尾瀬周辺 西山、堂平山 2009年3月28日

東山麓から見た西山


 今週末は季節外れの真冬の寒気が南下し、雪国の山は雪の中になってしまいそうだ。そろそろ雪の状態が良くなって残雪期として楽しめるシーズンに入るが、そのエリアの天候が悪く、どこに行くか悩むところだ。できるだけ関東平野に近い方がまだ天候が望めそうだが、選択を誤ると雪がないかもしれない。さんざん悩んだが尾瀬前衛の西山を目指すことにした。この山は1900mを僅かに切る高さで、雪がある時期なら尾瀬岩鞍スキー場最上部から簡単に往復できそうな山である。たぶんネットで探せば記録がありそうだが、わざわざ探す必要もなかろうと地図だけ持っていくことにする。

 ただ西山を往復するだけでは能がないので、今回は東尾根上にある堂平山と組み合わせて周回しようと思う。尾瀬岩鞍スキー場から東に延びる尾根と堂平山のある尾根の真ん中を流れる沢を馬蹄形周回する形となる。うまい具合にその沢には車道が渡っているので橋があり渡渉の心配もない。どの方向で回るか考えたが、スキー場が営業開始する前にスキー場を通過した方が邪魔にならないだろうと考えて右回りとした。さて、本当に営業前に通過できるだろうか。

 出かける数日前から風邪気味で体調不良だったが、土曜に無理して山に登って体調がさらに悪化しても日曜日に寝ていれば月曜にはそこそこ復調するだとうと判断して出かけることにした。関越道で沼田ICまで走るが、明日土曜日から景気対策の一環として大都市圏以外の高速道路は土日祝日は走行距離に関係なく支払い料金上限が\1000となるため、赤城SAで仮眠して土曜日に入ってから高速を降りた。この程度の距離ではあまり大きなメリットはないが節約できるのは確かだ。これが妙高エリアくらいになるととんでもなくでかくなる。DJFのように東京近郊区間外に住んでいると本当に\1000で行けるが、東京からだと割引対象外の高井戸〜八王子間の定額区間の料金が加算されるので\1000というのはあり得ない。これは東北道でも関越道でも東名道でも同じだ。まあ、地方の景気対策という意味合いだし、これら近郊区間も土日祝日は割引になるので(時間帯により30〜50%)お得になってはいるが。

 沼田ICを出た時刻は真っ暗だったが白いものが舞っていた。北上するに従って雪の量が多くなってきて椎坂峠は路面が白くなってソロリソロリと運転する。こりゃ山も雪が確定、下手すると雪雲に入って吹雪かなぁ。なんか先月の小佐飛山のようだ。国道401号線に入って尾瀬を目指し、岩鞍スキー場入口を過ぎて旧道に入り、橋を渡る手前で左の狭い側道に入る。この先は除雪は期待していなかったが意外にもしっかりと除雪され、左手に上水道の貯水タンクが現れる場所まで入ることができた。ここから左上に林道が分岐しているが、さすがにここは雪に埋もれていた。本日はここからスタートだ。雪はしんしんと降っているが上空はたまに雲の隙間が見えているので、さほど悪い天候ではないらしい。本日の装備をどうするか悩むところだが、トレーニングを兼ねてフル装備とした。スノーシュー、12本爪アイゼン、それにピッケルだ。防寒着はいつもより1枚増やし、出発時から上下ともゴアを着た。

除雪されていない林道入口 小屋が登場したら林道を離れる

 最初は雪の林道歩きだが、いい具合に締まってつぼ足でも沈まない。先人の足跡はズボっと踏み抜いた跡が多いが、今週は気温が下がって雪が締まっているのかもしれない。周囲は杉の植林も多いが気温が低く花粉は飛ばしていないようだ。右手に建物が出てきたところで尾根に取り付くことにし、林道を離れて左手に進路をとるとカモシカが逃げて行った。こんな人里近いところまで出てきているのか。雪の上には新しいカモシカの足跡が残っていた。

最初は平坦な植林帯 左に登場した杉植林の尾根に取り付く

 左に尾根が出てきたのでそれに取り付き、まだ薄暗い杉の植林帯を登っていく。ここも締まった雪が残っている。標高は約1000mで雪があるのだから、先週の旧奈川村エリアと比較して雪の多さが分かる。ようやく体が温まってきたのでTシャツの上にゴアを着るだけにして、防寒着はザックに押し込んだ。まだ雪は降りしきっているが季節風は山が邪魔してここでは感じられない。

植林帯を通過すると明るい自然林 熊棚が散見された

 植生は自然林に変わり熊棚が見られた。尾根の向きによっては残雪はほとんど無いが僅かに積もった新雪で白く覆われていた。1050mを越えると尾根が左に曲がり雪が増えて快調に足が進む。ここも全く雪が沈まず、まるで大型連休ごろの快適な雪質だった。雪は降っているが木の隙間と通して周囲の展望はそこそこあり、北に見えている顕著なピークが堂平山だと思うが確証はなく、登りは適当に上がっても山頂に向かうので最初の尾根取り付きから適当に登ってきたので現在地が不明で計画通りの尾根を歩いているのか少し不安だったが、1200m小ピークの出現で間違っていないと確認できた。

徐々に積雪が増えてくる 真新しいカモシカの足跡
自分の足跡 これを登り切るとスキー場

 この先は尾根上に付いた真新しいカモシカの足跡を追うように登っていく。接地面積の少ないカモシカの蹄でさえ踏み抜いていないのだから雪の状態の良さが分かる。気温は-5℃とこの時期にしては冷え込んでいて、落ちてくる雪の粒は小さくゴアにかかっても解けることはなく濡れなくて助かる。傾斜がきつくなってくるとカモシカは右の斜面に進路を変えたので、まっさらな雪の上に私の足跡だけ残しつつなおも尾根を登る。

スキー場に出た ゲレンデ上部は雪雲の中

 尾根を突き上げて太い尾根と合流するとふいに樹林が開けてスキー場ゲレンデに飛び出した。ということはここが標高1420m地点か。地形図ではこの尾根から南側斜面全面がスキー場になっているように書かれているが、実際はゲレンデは尾根上だけだ。新雪の深さは足首ほどで、まだ今日の営業は始まっていないのでシュプール皆無でサラサラのパウダースノーで覆われていた。あまりにも軽い雪なので足首のラッセルでも足には全く重さを感じない。これが春の重い雪なら苦労しただろう。まあ、そのためのスノーシューだがまだ出番はない。ゲレンデの傾斜は緩いが距離は長く、はるか先の雪雲に覆われてガスった高さに明かりが見える。残念ながら西山山頂は雲の中であろう。

 ゲレンデの真ん中の雪を荒らしてはスキーヤーに悪いので端を歩いていく。標高が上がると徐々に積雪量が増えるが、相変わらずのパウダースノーで足の重さは全く感じない。標高1600mを越えると脛までの積雪となる。1680mでゴンドラ駅の登場となり、既に運行されているがまだ試運転の段階だろうか。たぶん営業開始は8時だろう。この頃には雲の高さが高くなり、稜線は雲から抜け出していた。このまま天候が回復してくれるといいのだが。

自分のラッセル跡。深さは脛くらい 標高1680mゴンドラ駅手前でゲレンデを離れ右の稜線に登る
稜線上はブナ林 一番奥のリフト終点

 リフト駅手前でゲレンデが尾根を巻いてしまうので、こちらはそのまま尾根を登る。傾斜がきつく僅かに雪が沈むようになったがスノーシューを使うほどではないのでキックステップで登る。ここまで登るとブナの純林で雪国の雰囲気だ。稜線に出ると再び締まった雪で歩きやすくなった。稜線の西側直下にゲレンデが伸びるが尾根上はそのままブナ林の緩やかな尾根が続く。最後のリフト駅へと向かって登っていると何やらスキー場の放送が始まったので本日の営業開始らしい。時刻は8時ちょっと前だった。リフト駅を振り返るとザックを背負った1人のスキーヤーが出発するところだったが、西山方面ではなく別のところに向かったようだ。

しばらくはブナ林が続く 古い赤テープ。低い場所にあった

 稜線上はやや風があって寒く、ゴアのフードを立てて顔に当たる風を避ける。少しの間はスノーシュー無しでも普通に歩ける状態だったが、稜線上は風が通ってウィンドクラストするようで雪が重く進みが遅くなったので、ここまで背負ったままだったスノーシューに登場願う。これまで脛まで潜った雪が10cm程度となり、一気に快適に歩けるようになった。さすがに道具の威力は凄い。今は全くトレースは無いが、新旧の赤テープがいくつも見えたので、雪がある時期はそこそこ登る人はいるようだ。

標高が上がるとシラビソ樹林に変貌 雪雲に煙る西山山頂

 最初はブナ林だったのが標高が上がるとシラビソの勢いが増し、やがてほぼシラビソに占領されるようになると、葉の上に雪が乗ってミニモンスターのようでいかにも雪山っぽい雰囲気になる。朝方は雪雲に入っていたはずの標高だが、いつのまにか雪が止んで青空が見えるようになっていた。このまま回復してくれるといいのだが。でもついさっきまで雪が降っていたので葉の上にはふかふかの新雪がたっぷりで、ちょっと触れただけでも頭から雪を被ることになり、木を避けながらなだらかな稜線を進んだ。

時々青空が顔をのぞかせる 山頂直下は雪庇ができていた

 進路を右に変えると雪庇が発達した稜線に変貌し、直線的に立ち並ぶシラビソが印象的だ。雪庇はたっぷりの新雪が吹き溜まってスノーシューでもズボズボ潜るので尾根の西側を選んで歩く。雪庇は数mの高さがあると思うが、尾根直上では笹が顔を出した場所もあり、意外に雪が少ないのかもしれない。ま、地形的に雪が風で飛ばされて積もりにくいだけかもしれないが。

もうすぐ西山山頂 西山山頂
Gさん標識は雪面ギリギリ このピンクリボンは2,3mの高さにあった
西山からの東半分の展望(クリックで拡大)

 なだらかな稜線を登りきり、感覚的には水平移動になって少ししたところが西山山頂だった。群馬県でよく見かけるGさん標識が雪面ギリギリに顔を出していて、同じ木の雪面2,3mくらいの高さにピンクリボンがかかっていた。Gさんが登った時期がいつなのか知らないが、まさか無雪期ということはないだろうから、年や時期によって数mの積雪量の差があるのだろう。今まで見た赤テープは雪面ギリギリの高さのものもあったなぁ。西山山頂は南から東にかけてが樹林が開けて展望がいいが、まだ完全に晴れているわけではなく日光方面は雪雲に覆われて錫ヶ岳〜沼上山の稜線以北は見ることができなかった。西半分は樹林で展望無し。北西の季節風を避けてシラビソの風下で休憩したが、気温は-11℃で雪はサラサラのままで、枝に積もった雪が風で飛ばされて頭上に降ってくるのがイヤらしい。でもしばらくは日差しがあったので体感的にはいい感じだった。落ちてくる雪は細かく、まるでダイヤモンドダストのようにきらきら光っていた。

これから下る尾根 この先で尾根が細くなる

 下山は東尾根を下って堂平山経由で尾根末端を目指す。出だしは急だが明瞭な地形なので迷う心配がないのはいいのだが、途中で尾根が遅くなって尾根直上はシラビソが立ちはだかって歩きが遅くなる。南側は広い雪庇ができて歩きやすそうなのだが、端によると崩壊して滑落の恐れがあるし、根元にクレバスが隠れていてズボ!っとハマることもある。特にスノーシューで穴にはまると抜け出すのに苦労する。一度は腰まで埋まり、スノーシューが引っかかって脱出に一苦労したので、それ以降は樹木がうっとうしいが尾根の真上を歩いた。

1715mピーク向けて明るい尾根を下る 振り返ると自分の付けたトレースが伸びる

 標高1800mを切ると広くなだらかで木が皆無の気持ちのいい稜線に変貌し、重力の助けを借りてトレースを延ばす。振り返ると自分のトレースが延々と伸び、なんとも気持ちいい。やっぱ残雪期はこれだよなぁ。無人の尾根を歩くのは楽しいひと時だ。

1715mピークへと登る。クラストして快適 進路が北東に変わると雪庇の連続
雪庇の切れ目を見つけて下る 下から見るとこんな雪庇の連続でやっぱ下れない

 標高1715m小ピークで進路は左に曲がり、その先の1690m地点で尾根を外れて右に下る必要があるので地形に注意しながら下ると思いがけぬ落とし穴が! 残雪シーズンならば当然予想すべき事象だが、今回のように尾根の風下側に下ったり登ったりする場合、雪庇ができていることを予想すべきなのだがすっかり忘れていた! そして現場は高さ3m以上の雪の壁が続き、下には尾根があるのに下ることができない。さすがにこれには焦ったが、この付近は豪雪地帯ではないので延々と雪庇が続くわけではなく、どこかに切れ目があってもおかしくないので雪庇崩落に気をつけつつ下っていくと、ほどなく切れ目が現れて助かった。面倒なのでスノーシューを履いたままバックで急斜面を下ったら片方のスノーシューが脱げてしまったが、すぐ下部が緩斜面なので支障は無かった。少しの間、片足だけスノーシューで歩いたが、もうここまで下ると新雪が減って足首程度までしか沈まず、その下の雪の踏み抜きは皆無でつぼ足の方が快適に歩けることが分かったのでスノーシューを脱いでザックにくくりつけた。

だだっ広い尾根を下る 尾根らしくなってくる
空き缶が唯一の目印 1325mピークは近い

 この標高ではシラビソは消えて落葉樹林帯になり、木の隙間から尾根の先まで見えるようになる。この先も微妙に尾根が曲がるポイントがあって注意が必要だが、この展望があれば尾根を外したらすぐ分かりそうだ。時々地図を見て現在位置を確認するが、うまく尾根を捕まえ続けていた。目印は皆無だが、唯一、空き缶が枝に刺さったのを見かけたのでたま〜には歩く人があるようだ。

1325mピーク付近の熊棚その1 1325mピーク付近の熊棚その2
1325mピーク付近の熊棚その3 1325mピーク〜堂平山三角点の尾根

 唐松植林帯の1270m鞍部を通過して1325mピークへと登る尾根は南斜面は自然林のままだが、この付近はやたらと熊棚が多く、1325mピークから堂平山三角点にかけては密集していた。一頭の熊が作ったのか、それとも複数の熊の「作品」だろうか?

堂平山山頂 堂平山から見た尾瀬戸倉スキー場

 最後に緩やかに登った細長いピークが堂平山で、ここにもGさん標識があった。積雪は少なくせいぜい30cmといった感じだったが、三角点がどこにあるのか全く分からなかった。もう少しすれば顔を出すだろう。

南東尾根を下る 標高1100mくらいで地面が見え始める
何種類が目印が見られた 南西尾根末端

 このまま直進してしまいそうだが、主尾根は山頂で左に曲がるので傾斜が少しきつい尾根を下っていく。すぐに主尾根っぽくなり安心して下っていける。まだ一面の残雪に覆われて無雪期の状況は不明だが、あまり雪が多いとは思えないのに笹の姿は全く見えないので、もしかしたら無雪期でもひどい笹は無いかもしれない。尾根は明瞭で地図で確認しなくても外す心配はなさそうだ。標高が下がると自然林から唐松樹林に変わり、最後は自然林に戻って車道に出た。雪が消えたのは標高1100mくらいだった。

車道北側を見る。日当たりがいい場所は雪がない 車道南側は雪でいっぱい

 車道は日当たりがいいところはきれいに雪が消えていたが日当たりが悪いところは雪に覆われたままで、沢にかかる橋もたっぷりの残雪で隠れていた。僅かに登り返して右手に建物が見えると除雪終点で、すぐ先には車を置いた貯水タンクが待っていた。


所要時間
 貯水タンク−1:10−スキー場−0:47−スキー場最終リフト−0:52−西山−0:29−1715mピーク−0:43−1325mピーク−0:13−堂平山−0:16−車道−0:10−貯水タンク

 

2000m未満山行記録リストに戻る

 

ホームページトップに戻る