上越国境 檜倉山(1744.3m)、刃物ヶ崎山(1607.1m) 2013年4月28〜29日  カウント:画像読み出し不能

所要時間

4/28 8:42 除雪終点−−9:44 東屋沢−−10:46 車道終点−−11:05 送電鉄塔(幕営)

4/29 4:11 送電鉄塔(檜倉山西尾根末端)−−4:53 国道291号線(廃道)−−5:24 標高1400m付近で展望開ける−−6:19 檜倉山−−6:32 1680m肩(刃物ヶ崎山分岐)−−7:07 1530m峰−−7:16 1450m鞍部(ワカンからアイゼンに切り替え、ルート検討) 7:35−−7:45 1490m岩峰−−8:20 刃物ヶ崎山(休憩) 9:02−−9:25 1490m岩峰−−9:59 1530m峰−−10:48 1680m肩−−11:07 檜倉山(休憩) 12:01−−12:39 国道291号線(廃道)−−12:50 送電線−−12:53 テント(休憩) 13:58−−14:09 車道終点−−14:48 東屋沢−−15:40 除雪終点

場所群馬県利根郡みなかみ町/新潟県南魚沼市(旧塩沢町)
年月日2013年4月28〜29日 残雪期1泊幕営
天候曇後晴
山行種類残雪期登山
交通手段マイカー
駐車場除雪終点の路側に駐車可能
登山道の有無無し
籔の有無檜倉山下部が石楠花籔漕ぎ。その後、残雪が出るまで薄い籔が続くが支障なし
危険個所の有無刃物ヶ崎山手前の1490m峰が岩峰だが見た目よりも難易度は低く籔を利用して登り下り可能
山頂の展望どちらの山頂も邪魔物は無く大展望
GPSトラックログ
(GPX形式)
あることはあるが飛びまくっているので掲載無し
コメント・一般的に使われる南東稜ではなく「裏口」の西尾根を利用。このルートは安全度が高いうえに超健脚者なら日帰り可能と思われる。一般登山者なら初日で檜倉山まで登るのがよい。これなら1泊にしては余裕のコースとなる
・林道はほぼ雪に埋もれるが林道縁の雪が消えている区間が多く、全体の7割くらいは雪上を歩かずに済んだ
・林道は危険個所無し。これなら4月上旬でも危険個所はないと思う
・東屋沢は水量多く、うまく飛び石を利用して渡渉する
・車道終点の沢は橋は無いが石が多く渡渉は比較的容易
・沢を渡って檜倉山西尾根末端付近の送電鉄塔近くで幕営。近くに小さな沢があり水を得られる。本当は檜倉山付近で幕営予定だったが、体調不良&天候不良のため予定変更した
・檜倉山西尾根末から標高差で100mくらいは石楠花の籔。尾根上を行くより左右どちらかを残雪を利用して巻いた方が楽
・その後は薄い籔が続き、新雪が無い方が楽に登れる状態
・標高1350m付近以上で古い残雪も登場、籔は見えなくなる
・標高1410m肩で大きな雪庇上に飛び出し大展望が開ける。これ以上は開けた雪原歩き
・檜倉山山頂西側は低い石楠花、ハイマツ、灌木、笹の混合藪で残雪が無いと地獄。5月中旬には雪が消えてしまう
・檜倉山山頂部は広く、風さえなければ幕営適地
・刃物ヶ崎山分岐の1680m肩から少しの間は低い灌木藪あり。たぶん雪が無いと檜倉山山頂西側の籔と同等と思われる
・その後はしばし楽しい雪稜歩き。南に雪庇が付きだした部分は根元を巻く
・本コース核心部が刃物ヶ崎山手前の1512m峰手前の1490m峰。岩峰であり見上げると登攀不能に思えるが、取り付いてみると垂直ではなくそこそこの傾斜で、籔があちこちにあるので割と簡単に登れてしまう。核心は5mくらいの距離。下りもロープを出さずに下れた。どうしても無理と思う場合、傾斜はきついが南斜面を巻くことが可能。北斜面は切れ落ちて迂回不可能
・岩峰を越えるとしばし尾根上は籔が出ているので北斜面を巻く。最後は広い雪原を上がれば刃物ヶ崎山山頂。雪庇上で大展望


ルート図。クリックで拡大


除雪終点 手前の路側は車がたくさん
威守松山は雲の中 車止めはギリギリ雪の下
林道の縁を歩くことが多かった 雪の上には複数の足跡
大きな堰堤 日あたりのいい場所では雪が無い
川まで林道が下る 東屋沢。飛び石で渡渉
奥は謙信尾根 道路上にも新雪が。上はラッセルだろう
鉄塔が出現すると間もなく林道終点 下った所が林道終点
ここを渡渉 上流方向はガスの中で見えない
巡視路?をジグザグに上がる 平坦地に出ると鉄塔。檜倉山西尾根末端でもある
鉄塔の先の凹地で幕営とした まだ暗い中を出発
石楠花の森の中に境界標識?あり 石楠花帯を抜ける。やっと明るくなってきた
標高1200mで国道291号線(廃道)と交差 清水峠の小屋
雪は新雪のみ。籔は薄い 標高1410m肩より上部で豊富な残雪
標高1410m肩からの展望
真っ白な急斜面を登る。まだ雪は締っている 1460m付近
再び広大な雪原登り。気持ちいい!! 左手には朝日を浴びた柄沢山
これを登り切ると檜倉山。上部が激籔 今は激籔も雪に埋もれる
新雪を踏み抜きつつ進む。ワカンでよかった 昨日の雪が付いたまま
もうすぐ檜倉山山頂部 檜倉山山頂部。柄沢山に向かう真新しいアイゼン跡
檜倉山山頂部から見た谷川岳方面(クリックで拡大)
檜倉山山頂部から見た利根川水源エリア(クリックで拡大)
檜倉山山頂部から見た後立山最北部と標高火打
檜倉山山頂。広すぎて三角点発見は不能 檜倉山山頂から見たジャンクションピーク
1680m肩を下る先行登山者(アイゼン跡の主) 1700m峰は籔が出ていてトラバース
1680m肩へ緩く下る。新雪は10〜20cmでワカンが効いた 1680m肩から檜倉山を見る
1680m肩から見た柄沢山、刃物ヶ崎山(クリックで拡大)
1680m肩から見た刃物ヶ崎山へ続く稜線。最初は籔が出ているが、その後は穏やかそうだが・・・
半分埋もれた籔を抜けると気持ちいい雪稜 振り返れば自分のトレース
1575mの平坦峰 檜倉山〜柄沢山間鞍部から登り返す先行者
1575m峰から振り返る。開けた場所はワカンが効いて全く潜らない。アイゼンだと20cmくらいのラッセル
1575m峰から刃物ヶ崎山。ここで岩峰らしきピークが・・・。天候は快晴だが気持ちは暗雲漂う
1530m峰まで雪庇が張り出し、稜線北寄りの樹林をラッセルする。2回ほど雪庇にクラックが入る音がしてビビった
1575m峰から下る。まだここは安全 その先はこんな雪庇の連続
1530m峰から見た刃物ヶ崎山
1450m鞍部から見た1490m岩峰。ここを登りたくなければ南斜面を巻くことも可能だろう。北は切り立って巻くのは不可能
1490m岩峰をよじ登る2頭のカモシカ。私もこのルートを登った
最初の1頭が岩峰を軽々と登り切った 南斜面に突入可能な個所を探して岩峰方向へ
直下から見上げると行けそうな気配が・・・ 最初の雪壁を登って灌木帯へ。まだ安全
核心部の岩壁帯(距離で5mくらい)。垂直ではなく
ちゃんと傾斜がある。灌木藪のため意外に簡単だった
1490m岩峰から見た刃物ヶ崎山。もう危険地帯は無い
1512m峰は籔なので 北斜面を巻く。傾斜はきつくなくトラバースは安全
1512m峰を巻き終わっていったん稜線に出るがまた籔 1540m峰も北斜面を巻く
1540m峰を巻き終えて稜線に復帰 快適な雪稜歩き
これを登り切れば山頂 南東稜を見下ろす。ヤバそうなコブの連続で最後は垂直に近い登り
クライミングの範疇だろう
刃物ヶ崎山山頂。今は雪庇が最高峰 標識が付いた枯れ木
すかいさんの山頂標識。山頂の人工物はこれだけ
刃物ヶ崎山から見た360度パノラマ展望(クリックで拡大)
下山開始 1540m峰で北に迂回
1512m峰手前で一度稜線に出て再び北を迂回 1512m峰北側。小さなナイフリッジを越える
1512m峰の北側を迂回中 1490m峰直下で尾根に戻る
この灌木を利用して岩場を下る。ロープは使わなかった 灌木帯に出てあとは安全
1530m峰への登り返す 往路のワカン跡
1530m峰から檜倉山方向を見る せり出した雪庇帯はおしまい
1575m峰から檜倉山。いつの間にか雲が出てきた
県境稜線への最後の登り 半分出た籔地帯を登りきれば県境
たぶん雪が無いとここは激籔だろう
柄沢山山頂直下を下る登山者
檜倉山への登り返し
トレースが増えている ワカンとアイゼンの沈み量の違い
だだっ広い檜倉山山頂部 たぶん地形図の池マーク
檜倉山から見た奥日光
西尾根を下り始める。雪が無ければ激籔地帯 あの尾根を目標に下る。尾根広く視界が無いと下りは厳しい
埋もれたブナ帯を突破 カモシカの足跡
平坦部は1460m肩 1460m肩
北西の枝尾根に引き込まれないよう注意 南側の傾斜がきつくなったら北斜面に迂回する
北斜面はダケカンバ 適当なところで尾根に復帰
新雪が消えかけている。籔ほぼ無し 廃国道を通過
まだ尾根を下る 石楠花籔を避けて雪の付いた左の斜面を下る
熊の足跡 拡大した熊の足跡。指までくっきり
間もなく斜面が終了 送電線下に出た
テント到着 撤収完了。70リットルザックに収まった
檜倉山西尾根末端。伐採されているが道はない 巡視路を下る
イワウチワ ショウジョウバカマ
カタクリ 渡渉
今日は快晴! 柄沢山もくっきり! 雪に埋もれた車道終点
この尾根を往復した。残雪期の利用価値は大だった
雪解け個所は山ほどのフキノトウあり こんな溶け方も
謙信尾根
堰堤 小規模なデブリ
東屋沢 雪が消えた林道縁を歩く
車止め 除雪終点到着!
今日は威守松山もよく見えていた



訂正:写真及び文中の「標高1490m岩峰」は「標高1500m岩峰」が正しいです


 山名を見て印象に残る山はいくつかあるが、刃物ヶ崎山(はもんがさきやま)もそんな山の一つだ。名前に「刃物」が含まれるのだから尋常な山とは思えない。鋭いエッジの岩場を連想させるが、刃物ヶ崎山東側のハモン沢に面する斜面は崖マークの連続であり、たぶん稜線上は刃のような場所もあるだろう。

 場所であるが利根川源流部の奥利根湖(八木沢ダムによるダム湖)の西側に位置する。上越国境稜線から群馬側に飛び出した場所であり、おそらく年間でも数パーティー程度しか入山しないであろう。数年前にネットで検索したことがあるが、その時の記録は全て積雪期の南東稜経由の岩登りの領分であったと記憶している。地形図を見ると、刃物ヶ崎山に最短で登るのには八木沢ダムまで車で入り南東稜を往復するのが順当だろう。しかし八木沢ダムまで車道が開通するのは4月下旬(らしい)、その頃には下部は籔が出てしまっているようだ。それ以前にこのルートは岩登りの要素が強いという点で私の範疇を越えている。

 他に登れそうなルートはと言えば、西側の国境稜線から往復以外は考えられない。このルートは2010年5月中旬に巻機山〜大烏帽子山と周回した時におまけで立ち寄ろうと考えていたが、季節外れの深い新雪で一人激ラッセルが続き、体力的な余裕がなく割愛した経緯がある。その時に見た稜線はおだやかそうに見え、刃物ヶ崎山に登るならこの尾根しかないと考えていた。そしてこの時に使った檜倉山西尾根と組み合わせれば林道歩きは長いが山中を上り下りする距離は最短となり、場合によっては日帰りも可能だろう。DJFなら確実に日帰りするだろう。私も強硬日帰りにするか1泊にするか悩んだが、事前の気象条件を考えて1泊にしたのだった。唯一の心配は雪に埋もれた林道歩き。残雪期の場合、一番の危険個所が林道歩きなんてことはよくあるパターンだ。こればかりは行ってみないと分からないが、林道は主に西斜面にあるので雪解けは早いとみた。

 今年の大型連休は寒気が入って日本海側の天候は悪い。高所では間違いなく新雪が積もっただろう。ネットの数値予報では上越国境付近の天候回復が一番遅く28日お昼前後、29日は快晴らしい。本当はまとまった日数が必要なエリアに入る予定だったがこの悪天では諦めざるを得ず、2日間で行ける場所で検討した結果が刃物ヶ崎山だった。新雪が積もったのは確実で、一人ラッセルを考えると日帰りは無謀なのでテントを背負って1泊。幕営場所は檜倉山山頂付近か、刃物ヶ崎山の尾根に乗ってどこかあたりか。この辺は体力と天候との兼ね合い次第だ。

 前夜に清水に入ると集落の先で道幅が狭まるところで除雪は終了。これも計画通り。冬型の気圧配置でこちらは雨でも降っているかと思ったら晴れてはいないが曇り。これなら問題なしと思ったら朝起きたら雨・・・。しかも弱い偏頭痛が出てしまい頭痛と吐き気。これでは士気は上がらない。特に雨は強弱を繰り返して降り止む気配がない。これが山の上で雪だったら結構な積雪になってしまう。いつのまにか周囲には車が増えているが、雨が弱まるのを待っているようだ。徐々に雨の止み間が延びてスキーを担いで出発する姿が見られるようになる。こちらは体調の関係もあってしばし横になり、完全に雨が上がってから出発。今年初めての幕営装備が重い。上空の雲は低く今にも雨が落ちてきそうだ。威守松山も雲の中で見えない。雨で濡れた籔漕ぎはいやだが、林道歩きしている間に乾いてくれるだろうか。

 今回の装備は12本爪アイゼンにピッケル、新雪に備えてワカンも持つ。また、稜線上に岩場が無いとも限らないため補助ロープを持っていくことにした。こいつらの出番が無いことを祈ろう。

 除雪終点から先は車道の存在が分からないくらい雪が残っていたが、車止めの頭は雪の上に出ていた。林道上には数人の足跡があり、どこまで行ったのかは不明だが林道を歩いた人がいるのは心強い。林道本体は雪に埋もれた区間はほとんどであったが、林道の縁の部分の雪が消えて雪の上を歩かずに済む個所がかなりあり、林道全体の6〜7割は路面や地面の上を歩けたと思う。心配していた危険個所は無くアイゼンやピッケルの出番は林道歩きでは無し。このぶんだったら4月上旬でも安全に歩けそうだ。東屋沢は増水して道路上を水が流れていて、上流の飛び石の配置がいい場所で渡渉した。これまで続いた足跡は謙信尾根分岐で河原に下りてしまい、その先は私が雪の上に足跡を残す。この付近から新雪が見られるようになり舗装道路上にも雪が乗っていた。これは稜線はラッセルだな。

 最初の送電鉄塔の立つ小さな尾根を越えると南斜面を下って大きな谷へ。ここへきて風が強くなる。稜線はガスがかかって全く見えない。やっと車道が終わってゴロゴロの河原を横断して、石が多い所を選んで渡渉。東屋沢よりも渡りやすかった。ジグザグの巡視路?を上がって河岸段丘のような台地上に出ると再び送電鉄塔が登場、その先が緩い下りとなっていて風が避けられる平坦地だった。このまま西尾根を上がっても風が強くて幕営場所の確保が心配なこと、偏頭痛が悪化して早く横になりたいこと、まだ天気はよろしくなく稜線はガスの中などの理由より早々に幕営決定。明日の行程が長くなるが、明日の方が確実に天気がいいし、どうせ明後日も休みなので明日の下山が遅くなっても問題なし。

 早速テントを設営、水は近くの小沢で汲んだのでガスを使用する必要はなかった。この頃には偏頭痛がかなり悪化、朝飯を戻してしまい胃の中は空っぽになったが吐き気が強烈なので空腹感どころではない。しかしこれは半日くらい寝ていれば回復するのは分かっているのでシュラフに潜って横になる。気分が悪いので眠りに落ちることはないが、横になることが回復にあたって大切なのだった。

 今回から雪の上で寝るためにエアーマットを導入。それまでは夏でも春でも銀マットを使っていたが、こいつは雪の上で寝るには断熱性が不足し背中が冷たくて熟睡できないため、マットを2つ持っていくこともよくあったが嵩張るためザックの両脇にくくりつけると籔漕ぎに向かないのが難点だった。この点、エアーマットは断熱性に優れ収納性も抜群、値段は高いが残雪期の利用価値は高いと判断して購入したばかりだった。今回は念のため薄い銀マットと併用したが雪の冷気が背中に伝わることはなく快適に寝られた。

 夕方になってようやく体調が回復傾向、テント内が明るいので外に顔を出すと暗い雲が消え失せて真っ青な青空に真っ白な稜線! いつのまにか快晴になっていた。まだ風は吹いているが稜線で幕営していれば素晴らしい雪景色が楽しめただろう。明日の好天は確実と安心して寝ることができた。偏頭痛が回復したので安心して酒も楽しめた。

 翌朝、気温は0℃前後で寒くはない。まだ標高は950mくらいしかないからな。飯を食って必要なものだけザックに詰めてまだ暗い中を出発。最初は檜倉山西尾根を登るだけなのでルートファインディングは不要、ライトだけでも問題ないとの判断だ。さて、テントに戻ってくるのは何時間後だろうか、そしてその時にはちゃんと刃物ヶ崎山の山頂を踏んだ後だろうか。

 西尾根末端は伐採されており、切り倒された木が邪魔で取り付くのが面倒だった。尾根に乗ると意外にも石楠花籔。あれ? 前回ここを歩いた時には石楠花の記憶はないが・・・と思ったら、その時の記録を読み返したら最後は尾根直上ではなく尾根北側斜面を下ったので、石楠花籔とは遭遇しなかったのだ。幸い、籔は乾いていて不快ではなかったが相手が石楠花なので笹よりは面倒だ。地面には境界標識らしき頭が赤い杭が打たれ、そこには目印がぶら下がっているが道はない。なかなか籔が終わらなかったが標高差で100mくらい登るとやっとおさらば、歩きやすい背の高い樹林に切り替わって地面上に籔は無くなった(新雪はあるが)。ここは雪が無い方が歩きやすい。

 なかなかいい傾斜が続くので効率よく高度を上げる。やっと明るくなってきてヘッドライトをしまう。標高1200mで廃道化した国道291号線を横断、ここは古い残雪がたっぷり乗っていた。なおも高度を上げるが新雪はあるが籔は無く、順調に高度を稼ぐ。徐々に積雪が増してくるが、新雪は昨日のものなのでクラストして表面は固くなっているが内部はスカスカで、足を乗せて体重をかけると踏み抜く雪質で疲れる。そろそろワカンの登場だ。これでだいぶマシになった。大型連休の時期にこのエリアでワカンが活躍するようでは、アルプス級は先頭を行く人は激ラッセル確実だし、谷筋や斜面のトラバースは雪崩の危険が高いだろう。現に白馬大雪渓では大規模に雪崩れて1人が死亡、2人が行方不明らしい。

 地面の上に直接積もった雪よりも古い残雪上に積もった雪の方が深さが浅く踏み抜きも無いため、できるだけ古い残雪を選ぶようにする。相変わらず籔は薄く、これで新雪が無ければもっとスピードアップできただろう。標高1350mを越えると尾根上よりも尾根北側斜面の方が古い残雪が多くなり、そちらの方が歩きやすいので左をトラバースするように登っていく。尾根上はブナが中心の樹林だが北斜面はなぜかほぼ純粋なダケカンバ樹林であった。笹が見えないのは古い残雪で横倒しのままだからだろうか。

 歩きやすい残雪帯が尾根までつながるようになったのでトラバースから尾根歩きに切り替えるため上に登ると、今までの樹林が嘘のように南斜面の木が無くなって大展望が開ける。標高は1400mくらいだと思う。右手は新雪が乗って真冬のように真っ白な谷川連峰。この景色が見られただけでも登った甲斐があったと言えよう。

 前回の経験でこれより上部は檜倉山直下までは籔が無く、このまま広大な雪原尾根を登っていくのは体験済みなので安心して歩ける。立木が無いと日当たりがいいので昨日夕方の日差しを浴びて雪の締まりが良く、ワカンは全く沈まず雪面にはワカンの歯の跡しか残らない。1460m肩だけ立木のある狭い尾根になっていて波状にうねった小さな雪庇が形成されていた。この辺は幕営にいい場所かもしれないが、西斜面なので西風は避けられないか。

 この先は再び立木が無い広大な雪の斜面を登り、斜面が立ちあがるとほとんど埋まったブナ樹林を登る。やや密度があるので隙間を選んで進んでいく。ブナ林を通過するといよいよ無雪期は強固な灌木籔地帯に突入。前回ここを下った時は新雪だけで古い残雪は無く、背の低い石楠花、ハイマツ、灌木、笹の籔漕ぎだったが、今回はまだ古い雪も積もっているようで籔漕ぎはほぼ無しで済んだ。ただ、元々あった残雪量はさほど多いわけではなく、新雪が降る前から半分くらい籔が顔を出していたようだ。新雪が積もった籔の上を歩くとズボっと踏み抜くため、できるだけ籔が無いまっさらな雪面をつなげて登っていった。途中に1本だけ背の高いシラビソがあったが、まだ雪が付いたままで真っ白だった。超ミニモンスターか。

 傾斜が緩むと広大な檜倉山山頂部に到着。ちょうど最高点南側の池マークがある鞍部に出た。前回もここだけ地面が出ていたが今回もそうだった。正確には地面ではなく枯れた草地だが。立木は皆無で邪魔するものはなく文句なしの大展望。北側の柄沢山が立派だ。問題の刃物ヶ崎山はもう近い。ここからは危険個所の臭いは感じ取れない。

 もしかしたら昨日入山した先行者のトレースがあるかもしれないと予想していたが、柄沢山方面へ向かうアイゼン跡が1人分延びていた。この時間にここを通過するということは、昨日の幕営地はどこだろうか。これなら今日中に巻機山を通過して下山も可能だろう。檜倉山最高点は新雪に埋もれた笹藪で、雪の潜り方からして古い残雪は皆無だったようだ。前回も新雪降雪直後で三角点を探せる状況ではなかったが、奇しくも今回も全く同じ状況であった。残念。立木皆無なので標識を付けることもできない場所だ。アイゼン跡の主は刃物ヶ崎山分岐の1680m肩を通過するところだった。

 ここで休憩しようと考えていたが、この大展望で疲労感も吹っ飛んでしまった。そもそもテントを出発してまだ2時間しか経過していない。残雪期にこのペースは上々だ。体力的にはまだ歩ける。それに新雪が締まった時間帯は限られるので、できるだけ早い時刻に距離を稼いだ方がお得である。そこで休むことなく先に進んだ。

 檜倉山北側の1700m峰は籔が出ているので先行者のトレースに従って東斜面を巻く。この人はアイゼン、私はワカンなので新雪の潜り方は全く違う。ワカンを持ってきて良かったぁ。これも3年前の経験のおかげだ。1680m肩で進路を東へ。稜線直下は檜倉山西斜面のように灌木と笹が半分顔を出しており、もしかしたら無雪期は激籔かもしれない。しかしそれは僅かな区間で、その後は立木皆無の広大な雪原の尾根だ。柄沢山方面を見ると、先行の単独者がちょうど鞍部から柄沢山への登りにかかったところだった。ノントレースの新雪でアイゼンだから長距離ラッセルが大変だろう。ただ、大型連休中だから巻機山方向から南下してくる登山者が期待でき、巻機山までラッセルが続くと言うことはないだろう。

 1575m峰のある細い尾根に乗ると巨大な雪庇上を歩く。ここも雪が締まってワカンが良く効いてくれる。1575m峰の先の1580m峰も雪庇が発達する南側は立ち木皆無で気持ちのいい雪稜歩きが続く。ここまで来ると刃物ヶ崎山もかなり近くなり、途中の稜線の様子も詳細に見えるようになった。これまでは特に危険と思えるような地形は見えなかったが、ここにきて気になる場所が。ちょうど1450m鞍部に近い場所だったので遠くからだと見えなかったようだが、鞍部から最初に上ったピーク付近が黒い。白ければ普通に残雪が付いた尾根で心配ないのだが、黒は異常だ。岩場で雪が付いていないのか、それとも植生が針葉樹かのどちらかだ。岩場は言うまでもなく針葉樹も非常に悪い兆候だ。過去の経験より、周囲の植生がブナが中心なのにそこだけ針葉樹が生えた場所は、岩場や急傾斜の尾根、痩せた尾根など間違いなくヤバい所なのだ。ヤバさ加減は現場を見ないと分からないが、これまで見通しが明るかった登頂の道が険しくなった。もし突破できない場所だった場合、大きく下ってもいいから巻けないか検討が必要だろう。

 ちょっと暗い気分で1580m峰を越えて下り、尾根が狭まると小規模であるが極端に南に張りだした雪庇が生成され、稜線はかなり危険な状態なので雪庇根元の笹が生えた樹林との境界部を進んでいく。今までの日あたりのいい斜面から樹林に変わると新雪の締まりが無くなってワカンでも潜るようになりスピードダウン。2回ほど雪庇にクラックが入る「ドスっ」という低い音が響いてビビった。もっと樹林側の方が良かったかな。

 尾根が屈曲する1530m峰は大きな雪庇が発達したピークは登らず北側を巻いた。ここからの下りは穏やかな雪稜が続いて危険は全く無いが、1450m鞍部から最初に立ちあがった1490m峰が接近するに従ってヤバさが際立ってくる。岩峰であり、黒いのは雪が落ちているからで、見るからに南側は切り立って登れそうにないように見える。1450m鞍部に接近すると岩峰直下で動く黒い物体が2つ、カモシカであった。カモシカもこちらに気づき、最初の1頭が崖と思われる壁を難なく突破して岩峰上に立った。さすがカモシカ。次の1頭も同じルートでてっぺんに立って裏側に消えた。カモシカが登れても人間が登れるとは限らないのは当たり前だ。

 さて、登れないとなると巻くしかないが、地形図を見ると南斜面の方が傾斜が緩いし、ここから見える範囲でも南斜面なら巻けそうな気配だ。幸い、斜面にクラックは入っていないし雪崩跡も無い。上部の傾斜がそれなりに急だが雪庇が張り出していない場所もあるので稜線に出るのはさほど困難ではなさそうだ。ただ、今は新雪が乗って弱層でアイゼンが滑りやすいのがイヤらしい。かなりスピードは落ちるがキックステップで強く蹴り込んで、ピッケルで滑落抑止しながら上り下りするしかないだろう。それでも過去に経験した危険個所と比較しても飛びぬけて危ないとは思えない。刃物ヶ崎山に登るには一番確実な方法だろう。

 鞍部でワカンからアイゼンにスイッチ、ワカンはここでデポしようかとも思ったが、危険個所を抜けてから山頂までラッセルがきつかった場合を考えると担いだ方がいいだろうと考え直した。ただ、500ccのペットボトルは雪に穴をあけてデポ、500gの軽量化(帰りに回収)。

 アイゼンに変えると途端に踏み抜き連発でスピードダウン、鞍部から登り返しながらどこで南斜面に取り付くか探しながら進む。雪庇が発達しているのでどこからでも入れるわけではなかった。そしてカモシカが去った岩峰直下に到着、遠目に見ると垂直のように見えたピークはそれなりに傾斜はきついが斜めであることが見て取れた。それにカモシカが上がったのは完全な岩場ではなく、灌木が生えた微小ルンゼであった。その直下までは問題なく登れそうで、微小ルンゼの長さはせいぜい5mくらいで、籔に掴まれば突破できそうに見えた。南を巻くよりもこのまま稜線を行けた方が楽なのは間違いないし、核心部はたったの5mだ、もっと近づいてみてダメなら雪面トラバースに切り替えることにしてこのまま進んでみる。

 まずは高さ3mくらいの雪壁登り。ここも垂直ではなかったのでキックステップとピッケルでクリア。まあ、落ちても下は広いので危険性は感じられず緊張しないが。その上部は灌木が生えた急斜面だが、ここはアイゼンを効かせて普通に登ることができた。そして関門の微小ルンゼ直下。おお、こりゃ行けそうだ。手掛かり足がかりがあって灌木もある。新雪が乗っているが古い雪は無く、とっかかりだけクリアすれば特に問題なくてっぺんに到着。問題は下りだがロープがあるので灌木で支点さえ確保できればあの距離なら大丈夫だろう。

 実は岩峰を越えた先も絶壁だったらどうしようかと心配であったが、その先は普通の尾根が続いていて一安心。しかし次の1512m峰は籔で覆われていたので傾斜が緩い北斜面に迂回する。斜面の籔は大したことないが雪が緩くてラッセルの方が鬱陶しい。1512m峰直下では北向きに小規模なナイフリッジができていて、これを伝ってピークに登ったがまだ籔だったので標高を落としてトラバースを続行。平坦になって一度稜線に出るが、次の1540m峰の登りも再び籔が出てしまっていたのでまたもや軟雪の北斜面をトラバース。1530m鞍部で稜線に復帰するともう籔が出た痩せた稜線ではなく、一面が残雪に覆われた広い雪稜に切り替わった。どうやらこの先は山頂までこの状態が続くようだ。

 尾根は一度左に曲がってから緩やかだが山頂へ一直線に登る。もう一切の危険個所は無く、ほとんど立ち木が無い尾根を登り切って雪庇上が刃物ヶ崎山山頂だった。北西側の一段下がった枯れ木に立派な山頂標識が一つあるだけで、他に人工物は全く見当たらなかった。まあ、ほとんど訪問者のいない山頂だから標識がある方が驚きだが。羽物ヶ崎山はこの周辺では一番高いピークなので展望は抜群、ただし周囲の山の方が高いのであまり遠くまで見えないのが残念だ。奥利根湖が意外に近くに見えていた。ここから見る南東稜は山頂付近が危険地帯の連続で、モナカ雪が乗ったヤバそうな岩峰があったり、山頂直下はほとんど垂直の傾斜だし、最後は雪庇の雪壁だ。雪が乗った時期にここを突破するのは相当な技術力が必要なのは明らかだ。家ノ串までの間は比較的緩やかに見えるが、尾根上のあちらこちらに針葉樹が生えているのが見えて、そこも全て危険地帯か要注意個所だろう。やはり、私のレベルでは県境稜線から往復するしか方法は無さそうだ。

 ここまでまともな休憩を取らなかったので山頂で寝ころんで休憩。日差しが暑いくらいだった。おそらく県境稜線は他に縦走する登山者がいるだろうが、ここに足を延ばす人はこの連休中でも他に存在しないのではなかろうか。

 充分休んで山頂を出発。1490m岩峰まで戻り、下を見下ろすとロープを使う必要は無さそうなので、そのままバックで籔を掴みながらクライムダウン。すぐに安全地帯に足が付いた。もうこの先は危険地帯は無く、鞍部でワカンにスイッチ。もうアイゼンの出番は無い。短い出番だったが役立ってくれた。

 核心部は抜けたが最終ゴールまでまだ距離は長い。まずは檜倉山までの登り返しだ。日中で気温が上がると雪が緩んで足が重くなるのは仕方がない。県境稜線に出ると、柄沢山方向の足跡が1人分増えていた。柄沢山を見ると山頂直下の真っ白な斜面に豆粒のような黒い点。よ〜く見ると動いている。こちらに下る方向だ。ただ、あの位置ではここに来るまで1時間以上はかかるだろうか。こちらの方は檜倉山で休憩。この頃には雲が広がって日差しが無くちょっと寒かった。

 檜倉山西尾根の下り始めは尾根がバラけてだだっ広い斜面なのでルートを見極めにくいが、少し下ると先の尾根が見えて進行方向が明確化する。こうなればもうルートに不安はないように思えるが、1450mで尾根が自然に右に曲がるので気を緩めるとそちらに引き込まれてしまう。念のため方位磁石で進行方向を確認して誤りに気付いた。下るべき尾根は傾斜がきついがまだ雪原が続くので分かるだろう。その雪原が南斜面に移動し、しかもやたらと急になって歩けなくなったら右手のダケカンバ樹林に移って北斜面をトラバース、適度なところで尾根に戻れば、あとは尾根を忠実に下るだけ。しかし下部は石楠花籔なので途中で適当に残雪を利用して斜面を下った。その途中、熊の足跡発見。まあ、ここならいて当然か。

 テントに戻って虫干ししながら休憩。いつの間にか再び晴れて暑いくらいだ。昨日は気付かなかったが雪が消えた遊歩道脇にはカタクリ、ショウジョウバカマ、イワウチワが咲き揃っており、下った河原の新雪もすっかり溶けて無くなっていた。あとは2時間の林道歩き。途中から新しい足跡が増えたが清水峠方面からの足跡は増えていなかったので、釣りか山菜取りだろう。林道を歩き切って除雪終点に到着すると何台もの軽トラが。やっぱ地元の山菜とりかな。


 最後のまとめ。刃物ヶ崎山に一般籔山派が登るには今回のルートしかないだろう。唯一の危険個所である1490m岩峰も巻かずに登れてしまう。檜倉山西尾根は雪が付いている間は籔漕ぎは無く、刃物ヶ崎山まで最短ルートを提供してくれる。超健脚者なら雪の状態が良ければ日帰りも可能であろう。

 

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