南ア南部 矢筈山 2009年11月01日

所要時間 6:19 仏島−(1:08)−7:27 1353m標高点−(0:36)−8:03 矢筈山 8:17−(0:20)−8:37 1353m標高点−(0:33)−9:10 仏島

 遠山郷は何度も訪れて地形図に記載されている山は結構登っているが、前から気になっている山があった。それが矢筈山で、場所は加加森山から北に派生する尾根の途中にある1500mほどのピークだ。遠山川を挟んで平谷山と対峙するように聳えており、平谷山と同等のマイナー度だろう。ネットで検索したことはないがほとんど登った人はいないのではなかろうか。この付近の植生からして標高1500m程度なら落葉広葉樹林に少しシラビソが混じる程度で藪は皆無だと予想できた。

 どこから登るかであるが、北側を通る便ヶ島へと至る林道を使うのが便利であり、最も標高が高い東側の仏島が一番楽ができそうだ。山頂から東に落ちてくる尾根は途中で別れ、それぞれの末端は仏島の東西に来ているのでどちらからも登れるだろう。尾根の傾斜も同等のようだ。あとは現地で藪の程度などを見て決めることにした。

 尻無山を下山して飯田で温泉に入り買い物を済ませて遠山郷へと向かう。林道が通行止めでないか下調べをしてこなかったのでちょっと心配だったが、国道から右に分岐する道の入口には通行止めの案内は無く、通行可能のようだった。下栗の集落からは対岸に鋭く尖ったピークが見えたが、これは矢筈山山頂ではなくその手前の1565m峰だろう。それでも非常に存在感のある山で、この姿を見れば登ってみたくなるだろう。

 暗闇迫る中を進み、集落を過ぎて発電所から川沿いに下って上流目指して走っていくと兎洞林道分岐に到着、こちらは通行止めの看板が出ていた。ロックシェッドのある崩壊した谷の辺りでまた崖崩れがあったのだろう。林道入口の広場には車が2台止まっていたが、笠松尾根に登ったのだろうか? 翌朝には車は消えていた。

 地形図を見ると仏島付近は平坦地で林道を走行していてすぐに分かるだろうと思っていたのだが、実際には林道付近は平坦ではなく分かりにくかった。兎洞林道分岐まで行ってしまうと行き過ぎで、路面との段差が大きい鉄製の小さな2連橋を渡る手前が仏島だった。沢の脇に駐車スペースがあったのでそこに車を突っ込んで寝た。夜は満天の星空で明日も快晴が期待できそうだったが、予報では天気は下り坂で夕方から雨とのことだった。

 今日も行程が短いので目覚ましをかけずに自然に起床してから行動を開始。飯を食っていると徐々に明るくなったが上空は雲に覆われて周辺の稜線も雲の中、これでは矢筈山もガスっているかもしれないなぁ。ただ、雲の隙間から青空が見える部分もあり、雨が降り出す気配は無かった。

この林道に入る 林道を歩く
2つ目のカーブでモノレール登場 尾根上に軌道が延びる

 車を止めた場所から林道を僅かに下流側に歩くと左手に林道が分岐しているのを発見、地形図に無い道なのでどこに行くのかは不明だが、尾根への取り付きに利用できそうなのでとりあえず進んでみる。最初は北に向かっていったが「島」に相当する840m峰手前のヘアピンカーブで南に進路を変えて緩やかに登り、次のカーブで意外な物が出現した。なんとモノレールで、その軌道は1353m標高点から東に落ちる尾根上に付いているではないか。これは予想外の展開だが、軌道付近はモノレールの車両の幅程度に刈り払われているので藪漕ぎが無いことは間違いない。もっとも、元から藪が無い確率が高いが。こんな山奥で人工物に沿って歩くのも味気ないと言えるかもしれないが、これなら帰りの目印を付ける手間が省けるので利用させてもらおう。どこまで軌道が続くのかは登ってみないと分からない。

尾根直上に軌道が敷設 けっこうに急な登り

 最初からいきなりの急登だが軌道を手すり代わりに使わせてもらった。しかし、このモノレールは最近も良く使われるようで軌道に錆は浮いておらず、手にはグリスが付いてしまった。ハイマツの松ヤニ並か。それ以降は軌道は触らずに軌道を支える棒に掴るようにした。軌道に沿って鹿避けのフェンスが延々と張り巡らされている。最初は自然林だったが杉や檜の植林帯に入り、さらに高度を上げると明るい松の植林帯となった。尾根はかなりいい傾斜で上がっていて登る効率はいいのだが、今日も昨日同様気温が高く、こんな時期なのに額から汗が滴ってくるほどだ。今日は起床後にTシャツを着替えるのを忘れてしまい、木綿のTシャツのままなので汗に濡れると乾燥が遅く、気持ち悪い。ここをモノレールで上がれれば汗なんかかかずにすんで楽だよなぁ。

フェンスゲートその1 フェンスゲートその2

 途中で鹿避けフェンスの「ゲート」があり、手で針金を解いて通過し、再び針金でゲートを閉じておく。ゲートはもっと上にもう一つあり、計2つだった。どうも鹿の食害がひどいらしい。たぶん植林するのはいいが幼木を鹿に食われてしまうためにこのような処置を取ったのだろう。

1個目に発見した鹿の角のかけら 2個目に発見した鹿の角のかけら

 鹿といえば今回は鹿の角の「かけら」を2つ拾った。鹿の角を探しながら歩いたわけではなく、モノレールに沿って歩いていたら偶然発見できたものだ。何も考えずに、しかもモノレールで平日は作業者が頻繁に?入る環境でさえ鹿の角を2個も発見できたのだから、人が入らないもっと広い範囲で探せばちゃんとした鹿の角が落ちていても不思議ではなかろう。過去に1度の山行で複数の鹿の角を拾ったのは南ア北部の笹山だけだ。笹山では鹿の糞が多量にあったし鹿の個体数も多かったが、ここもそれだけ鹿が多い証拠だろう。あ、笹山も鹿の食害が凄かったなぁ。皮を食い尽くされてまとまった範囲でシラビソが枯死していた。

1353m標高点付近 開けた稜線を登る
雲に覆われた平谷山及び笠松山の稜線

 1353m標高点付近で右から太い尾根が合流し、木の隙間が増えて明るくなりいくぶん傾斜が緩やかになる。地面付近は少し棘のあるイバラのような低木が薄く生えて少々鬱陶しかったが、モノレールに乗っていればそんなことは無関係だろうな。残念ながら周囲は雲に覆われ、平谷山がどうにか雲から顔を出しているが笠松山は完全に雲の中に没していた。今日は南アの稜線上はガスって何も見えないか。

カラマツ植林帯 山頂手前ガレから見た加加森山に続く尾根

 この辺でモノレール終点かと思ったら、まだまだ軌道が続いている。いくらなんでも山頂まで・・・なんてことはないだろうが。植林は松からカラマツに変貌し、さらに標高を上げるとシラビソ(たぶん自然に生えたやつ)も混じるようになる。傾斜が緩んで尾根が広がるが、モノレールの軌道は一貫して尾根の南端を通っていた。山頂直下付近では地形図にも出ているガレが登場、正面方向の視界が開けるが稜線は完全に雲の中で光岳等を見ることはできなかった。ここまで来てもまだモノレールが続いていた。

まだモノレールが伸びる ここが「駅」。Y字が手動ポイント切換
山頂東直下を横切る。奥に廃ジムニーあり 南鞍部へと軌道が続く。いったいどこまで?

 そして最高峰らしき高まりが見えてきたところで、その直下の平地に軌道が急カーブし、「ポイント」を介して「駅」に到着。残念ながらホームは無いが、モノレールを安全に停車させておくにはピッタリの平坦地だった。そして折り返すようにポイントを介してさらに軌道が延びていて、追ってみると山頂東直下を巻いて加加森山方面へと下っているではないか。本当にどこまで伸びているのか興味をそそられる。これなら光岳から加加森山に登る場合、加加森山を往復して易老渡に戻るよりも、加加森山からこの尾根を下って矢筈山経由で下山するのが面白そうだ。2100m付近で尾根を乗り換えるのに経験が要りそうだが、かなり楽しめそうなルート取りだろう。北向きの尾根なのでたぶん藪も皆無だろう。そうそう、鞍部への下りが始まる直前の肩の部分に廃車となったジムニーが置いてあったが、どう見てもモノレールの軌道よりかなり古い。ジムニーの型式は数10年前のものだろう。そんな昔にいったいどうやって車をここまで持ち上げたのだろうか。まさかこのジムニーで走行してきたのだろうか? 屋根だけは生きていて雨宿りには使えそうだったがドアは無いので風向きによっては雨が吹き込みそうだ。

矢筈山山頂 丁寧な作りの山頂標識

 予想外に山頂直下まで軌道を頼りに登れてしまい、準備してきた目印の出番が全く無かった。三角点を踏もうと最高点のようにも見える山頂部東端からなだらかな稜線を水平に西に向かうと三角点があった。モノレールがあるくらいだから山頂標識があっても不思議はないが、手製の立派な標識がかかげてあった。これも地元の人の手によるものだろうか。周囲は背の高い樹林で展望は無かった。

 下山もそのままモノレールに沿って降りた。当初計画と違って人跡未踏ではなく山頂直下までモノレールが続くという意外な結果ではあったが、山登りとして人が入ることは滅多になさそうな山であり、誰とも会うことなく静かな山行を楽しめたのは良かった。道無き山に不慣れな人もここなら迷う心配は無く、それでいてそれなりの雰囲気が楽しめるだろう。

 

 

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