳から来るより遠いだろう。昨日は眼室岳に登ったというから、私よりは残存体力は多いとは思うが、それでも標高差はおよそ1150mはあるので連チャンにはきついだろう。それに明日はピパイロ岳往復を考えているというのだからタダモノではない。その後もポツポツと登山者が登ってきたが、札幌からやってきた夫婦らしい男女の中高年ペアが最もベテランらしく、道内の山の事情に詳しかった。日高の山も相当登っているようで、ペテガリもカムエクも幌尻も、それどころか札内岳でさえ無雪期に登っていた。いやはや、勝幌はこういう人も登る山だったのか。今日は山頂で長時間話し込んでしまった。

 話の中で遭難についての話題が出た。北海道では100名山巡りで本州等の遠方からやってくる登山者が多く、会社の仕事や経費、日程の関係で悪天でも登山を強硬して遭難する例が多いとのこと。連日の登山で疲労が蓄積した状態で台風の山に登って風雨にさらされれば体温が低下して疲労凍死に至ることも少なくない。数年前の10月の体育の日を含む3連休に、欅平から白馬岳に向かった九州のパーティーがこの年はじめての吹雪にあい、7人パーティーのうち4人が凍死したことがある。この日は私もアルプスに行こうと考えていたのだが、西高東低の気圧配置を見て稜線は強風でガスって見えないだろうと取りやめたのだが、わざわざ九州からやってきたこともあって東京から出かけるのとは気持ちが違うのだろう。私の場合は飛行機を使った遠くの地域の山行はやらないので(出張のついでならあるが)事前にあちこち予約する必要がある山行はしないので天候によって柔軟に行き先を変えられるが、飛行機、レンタカー、宿等の手配をした後でキャンセルすると金はかかるし、まとまった休みを取れるチャンスは少ないだろうから無理をするのもある意味当然だろう。しかし、命を落としてしまっては元も子もない。私も無理しないよう気をつけなければ。

 最初は風があって寒く、長袖シャツにゴアを着てもちょっと寒いくらいだったが(気温は10度)、時間経過とともに風が弱まり体感温度が上昇して快適な環境になった。本州では湿った南風が入って天気が悪いというからこの3連休は北海道に来れてラッキーだった。居心地がよくなんだかんだで3時間以上山頂に滞在後、下山開始となった。時刻はお昼近いがまだ登ってくる人も見られた。本日のお客総数は10人くらいだった。勝幌の有名度がどの程度か不明だが、本州の山と比較すると登山者数は少なそうだ。上の土場で沢で水浴びしてから車に戻った。

 駐車場に戻ると釧路の男性が出発するところで、麓の八千代にあるユースホステルに宿泊とのこと。こちらはいろいろ考えた結果、千歳への帰りを考えて芽室岳周辺の山にすることだけ決めていたので、昨日同様に新嵐山荘で入浴して芽室市街で買い物をして車中泊となりそうだ。林道を下って戸蔦別林道に出ると林道脇にポツポツ駐車している車が見られたが釣り客だろうか。戸蔦別林道の轍の濃さは登山客のものではなく釣り客のものらしい。

 激安入浴料(\260)の国民宿舎「新嵐山荘」で汗を洗い流し、芽室駅前のスーパで買い物をして次の目的地に向かった。


所要時間
5:30登山口(下の土場)−−5:36上の土場−−6:25沢を離れる−−7:05標高1220mで休憩7:21−−7:44標高1400mで笹が終わる−−8:25北尾根に乗る−−8:39十勝幌尻岳11:34−−12:21沢に出る−−13:05上の土場(水浴び)13:11−−13:15登山口

 

 

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