南ア深南部 三ッ合山、鋸山、房小山 2008年11月01日


 日本最南端2000m峰のバラ谷頭から南に伸びる尾根上にはいくつかピークがある。車で入れる山犬段から蕎麦粒山、三ッ合山経由で高塚山まではメジャーコースなので道は良好だが、三ッ合山から分かれて北上する尾根には正式登山道は無いはずだ。ネットで調べたことは無いが寸又温泉を起点にして前黒法師岳、黒法師岳、バラ谷頭、房小山、鋸山、蕎麦粒山、板取山、沢口山と周回するルートが知られており、おそらくそれなりのパーティーが入山しているだろう。以前歩いた麻布山からバラ谷頭の尾根は明瞭な踏跡があったが、おそらくはそれよりも入山者は多いと予想した。全くの藪という可能性は低いだろうと考えて、あえてネットでの調査はしなかった。現地でのお楽しみだ。ちょっとばかり精神エネルギーが必要なレベルのマイナー峰では事前にネットで調査するのが常だが、この山ならそこまでは必要なかろう。

 文化の日の3連休は北ア方面に行きたかったが、最近は冬型が続いて高いところは雪に覆われてしまっているし、連休初日も冬型であちらは雨か雪だろうからと、今回は南に進路をとって南ア深南部に向かう。川根に向かうのは実に久しぶりで、相良牧の原ICで降りるのは10年ぶり以上だろう。その昔に江戸川区の某山下さんのデリカで走ったことがあるはずなのだが全く記憶に残っていなかった。ロードマップを見ながら大井川に沿って北上し、合併して川根本町と名称が変わった旧中川根町に入り、橋を渡って県道から国道に入って案内標識に従ってガソリンスタンドで左折する。なぜかこのガソリンスタンドだけは記憶に残っておりすぐに分かった。あとは延々と舗装道路を進んでいくと大札山登山口に到着、舗装はここまででこの先はダートだ。昔ここを走ったときは物凄い崖で帰りは落石で閉じ込められてしまうのではないかと本気で心配するくらいだったが、今はあちこちで治山工事をやっており道のメンテナンスはかなり力を入れているようだった。まあ、真っ暗闇で崖の様子が見えなかったので恐怖感が少なかった可能性もあるが。

 林道終点の広場が山犬段駐車場で正面には避難小屋があり、その右側に蕎麦粒山登山口があるが、今回はしばらく林道を歩いて蕎麦粒山を越えた向こう側の鞍部に上る登山道を使う予定なので、ゲート前の駐車スペースを利用することにする。その方が静かに寝られる。東京からここまでの所要時間は約5時間、ゲート前に到着した時刻は既に0時近かった。東京を出るときには小雨が降っていたがこちらでは満天の星空だった。ところが明け方近くになって強風が吹き荒れ、雨が降ってきたではないか。濃くはないいだろうが藪が予想されるルートに雨は禁物なので、暗いうちに出発する計画は諦めてのんびり寝ることに。6時に起きると強風は相変わらずだが空は雲が多いが青空が見えるようになり、天候は回復傾向のようだ。朝飯を食って出発。

ゲート。写真から切れているが右側からバイク通過可能 どこがどの程度崩れたのか?
林道から見た前黒法師岳周辺 林道から見た黒法師岳、バラ谷頭
林道から見た鋸山〜前黒法師岳(クリックで拡大)

 まずは施錠されたゲート右側を巻いて林道歩き。ゲートには林道崩壊により前黒法師岳から寸又温泉には下れないと注意書きがあったが、具体的にどこが崩れたのか、高巻きもできないような崩壊なのか等の詳細は書かれていなかった。ここはゲート右側のスペースが広いのでバイクでも通過可能だ。緩やかに下る林道を歩くと右手の視界が開け、バラ谷頭から大無間山の山波が続いていた。

 前回の記憶がないし、準備してきた地図は三ッ合山から先しか印刷してこなかったので林道を離れて稜線に取り付く場所が分からず所要時間も不明、現地での標識や踏跡だけが頼りだ。確かに明瞭な道だった記憶だけははっきりあるので見落とすことはないだろうし、もし見落としても適当な尾根を登ればいいだろう。しばしいい道が続くが斜面崩壊の治山工事現場が終わると廃林道化する。それでも立俣山で使った遠山林道のように路面自体が崩壊している箇所はなく、斜面が崩壊して砂利が堆積している場所がメインなので特段危険がある場所はなく、自転車やオフロードバイクでも走行可能だろう。

斜面崩壊でもこのくらいで危険は無い 五樽登山口
いい道が続く 五樽沢コルで稜線に出る

 廃林道化してもしばらく登山口は見当たらず、北に張り出した大きな尾根にも道は無くなおも進むとゲートから約30分で「五樽登山口」の標識があって一安心。ここが蕎麦粒山と三ッ合山の鞍部に上る道の入口のはずだ。落葉樹林帯をジグザグに登ると稜線に到着、立派な登山道と標識が立っていた。三ッ合山まではこのまま尾根を登ればいい。

稜線上の登山道を登る

三ッ合山分岐


 こんな南の山域なのに思ったよりブナが多く気持ちのいい稜線を登りきるとなだらかな三ッ合山に到着、山名事典のポイントをGPSで探すと「三ッ合」の標識が立つ場所付近で、特に高い場所はないのでこの付近ならどこでもいいだろう。この標識が示す鋸岳方面が今回の目的地だ。さて、この先はどの程度道のグレードが落ちるだろうかとちょっとだけ心配だが、標識に鋸岳とあるくらいだから少なくとも鋸岳まではそこそこまともな道があるのかもしれない。

ここから鋸山方面の踏跡に入る。最初だけ薄い 踏跡というより登山道のグレード
樹林の隙間から房小山が見える 聖岳もまだ白くない

 低い笹に刻まれた頼りない細い踏跡を斜めにトラバースしながら下っていくと徐々に道がはっきりしてきて尾根に乗ると明瞭で登山道と表現しても問題ないくらいの踏跡になった。な〜んだ、結局はまともな道があったのだ。あとは笹が本格的に出現するかどうかだろう。この分なら笹があっても足元には空間があって「手探り」ならぬ「足探り」でルート探しとなりそうだが。ところが予想に反して笹に覆われた部分が出てこないで背の高いブナを中心とする落葉樹林に僅かな笹しかない。思ったよりも歩きやすい植生で、このままの状態が続けば一般登山道と変わりがない。

千石沢登山道分岐

帰りに歩いた千石沢登山道。刈り払いが続く


 いくつか小ピークを越えて下ったところに案内標識が立っており、右手(東)を指して「千石沢登山道 南赤石林道」と書かれていた。私は知らなかったが鋸山直前まで林道が使えたのだった。ちょっとばかり無駄な労力を使ってしまったが、帰りはここから林道に出よう。標識があるくらいだからまともな道があるのだろう。周囲は少し笹があるが下る道はしっかり刈り払われていた。

鋸山目指して登る 山名事典の鋸山山頂。現地の標識は千石平
避難小屋? 鋸山から見た房小山

 広葉樹林帯を登りきると「千石平」の標識が立つなだらかなピークに到着、地形図では1670m等高線が描かれた鋸山最高峰のはずだ。GPSの電源を入れて確認するとここが山名事典の鋸山山頂であった。地形図を見ると山名は横長に書かれてどのピークを指しているのか不明であるが、西端の1668m標高点峰を鋸山としているように解釈できないわけでもない。私の基準は日本山名事典なのでそれに従うことにしてここを鋸山としたが、それが唯一正解というわけではないだろう。山頂東側にはブロックを積み上げて作られた避難小屋のような建物があり、東に回ってみると東側の壁が無く、まるでゴミ置き場のようだった。とはいえ3方は壁があるし屋根もあるので東風以外なら風雨はしのげるだろうし、テントを張るにもちょうどいい。

 もう日は高く気温も上昇し、ほとんど藪は無いしあってもこの好天で乾いているだろうからと、ここでメインザックをデポして飯、水、少しの防寒着だけ持ってサブザックで房小山を往復することにする。いつの間にか風も止んでおり、まさに無風快晴だ。ザックは千石平の標識の裏側にぶら下げた。目立つ場所だがおそらくほとんど人が来ないだろうからいいだろう。

1668m峰。現地標識は鋸山 1668m峰から見た房小山、バラ谷頭
鋸山お隣の1640m峰 1640m峰に落ちていた帽子

 鋸山は4つの小ピークを持つが実際に感じられるのは3つで、その西端ピークに「鋸山」の山頂標識が立っていた。次のピークは南側がガレているのが見え、てっぺんにはなにやら白い物体が見えている。何かの観測機器だろうか? 鞍部に下って低い笹原を突っ切って道を外れてピークに登ると帽子が落ちていた。これが白い物体の正体だった。

疎林の気持ちい尾根 深南部でよく見かける標識
1725m峰へと登る 1725m峰直下から低い笹原出現
笹原に続く一筋の踏跡 房小山が見えてきた

 ここで進路を北に変えて低い笹原と疎林の明るい尾根を歩く。このまま明るい尾根になるかと思ったら途中で再び樹林帯に突入、標高からするとこれが普通だろう。次のピークは右側を巻き気味に道が付いておりそのとおりに歩いたが、藪は無いのでどこでも適当に歩けそうだ。再び尾根に乗って踏跡を辿り、1725m峰手前から樹林が切れて低い笹原が続くようになる。笹の高さは足首から脛程度で邪魔なほどではなく、その中に一筋の踏跡が稜線を左から巻きつつ登っているのが見える。人間の足跡なのか鹿の足跡なのか不明だが、こんな植生ならどこでも歩けるのでどうっちでもいいか。稜線に上がるとまばらな樹林のみで明るい尾根が続いているのが見える。最高の天気でこのような開けた笹原は気持ちがいい!

好展望の尾根が続く 青空と白骨化したシラビソ?
途中、テント適地がある 1800m峰付近から見たバラ谷頭
山頂直下の池 房小山山頂はもうすぐ
房小山山頂 房小山からバラ谷頭につながる尾根
房小山付近から見た黒沢山〜光岳(クリックで拡大)

 尾根に乗ってからはいくつもの鹿道が走っているが、尾根直上の踏跡を追っていく。1800m小ピークで進路を右に振り、最後の笹原を登っていくと右手下に小さな池が見える。こんなところで池があるとは鹿にとってはいい水場だろう。なおも疎林と笹原を登りつめると房小山の山頂標識が立つなだらかなピークに到着、ここが本日の最終目的地だ。相変わらず低い笹原が続く気持ちのいい場所だが、南側を除いて薄い樹林が立ち並んでいるので展望はあまりいいとは言えず、お隣のバラ谷頭や黒法師岳も樹林の隙間から見ることになる。そちらの方に踏跡が続いていた。山頂付近は地面が出ているので休むにはちょうどいい。日当たりもよく休んでいると眠くなってきたので、地面に断熱シートとザックを敷いてひっくり返ると暖かくて気持ちが良かった。しばしお昼寝を楽しむ。

笹尾根を下る

古い倒木処理跡


 そのうち誰かやってくるかと思ったら無人のままで、静かに下山にかかる。1725m峰にかかる手前の笹原で単独行の男性と遭遇、当然ながら本日の行程はバラ谷頭と黒法師岳鞍部とのこと。ここは水場があるので幕営にはもってこいだが、この時期も水が出ているのか分からないので担いできたとのことでご苦労様。充分明るいうちに到着できるだろう。掛川からやってきたとのことで近くていいなぁ。下って1640mピーク北側のなだらかな尾根でもう一人の単独行男性と遭遇、こちらはほとんど話をしなかったが、おそらくは今日の行程は先の男性と同じだろう。

千石沢の細い谷に入る 谷が広がるが水は無い
水が流れる沢と合流、でも簡単に渡渉可能 林道に出ると登山口の標識あり

 鋸山山頂でザックを回収し、帰りは千石沢コースを下った。最初は緩やかな谷だったがすぐに水が涸れた石ゴロゴロの谷になり、適当に歩きやすいところを選んで下っていく。谷の源頭部には塩ビパイプの樋がぶら下がっており、使用後は流されない場所に引っ掛けておくように注意書きがあったので、雨が多いシーズンはここに水が出ているようだ。一部区間のみ谷から出てちょっとだけ巻くルートを歩くが特に危険箇所も無く、やがて左から水が流れる沢が合流、林道から登ってくる場合はこの沢を遡らないように注意が必要だ。本物コースは林道から登る場合は左手の流れの細い谷である。もっとも、目印が多くあるので間違えることはないだろう。今のシーズンは谷の下流のみ水がある。

千石沢登山口からゲートに向けて下る 所々で落石あり
斜面崩壊でもこのくらいで危険なし 中央の谷が千石沢

 林道に出ると登山口の標識が立っており、林道をテクテク歩いてきても見落としは無いだろう。この付近の林道は荒れ放題かと思ったが五樽登山口と同程度の状況だった。ゲートまで特に危険箇所は無く、もちろん車の通行は不能だが徒歩ならまだまだ長期間に渡って利用可能だろう。

 ゲートに到着して車で着替えをして荷物整理していると、ザックを背負った男女がゲートを越えて林道を歩いていった。時刻は既に午後3時過ぎでかなり遅い出発だが、どこで幕営予定だろうか。あと2時間経過しないうちに真っ暗闇だからせいぜい千石沢登山口といったところだろうか(後日、三ッ合山で幕営と判明)。

 日中の繁盛具合は分からないが山犬段の車はこの時間は少なくなっており、下っていく車もポツポツ見られる。荒れた路面なので低速で走行し、積み込んであるノートPCが壊れないように気をつける。舗装道路に出てからほっと一息。あとは一路大井川を下り、道の駅併設の川根温泉で沈没。ここは最近になって掘り当てられたそうで、事前の予想以上の湯量が勝手に噴出し、あまりに量が多すぎて地中に調整弁を埋設して湧出量を抑えているそうだ。食塩が主な成分で不揮発性成分が1リットル中10g以上と相当濃い。道の駅の駐車場もほぼ満杯状態で大賑わいだった。

 さて、明日の予定は水窪の白倉林道経由で白倉山だが、川根から水窪は時間がかかる。食料調達の点を考えると国道362号線で天竜北部に出てしまうと店が無いし、この国道は山の中をウネウネしてスピードが出ないので結果的に時間がかかると予想されたため、このまま大井川沿いに南下して国道1号線で西に進んで天竜に至るルートを取った。袋井までは順調に走ったがその先は渋滞していたので袋井で一般道に下りて県道を使って適当に天竜へ。市街地北部のスーパーで買い物を済ませて水窪を目指した。


所要時間
 7:08ゲート−−7:38五樽登山口−−7:48五樽沢のコル−−8:20三ッ合山8:22−−9:12千石沢登山道合流−−9:28鋸山(千石平)9:47−−9:57 1668m峰−−10:09 1640m峰−−11:19房小山12:03−−13:18 1668m峰−−13:28鋸山(千石平)13:37−−13:44千石沢登山道−−14:02林道−−14:35五樽沢登山口−−15:07ゲート

 

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