南会津 巽沢山、窓明山、坪入山、高幽山、梵天岳、丸山岳 2009年4月11〜12日

広域地図

コース図(クリックでコメント付地図に拡大)


 昨年4月に2回に分けて山毛欅沢山&小手沢山、小沢山&稲子山を登った際、ことに真っ白な高幽山から丸山岳の稜線に目を奪われた。丸山岳はいつかは登ってみたい山として頭の片隅に引っ掛かっていたが、丸山岳のみを登るなら残雪期ではなく無雪期に沢登りが最も楽だろう。話によるとその沢は危険個所は無いらしい。しかし、南側に位置する高幽山と梵天岳となると話は変わる。沢登りでも登れるだろうが丸山岳と比較すれば情報は圧倒的に少ないし(そもそも記録が存在しないかも?)、まとめて登ることは不可能だろう。

 こうなると残雪期に登りたくなるのが人情だ。雪があれば稜線の藪も隠れて簡単に歩けるようになるので、3山をまとめて登ることが可能だ。ネットで検索すると会津朝日岳から会津駒ヶ岳までの縦走記録がいくつも出てきて、思ったよりもメジャーなルートらしい。日数がかかるのでほとんどは大型連休の記録だ。山スキーの場合はもうちょっと早い時期のものもあった。

 今年は雪が少なく、早く登らないと藪が出てしまいそうだ。先週の北信では新雪のラッセルで疲れたが、その後1週間好天が続いて雪が解け、夜間の冷え込みで締まっていると期待できた。それに今シーズンの春山は土日2日間とも好天が続く日がなく、細切れに登るしかできなかったのが今週末は2日間の好天が約束されていた。こうなると丸山岳への挑戦の大きなチャンスだ。

 ルートであるがマイカー利用なので縦走は不能、本来ならば黒谷川沿いの林道から周回したいところだが、当然ながらこの時期の林道は除雪など期待できず、延々と歩くことになるだろうし、雪に埋もれた急斜面と化した場所も多いだろうし、雪崩の危険もある。距離が大変だが窓明山から桧枝岐村境界稜線を往復するのが順当な選択だろう。普通に考えれば2泊行程と思われるが、雪の状態がよければ1泊での往復も可能とみた。怪人武内さんやDJFなら無泊で歩いてしまうだろう。スキー使いのDJFならスピードアップできそうな稜線だし。

登山口前駐車余地 巽沢山、家向山経由窓明山登山口

 東北道を降りて桧枝岐方面に向かい、高畑スキー場を過ぎてスノーシェッドに入る手前の左カーブが登山口だが、何の標識もないのは前回と同じだ。スノーシェッド入口付近は例年のこの時期なら山肌にべったりと雪が張り付いて山スキーの跡がいくつもあるのだが、今年はほとんど雪が無く斑に残っている程度でスキー跡は見られなかった。やはり残雪は少ないようだ。当初は沢沿いに上がって家向山はパスしようかとも考えたが、これでは沢沿いに雪が残っている可能性は少ないので素直に夏道を上がることにした。

 装備だが体調が思わしくなく風邪気味なので防寒装備は厳重にし、寝袋は2つ担ぐ。12本歯アイゼン、ピッケル、それにワカンではなくスノーシューとした。水作りのためガスもたっぷり持ち上げる。これにテントが加わるとえらい重さで、夏山装備と比較してプラス5kgくらいありそうだから20kg弱程度か。今年初めての幕営山行でザックを背負ったらのけぞるような重さだった。

登山口近くの平坦地を過ぎると雪は消える ジグザグの夏道を登る
尾根上もきれいさっぱり雪がない 標高1100mで残雪が連続

 登山口付近の杉植林の平坦地のみ雪があったが斜面に入ると雪は消えて夏道を歩くことになる。一部残雪があっても長続きせず、尾根上及び西斜面は地面が出ていた。どこまで夏道が続くのかと思ったら標高1000mを越えても雪が出てこず、1100m付近になってやっと雪が連続するようになった。しかし気温が高いので締りがなく、つぼ足では沈むので最初からスノーシューの出番だ。背中の重さは2kg以上軽くなったが足の重さが2kg以上重くなったのでさほど楽にはならないか。でも全く沈まなくなったぶんだけでもかなり労力は違う。

樹林の隙間から見えた窓明山 雪質はイマイチだが気持ちいい稜線
巽沢山山頂 家向山が見えてきた

 いったん雪が続くようになると尾根から東側はずっと雪が続くようになり、夏道が出ている部分も残雪を選んで登っていく。平日に登る人は少ないだろうから足跡は僅かに残る程度だが、尾根が明瞭なので問題なし、目印もポツポツ登場する。振り返るとブナの木に赤ペイントされていたりしたが、これは下りでしか見えないように書かれているので登りでは分からない。この付近は南会津らしく一面のブナ林が広がっていた。巽沢山直下で太い尾根に合流する形になるが、ここには雪庇ができていて左から回り込むように這い上がった。巽沢山は残雪を伝わって東を巻いてしまったが、山頂かどうか確認するためにピークに戻って見ると雪が消えた地面に三角点が顔を出していた。山頂標識は無かったが前回登ったときにあったかどうか記憶は定かではない。

すげ〜青空! 自分の足跡。スノーシューでこれくらいの沈み
雪庇も登場 家向山付近は西側を巻く
家向山直下から見た窓明山

 この後は尾根東側は気持ちのいい残雪帯が続き、標高が上がるとやがて尾根全体が残雪に包まれ、歩きやすいところを適当に進んで行く。雪質は相変わらずでスノーシューが無いと苦労しそうだ。やがて家向山が見えてくるがピークは尾根を僅かに外れた東側にあるし、既に登った山なので帰りがけに時間があれば立ち寄ることにして行きは西側を巻いてしまった。地形図によると夏道もそのように付いているが、やっぱり前回の記憶がない。

西尾根に出る 鞍部への下りは夏道が出ていた
鞍部を登り返して家向山 広くなだらかな尾根を登る

 西尾根に出るともったいないことに下りになってしまい、少し下ると尾根南側に残雪があるが尾根上は夏道が完全に出ていた。標高は充分なはずだが地形の影響だろうか。鞍部から登りにかかると再び残雪に覆われ、スキーで快適に滑れそうな斜面を登っていく。間隔の広いブナ林で何とも気持ちがいい。ブナ林を抜けると樹林が開けた尾根になり、雪が少なくなって一部夏道が現れるようになった。雪が少なすぎてズボっと踏み抜くことが多くなる。この天気が続いたらあと1週間くらいできれいさっぱり雪が消えるかもしれない。

気持ちのいいブナ林が続く 稲子山
ブナ林を抜け広大な雪原区間に出る ここだけ雪が薄い
尾根途中から見上げる窓明山と三岩岳
栃木/福島県境稜線(クリックで拡大)

 小雪区間は100mくらいで終わり、その後は僅かな樹木しかないだだっ広い雪原地帯に変貌し、風景的には快適な登りが続く。左手には栃木/福島県境の山並みが広がり、山頂が白く平坦なのが田代山でその右手が帝釈山だ。田代山左手には枯木山、大嵐山と続く。背後から北側には只見へと続く真っ白な山並みだ。昨年登った稲子山、小沢山、山毛欅沢山が懐かしい。そろそろ顔面の日焼けが心配なので顔と首筋に日焼け止めを塗った。なお、今回は麦藁帽子を被って日焼け防止を狙ってみたが大正解だった。でもこれで人に会ったら不審に思われるだろうな。

まだまだ登る 窓明山山頂直下
窓明山山頂。背景は三岩岳 登ってきた尾根を見下ろす
窓明山から見た三岩岳〜丸山岳(クリックで拡大)
窓明山から見た栃木/福島県境〜山毛欅沢山の稜線(クリックで拡大)

 少し傾斜が出てきて一気に高度を上げると雪に埋もれた小ぶりのシラビソが見られるようになり、前方右手には巨大雪庇の絶壁が見えてきた。その上が窓明山山頂だろう。うまくすれば山頂東側を巻けるかと思ったがとても無理そうなので、素直に尾根を登り続ける。ようやく尾根を登りきって広い稜線に到着、僅かに右に曲がったところが窓明山山頂だった。数mの雪に埋もれて山頂標識や樹木は無く、素晴らしい見晴らしだ。ここまで来るとやっと高幽山、梵天岳、丸山岳が見渡せるが、丸山岳の遠いこと! 真っ白なはずの山の色が黄色みがかって見える。今日中に立てるとは思っていないが、あそこまで往復して明日中に登山口に戻れるか心配になるくらい遠い。

坪入山へと下る 窓明山を振り返る

 ここで休憩してもいいのだが少し西風があって寒いので、風が避けられるところまで進んでから休むことにして出発する。坪入山に続く尾根は最初はなだらかな雪原だったが少し下ると尾根上は波のように雪がうねり、亀裂が入って危なくて歩けないので西の樹林中を進んだ。少し前にこのルートを通ったらしいスキー跡も樹林中を通っていた。この人はどこまで行ったのだろうか。まさか丸山岳ってことはないよな。ここ1週間の好天を考えれば雪解けがかなり進んだはずで、スキー跡が残っているのもせいぜい1週間前くらいまでだろう。やっと「うねり雪堤」区間を通過して尾根上に戻れれば快適な下りだ。相変わらず数cmの沈み込みがあるが下りは重力のお助けがあるので足が軽い。

1775m肩を下る(左が肩) 鞍部から見た坪入山

 1775m肩で風避けできる場所があったので休憩。肩というより小ピークで展望は良い。坪入山は目の前だが相変わらず高幽山以降は遠い。小休止が終わって下り始めるが、ここで尾根が屈曲すると同時に植生が変化し、尾根上をすっぽりと低いシラビソが覆うようになり、今までのような気持ちの良い雪原歩きではなくなった。それと同時に雪が極端に柔らかくなり、あちこちに「落とし穴」があってスノーシューではまると埋もれた木に引っかかって脱出が面倒だった。幸い、足首等を捻らなくて済んだが、状況によっては怪我をしかねない危険地帯だった。雪面もうねっているのでここはスキーは使えないだろう。稜線を外れて北側を迂回すればスキー可かも。

鞍部から見た稲子山、小沢山 自分の足跡が延々と延びる
坪入山山頂直下 窓明山が遠くなる

 やっと矮小シラビソ区間が終わって快適な雪面を下りきると緩やかな登りが始まり、こちらも開けた雪の上を気持ちよく歩ける場所だ(雪質は相変わらずだが)。シラビソは尾根西側だけに生えているので東側は視界が開けている。さすがに重荷を背負ってスノーシューで少し沈む雪の上を歩く続けていると疲労が溜まり、坪入山の登りはきつかった。これで傾斜がきついと苦しいなぁ。

坪入山山頂。背景は窓明山 坪入山山頂西側。シラビソ樹林
稲子山へ続く尾根 坪「人」山の標識
坪入山から見た城郭朝日山へと続く尾根
坪入山から見た三岩岳方面(クリックで拡大)

 やっと坪入山山頂に到着、本当の地面は雪の下数mだろうが、今は緩やかな雪庇が最高地点だ。西側半分は樹林で展望はないが東半分は大展望で稲子山方面へと続く尾根がうねっていた。山頂標識が無いかと付近を捜すと少し下がったシラビソに1個だけ木製標識を発見。その文字は坪"入"山ではなく坪"人"山であった(^_^;) 裏面には「SSK」のサインがあり、僭越ながら反対側の裏面に落書きをしておいた。そういえば窓明山から坪入山間では目印は見かけなかった。そしてこの後の丸山岳までの稜線上でも赤テープ等の目印は見かけなかった。

 さきほど休憩したので坪入山は写真を撮影して出発、この先の1754m峰で休憩することにする。地形図では坪入山と1754m峰間鞍部の上り下りが最も傾斜がきついがはたしてどんな状態だろうか。こういうときのためのアイゼンだが登場する機会があるだろうか。驚いたことにスキー跡とワカン跡がこの先も続いており、本当に丸山岳まで達している可能性が出てきた。スキー跡の進行方向はわからないがワカン跡は歩幅からして高幽山方向から登ってきたのに間違い無かった。

坪入山を下る 樹林が開ける。向かいの稜線上にクラックあり

 緩やかなシラビソ樹林帯が終わりに近づくと傾斜が増して鞍部手前は樹林が切れた開けた尾根になるが、傾斜は思ったほどではなく、急な下りにはめっぽう弱いスノーシューのままでも問題なく下れそうなので、アイゼンに履き替えることなく淡々を下っていけた。まあ、バックアップのためのピッケルがあったことも理由だが。しかしいやらしいことに最低鞍部から登り返したところに稜線上に大きなクラックが入っており、段差、幅とも1m以上ありそうで尾根直上は歩けない(深さは不明)。トレースは南を巻いているが今はそのトレースもクラックが走って通過不能で、北斜面は傾斜がきついのでさらに南を巻くしかなさそうだ。いまいち斜面の傾斜が分からないが、もしかしたらアイゼンに履き替える必要があるかもしれない。

最低鞍部のうねったナイフりッジ
左斜面にはクラックが入っている
ナイフリッジ上を歩いた。危険はない

 最低鞍部手前は蛇行したナイフリッジが登場、先行者のトレースは南を巻いているが、今はそこには多数のクラックが入り通過は危険なので、ナイフリッジの頭を歩くことにした。幸い、雪庇が張り出す風下側に張り出しはなく崩れる心配はないし、もし滑落しても大した標高差を落ちないうちに傾斜が緩まって止まれるし、その間に樹木は皆無なので激突の危険もないので恐怖感はない。

鞍部から登り始める クラック地帯

 ナイフリッジが終わると最低鞍部で登りが始まるり、問題のクラック区間が始まるが、現場に立つと南斜面の傾斜は大したことはなく、最も稜線から離れたクラックの左を巻いても滑落の危険は感じられなかった。よかったぁ。最後の安全装置のピッケルもあるので何の躊躇もなくスノーシューのまま巻き始めたが、やっぱり問題なく通過することができた。これ以降の稜線は今以上の傾斜がある箇所はないので、アイゼンの出番は無い可能性が高まった。

坪入山を振り返る 1760m峰へと向かう
僅かに藪が出た場所で休憩
1760m峰からの360度パノラマ展望(クリックで拡大)
1760m峰から見た坪入山〜会津駒(クリックで拡大)
1760m峰から見た高幽山〜丸山岳(クリックで拡大)
1760m峰から見た越後の山々(クリックで拡大)

 1754m峰に到着すると1760m峰までの稜線は大きく波打った雪原で、尾根右側を迂回するようにシラビソ樹林を通過、トレースもそうなっていた。ピーク付近になると平坦な雪面になり快適に歩けるが、さすがに日中の重い雪でスノーシューでは足取りが重い。こんなところはスキーだろうなぁ。1712m峰付近は僅かに藪が出ており休憩にちょうどいいのでザックを下ろして昼飯タイム。やっと高幽山は近づいてきたが梵天岳はまだ遠い。そろそろ体力的にはリミットが近づいているが時間的にはまだまだ余裕があるので、今日中にどこまで歩けるかは体力勝負だ。当初計画では高幽山まで行ければ良しと考えていたが、この先の鞍部からの累積標高差約300mの登りで高幽山に達することができるので、いくらなんでも夕方までにはたどり着けるだろう。

1712m峰を振り返る 鞍部向けて下る
KGWVの竹竿発見(じつは落し物だった) 鞍部に挟まれた1538m峰

 ザックを背負って下りだすが、さすがに下りは楽チンで滑るように足が出て距離を稼げる。標高1550m付近で赤布の付いた竹ざおを発見、布には「KGWV」の文字が。帰ってから調べたら関西学院大学ワンゲルだった。当たり前だが今年歩いたもので、もしかしたらスキー跡とワカン跡はKGWVのものだろうか。日中の高温でも跡が残っているのだから最近のもののはずだが彼らはいつ歩いたのだろうか。HPから推測するに3月末から4月頭に会津朝日岳から会津駒まで縦走したようだ。

1538m峰へと登る 1538m峰

 最初の鞍部に到着して登りになると一気にペースダウン。1538m峰で竹ざおを1本立てて僅かに軽量化、残り2本は高幽山と梵天岳ように持っていくことにした。次の最低鞍部からの登りはまことに地獄で、スキー跡は気持ちよさそうに一直線に下ってきているが、こちらは軟雪の登りで疲労困憊、どれだけ時間がかかるか予想がつかない。天候は申し分なく晴れ渡っているが、この状況では暑さで疲労が倍増するだけだった。1歩1歩が本当に重く、1分登ってはしばらく立ち止まって息を整える連続だった。

最低鞍部から高幽山方面 結構クラックが入っている
広大な雪原の尾根を行く。でもバテバテ 歩いてきた稜線

 ここでも稜線近くはクラックが入っていたのでトレースに従って稜線左手を迂回する。ここは雪面のうねりが少なく、スキーでの下りは気持ちいいだろう。やっと傾斜が緩んだ1680m肩に到着してやっと高幽山山頂が見えるのだがこれがまた遠かった。お昼を過ぎて気温が最も高い時間に入り、スノーシューでも数cmが沈む雪面では水平歩きでも体力を消耗する。山頂まで休まず歩こうと思ったがとても無理で途中でダウン。ザックを横にしてひっくり返りしばしお昼寝。風がない場所を選んだので日向ぼっこが気持ちよかった。

1680m肩に到着して高幽山山頂が見える(一番奥) これが高幽山山頂
高幽山山頂。KGWVの竹竿を立てた。背景は丸山岳 高幽山から見た三岩岳〜中門岳

 多少元気を回復して牛歩戦術で出発。延々と雪原が続く広い尾根を登りきり、南北に長い山頂に到着した。今は雪庇ができているので本当の山頂かどうか不明だが、今のところはここが最高点だと明瞭に分かる程度には出っ張っていた。帰りにGPSで確認したら間違いなく高幽山山頂であった。山頂標識を探してみたが発見できず、もしかしたら雪に埋もれているのかもしれない。訪れる人の大半は大型連休のはずだが、それよりも時期が早いので雪が多い可能性はある。ただし今年は残雪が少ないので例年の大型連休並みかもしれないが。ここで竹ざおを1本立てておいた。

高幽山下りから山頂を振り返る 鞍部から見る梵天岳

 先の休憩からさほど時間が経過していないのでまだ体力的には大丈夫で、この先は鞍部まで下りが続くのでこのまま進むことにする。そうすると明日は重荷を背負ってこれを登り返すことになるが、ラジオの天気予報を聞くと当初予報と違って会津は午後から雨の予報が出ており、できるだけ明日の行動時間が短くなるよう今日のうちに距離を稼いだほうがいいと判断した。たぶん自分の足跡は残っていると思うが帰りにガスられたりしたらやっかいだ。登りはもう歩けないと思うほど疲れているのに下りで使う筋肉はまだ余力があるようで下りは至極快調だ。でもこの雪面ならスキーで滑れば歩きの10倍速だろうなぁ。広い尾根で樹林もなく、まったくもってスキー向きの尾根が続いた。

 最低鞍部で最後の休憩をとりつつ地形図を見て本日の幕営場所を検討する。時刻的には暗くなる午後6時くらいまで行動可能だろうが、残存体力を考えるとそれは無理で、せいぜい梵天岳山頂が限度だろう。無理をしすぎると1晩寝ても疲労が抜けず明日の行動に支障が出かねない。幕営場所の候補としてはだだっ広そうな1617m肩と、梵天岳山頂直下に見えているシラビソ樹林の平坦地だ。ここから見るとシラビソ樹林の北側と西側には巨大な雪庇が発達しており、北と西寄りの風は完璧に防いでくれそうで理想的な幕営地と見えた。おまけに樹林があるのでテントを木に縛れば丸山岳往復中にテントが飛ばされる心配もない。あとはそこまで歩く体力と気力が続くかどうか・・・。

スキー跡を登っていく カモシカの足跡。潜ってる
樹林帯が今夜の宿 北〜西を雪庇に囲まれた梵天岳山頂直下

 再び重い大ザックを背負い、これまた重い足取りで登り始める。到達するのに地獄を見るかと思った1617m肩まではすんなり歩けたのだが、その先が本当にきつかった! 登場機会が無さそうなアイゼンをよほどデポしようかと悩んだが、もし丸山岳との間でアイゼンが必要な場面が出てきたら大問題で、ここまできて丸山岳に登れないなんてことは諦めきれないので持って行くことにした。歩いている時間が半分、立ち止まっている時間が半分くらいの比率で恐ろしいほどの歩みの遅さだが、それでも確実に標高を上げて梵天岳が近づいてくる。そして傾斜が緩んで待望のシラビソ樹林に到着、鞍部から見えたようにここは平坦地で北と西には高さ10m近い雪庇の壁が形成され完璧に風を防いでいた。ここに幕営しない手はない。

高幽山を振り返る 梵天岳山頂は雪庇上
梵天岳山頂。背景は丸山岳 幕営地の樹林。風よけに最適
梵天岳からの360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)

 このままここでひっくり返りたいところだが、気力があるうちに梵天岳を往復してしまおう。雪庇は登れないので東の傾斜が緩い場所から回り込むように上部に出ると、地形図どおり西側が一番高くなっていた。さすがここまで来ると丸山岳は谷を隔てて真正面だが、今の体力では明るいうちに往復するのは不可能で、明日朝一番で往復しよう。最高地点はあの雪庇の上なので地面よりえらい高さだと思うが、周囲にはシラビソが顔を出しており、その1つに赤テープを巻いた。無雪期の高さはどれくらいになるだろうか。そしてKGWVの竹ざおを雪面に刺して記念撮影。いや〜、本当にここまで苦労したなぁ。

雪庇の曲がり角から下れた 本日の宿。予想通り快適だった

 山頂から下を見ると雪庇の一部は傾斜が緩やかで、そのまま下れそうなのでスノーシューを滑らせながら下ったが問題なし。早速テントを設営して水作りに励む。これが日中なら太陽光でかなり溶かせるのだが、もう午後4時を過ぎて日は傾いており、担ぎ上げたたっぷりのガスで30分以上かけて3リットルの水を作った。さすが森林限界の雪はほとんどゴミがなく澄んでいた。ラジオを効きなら酒を飲んで熟睡した。寝袋は2つ持ってきただけあって寒さで起きることはなく、風邪気味の体調が悪化することもなかった。夜中に目覚めるとテントの外は明るく、月が輝いているようだった。

 翌朝、暗い時間に起床してテントから顔を出すと星が見えない! 残念ながら曇っているようで昨日の天気予報が当たってしまったようだ。できるだけ迅速に行動して雨が来る前にできるだけ距離を稼いでおきたい。樹林がない開けた雪の稜線なので日の出30分前にはヘッドライト無しで歩ける状態になり出発する。気温はなんと+3℃とかなり高めで、早朝にかかわらずつぼ足では踏み抜き連発で最初からスノーシューを装着した。ザックには12本爪アイゼンと防寒具、水を入れる。曇り空ではあるが雲の高さは高く、南の燧ヶ岳も見えているのでこの高さまで雲が降りてくるとしてもまだまだ時間がかかるだろう。天気予報では曇り後晴れ、会津ではところによって午後から雷雨だ。ここらへんはところによらないことを祈りたい。

稜線を東へと向かう 梵天岳を振り返る
1723m峰は目の前 ここだけ藪が出ていた

 巨大雪庇に這い上がって進路を東に取り、なだらかな雪稜を下っていく。1750m肩を過ぎると尖った雪庇が続くようになり崩落の危険が高いので、左を大きく巻いて進む。昨日から続く古いスキー跡も同様なコース取りだ。1723m峰の登りではクラックが多く、一部では藪が顔を出していた。なだらかな1723m峰に立つと火奴山へと続くたおやかな稜線が右から回り込むように続いていた。ここも機会があったら歩きたい尾根だ。この先は稜線上はほとんど樹林がない開けた真っ白な尾根が続いていた。

1723m峰から見た北尾根 1723m峰から見た東尾根
1697m峰から見た1723m峰(左) 1697m峰から見た北鞍部
1723m峰から見た丸山岳
1723m峰から見た火奴山の尾根と城郭朝日山の稜線(クリックで拡大)

 1650m鞍部から1690m峰への登りはなだらかで、スキー跡はピーク東を巻いているのでそれに従う。1670m鞍部付近は複雑な雪堤で、てっぺんを歩くとアップダウンが大きいので東を巻くのが正解だった。1697m峰も稜線上は樹林がほとんど無くスキー向きの雪面が続いた。最後の1650m鞍部へは緩やかに下り、シラビソ樹林から背の低い落葉広葉樹林に変貌する。

1650m鞍部から最後の登りにかかる 1697m峰(左)と1723m峰(右)

 さあ、いよいよ最後の登りだ。そこそこ傾斜があるが大したことは無く、クラックを避けて稜線上より左よりの落葉樹低木地帯を登っていく。昨日日中とほとんど変わらない雪質で常時数cm沈んでけして楽な登りではないが、荷物が軽いので足も軽い。スノーシューのかかとを上げてグイグイ登る。低木帯を抜けると再びシラビソに切り替わるが、短距離で疎らになって大雪原帯に変貌する。これまた山スキー向きの斜面だ。ここにきても古いスキー跡は続いており、この主は少なくとも丸山岳から窓明山まで抜けたようだ。ここはだだっ広すぎてガスられたらやっかいな場所だ。

尾根が左に曲がる これが丸山岳山頂
山頂にはKGWVの竹竿が落ちていた 竹竿を雪に刺して記念撮影。背景は会津朝日岳
丸山岳からの360度パノラマ展望写真(クリックで拡大)
丸山岳から見た会津朝日岳
丸山岳から見た会津駒へと続く尾根(クリックで拡大)
丸山岳から見た稲子山〜城郭朝日山(クリックで拡大)
丸山岳から見た福島/新潟県境稜線(クリックで拡大)

 尾根が左に曲がって傾斜が緩むと広いピークに出るが、その先の高まりが山頂だ。僅かに下って進路を右に変え、巨大雪庇から離れて樹木皆無の稜線を歩き緩やかに登り切ると待望の丸山岳山頂だった。近くに立ち木は無く360度の大展望で、すぐ北側には会津朝日岳が近い。しかしそこに至る尾根は一部雪が落ちて藪が出てしまっており、大型連休頃には長距離の藪漕ぎを強いられそうだ。ここまで来ると毛猛山も近く、真っ白な未丈ヶ岳から続く尾根が見えていた。空気の透明度が悪く浅草岳以北は見えない。西側は越後駒、荒沢岳、平ヶ岳と真っ白な山並みが続くが高い所は雲に隠れてしまっている。昨日は見えていた至仏山も見えない。ちょう頭上付近のみ雲の切れ間から青空が覗いているが、周囲は雲に覆われていた。

竹竿の文字 こんなに広い丸山岳

 丸山岳山頂には赤旗の付いた竹竿が倒れており、なんとKGWVの文字が。彼らはここまでやってきていたのだ。この竿には途中にガムテープが巻いてあり、それにはマジックで「2008年? 男子春合? 赤旗」(?は文字が切れて読めなかった)と書かれていた。なに? 2008年だと! それはまずありえないはずだ。年末に登ったとしたらその雪はまだ何mも下に積もっているはずで、これは間違いなく最近置かれたものに違いない。もちろん2008年の残雪期というのはあり得なく、その場合は夏に雪がきれいさっぱり消えて藪の中に赤布が没して今頃は数mの雪の下だ。後で分かったことだが、これは「2008年度」で3月末のものだった。納得。倒れた赤旗を雪に刺してその隣に私のピッケルを刺して山頂を撮影した。

梵天岳直下のテント 高幽山へ向かう

 丸山岳から窓明山までは行きも帰りも標高はほとんど変わらないので、行きも帰りも所要時間はほとんど同じと考えた方がいい。登山口から窓明山の登りがほとんど下りになるので短縮できるが、それでも昨日は登山口から梵天岳まで休憩込みで約11時間かかっているので、梵天岳から丸山往復時間を含めると今日の行動時間は同じ程度かかりそうだ。最悪、疲労がひどくて途中で気力を失っても非常食、燃料があるので幕営は可能であり、どのみち月曜日は疲労が激しくて仕事にならないので事前に有給休暇の申請済みで、今日、明日と自由に使える。今日中に下山を目指すが、正直言って本当に登山口まで体力が持つのか自分でも自信は無かった。そんなわけでのんびり山頂で休息する余裕もなく、しばし展望を楽しんでから梵天岳に戻った。薄暗い曇り空だが、昨日のドピーカンで馬鹿暑くて苦しかったのを考えると今日くらいの天候の方が行動には良さそうだ。でも休憩で体を動かさないときは寒そうだな。

高幽山への登り 高幽山を超える

 テントを畳んでザックを背負うと、食料分は軽くなったはずだが元が重いので軽くなった印象はゼロだった。しかし下りだけは快調で半分スノーシューを滑らせながらガンガン下っていけた。鞍部から登りに変わると昨日同様の苦悶が待ち構えており、まだまだ先が長いのでゆっくりゆっくり登っていく。高幽山で休憩しようかとも思ったが、この先は少し我慢すれば快適な下りが待っているのでそのまま進む。高幽山山頂に刺した赤旗は当然ながらそのまま立っていた。

 快適な下りが終わって最低鞍部で大休止。ザックから断熱マットを取り出して雪の上に敷いてひっくり返っての昼寝は何とも心地よく、本当に寝てしまって30分の予定が1時間も休んでしまった。この登り返しが帰り最大の山場で、予想通り疲労困憊だった。天候が徐々に回復し日差しが戻って暑さがぶり返したのもちょっと痛い。どうにか1754m峰に到着しよほど休もうかと思ったが、切がいい坪入山で休みたいのでそのまま頑張る。鞍部への下り途中にあるクラックはほとんど成長していないようで、登りと同じ迂回路で通過可能だった。坪入山まで僅かな標高差しかないのに本当に苦しく、やっとの思いで山頂にたどりつき大休止。再びマットを広げてひっくり返った。昨日、今日で私のものの他に足跡は増えていなかった。

1760m峰への登り 1775m肩ではまった穴

 窓明山までの登り返しは地獄の苦しみで、1775m肩付近の矮小シラビソ帯では「落とし穴」に何度もはまり、スノーシューが埋もれた木に引っかかるし、手を支える雪面も柔らかくて脱出に苦労させられれ、余分な体力を消耗した。やっと窓明山山頂に到着し休憩しようとしたが冷たい西風がモロに吹きつけているので家向山への尾根を下ったところで休むことにして東尾根に足を踏み入れると、2本の真新しいスキー跡があった。下りはいいなぁ、スキーは。でもスノーシューでも地獄の登りと比較すれば天国で、重力にまかせて足を出す。しかし鞍部から先で再び地獄が。それでも雪が消えた夏道を登れたので軟雪よりはずっと楽だった。やっぱり硬い地面はいいなぁ。硬い雪面を期待したのだが時期は早すぎたようだ。

 家向山は行きと同じく巻いてしまい、夏道がある尾根を下り始める。ずっと山スキーの跡が続いているので漫然と歩いてしまい、微妙に尾根が分岐するところでは山スキー跡が間違った箇所は同様に間違って、スキー跡を追って尾根を乗り換えたりした。かなり雪が少なくなった場所でスキー跡は尾根東側の谷に下っていったが、こちらは正直に尾根を下っていく。濡れてヨレヨレになった靴下が原因だろうか、途中で右足の小指と左足の親指にマメができてしまい、テーピングを巻いたが時既に遅しで進行速度がガクッと落ちた。雪が無くなってスノーシューを背負ってからは足への重さも増えたし今までくだりのショックを吸収してくれた雪も無くなったのでよけいに痛かった。

 やっと車道が見えるようになり、最後は尾根を外れてジグザグに下って本当にようやく車にたどり着いた。既に午後5時で暗くなるまで1時間程度しかない。テントを虫干ししながら荷物整理し、一番近い「窓明けの湯」で2日分を汗を洗い流してから東北道を目指した。


 たぶん今まで経験してきた残雪期の山行の中でも、今回の山行がもっとも体力的にきつかったと思う。もっと時期を遅くして雪が締まった頃なら楽ができたと思うが、今年は雪が少ないので大型連休頃の稜線は何ヶ所か藪が出ていることだろう。事前に雪質の予測は難しく、これもまたいい経験になった。


所要時間

4/11
5:18登山口−−6:32巽沢山−−7:46家向山西峰を巻く−−7:55 1436m鞍部(休憩)8:15−−9:37窓明山−−9:50 1775m肩(休憩)10:24−−10:41 1612m鞍部−−11:13坪入山11:15−−1690m鞍部−−1754n峰−−11:45 1712m峰(休憩)12:27−−12:53 1500m鞍部−−13:04 1538m峰−−13:09 1470m鞍部−−14:03 1700m峰(休憩) 14:27−−14:36高幽山14:38−−15:04 1560m鞍部(休憩) 15:10−−15:30休憩15:36−−15:56梵天岳直下(幕営)15:59−−梵天岳16:02

4/12
4:46梵天岳直下−−5:04 1723m峰−−5:09 1650m鞍部−−5:29 1650m鞍部−−5:57丸山岳6:00−−6:21 1650m鞍部−−6:32 1697m峰−−6:43 1650m鞍部−−7:25梵天岳直下8:04−−8:23 1560m鞍部8:26−−9:14高幽山9:18−−9:55 1470m鞍部(休憩)10:45−−11:04 1500m鞍部−−12:06 1760m峰−−12:21 1690m鞍部−−12:39坪入山(休憩)13:10−−13:25 1612m鞍部−−14:05 1775m肩−−14:25窓明山−−14:30 1760mで休憩14:58−−15:25 1436m鞍部−−15:43家向山西峰を巻く−−16:16巽沢山−−17:01登山口



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