槍穂前衛 長七ノ頭 2008年10月18日

前ルート地図
長七ノ頭ルート地図
上高地BS〜明神
明神〜長七ノ頭
明神〜徳沢

 穂高の東側には標高2500m前後のこぶが3つある。南から長七ノ頭、茶臼ノ頭、屏風ノ頭である。屏風には屏風ノ耳というピークも付属し、都合4つの山名事典記載の山がある。ここは全く道がないわけではなくエアリアマップでも破線が描かれておりそのうち登ろうと考えてはいたが、昨年9月にDJFが登って状況が明瞭になり、さほど問題となる場所は無さそうなのでとりあえず後回しにしていた。今年に入って登り残しが減ってきたなかで、ここは西穂の稜線に続いて数がまとまったおいしいエリアであり、秋の涼しい時期に登ることにした。上高地は「行きはよいよい帰りは怖い」の場所で、何年か前の夏に霞沢岳に登った帰りに大混雑(正確には大渋滞)で上高地から出るのに5時間近くかかって以降、シーズン中に足を向けることは無くなった。しかしDJFが提唱する「上高地は3連休の次の週は混雑が少ない」とする法則に従って体育の日の3連休があった次の週に入ることにした。

 DJFは初日に徳沢まで入って屏風ノ頭と茶臼ノ頭に登り、徳沢で幕営しているが、5時少し過ぎの始発バスで上高地に入って徳沢に戻ったのは午後4時半近い。DJFの足でこのタイムであるから私の足でも同程度だろう。何せこのルート取りは徳沢までの2時間の水平移動の後に屏風ノ頭まで標高差1000mを登って700m下り、今度は茶臼ノ頭まで標高差700mを登り返すわけだから、常識的には無謀な計画だろう。もちろん、私では不可能ではないだろうが、DJFが入ったのは私の約1ヶ月前の9月中旬で、現在は日の出は遅く日の入りは早い。初日の睡眠時間を確保するためには出発が5時はきつく、6時くらいを考えていたのでこれで約1時間の遅れが発生し、徳沢に到着する頃には真っ暗になってしまう。しかたがないので初日は軽く長七ノ頭を往復して徳沢でマッタリすることにした。当然、DJFの記録がガイドブックである。

 少し風邪気味で体調不良だが、基本的に幕営装備を背負って高所に登ることは無く、梓川沿いに歩くだけなので比較的負担は少なく、動き始めてしまえばどうにかなるだろうと考えて出かけた。松本ICで降りて沢渡上の松本電鉄駐車場に車を置いた。金曜夜だが1/4程度車で埋まっていた。明日はどうなるだろうか。

朝一の上高地バスターミナル

河童橋は朝から賑わっていた


 翌朝、ネットでは始発は5時半くらいのはずだったがDJFの記事どおり5時少し過ぎの真っ暗な時間に始発バスが上がっていった。朝飯を食ってパッキングを済ませバスに乗ったのは計画通り6時前でやっと明るくなってきた時間だった。夏なら満員の時間帯だろうが今の客の入りは定員の1/5くらいだった。しかし上高地のバスターミナルは観光客も混じって賑わっていた。昼間はもっと賑やかなのだろう。河童橋も相変わらずの人手で都会並みだ。ライブカメラをちらと見て先に進む。その手前の六百山入口はひっそりとしていた。

梓川沿いから見た明神岳と長七ノ頭 明神館
明神橋から見た明神岳と長七ノ頭(パノラマ合成写真)
研究施設入口。標識がないので見落とし注意 水が抜かれた生簀と研究施設

 明神館で左に入って吊橋を渡り、DJFの記事に従って林道を上流方向に歩くとすぐに左に分岐する砂利道があり、少し入ったところに車止めがあったがそのまま直進、今は使われていない生簀の奥に研究施設の建物があった。ここが長七ノ頭登山口である。建物の裏手で大ザックからアタックザックに荷物を移していると軽装の単独男性がやってきた。年齢は60過ぎくらいか。たぶんひょうたん池の往復だろう。少し話をすると毎年この付近を歩いているようで、ここで人に会うのは珍しいという。私にはDJFの記事があるので肝心なところは迷うことはないと思うが、この人の方が詳しいのは間違いないので後方を歩くことにした。

長七ノ頭登山口。ここも標識無し 古ぼけた2連の橋を渡る
踏跡、目印を頼りに笹原を進む。人物は単独男性 やがて土石流の跡?が広がる涸れた沢になる
男性に先導され涸れた沢を遡る。時々目印あり 左岸にこのガレた斜面が登場したら分岐は近い
ここが沢の分岐。非常にわかりにくい この石のペイントが目印。ガレた左岸を登ると目的の沢

 沢沿いの古びた護岸のコンクリート上を歩いて木の簡単な橋を渡って笹原の緩斜面に続く踏跡を辿る。目印は多数あって迷う心配はなさそうだ。やがて笹原が終わって土石流が押し出したガラガラの石ころだらけの水が無い沢に変貌、これが下宮川谷で歩きやすいところを適当に登っていく。先行者の話ではここは毎年のように沢の様子が変わっているそうだ。よって私の話がそのまま今後も通用するか不明である。以前はこのまま左岸を歩けたようだが今回は途中で絶壁に突き当たってしまい、水が無いガラガラの沢の中に下りてそのまま沢を登ることにした。時々目印やケルンがあるが、何せ一面の石ころなので踏跡は残らず、適当に歩きやすいところを拾っていく。やがて右手に広いガレた白い斜面が出現、ここがDJFがあげた谷分岐の目印だ。これより少し上流側で右に谷が分岐するはずである。たぶん距離にして100mくらい登ったところだろうか、本流を通せんぼするように倒木が横たわっており、右上方の木にいくつも目印が付けられている場所で先行の男性が休憩中だった。沢の中の大きめの岩には赤ペイントがあり、ここがDJFが登りで見落として直進してしまった分岐だった。このコースの最大の「キモ」であり、ここをクリアすれば半分登ったも同然だ。

小さな沢に入る。水は無く目印、踏跡あり

どんどん沢を遡る


 男性はタバコを吸って休憩中なので、ここからは私が先頭で歩く。ガレた岸を這い上がって狭い谷に入ると明瞭な踏跡と目印がルートを教えてくれるので迷う心配は皆無だ。ここも全く水は流れておらず沢の真ん中を歩いていく。笹が両側からはみ出した区間があるが胸ほどの高さだし沢自体には笹は生えていないのでさしたる障害にならない。ま、朝露で笹が濡れていたらイヤだが、今は完全に乾いている。

樹林がまばらになってくる 樹林を抜ける
石ゴロゴロの河原のような広い谷になる 長七ノ頭の左側の谷を目指す

 沢が浅くなると踏跡は右岸側に上がって薄い樹林帯を登り、最後に低いカラマツ樹林が切れると広大なガレた斜面に出る。なるほど、これでは石がゴロゴロの河原を歩くのと同じで足跡が残らないので踏跡が薄いわけだ。しかし判別できないほど踏跡が薄いわけではなく、クイズ感覚で踏跡探しを楽しみながら歩ける。たとえ間違っても藪があるわけではないのでどこでも歩ける。ただ、登りはいいが下りでガスられて視界が無い場合はこの谷に着地できるか怪しい広さだ。暇があったらケルンを積みながら登るといいだろう。

宮川のコルに立つカラマツと明神岳の岩壁 こんな広い斜面が続く
宮川のコル付近から見た明神岳パノラマ写真

 やがて小尾根が斜面に吸収されるところを通過、これが宮川のコルだろうか。ポツンと立った紅葉したカラマツがいい目印になる。ようやくひょうたん池のある鞍部が目に入る。DJFはあの辺りはルートを外してハイマツに突っ込んだらしいが、遠めに見るとどうやら谷のど真ん中に踏跡があるように見える。それさえ分かれば途中のルートは外しても藪が無いところを適当に選んで登り、最後は谷を目指せばいい。

1か所だけ樹林帯の小さな谷を横断する

3枚のレリーフが埋まる壁の下を通る


 この先も河原地帯が続き、斜め上にと登っていく。時々ルートを外すことがあるがちょっと周囲を見れば何となく踏跡らしい筋を発見したり、赤テープの目印やケルンで正解にたどり着けた。小さな谷を下ると久しぶりに樹林帯を歩き、それが終わると3枚のレリーフがはめ込まれた絶壁直下を歩く。おそらく明神岳東稜での遭難者の慰霊だろう。

ケルン、目印と薄い踏跡あり こういう場所が一番踏跡が薄い
鞍部が近づいてくる 鞍部直下。明瞭な踏跡あり
ひょうたん池 鞍部のテント適地
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 なおも斜めに登っていき草つきの広い谷を登っていくと、ひょうたん池直下になって笹に霜がおりたようで、それが解けて露となってズボンを濡らす。帰りにはガラガラの斜面を歩いているうちに乾くだろう。登りつめたところがひょうたん池だった。確かにひょうたん型をしているが、なんとも小さくかわいい池だった。池の西側の踏跡辿ると鞍部に到着、ここは笹が無く砂地が出てテント場に最適だ。ただし水が無いのが難点だが。2,3張は設営できそうだ。谷を隔てた向こう側には明日登る予定の茶臼ノ頭が高い。南側には藪尾根が延びており、これのどこかが長七ノ頭だがここからでは特別高いところは見えない。明神岳方面には明瞭な踏跡と赤テープが続いていた。たぶん私がここを登ることは無いだろう。

鞍部から明神東稜 鞍部から長七ノ頭方面。最初だけ踏跡あり
藪区間もあるが全体的には藪は薄い 藪の中にこんなものが。雪がある時期のものか?
これを登ると山頂 長七ノ頭山頂

 まずは山頂を往復しよう。鞍部から少しの間だけ踏跡があるがすぐに消失し、ハイマツ混じりの藪の薄いところを選びながら進んでいく。最初からハイマツのお出ましなので先が思いやられたが最初だけで、あとは濃くない笹とシラビソ、潅木が交互に現れ、しかもさほど濃くなくもがくような藪は出てこなかったので大助かりだ。主に稜線の東側を巻き気味に進んでいった。僅かに低くなったような場所を通過すると明らかに今までより高い一角が現れた。露岩ではないがハイマツが絡んでなかなか趣がある。DJFの記事では北側からでは上がりにくいと書かれていたがさほどのことはなく、ハイマツの隙間から山頂に立った。

DJFのリボン 今年6月につけられたテープ
長七ノ頭から見た明神岳(クリックで拡大)
長七ノ頭から見た常念岳〜霞沢岳(クリックで拡大)

 山頂は露岩の上で展望がよく、低いシラビソの枝にDJFのピンクリボンがぶら下がっていた。その他にも今年6月の日付が書かれた黄色い絶縁テープも下がっていたので池だけでなく山頂まで足を伸ばす人もたまにはいるようだ。ここから見る明神岳は荒々しく、天を突いている。もっとも、ここから見えているのは山頂なのか途中の肩なのか分からないが。南に目を向けると牛の背のようななつかしの小嵩沢山。今の時期は深い笹薮だろうな。パノラマ写真を撮影して鞍部に戻ることにする。DJFと同じく帰りは山頂北側から北西に下る水の筋のような藪が薄い地帯を下っていくとひょうたん池の一番奥に出た。こちらの方が藪が薄くて登りに使うのにいいだろう。池の周りだけ潅木の藪があり、それを押し分けて踏み跡に出た。

帰りは尾根上ではなく西よりの小さな谷を下った 最後はひょうたん池に出た
鞍部から見た茶臼ノ頭 明神東稜を行く怪人並みの男性

 鞍部では先ほどの男性が休憩中でいろいろ話をしたのだが、これが武内さんなみの猛者であった。東京に住んでいるとのことだが最近3カ月はずっと北アルプス付近に留まって山歩きだそうだ。さすがに毎日では体力が続かないので週のうち数日は下界に降りて洗濯や入浴等をするそうだが、あとは山に入り浸り。一般人だとこのような生活では生活費が稼げないので不可能だが、見た感じでは定年過ぎらしいので年金生活なのだろう。マイカーは持っていないので公共交通機関を使っているそうだ。

 今日はこれから明神東稜を登って岳沢に下るとのこと! もちろん日帰りで装備は私のアタックザックと同じくらいなので20リットル程度、岩登りの道具は持ってないとのことなのだが、毎年この時期はこのルートを登っているので様子は分かっており、この天気とこの装備なら問題なしとのこと。大ザックだと2か所ほど苦労するところがあるそうだが1か所は残置ザイルがあるとのこと。ひょうたん池から明神主峰まで2時間程度とのことで、並みのクライマーより速いのではないだろうか(安全確保しないのだから当然だが)。このお人、そもそも「クライミング」はやったことないそうで登攀用具は買ったことがないとのこと。それでこんな場所を毎年歩くのだから、その実力たるや確実に武内さんクラスだろう。数日前は六百山から霞沢岳に抜けて沢の名前は忘れたが帝国ホテル前くらいに落ちるガレ沢を周回したとのことだが、ここもこの時期毎年歩いているとのこと! あの這松地獄を無雪期にだ。毎年徐々に這松が濃くなっているといっていたが、こんな人が世の中にいるとは・・・・。ついでに、茶臼ノ頭からこの鞍部まで下又白谷のガレた斜面を越えて歩いたこともあるという。雪もやるのか聞かなかったが、この人なら硫黄尾根も歩けちゃうのではないかと。世の中には凄い人があるもんだ。

鞍部から下り始める 振り返る
そろそろ宮川のコル コルを超えて登ってきた谷を目指す
下宮川谷に合流 最後は道を外してしまい笹原を横断

 彼はホイホイと明神岳東稜を登っていき、私は来たルートをそのまま明神向けて下っていった。帰りは何度か踏跡を外したがケルンや目印で正しいルートに戻り、下る谷が見えてくれば問題なし。下宮川谷に出れば何の問題もないかと適当にガラガラの谷を下ったが最後に落とし穴が。旧養魚場へはこの谷を最後まで辿ったのでは東に行きすぎで、目印に従って途中で谷から離れる必要があったのだ。いつのまにか目印が消えた谷を下っており、戻るのも面倒なので沢に突き当たるまで下ると笹原の中で沢にぶち当たった。おそらくもっと西に養魚場があるはずと目星をつけてそちらを窺うと100mも離れていないところに屋根が見えて一安心。笹薮を掻き分けて上流方向に向かうと無事踏跡に出られた。

梓川沿いから見た明神岳〜中山(クリックで拡大)
やたらと広い徳沢キャンプ場 徳沢園

 小川で顔を洗って一休みし、大ザックにパッキングしなおして徳沢向けて出発。長七ノ頭と違ってこちらは人が多い。約1時間ほどで徳沢に到着、広いテント場で夏はどうか知らないが今の時期はまばらにしかテントはなかった。\500を払って適当に設営、しかしあまりに天気が良くてテントの中は暑くていることができず、外にマットを広げて昼寝したがそれでも暑かった。今日は楽な行程だったが明日は標高差1700mが待っている。

所要時間
 6:17上高地バスセンター−−6:23河童橋−−7:00明神−−7:18明神橋−−研究施設7:18−−7:39谷分岐−−8:05宮川ノコル−−8:20レリーフの岩壁−−8:43ひょうたん池−−8:54長七ノ頭8:58−−9:04ひょうたん池9:37−−10:26谷分岐−−10:46研究施設11:03−−11:10明神−−11:56徳沢

 

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